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出口のない手順書  作者: アル治


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17/19

第17話  決定事項

いつも読んでいただきありがとうございます。

翌月。

本部長は、本当に来た。

神谷は心の中で思う。

――そういうのは、ちゃんと守るんだな。

そんな事を考えながら会議室へ入った。

「お疲れ様です」

「お疲れ様です」

神谷に覇気は無い。

本部長は資料を開きながら続ける。

「やっぱり本社で仕事して貰って、午後からは得意先回りとか会社回りとかあるので、大丈夫です」

神谷は呆れた。

――この人、話を聞いてないんだな。

ヘルニアだから無理だと言っている。

なのに、“半日なら平気”だと思っている。

「えっと、ヘルニアなんですよ」

「だから、午前中デスクワークで、午後は外回りや他の仕事あるので大丈夫です」

神谷は頭を抱えた。

「……ヘルニアなので、デスクワークがキツいんですよ」

本部長は黙っている。

「普通に座ってるだけなら、姿勢崩したり出来るからまだいいんです。でもデスクワークになると、腰の負担がキツいんですよ」

しかし本部長は、また同じ事を言う。

「だから、午前中だけなんだけど」

神谷は少しだけ声を荒げた。

「半日でも辛いんです。今のパート対応の時に、デスクワーク溜まって午前中ずっとやってたら腰痛くなったんですよ」

本部長は眉を寄せる。

「じゃあ、午前中も出来ない? 午前中だけなんだけど」

神谷は深く息を吐いた。

「やってもいいですが、もし腰が痛くなった時は労災でいいんですよね?」

その瞬間、本部長の表情が変わる。

「それは無理」

「ヘルニアで腰が痛いの判ってて、デスクワークやらせるんですよね? なら労災ですよね?」

神谷は淡々と続ける。

「腰痛み出したら、最悪一週間くらい休みますよ」

「休むのはいいけど、労災には出来ませんね」

神谷は即答した。

「なら、本社移動は無理ですね」

そしてさらに言う。

「移動になっても、最悪2日目で辞めますよ」

本部長の顔色が変わった。

明らかにイライラしている。

神谷は思う。

――この人、顔に出やすいな。

――私もそうだけど、少しは我慢すればいいのに。

凄い顔だった。

本部長は声を強くする。

「判りました! 一旦持ち帰ります!」

「ですが次、必ず来ます!」

神谷は黙って聞いている。

「移動が決まった人は、移動しないって事はありません」

「神谷さんが本社無理なら、違う所で、他の人に本社へ行って貰う事になるので、移動は決まってますから」

神谷はもう、半分どうでも良くなっていた。

――この人は、私をここから移動させたいだけなんだろうな。

「あー、はい、判りました」

早く終わらせたかった。

自然と返事も雑になる。

本部長は続ける。

「来月20日に決定になります。その前の木曜日にまた来ます」

「その時は決定事項なので、従って貰います」

「はい、判りました」

「では、来月の木曜日に」

「はい、失礼します」

面談が終わる。

神谷はすぐ、仲の良い先輩の所へ向かった。

事情を説明する。

すると先輩が即座に声を上げた。

「なにそれ! 移動が決定っておかしいでしょ!」

神谷は苦笑いする。

「やっぱりそうですよね? 私はこういう事になった事無いから、普通なのかなって思ってたんですけど」

「完全におかしいよ!」

先輩は強く言った。

「理由があって断って、1回納得したのに、結局移動とか意味判らないよ!」

神谷は小さく頷く。

「ですよね。でもそう言ってるので、もし決定したら労働基準局に行こうと思ってます」

先輩は少し黙ってから聞いた。

「どっちに転んでも辞めるの?」

「そうですね」

神谷は迷わなかった。

「本社じゃなくても、移動長いのは無理ですね」

先輩は静かに頷く。

「……そうだよな」

そんな話をしながら、来月を迎えるのだった。

もう少しだけお付き合いください。

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