第16話 理由が弱い
いつも読んでいただきありがとうございます。
本部長へメールを送ってみる事にした。
神谷はずっと引っ掛かっていた。
何故、自分だけなのか。
酒井も工場長へ怒鳴る。
暴言も吐く。
なのに、何故自分だけが問題視されるのか。
それが知りたかった。
神谷はメールを送る。
すると返信が返ってきた。
“酒井については、私には報告が上がってません。工場長からではなく、神谷さんについては周りの人から上がってます”
神谷は画面を見ながら思う。
――周り?
面談したのは自分含め3人だけ。
その他に本部長と連絡を取っているのは笹木しか居ない。
神谷はさらに返信する。
“そうなんですね、判りました。 ところで、私がパート担当になったのはいいとして、前任者には何も無いんですか?”
面談の時、本部長は言っていた。
“前任者は言った事をやらない。言う事を聞かないから外した”
つまり酒井には問題があった。
だから神谷は聞きたかった。
その問題人物を、会社はどうするつもりなのか。
しばらくして返信が来た。
神谷はメールを開き、固まる。
“貴方は、他の人を持ち出して話をそらそうとしてるんですか?”
“その答えを聞いて、貴方に何の得があるんですか?”
“メールしてもいいとは言いましたが、こういうメールはどうかと思います”
そして最後にこう書かれていた。
“貴方に何の得があるのか答えて貰えたら、先程の質問にお答えします”
凄いメールだった。
神谷はどう返すべきか迷った。
結局、仲の良い先輩へ相談し、メールも見せた。
先輩は苦笑いしながら言う。
「……これは、何も返さなくていいですよ。話になってません」
神谷も同じ気持ちだった。
そのままメールは終わった。
翌月。
また工場長が来る。
「木曜日、時間空けといてください」
嫌な予感しかしない。
「また本部長が来ます」
神谷は深く息を吐いた。
――気が重い。
木曜日。
本部長が来た。
呼び出され、会議室へ入る。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
本部長は書類を見ながら言った。
「この前の件なのですが、今回は初めてなので、懲戒処分はありません」
神谷は一瞬だけ考える。
――メールには触れないんだ。
「そうなんですか。判りました。ありがとうございます」
「今後の発言と態度、気を付けてください」
「はい、判りました」
――もう話したくもないな。
神谷がそう思っていると、本部長が続けた。
「で、ここからが本題です」
嫌な空気が流れる。
「神谷さん、4月から本社勤務になります」
神谷は止まる。
「ここから電車で一時間半なので、通勤可能範囲になります」
「……はっ?」
思わず声が漏れる。
「何でですか?」
本部長は淡々と答える。
「今、製造で働いてる人は動かせない。他の人もそれぞれ仕事がある。だから神谷さんしか居ないんです」
神谷は思った。
――私の仕事は仕事じゃないのか?
「他にも居ますよね?」
「その人達には他にやって貰いたい事があるので、神谷さんしか居ません」
――なんだこの人。
「えっと、無理です」
「なぜ?」
「遠いからですね」
本部長は即答した。
「弱いですね。理由が弱い。それでは断れません」
神谷は頭を掻く。
――はぁ、面倒くさい。
「私はヘルニアなので、デスクワークは出来ません」
すると本部長の顔色が変わる。
「ヘルニアなんですか。じゃあ仕事出来ませんね」
神谷は思わず目を閉じた。
――なんでこの人、全部0か100なんだよ。
「仕事してますけど。製造もやってたし、今もドラム動かしてますけど」
「あー、出来るんですか。そっか」
本部長は軽く頷く。
「じゃあ、一旦持ち帰ります。また来ます」
そう言って本部長は本社へ戻って行った。
神谷は1人残る。
そして改めて思った。
――この会社の管理職、人としておかしい。
もう少しで終わりになります。




