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出口のない手順書  作者: アル治


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10/19

第10話  女王様

いつも読んでいただきありがとうございます。気を付けてください。

パート対応へ配置転換されてから、最初に神谷が感じたのは、不安だった。

引き継ぎは、結局一切ない。

酒井から説明すると言われていたが、最後まで何もなかった。

ただ、当日の作業リストだけが机の上に置かれていた。

パートは5人。

婆が1人、爺が1人、女性2人、男性1人。

問題は、初日で既に見えていた。

――老害だ。

神谷は朝礼を開き、正直に頭を下げた。

「今日から担当になります神谷です。判らないことばかりなので、最初のうちは教えてください。よろしくお願いします」

最初くらいは、素直にいこうと思っていた。

しかし、その空気を壊したのは、婆だった。

婆は直接言わない。

わざわざ隣の女性パートに言わせた。

「ねぇ、婆が“人数書いてないから判らない”って言ってるよ。ちゃんと書いてって」

神谷の頭に、鈍い痛みが走る。

初日だ。

しかも朝礼で、判らないことばかりだから教えて欲しいと説明したばかりだった。

神谷は全員を見渡した。

「私が、この仕事を3人でやれって言えば、やるんですか?」

空気が止まる。

誰も答えない。

神谷は婆を見る。

「朝礼で言いましたよね?」

婆がゆっくり顔を上げる。

「私に言ってるんですか?」

「貴女が言ったんですよね? しかも直接じゃなくて、人に言わせて」

婆は即座に否定した。

「私は何もしてません。人数書いてくれないと判りません」

神谷は深く息を吐いた。

「判りました。一番下の仕事だけ、1人でお願いします」

すると女性パートが苦笑しながら小声で言う。

「ごめんね、婆は女王様だから。気に入らないことは一切やらないよ」

神谷は頭を抱えた。

なんなんだ、この会社。

なんでこんなパートを放置しているんだ。

しかも初日からこれだ。

先が思いやられる。

翌日。

その日は婆の問題行動はなかった。

少し安心しかけた時、夕方、工場長が慌てた様子で現場へ走ってきた。

「これ何でやってないの?」

突然言われ、神谷は目を瞬かせる。

「これ……この仕事、何ですか?」

工場長が怪訝そうな顔をする。

「神谷さんがやる仕事です。何でやってないの?」

神谷は呆然とした。

「えっと……知らないですが、私がやるんですか?」

「そうです! やってください!」

神谷の頭の中で、何かが切れそうになる。

引き継ぎは一切ない。

説明もない。

それなのに、やってない理由を責められる。

「……あの、引き継ぎもないのに、“これは貴方の仕事です”って言われても、言われなきゃ判りませんよね?」

工場長は神谷の言葉を理解していないようだった。

「とりあえず、すぐやってください!」

「……はい……」

神谷は唖然としたまま仕事へ向かった。

本当に意味が判らない。

いや、判っていた。

悪いのは、引き継ぎをさせなかった工場長だ。

だが、この会社では、それを口にしても意味がない。

仕事を終えた後、さらに嫌な事実を知る。

婆は、酒井の知り合いだった。

酒井が会社へ頼み込み、入社したらしい。

そして神谷がパート担当になってから、婆は毎日酒井と30分以上話し込んでいた。

その光景を見た瞬間、神谷は悟った。

配置転換は、地獄の終わりではなかった。

新しい地獄の入口だった。

イライラ、これからも強くなりますよ。

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