第13話 責任者
いつも読んでいただきありがとうございます。
笹木から何度か面談へ呼ばれた。
だが神谷は断った。
仕事が終わっていなかったからだ。
もちろん建前ではある。
本音では、話したくなかった。
あの会話の通じなさに、これ以上付き合う気力が無かった。
――仕事が終わらなくて助かった。
そう思ってしまう自分も居た。
しかし、問題だけは次々と積み上がっていく。
その日の夕方。
神谷がゴミを片付けていると、1つだけ異常に重いゴミ箱があった。
嫌な予感がした。
中を覗く。
液体が溜まっていた。
意味が判らない。
この場所の担当は、婆と爺だった。
あり得ない。
翌日、神谷は工場長を呼び、四人で話をすることになった。
「何か報告ありませんか?」
婆と爺が顔を見合わせる。
「?」
「報告する事、無いですか?」
婆が不機嫌そうに言う。
「何ですか? 何も報告無いですけど!」
神谷は淡々と続ける。
「ゴミ箱に液体が溜まっていたんですが」
すると婆が軽く言う。
「あー、朝から溜まってました!」
神谷は眉をひそめた。
「何をしたんですか?」
その瞬間、婆の表情が変わる。
「私達がやったって言うんですか?」
すると爺が口を開いた。
「神山さんでしょ?」
神谷は一瞬止まる。
――神山?
名前すら覚えられていない。
爺は続ける。
「神山さんがやったんです。朝は溜まってなかったから!」
その言葉を遮るように、婆が大声を出す。
「私達じゃないです! 私達のせいにするんですか!?」
神谷は頭の中で呟いた。
――ダメだ。この人達。
神谷は工場長を見る。
「……工場長、どうしますか?」
工場長は軽く答えた。
「とりあえず神谷さん、片付けて」
神谷は目を閉じた。
――結局それかよ。
さらに工場長が続ける。
「あと、報告書上げてください」
「私がですか?」
「パート担当でしょ?」
神谷は笑いそうになった。
原因も判らない。
誰がやったかも判らない。
それなのに報告書だけ書かされる。
なんなんだ、この会社。
婆、爺、工場長が去った後。
女性パートが神谷へ近付いてきた。
「朝はなってなかったって言ってたね」
神谷は顔を上げる。
「マジ? 聞き取れなかったけど」
「あー、婆が書き消すように大声出したからね」
神谷は頭を抱えた。
とりあえず報告書を書く。
戻される事なく、そのまま通った。
つまり、誰も中身など見ていない。
翌日。
今度は嘱託社員が神谷へ話し掛けてきた。
「この仕事、何で先に資材準備してるの?」
「普通じゃないですか?」
嘱託は首を振る。
「その日に準備しながら充填して」
神谷は嫌な予感しかしなかった。
「それだと人数3人使いますけど」
「じゃあ3人で」
「時間掛かるし、他の仕事出来なくなりますよ。効率悪いですよ。機械の調子も悪いし」
だが嘱託は聞かない。
「やって! やらなきゃ判らないから!」
神谷は諦めた。
「判りました。遅くなると思いますけど」
「遅くならないよ! やってみなきゃ判らないんだから!」
その瞬間、神谷の中で何かが外れた。
「……やってみなきゃ判らないんですよね? 何で遅くならないって言うんですか?」
嘱託の表情が険しくなる。
「遅くならないから! 機械も止まらないから!」
神谷は抑え切れなくなる。
「2人で済んでた仕事を3人でやって遅くならない? 3人でやっても充填速度は変わらないから、1人分工数増えるんですよ?」
「なんだその言い方は!」
嘱託が怒鳴る。
「社員なんだから、何でもやるんだよ! 業者にも電話しない! 消耗品の注文もしないで!」
神谷は呆れた。
――何言ってるんだ?
――会社から許可無いから注文出来ないだけだろ。
「何で俺に言うんですか? 他の社員やってないでしょ?」
「社員なんだから、何でもやるんだよ!」
「判りました。やりますよ。これも3人でやるし、記録も取ります」
嘱託は鼻を鳴らす。
「あー! やれ! 以前より速くなるから!」
神谷は思った。
――ダメだこいつ。
――“やらなきゃ判らない”はどうした。
「はいはい。やります」
後ろでは工場長が黙って立っていた。
だが、何も言わない。
ただ見ているだけだった。
そして、そのまま立ち去っていった。
イライラは大丈夫ですか?読んでてイライラするようなら、オススメはしません。日常に支障をきたさないように気を付けてください。




