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終わりの世界で輝く・・・彼女たちの残滓  作者: きなこもち
第1章

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「英雄は前の席に座っている」



 食堂の空気は、外よりちょっとだけあったかかった。


 朝の早い時間だからか、まだそこまで混んではいない。でも各部隊の子たちはもうそれなりに集まっていて、色ごとの制服の差し色が、いつもより少しだけはっきり見えた。


 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。


 こうして並ぶと、ほんとに学園って感じがする。


 問題は、その中で紫だけだいぶ浮いて見えることだけど。


「取れた!」


 琥珀がトレイを掲げた。


 勝利の報告みたいな顔だった。たかがパン一つでそこまでうれしそうにできるの、わりとすごい。


「よかったな」


「うん! しかも二個!」


「なんでだよ」


「紫月先輩が一個くれた」


「それはもう自力じゃないだろ」


「勝ちは勝ち!」


「どこがだ」


 紅羽が呆れ顔で言う。


 でも、琥珀はもう聞いていなかった。席へ向かいながらパンを見つめている。食べ物への集中力だけはほんとに高い。


 第七部隊のいつもの席は、窓際の少し奥だ。他の部隊が自然とまとまる中で、ここだけ微妙に人が近寄らない。別に隔離されてるわけじゃない。でも、なんとなく、そうなっている。


 怖がられてる……というほどでもないけど、好んで隣に来る子は少ない。


 まあ、気持ちはわかる。


 詩乃みたいに見た目はふわっとしてるのにたまに目が怖い子とか、琥珀みたいに朝から元気すぎる子とか、紅羽みたいに空気だけで姿勢を正させる子とか、紫月みたいにやさしいのにたまに全部見抜いてくる子とか。


 その真ん中に、自分までいる。


 近寄りづらくないわけがない。


「隊長、ぼーっとしてると座る前に食堂終わるよ」


 琥珀に言われて、夕璃は適当に席へ着いた。


「食堂はそんなすぐ終わらないだろ」


「気持ちの話!」


「意味わかんないな」


「わかってよそこは!」


 朝から元気だな……と二回目を思ったところで、近くの通路が少しざわついた。


 視線が自然と流れる。


 赤虹隊だった。


 先頭にいるのは、天童朱里。


 遠目でも目立つ。背筋がまっすぐとか、顔立ちが整ってるとか、そういうのもある。でもそれより、空気の持ち方が違う。別に偉そうでもないのに、周りが勝手に道を開けるタイプ。


 赤虹隊は学園の顔だ。


 戦果も知名度も、たぶん一番。正しい強さ、みたいなものを、そのまま制服にして歩いてる感じがある。


 紅羽の手が、ほんの少しだけ止まった。


 箸を持つ指先。止まったのは本当に一瞬だけだったけど、夕璃は見た。


 やっぱり気にしてるんだな、と思う。


 紅羽が憧れる先。あるいは、目指していた場所。たぶん、そのどっちもだ。


「うわ、今日もすご」


 琥珀が小声で言う。


「何が」


「赤虹隊のキラキラ感。なんかもう、登場の仕方から強くない?」


「感想が雑すぎる」


「でもわかるよ。なんかこう……ちゃんとしてる感あるよね」


 紫月がやわらかく言う。


「ちゃんとしてる、か」


 夕璃は小さくつぶやいた。


 ちゃんとしている。


 たぶんそうだ。少なくとも第七部隊よりはずっと。


 詩乃がいちごクリームパンをちぎりながら、ちらっとそっちを見る。


「紅羽先輩、目で追いすぎると気づかれますよ」


「追っていない」


「いまのは追ってたと思うけど」


「九条まで乗るな」


「いや見てたし」


「見ていない」


「見てたよね、夕璃ちゃん」


「見てた」


「黒瀬」


「いや、そこは嘘ついても面白くないだろ」


 紅羽の耳が少しだけ赤くなった。


 珍しい。


 琥珀がそれを見て、にやっと笑う。


「紅羽先輩、かわい」


「九条」


「すみません」


 謝るのが早い。学習してるな。


 そのとき、少し離れた通路から別の声が飛んできた。


「お、紫。朝から全員そろってるじゃん」


 橙虹隊長、朝霧爛だった。


 元気の圧が強い。歩いてるだけで周りの温度が上がるタイプ。


 琥珀がぱっと振り返る。


「爛先輩!」


「おう、ちび怪獣」


「誰が怪獣!」


「お前以外に誰がいんの」


「ひどくない!?」


「ひどくない。昨日の訓練で壁へこませてたろ」


「あれは床の方が悪い!」


「床に責任押しつけるやつ初めて見たわ」


 爛が豪快に笑う。


 朝から音量がでかい。琥珀と同じ方向のうるささだけど、こっちは年上の余裕がある分、ちょっとだけ面倒くさい。


「朝霧先輩、おはようございます」


 紫月が会釈する。


「おはよ、紫月ちゃん。相変わらず癒やしだなあ」


「そんなことないですよ」


「あるある。そこ以外全部うるさいし」


「聞こえてますよ」


 紅羽が真顔で言った。


「聞かせてんの」


 爛はまったく気にしない。


 その後ろから、もう一人、やわらかい声がした。


「朝から元気だねえ」


 春風奏だった。


 緑虹隊の隊長。爛が火なら、こっちは風って感じだ。立ってるだけで空気が落ち着く。学園にいる子の中では珍しく、見ているだけで肩の力が抜けるタイプだった。


 奏は紫月を見ると、軽く手を振る。


「おはよう、紫月さん」


「おはようございます、奏さん」


「顔色だいじょうぶ?」


「え、わたしですか?」


「うん。昨日、遅くまで白暁院にいたでしょ」


「あ……見てたんですね」


「ちょっとだけね」


 奏はそう言って笑った。


 やっぱりこの人は気づくのが早い。しかも言い方がやわらかいから、余計に逃げづらい。


 詩乃がパンをひと口かじって、ぽつりと言う。


「緑と橙が一緒にいると、気温差すごいですね」


「それ、褒めてる?」


 爛が笑いながら聞く。


「半分くらいは」


「白峰ちゃん、その半分じゃない方、だいたい毒だよね」


「そんなことないですよ」


「あるよ絶対」


 詩乃はにこっとした。


 たぶん、ある。


「で、そっちはこれから会議室?」


 爛がトレイを持ったまま聞く。


「そうです」


 紅羽が答えた。


「正式稼働日のやつね……いやあ、朝から重そう」


「軽い日などありません」


「うわ、言い切るなあ」


「事実です」


 紅羽はほんとにまっすぐだ。


 爛は少しだけ視線をずらして、今度は夕璃を見た。


「隊長はどうよ」


「どう、って」


「初日。気合い入ってる?」


「入ってたらもっとちゃんとした顔してる」


「たしかに」


 即答だった。


 失礼だな、と少しだけ思ったけど、間違ってはいない。


 奏がその横で小さく笑う。


「でも黒瀬さん、ちゃんと起きてきてるだけえらいよ」


「基準低くないですか」


「第七だし」


「否定できないのちょっとやだな」


 夕璃が言うと、琥珀が元気よく手を挙げた。


「はい! あたしはちゃんと起きてるし食べてるし元気!」


「元気なのは知ってる」


「あと強い!」


「自分で言うんだ、それ」


「事実だからね!」


 琥珀は胸を張った。


 紅羽が頭を押さえる。


「本当にお前は……」


「あたしなんかした?」


「している自覚がないのが一番厄介だ」


「紅羽先輩、今日ちょっと刺さり強めじゃない?」


「いつも通りだ」


「今日は一五パーセント増しくらいありますよ」


 詩乃がさらっと言う。


「細かいな」


「なんとなくです」


「そのなんとなく、たぶん合ってる」


 夕璃が言うと、紅羽がこっちを見た。


「黒瀬まで乗るな」


「事実確認しただけだろ」


「確認しなくていい」


「でも紅羽先輩、朝からずっと肩に力入ってるもんね」


 紫月が言った。


 紅羽が固まる。


 たぶん、そこをいちばん言われたくない。


「……そんなことはない」


「あるよ」


 夕璃はパンをちぎりながら言った。


「ある」


 琥珀も言った。


「ありますね」


 詩乃も続いた。


「ちょっとだけ、かな」


 紫月がとどめを刺した。


 四対一。


 紅羽が数秒黙ってから、深く息を吐く。


「……お前たち、たまには黙っていてくれないか」


「いや、それは無理」


 夕璃が即答すると、琥珀がうんうん頷いた。


「無理だね」


「無理です」


「たぶん無理かなあ」


 紅羽がとうとう顔をしかめた。


 でも、さっきまでより少しだけ肩の力は抜けていた。


 爛がその様子を見て笑う。


「いいじゃん。第七っぽい」


「どこがですか」


「ちゃんとしてないとこ」


「褒めてませんよね」


「褒めてる褒めてる」


「絶対ちがう」


 そんなやり取りをしている間に、赤虹隊が少し離れた席へ着いた。


 朱里は周りに自然と人が集まる。本人が呼んでいるわけじゃない。でも、そこが中心になる。


 すごいな……と、べつに口にはしないけど、思う。


 その視線の先で、朱里がふとこちらを見た。


 本当に一瞬だけ、目が合った気がした。


 いや、気のせいかもしれない。でも、その一瞬だけで、周りの空気が少しだけ張る。


 紅羽の背筋が伸びる。


 夕璃は逆に少しだけ力を抜いた。


 ああいうまっすぐな人は、たぶん苦手だ。


 眩しすぎる。


 そのとき、別の方向から落ち着いた声がした。


「黒瀬」


 夕璃の手が止まる。


 この声は知っている。


 振り向くと、青虹隊の制服に身を包んだ藍沢雫が、トレイを持ったまま立っていた。


 相変わらずきっちりしている。髪も、姿勢も、視線も。隙がない。


 そのくせ、目だけは少し眠そうで、そこだけ昔と変わっていない。


「……なに」


「その言い方、久しぶりに会った相手へ向けるものじゃないでしょ」


「朝から会いたかったわけじゃないし」


「わたしも同じ」


 雫は平然と言った。


 琥珀が目をぱちぱちさせる。


「知り合い?」


「知り合いっていうか……」


 夕璃が答える前に、雫が言った。


「少しだけ、昔から知ってる」


 少しだけ。


 便利な言い方だな、と思う。


 間違ってはいない。間違ってはいないけど、その言い方で収まるほど軽くもない。


 紅羽が夕璃と雫を交互に見る。


「藍沢副隊長と?」


「うん」


「へえ……」


 琥珀が変に感心した声を出した。


「なんでそこでへえなんだよ」


「だって隊長にも昔からの知り合いとかいるんだなって」


「いるだろ普通に」


「え、でもなんか、隊長って急に紫棟の壁から生えてきたみたいな感じあるじゃん」


「どういう扱い?」


「いや、なんとなく」


「ひどすぎる」


 雫が小さく息を吐いた。笑ったのか、呆れたのか、ちょっとわからない。


「変わってないね、黒瀬の周り」


「どういう意味」


「にぎやか」


「オブラートうま」


「事実をやわらかく言っただけ」


 その言い方が、少しだけ懐かしかった。


 昔から、雫はこういう言い方をする。刺すわけじゃない。でも逃がしもしない。きれいに言うのに、妙に真ん中へ入ってくる。


 夕璃は視線をそらして、トレイのスープを見る。まだ湯気が出ていた。


「そっちも大変そうじゃん」


「まあね。正式稼働日だし」


「それはどこも同じか」


「同じじゃないよ」


 雫はそう言ってから、少しだけ声を落とした。


「第七は、なおさらでしょ」


 周りには聞こえないくらいの、小さい声。


 それでも夕璃には十分届く。


 言い返そうとして、やめた。


 否定できるほど、軽い日じゃない。


「雫、行くよ」


 少し離れた場所から、青虹隊長の氷室凪が声をかけた。


「はい」


 雫はすぐにそっちへ返して、それから夕璃を見る。


「あとで講義室。遅れないで」


「青虹の副隊長に言われたくない」


「時間ぴったりに来る人のセリフじゃないね、それ」


「細か」


「知ってる」


 雫はそれだけ言って、青虹隊の席へ戻っていった。


 去り際まで無駄がない。


 琥珀がじっとその背中を見てから、こっちへ顔を戻す。


「なんか……強そう」


「感想が雑だなあ」


「いやでも強いでしょあれ」


「まあ、強いよ」


 夕璃は素直に言った。


 青虹隊の副隊長である前に、藍沢雫は普通に優秀だ。認めたくないとかじゃなく、ただの事実として。


 詩乃が頬杖をつく。


「夕璃ちゃん、ちょっとだけ顔やわらかかったよ」


「まじ?」


 琥珀が身を乗り出した。


「見てない」


「見てたよね」


「見てない」


「紅羽先輩」


「見ていた」


「裏切り!」


「裏切りではない」


「紫月先輩!」


「ちょっとだけ、かな」


「やっぱ見てるじゃん!」


 なんなんだこいつら。


 夕璃がため息をつくと、詩乃が楽しそうに笑った。


「仲よしだったんだ」


「違う」


「言い切り早」


「早くない。普通」


「でも昔から知ってるんでしょ?」


「知ってるだけ」


「その“だけ”が怪しいんだって」


 琥珀がにやにやする。


 うざい。


「朝からくだらないことで盛り上がるな」


 紅羽が切るように言った。


 でも、耳が少しだけこっちへ向いているのが見える。


 お前も気になってるじゃん、とは言わないでおく。たぶん言ったら面倒くさい。


 そのとき、食堂の上方モニターがぱっと切り替わった。


 さっきまで流れていた天気と補給情報が消えて、学園共通放送の画面になる。


 食堂のあちこちでざわめきが止まった。


 明るい女の人の声が響く。


『全訓練生、および正式部隊員へ。本日〇七〇〇より、中央戦術棟にて正式稼働に伴う全体説明を行います。対象部隊は第一から第七まで、全部隊です。繰り返します……』


 改めて言われると、やっぱり少し重い。


 食堂の空気が、朝のだらっとした感じから、すっと細くなる。


 琥珀もパンを持つ手を止めた。


 紅羽はもう表情を切り替えている。


 詩乃は笑っていない。


 紫月だけが、いつも通りみたいな顔で静かにスープを飲んでいた。でも、カップを置く指先が少しだけ慎重だった。


 夕璃は目を伏せる。


 正式稼働。


 言葉にするとそれだけだ。


 でも実際には、その一言でいろんなものが変わる。


 訓練じゃなくなる。


 模擬戦じゃなくなる。


 記録映像の中で他人が死ぬだけの話じゃなくなる。


 自分たちが、ちゃんと前線へ出る。


 使われる。


 期待される。


 たぶん、警戒もされる。


「……やだなあ」


 琥珀がぽつりと言った。


 いつもの元気な声じゃなかった。


 夕璃は横目でそっちを見る。


「珍しいじゃん。ビビってる?」


「ビビってないし」


「じゃあ何」


「なんか……あれ。あれだよ」


「雑」


「うるさいな! こう、ほんとに始まるんだなってだけ!」


 琥珀はそう言って、パンをひと口かじった。


 勢いのある食べ方だったけど、そのあと飲み込むまでが少しだけ遅い。


 紅羽がそんな琥珀を見て、ほんの少しだけ声をやわらかくした。


「今さらだ。訓練は積んできた」


「それはそうだけどさあ」


「大丈夫です」


 紫月が言う。


 すごく大きい声じゃない。でも、その場にはちゃんと届く声だった。


「大丈夫、とは言いません。でも、ちゃんと準備してきました。だから、怖いままでも行けます」


 紫月らしい言い方だな、と思う。


 無責任に平気だと言わない。怖がることを否定しない。その上で、手は離さない。


 紅羽がうなずいた。


「……そうだな」


「うん」


 琥珀も、今度は素直にうなずいた。


 詩乃が小さく目を細める。


「紫月先輩って、たまにさらっといいこと言うよね」


「たまに?」


「わりとしょっちゅう」


「それはどうも」


 紫月が笑う。


 その空気に、夕璃も少しだけ呼吸がしやすくなる。


 たぶんこの部隊は、こうやって持ってるんだろう。


 紅羽のまっすぐさとか、紫月の落ち着きとか、琥珀の明るさとか、詩乃の変な余裕とか。そういうのが、ぎりぎりで噛み合ってる。


 そしてその真ん中に自分がいるのは、たぶん偶然じゃない。偶然じゃないのが、少し嫌だ。


 モニターの放送が終わる。


 食堂のざわめきが戻りかけたところで、朱里が席を立った。


 赤虹隊ももう移動らしい。


 その動きに合わせるみたいに、他の部隊も少しずつ立ち始める。


 学園全体が、次の時間へ切り替わる音がした。


 紅羽が立ち上がる。


「行くぞ」


「え、まだ一口しか……」


「九条」


「わかった、食べる、今食べる!」


 琥珀がすごい速さでパンを頬張り始めた。


 それはそれでどうなんだ。


 夕璃もトレイを持って立ち上がる。


 青虹隊の方を見ると、雫がちょうど席を離れるところだった。


 目が合う。


 雫は特に何も言わなかった。ただ、ほんの少しだけ顎を引いた。来るよね、という確認みたいな仕草。


 夕璃はそれに、小さく肩をすくめるだけで返した。


 青虹隊が先に出る。


 赤虹隊も動く。


 その背中を見送りながら、琥珀がもごもご言った。


「やっぱ、みんなちゃんとしてる感ある……」


「まだ言ってる」


「だってほんとにそうなんだもん」


「じゃあお前もちゃんとすればいいだろ」


「え、むり」


「即答だな」


「無理なもんは無理!」


「堂々と言うな」


 紅羽がまたこめかみを押さえる。


 夕璃はちょっとだけ笑った。


 たぶん、ちゃんとしてるとかしてないとか、そういう話じゃない。


 ただ、赤や青はまっすぐ見える。


 それに比べて紫は、だいぶいびつだ。


 でも。


 いびつでも勝てるなら、それでいい……と、前までなら思っていた。


 今は少しだけ、その先を考える。


 いびつなままで、どこまで行けるのか。


 食堂を出る直前、背後からまたモニターの電子音が鳴った。


 短い警告音だ。


 ただの時報や案内じゃない。もっと硬い音。


 食堂の空気が、一瞬でまた止まる。


 画面が切り替わる。


 学園外縁警戒情報。


 赤く点滅する表示。


【中央生存圏・東側外縁にて小規模異常反応を確認】


【初動警戒レベル2】


【対象部隊は待機命令】


 琥珀が小さく息をのんだ。


 紅羽の目が鋭くなる。


 紫月は無意識みたいに袖口を握り、詩乃は何も言わずモニターを見ている。


 夕璃だけは、その赤い表示を見た瞬間、胸の奥が嫌な音を立てた。


 夢の中の空の色に、少しだけ似ていたからだ。


 ただの警戒情報だ。


 まだ出撃じゃない。


 まだ、ただの朝だ。


 そう思うのに、指先だけが妙に冷たい。


「……行こっか」


 紫月が言った。


 誰に向けたのでもない、でもちゃんと全員に届く声だった。


 夕璃は返事をしなかった。


 ただトレイを返却口に置いて、歩き出す。


 正式稼働日の朝は、まだ終わっていない。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

もし作品を気に入っていただけましたら、

下部の☆☆☆☆☆より評価をいただけると大変励みになります。


★★★★★を入れていただけると作者のやる気が大幅に上がります(^^)/


また、ブックマークや感想も今後の執筆の支えになります。

引き続きよろしくお願いいたします。

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