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出口のない手順書  作者: アル治


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3/19

第3話  自己愛性の防衛機制

いつも読んでいただきありがとうございます。

今回は微妙な気持ちになると思います。

しばらく、一人での調合作業が続いていた。

ある朝、上長が私に言った。

「人が余ったから、今日は先生をつける」

そうして紹介されたのが、佐伯だった。

関わるのは初めてだったが、名前は知っていた。

現場では、性格が悪いことで有名だった。

以前、私が佐伯の使う資材を準備したことがある。

そのとき、私は数量を一つ多く用意してしまった。

それだけのことだった。

だが佐伯は不機嫌そうに顔をしかめ、

「だから液が足りなくなったんだよ」

と言った。

100ケース作れるはずだった製品が97ケースしかできなかった理由が、資材を一つ多く用意したせいだと言う。

意味がわからなかった。

だが、その場では何も言えなかった。

そんな相手だった。

「よろしくお願いします」

私が頭を下げると、佐伯は私を一瞥した。

「一人でできるよね?」

「……はい」

前にも担当した調合だった。

手順は頭に入っている。

問題はないはずだった。

だが、作業が始まると、佐伯は何も言わず勝手に調合を始めた。

説明もない。

注意点もない。

私が原料を運び、準備をしている横で、黙々と工程を進めていく。

「その原料終わったから片付けて」

「はい」

私は言われた通り雑用をこなした。

今日は補助に徹するだけらしい。

そう思っていた。

しばらくして、不意に佐伯が言った。

「液、漏れてるよ」

思わず振り返る。

「……は?」

装置の側面から、薬液が細く垂れていた。

佐伯は落ち着いた声で言う。

「早く止めないと。調合途中だから、上に報告した方がいいよ」

一瞬、言葉の意味が理解できなかった。

私は、その調合に一切触れていない。

原料を運び、片付けをしていただけだ。

なのに、なぜ私が報告する話になるのか。

「私は調合やってませんよ」

そう言うと、佐伯は眉ひとつ動かさず返した。

「でも漏れてるし。どれだけ漏洩したかわからないから、報告した方がいいでしょ」

その瞬間、胸の奥で何かが切れた。

「だから、私は作ってませんよね?」

思っていたより強い声が出た。

佐伯がわずかに目を細める。

私は続けた。

「自分でやったんだから、自分で報告してください」

現場の空気が、一瞬止まった気がした。

佐伯は何かぶつぶつ言いながら、その場を離れていった。

しばらくして上長がやってきた。

佐伯が事情を説明している。

その会話の中に、私の名前が混じるのが聞こえた。

まただ。

また、私のせいにされる。

そう思った瞬間、私は二人の間に割って入った。

「私は一切調合してませんから」

二人がこちらを見る。

「準備と片付けしかしてません」

上長は無言だった。

佐伯は小さく何かを呟いていたが、聞き取れなかった。

私はそれだけ言うと、その場を離れて雑用に戻った。

しばらくして、佐伯が一人で作り直しているのが見えた。

結局、どういう話になったのかは知らない。

誰も何も説明しなかった。

翌日。

佐伯は休んでいた。

そのまま長期休養に入ったと聞かされた。

鬱らしい、と誰かが言っていた。

私は何も言わなかった。

ただ、現場に立ちながら思った。

この会社では、理不尽に耐え続けることが求められる。

だが、たった一度それを拒んだだけで、何かが壊れることもある。

壊れていたのは、最初から誰だったのだろう。

いつも読んでいただきありがとうございます。

読んでイライラしてませんか?ご自身の体調優先でお読みください。

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