第7話 途中って言ったよね?
いつも読んでいただきありがとうございます。
イライラしてませんか?気を付けてくださいね。
酒井の嫌がらせは、露骨ではなかった。
だからこそ厄介だった。
私がフォークリフトに乗っているとき、わざわざ工場の通路の真ん中を歩く。
翌日の準備として私が整えておいた資材の前に、来週使う予定の資材を置く。
事務所では引き出しを必要以上に強く閉め、大きな音を立てる。
どれも小さなことだった。
誰かに説明しても、
「気のせいじゃないか」
「たまたまだろ」
そう片づけられる程度のことばかり。
だが、それが毎日続く。
小さな棘を、何本も何本も刺されるようだった。
そんなある日、酒井が突然調合作業から外され、パート社員担当へ回されることになった。
調合担当の社員たちは、目に見えて安堵していた。
誰も口には出さない。
だが、空気が明らかに軽くなっていた。
どうやら私だけではなかったらしい。
他の人間からも敬遠されていたのだ。
これで少しは楽になる。
そう思った。
だが、甘かった。
嫌がらせは形を変えただけだった。
「俺、パートの準備しなきゃいけないから、これやっといて」
そう言って、自分の仕事を平然と他人へ丸投げする。
その直後、現場へ行けば、黒岩と並んで話し込んでいる。
十分。
二十分。
三十分。
ひどいときは、それ以上。
しかも声が異常に大きい。
笑い声まで響く。
仕事をしている周囲のことなど、お構いなしだった。
工場長に相談しても、聞く耳は持たなかった。
「そうか」
それだけで終わる。
そしてある日、事件は起きた。
翌日の準備をしていたとき、黒岩が私に言った。
「時間ないから、準備途中だから」
私は洗浄作業に追われていた。
定時までかかるのはわかっていた。
だから答えた。
「わかりました。私も洗浄で定時までかかるので、そのままで大丈夫です」
それで話は終わった。
その後、通路を歩くと、例によって2人が大声で話していた。
時間がないと言っていたはずなのに。
四十分後、再び通ったときも、まだ話していた。
私は何も言わず、そのまま退社した。
翌朝。
私は酒井と朝の会議に出ることになっていた。
その前に調合準備を終わらせようと、現場へ向かう。
そこで違和感に気づいた。
昨日、一番手前に置いておいた原料がない。
私は倉庫を探した。
ない。
時間だけが過ぎる。
焦りながら探し回り、ようやく見つけた。
倉庫の、一番奥だった。
そして昨日、黒岩が準備していた原料は、一番手前に整然と置かれている。
パレットの上にはドラムが1本だけ。
十分に余裕がある。
私の原料を乗せるスペースは、確かにあった。
私は事務所へ戻った。
黒岩が席に座っている。
できるだけ冷静に声をかけた。
「すみません。準備できなかったのはわかるんですが、私の原料を使うってわかってました?」
せめて。
せめて一言。
忘れてました。
すみません。
それだけでよかった。
だが返ってきたのは、予想外の言葉だった。
「え? だから準備途中って言ったよね?」
私は一瞬、意味がわからなかった。
「私は昨日使って、今日も使うから一番手前に置いておいたんですが」
「あー。でも途中だから」
私は周囲を見た。
他の人の原料は準備されている。
しかもパレットにはドラムが1本しかない。
どう見ても置ける。
「他の人のは準備されてますよね。そこに乗せられましたよね?」
「時間なかったし、できなかった」
時間がなかった?
四十分も話していたのに。
私はさらに聞いた。
「じゃあ、なんで私の原料が一番奥にあるんですか?」
その瞬間だった。
「時間なかったって言ってるだろ!」
怒鳴り声が事務所に響いた。
私は固まった。
なぜ怒鳴られる。
問いただしているのは、こちらだ。
私は静かに続けた。
「一番前にあったものを、わざわざ一番奥に入れてますよね」
「だから、途中って言ったよね!」
再び怒鳴る。
私はそこで理解した。
何を言っても無駄だ。
会話になっていない。
私はそれ以上何も言わなかった。
「……わかりました」
それだけ言って、その場を離れた。
会議に向かう。
もちろん、酒井は欠席していた。
いつものことだった。
だがそのとき、私はまだ知らなかった。
このあと、さらに大きな災難が待っていることを。
イライラするようでしたら、読むのやめてもらって大丈夫ですからね。
あなたメンタルが一番ですからね。




