天橋・ディズ・暁也
本日2話目♪
母がイギリス人だから、俺にはミドルネームがある。
それを教えたいと思ったのはたった一人だけ。
最初は、警戒していた。
里乃に負の心を向けていたから、あいつが里乃を傷つけるんじゃないかって。
里乃は、彼女を信用していて、里乃に気を付けるように言えなかったからなおさら。
でも、彼女は何もすることはなく、ただまぶしそうに里乃を見て、妬みの視線を向けて、悲しそうに顔を歪める。
涙を流していないのが不思議なほど、傷ついた顔をする。
その表情は、里乃が彼女に意識を向けた途端すぐに消え去り、笑顔で覆い隠していたが、監視していた俺は気づいていた。
いつからか、その『監視』は『監視』ではなくなっていた。
気づけば目で追っていて、一挙一動余すことなく見ていた。
その中で、一つだけ気づいたことがある。
彼女は、よく傷を負っていた。
治癒魔法が効かない彼女は、傷の治りが遅く、いつもどこかに包帯が見えていた。
聖女を狙ってやってくる間者の攻撃を一番喰らうのもあいつだった。
(あいつを傷つけるのは、許さない)
そう思ったとき、驚くと同時に安堵した。
いままで、何ににも執着できなかった。
里乃は、守らなくてはと思ったが、どこか義務感みたいなものが強くて、執着とは少し違った。
そんな俺がやっと見つけた執着心を抱けるモノ。
逃がすわけないだろう。
里乃も協力してくれて、俺は、彼女を手に入れることができた。
彼女の名前はアジュラ・ギディア・ルヴェニクス。
俺たちとは違う世界の異世界人で、俺の妻となった女。
愛しくて仕方ない、やっと見つけた宝物。
彼女は、運命に命を狙われ続ける。
この世界にとって彼女は『異分子』だから。
でも、そんなことは、させない。
だって、あれをなくしたら、俺はきっと、狂ってしまう。
アジュラを傷つけるものは、世界であろうと許さない。
守ってみせる。
彼女が天寿を全うするその時まで。
―――――そう、思っていたのに――――――
「ア…ジュ、ラ……。」
俺は、呆然と横たわった彼女を見る。
光を受けて輝く白銀の髪、あの深い青い瞳は閉じられていて、白い肌は血の気を失い、彼女は、ぴくりとも動かなかった。
「……アジュラ?なあ、起きろよ。
冗談だろ?守るって、言ったのに。これから、長い時間一緒にいようって……。」
そっと近寄り、彼女の手を握る。
血の色を失った彼女の手はひどく冷たくて……信じたくなんてない。
「ごめんなさい、ごめんなさい暁也。
アジュラは、私を庇ってっ………!!!」
「そんなに思いつめるな、リノ。
お前が無事だっただけでもよかった……。」
そういって、この国の王子は里乃を抱きしめた。
(は?アジュラが死んで、なのにそんなこと言うのかよ。)
一気に、心が冷えた。
いままで、こんなのをアジュラの傍に近づけていたのかと思うと過去の自分を殺したくなる。
「違う、私があの時出しゃばらなければっ!!」
泣きながら必死に言い募る幼馴染を見る。
「ははっ、泣けば、言い訳すれば、許すと思ってんの?」
冷たい声が出る。
守らなくてはと思っていた対象にこんな感情を向ける日が来るとは思わなかった。
(憎い。どうして、どうしてアジュラは死んだのにお前は生きて、あいつの名前を呼んで、涙を流してるんだ?なぁ、どうして、アジュラが死んでるんだ?
俺は、もう二度と愛しい者に会えないのに、どうしてお前はあえて、触れられるんだ?)
「アジュラは「お前があいつの名前を呼ぶな。」」
里乃の言葉をさえぎる。
これ以上、里乃がアジュラの名前を呼ぶ声など聴きたくない。
衝動的に殺してしまう。
アジュラが命を懸けて守ったものをきっと、殺してしまう。
「二度と、近寄るな……きっと殺してしまうから。」
その言葉に、里乃は絶句していた。
「これだけは、聞いて。
あの子から『あなたを愛してる。今まで幸せでした、ありがとう。』って。
あと、これ……あの子から預かった、あなたへの手紙。
ここに、置いとくね。
……本当に、ごめんなさい。」
だが、はっと我に返り、そういうと、里乃は王子とともに部屋を出ていった。
俺は、ただ、突っ立ったままアジュラの顔を見つめる。
彼女は微笑んでいた。
幸せそうに、にっこりと。
『……別に、あなたに関係ないでしょう。』
『放っておいて!!あなたなんて大っ嫌いっ!!!!』
『…な、な……っ、なあああぁぁあ!?』
『…………帰りたいよぉ。』
『私は、異分子だから……。』
『…っ、ふえぁ。なんで、なんでわかっちゃうのぉ?』
『ねぇ、ディズ。私、初めてこっちに来てよかったと思ったわ……。』
アジュラと過ごした日々が浮かんでは消えていく。
『……愛してる。』
初めて体を重ねたあの日、初めて彼女は俺に言ってくれた。
『あなたを愛してる。今まで幸せでした。ありがとう。』
アジュラの遺言が、アジュラの声で、頭に響く。
俺は、持っていた手紙を開く。
そこには、アジュラの綺麗な字が並んでいた。
"アマバシ・ディズ・アキヤ様
あなたが、今、この手紙を読んでいる時、私は傍にいないでしょう。
いえ、この世界にいないと思います。
唐突に、いなくなることを、許してください。
私は、リノ様の代わりに、この身に呪いを受けました。
あなたは、もう、知っていると思います。なので、隠しません。
知らなくても、隠しても、いつかあなたは知ってしまうと思うから。
正直に白状した私から、お願いがあります。
リノ様を、責めてもいいです。ですが、守って下さい。
絶対に、守って下さい。
私を、愛してるのなら、私が命を懸けて守ったリノ様を守って下さい。
そして、生きて欲しい。
私が、生きて、見れなかったものを見てください。
いつか、会えた時、私には理不尽で醜かった世界の美しいところを教えてください。
世界は、きっと美しいから。私に、見つけられなかった美しさを教えてください。
お土産話、待ってますね。
あと、私は、あなたに愛されて、あなたを愛して、あなたとともに運命に抗ったあの甘く愛しい日々
を送れて幸せでした。
ありがとう。あなたに愛されたから、この理不尽な世界で私は生きていけた。
一番つらかった時期に、あなたが隣でただいてくれたから、生きていけた。
あなたが私を見てくれたから、私は卑屈な心を捨てられた。
ありがとう。本当に、ありがとう。
幸せな日々をくれて、生きたいと思わせてくれて、この世界にも美しいところがあるのではないかと
憎むだけではないと教えてくれて、恋を教えてくれて、ありがとう。
あなたとともに生きていきたかったけど、あなたが守ったリノ様を私も守りたいと思ったから、いつ か、あなたが迎えに来てくれると信じられたから、私は後悔せずに逝ける。
ううん、後悔はするけど幸せな気持ちで逝ける。
ディズと呼ばせてくれた時、すごく、嬉しかった。
意味を、知っていて呼ばせてくれた時、すっごく嬉しかった。
生きてください。私の好きな人。
そして、いつかたくさんのお土産をもって私を迎えに来て?
待ってるわ。私の、愛しい人。
アジュラ・ギディア・ルヴェニクス"
読み終わると同時に、手紙に、しずくが落ちる。
不思議に思って頬に手を触れれば、濡れていた。
いつの間にか、泣いていた。
「ひどいなぁ、アジュラ。
俺が、こんなこと言われて後を追えるわけないじゃないか……。」
彼女は、俺のことを良くわかっている。
里乃を責めてもいいというのは、溜め込まないでということ。
里乃よりも、俺をとってくれたことがひどくうれしい。
「お前が望むなら、俺は、この世界を生きていくよ。
この憎い世界の美しいところを探して君の元へ行く。
しばらくの間だったら、聖女を守ってやってもいい。
聖女の役目を終えるまでなら。
だから、待ってろよ?いつか、迎えに行くから――――――。」
涙を流しながら、アジュラの顔を見つめ、俺は笑んだ。
これで、このお話は終わりです。読了ありがとうございました。
この後ちょこちょこ番外編を入れていきたいと思いますのでたまに覗いてください。




