第17話 決定事項
いつも読んでいただきありがとうございます。
翌月。
本部長は、本当に来た。
神谷は心の中で思う。
――そういうのは、ちゃんと守るんだな。
そんな事を考えながら会議室へ入った。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
神谷に覇気は無い。
本部長は資料を開きながら続ける。
「やっぱり本社で仕事して貰って、午後からは得意先回りとか会社回りとかあるので、大丈夫です」
神谷は呆れた。
――この人、話を聞いてないんだな。
ヘルニアだから無理だと言っている。
なのに、“半日なら平気”だと思っている。
「えっと、ヘルニアなんですよ」
「だから、午前中デスクワークで、午後は外回りや他の仕事あるので大丈夫です」
神谷は頭を抱えた。
「……ヘルニアなので、デスクワークがキツいんですよ」
本部長は黙っている。
「普通に座ってるだけなら、姿勢崩したり出来るからまだいいんです。でもデスクワークになると、腰の負担がキツいんですよ」
しかし本部長は、また同じ事を言う。
「だから、午前中だけなんだけど」
神谷は少しだけ声を荒げた。
「半日でも辛いんです。今のパート対応の時に、デスクワーク溜まって午前中ずっとやってたら腰痛くなったんですよ」
本部長は眉を寄せる。
「じゃあ、午前中も出来ない? 午前中だけなんだけど」
神谷は深く息を吐いた。
「やってもいいですが、もし腰が痛くなった時は労災でいいんですよね?」
その瞬間、本部長の表情が変わる。
「それは無理」
「ヘルニアで腰が痛いの判ってて、デスクワークやらせるんですよね? なら労災ですよね?」
神谷は淡々と続ける。
「腰痛み出したら、最悪一週間くらい休みますよ」
「休むのはいいけど、労災には出来ませんね」
神谷は即答した。
「なら、本社移動は無理ですね」
そしてさらに言う。
「移動になっても、最悪2日目で辞めますよ」
本部長の顔色が変わった。
明らかにイライラしている。
神谷は思う。
――この人、顔に出やすいな。
――私もそうだけど、少しは我慢すればいいのに。
凄い顔だった。
本部長は声を強くする。
「判りました! 一旦持ち帰ります!」
「ですが次、必ず来ます!」
神谷は黙って聞いている。
「移動が決まった人は、移動しないって事はありません」
「神谷さんが本社無理なら、違う所で、他の人に本社へ行って貰う事になるので、移動は決まってますから」
神谷はもう、半分どうでも良くなっていた。
――この人は、私をここから移動させたいだけなんだろうな。
「あー、はい、判りました」
早く終わらせたかった。
自然と返事も雑になる。
本部長は続ける。
「来月20日に決定になります。その前の木曜日にまた来ます」
「その時は決定事項なので、従って貰います」
「はい、判りました」
「では、来月の木曜日に」
「はい、失礼します」
面談が終わる。
神谷はすぐ、仲の良い先輩の所へ向かった。
事情を説明する。
すると先輩が即座に声を上げた。
「なにそれ! 移動が決定っておかしいでしょ!」
神谷は苦笑いする。
「やっぱりそうですよね? 私はこういう事になった事無いから、普通なのかなって思ってたんですけど」
「完全におかしいよ!」
先輩は強く言った。
「理由があって断って、1回納得したのに、結局移動とか意味判らないよ!」
神谷は小さく頷く。
「ですよね。でもそう言ってるので、もし決定したら労働基準局に行こうと思ってます」
先輩は少し黙ってから聞いた。
「どっちに転んでも辞めるの?」
「そうですね」
神谷は迷わなかった。
「本社じゃなくても、移動長いのは無理ですね」
先輩は静かに頷く。
「……そうだよな」
そんな話をしながら、来月を迎えるのだった。
もう少しだけお付き合いください。




