↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わりの世界で輝く・・・彼女たちの残滓  作者: きなこもち
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/38

「嫌でも行くしかない」



 中央戦術棟の大会議室は、朝なのに空気が重かった。


 机と椅子がきっちり並んでいて、壁一面にモニターがあって、白い光で明るいはずなのに、明るく感じない。

 集まっている人間のせいだと思う。


 赤、青、黄、緑、藍、紫。


 前に見たことのある顔ぶれ。

 でも今回は“合同任務”というより、“最後の前段階”みたいな空気があった。


「うわあ……」


 会議室に入った瞬間、琥珀が小声で言った。


「なにその、もう決戦前ですみたいな感じ」


「だいたい合ってるだろ」


 夕璃が返す。


「いや、でも早くない? まだ朝だよ?」


「朝だからなんだ」


「せめて昼にしてほしかった!」


「意味わからん」


 紅羽が先に席を選ぶ。

 第七部隊はいつも通り、少し後ろ寄りにまとまって座る形になった。


 前方には赤虹隊。朱里が真ん中あたりで腕を組んでいる。

 青虹隊はその斜め横。雫はすでに端末を開いていた。

 黄虹隊はきっちりした並びで、緑虹隊はその少し後ろ。

 藍虹隊だけが、静かなくせに妙に存在感がある。


「藍の人たちって、ほんといるだけで圧あるよね」


 琥珀が小声で言う。


「喋るな」


 紅羽が即座に返す。


「いやでもほんとじゃん」


「ほんとでも今言うな」


「紅羽先輩、今日ぴりぴりしすぎ」


「今日じゃなくてもする場面だ」


 たしかにそれはそうだ。


 夕璃は前方を見た。


 霧島、綾瀬、御門。

 この三人が前に並んでる時点で、まともな話になるわけがない。


 そして、そこへさらに千晴と奏まで加わる。

 逃げ場がないなと思う。


「始める」


 霧島が短く言った。


 会議室が一気に静かになる。


 モニターに旧第十三市街の立体地図が映る。

 地上区画。地下街。輸送路。最深部。

 そして、その中心に脈打つような赤い光点。


「旧第十三市街最深部における敵性反応は、終盤の交戦以降も減衰していない」


 御門が言う。


「むしろ安定した」


「それ、いい意味じゃないよね」


 琥珀がぼそっと言う。


「当たり前だ」


 紅羽が小さく返した。


 御門は気にせず続ける。


「喪鐘の花嫁本体は破砕に成功した。だが、あれは最深部の発生層から浮上した“人格的上位個体”のひとつに過ぎない可能性が高い」


 夕璃は少しだけ眉を寄せた。


 ひとつに過ぎない。


 そういう言い方、ほんとに嫌だ。


「もっと分かりやすく言うと?」


 透子が前の列から聞く。


 御門は少しだけ間を置いてから答えた。


「花嫁は本体ではない。深部に、もっと大きい発生源がある」


 それで十分だった。


 会議室の空気がさらに落ちる。


「深部反応の仮称は」


 綾瀬が引き継ぐ。


「《記憶の揺籃》」


 名前までついた。


 ろくでもなさが増した気がする。


「揺籃って、ゆりかご?」


 紫月が小さく言う。


「そう」


 奏が隣で答えた。


「生まれる場所、みたいな意味」


「……全然かわいくないね」


 琥珀が顔をしかめる。


「名前の響きでだまそうとしてるやつじゃん」


 夕璃は少しだけうなずいた。

 同感だ。


「ここからが重要だ」


 御門がモニターを切り替える。


 波形がいくつも並ぶ。

 敵性反応。英骸記憶の接続ログ。適合者側の変動。

 見た目はわからない。でも、雰囲気だけで嫌なものだと伝わる。


「旧第十三市街深部反応と、適合者が使用する英骸記憶の接続層は、限りなく近い」


 昨日も聞いた。

 でも今日は、その先がある。


「仮説ではなく、ほぼ確定とみていい」


 会議室の空気がまた一段冷える。


 誰もすぐには喋らなかった。


 やがて朱里が静かに言う。


「つまり、わたしたちが使っている力と、あそこから出てくる怪物は、根っこが同じかもしれないってこと?」


「同じ“かもしれない”ではなく、同じ深層構造から生じている可能性が極めて高い」


 御門は淡々と答える。


 言い直されても嫌なものは嫌だった。


「最悪」


 夕璃が小さく言う。


 雫が横目で少しだけこちらを見た。


「そこだけは同意」


 その返しが来るあたり、ほんとにろくでもない話なんだろう。


「この事実を踏まえて、旧第十三市街への最終侵入作戦を実施する」


 霧島が言った。


「目的は三つ。第一、深部発生源への到達。第二、流出ルートの断絶。第三、生還」


 最後がちゃんと入っているのが、逆に少しだけ嫌だった。

 入れないといけないくらい、生還率が重い話だということだから。


「各部隊の役割を確認する」


 モニターに部隊色ごとのルートが出る。


「赤虹隊。正面制圧。外層から中層までの敵性群を押さえ、最深部前広場まで道を開く」


「了解」


 朱里が短く答える。


 その声には迷いがない。

 そういうところが、この人は強い。


「黄虹隊。避難線、撤退路、生存導線の維持。最深部侵入中も、帰還ルートを消すな」


「了解」


 千晴の返事も短い。

 でも、それがいちばん大事な役割のひとつだと今はわかる。


「緑虹隊。補給、回復、浄化、波形安定の支援。中層と最深部手前の中継点を保持」


「了解です」


 奏の声はやわらかい。

 なのに、それだけで少し場の温度が戻る。


「青虹隊。全域観測、本核位置の特定、深部層の変動監視。必要時は狙撃支援に移る」


「了解」


 凪が答えた。

 雫は無言で端末を見ている。


「藍虹隊。深部侵入ルートの開拓、枝反応の切断、最深部への直接導線確保」


「了解」


 澪那の声は静かだった。

 でも、それだけで“行くんだな”とわかる静けさだ。


 そして最後。


「第七部隊」


 霧島の声が少しだけ低くなる。


「最深部接続対応、および発生源干渉時の想定外処理」


 便利な言葉だなと思う。

 つまり一番危ないやつだ。


「想定外処理って、雑すぎない?」


 琥珀が小声で言った。


「今さらだ」


 夕璃が返す。


 でも、本当にそうだと思う。


 綾瀬が前へ出る。


「分かりやすく言うと、第七部隊は“発生源に最も近い位置で、何が起きても対応しなければいけない部隊”です」


「分かりやすくなったぶん嫌なんだけど」


 琥珀が顔をしかめる。


「気持ちはわかる」


 紫月が小さく言った。


 綾瀬は続ける。


「理由は二つ。黒瀬さんと白峰さんが深部反応と強く接続していること。もうひとつは、第七部隊が“予定通りにいかない戦場”への対応力を持っていること」


 褒められてるようで、あんまり嬉しくない評価だなと思う。


 そこへ雫が口を開いた。


「ただし、条件をつけたい」


 全員の視線が青虹側へ向く。


 雫はまっすぐ第七部隊を見る。


「黒瀬と白峰を最深部の自由行動から外す」


 会議室の空気がぴんと張る。


「は?」


 夕璃が素で言う。


 紅羽もすぐに反応した。


「藍沢副隊長、それはどういう意味だ」


「そのままの意味」


 雫は引かなかった。


「この二人は必要。でも、深部に近づくほど干渉を受ける。自由に動かせば、それだけで敵の誘導に乗る可能性がある」


「だったら第七部隊の意味が」


「わかってる」


 雫が紅羽の言葉を切る。


「だから外せとは言ってない。自由行動から外すって言ってるの」


 その言い方で、夕璃にも少しだけ意味がわかった。


 戦力としては使う。

 でも、好きに動かせない。

 つまり、最初から“危ないもの”として管理に入れる。


 気分は最悪だ。


「それ、かなり感じ悪いな」


 夕璃が言う。


「知ってる」


 雫は即答した。


「でも必要」


 そこへ紅羽が低く言う。


「だったら誰が見る」


「一条さん、あなた」


 雫は迷わなかった。


「白峰さんは黒瀬が見る。黒瀬はあなたが見る」


 少しだけ、紅羽の表情が固くなる。


 それは責任が増えるからだ。

 たぶん誰よりわかりやすく。


 雫はさらに続ける。


「皇さんは最深部手前まで。緩衝と戻し役。九条さんは突出禁止じゃなく、“決めた線を絶対に越えない”を徹底」


「うわ、あたしだけめっちゃ分かりやすく子ども扱いされてる」


 琥珀が言う。


「子どもだからではなく、そこが一番危ないから」


 千晴が横から静かに言った。


 琥珀はちょっとだけ口をとがらせる。


 でも反論はしない。

 そこが少し成長したな、と思う。


 奏が紫月の方を見て言う。


「最深部手前で止まるの、平気?」


 紫月は少しだけ迷うように息を吸った。


「平気、じゃないけど」


「うん」


「でも、止まる」


 その返事は、前の紫月なら少し遅れていたかもしれない。

 今はちゃんと、自分で“止まる”を選んでいる。


 夕璃は少しだけ横目で見る。


 その変化はたぶん、かなり大きい。


「最終的な鍵は、最深部において何をするかだ」


 御門が言う。


 モニターに《記憶の揺籃》の模式図が出る。

 巨大な円環みたいなもの。その中心から流出が広がっている。


「破壊は選択肢のひとつに過ぎない」


 夕璃は少しだけ眉を上げた。


「じゃあ他は」


「封鎖、接続遮断、あるいは流出方向の変更」


 御門が答える。


「相手が怪物一体ではなく“発生構造”なら、壊すだけで終わる保証はない」


 また、嫌な話が増えた。


「つまり」


 透子が小さく言う。


「最後に“どう止めるか”をその場で選ばなきゃいけないってことだね」


「そうだ」


 御門がうなずく。


「その役割に最も近いのが、第七部隊になる」


 会議室の後ろで、琥珀が小さく「うへぇ」と言った。

 気持ちはかなりわかる。


 そこへ朱里が口を開いた。


「一条」


「はい」


「最後まで正面は開ける。だから中は任せる」


 その言葉は、紅羽へ向けたものだった。

 信頼の置き方がまっすぐで、少し眩しいくらいだ。


 紅羽も短くうなずく。


「はい」


 千晴は第七部隊を見て、一言だけ言う。


「帰る道はこちらで守る。だから、戻る判断を遅らせるな」


 それもまた重い。

 でも、今の第七部隊には、ちゃんと届く言葉だった。


 奏は紫月に小さなケースを渡した。


「浄化パッチ、追加。やばいと思う前に使って」


「ありがとう」


「我慢しないでね」


「うん」


 そのやり取りのやわらかさが、少しだけ救いだった。


 そして最後に、澪那が詩乃を見た。


「最後まで落ちないでね」


 静かな声。

 でも、その一言はひどく刺々しかった。


 詩乃は少しだけ目を細める。


「努力はするよ」


「努力で済むといいね」


 感じが悪い。

 ほんとにこの人はそういうのが上手い。


 夕璃が思わず口を開こうとした、その前に霧島が会議を切った。


「以上だ。細部は各隊で詰めろ」


 椅子が引かれる。

 各隊が立ち上がる。


 でも、夕璃はすぐには立たなかった。

 最深部接続対応。

 想定外処理。

 そして“何をするかはその場で選ぶ”。


 要するに最後は、自分たちで決めろということだ。


 夕璃はそういうのが嫌いじゃない。

 でも今回は、それが嬉しくない。


 立ち上がる。


 その瞬間、モニターの最深部表示の一点だけが、ふっと明るくなった気がした。


「……っ」


 夕璃の呼吸が一瞬だけ止まる。


 そこに、長い髪の女の影が立っているように見えた。

 誰にも見えないみたいに自然に。

 ただ、その一点を指している。


 最深部の中心。


「夕璃ちゃん?」


 紫月の声で、はっとする。


 もう影はいなかった。

 ただの地図だ。

 赤い光点が脈打っているだけ。


「いや」


 夕璃は視線を切る。


「なんでもない」


 でも、胸のざらつきは消えなかった。


 待っている。


 あそこが。

 自分を。

 そしてたぶん、詩乃も。




最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

もし作品を気に入っていただけましたら、

下部の☆☆☆☆☆より評価をいただけると大変励みになります。


★★★★★を入れていただけると作者のやる気が大幅に上がります(^^)/


また、ブックマークや感想も今後の執筆の支えになります。

引き続きよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。