↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妾の顔を見た男は、みな狂う。ただ一人、婚約者を除いて  作者: 佐藤みさき
第二章 看板娘のアンナ・シュタルク

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/33

気のせいだろうか

「いやー、わたしも腹立つなーとは思っていたんですけれど、ほらあの人たち、家の爵位はわたしより高いじゃないですか。だから、横っ面ひっぱたくわけにもいかないでしょう?

 正直『面倒だなー』と思いつつ黙っていて、気が済むまで言わせてやってたんです。こっちが何か言うと、長引きますからね。『はやく終わらないかなー』って」

「なんだ。そなた、意外と気丈だな」

「そりゃあ、そうですよ! 意地悪な社交界にこれから割って入ろうっていう新興貴族が、繊細で打たれ弱かったらやっていけませんって」

「ははっ。では、妾(わらわ)の介入など無用であったか」

「いえいえ! とんでもございませんわ、アナスタシア様。お陰様で、早くコトが済みました。それに、アナスタシア様がお料理を沢山持っているのを見た、あの人たちの青ざめた顔ったら…! うっふふふふ、最っ高の見世物でしたよ」

「……まあ、安易に誹(ひ)謗(ぼう)すると、おもわぬ人物を侮辱しかねない、という良い例だな」

「わたしもいい勉強になりましたわ。まったく、あの人たちみたいな連中に絡まれないように食事の時間をずらしたっていうのに、わざわざこっちに来るんですもの――」


「――それにしても、アナスタシア様が、こんなに素敵なお方だったなんて。わたし、歴史の古い貴族なんて全員イヤな奴(やつ)らばっかりだし、その親玉の皇族もイヤな人たちに違いないって思ってました」

「おい、ぶっちゃけすぎだぞ。気をつけろ。そういう話は……今度、お茶会で聞こう」

「はい! えへへ、すみません。公爵家様から夜会のご招待をいただくなんて初めてで、おいしい料理のひとつも食べられれば御の字と思っていたのですが、まさか、皇女殿下のお茶会にご招待いただけるだなんて…!」


 そのように妾(わらわ)たちが会話に盛り上がっている間、ユリウスは、時折飲み物や追加の料理を給仕に運ばせながら、ただ黙々と食事していた。運動量が多い十六歳の男性らしく、妾(わらわ)よりもずっと多く食べる。マナーに則(のっと)って小(こ)綺(ぎ)麗(れい)に少量ずつ取っては、その分おかわりを重ねていた。

 いかんな。妾(わらわ)に付き合わせるばかりで、せっかくの夜会なのに、ユリウスは妾(わらわ)以外とロクに会話していないのではないか。よく思い出してみれば、今夜、イザベラへの自己紹介の名乗り以外、本当に一言も他人としゃべっていない。

 妾(わらわ)は、ユリウスにも会話の水を向けようとした。そのとき、カランカラン、と時を告げる鐘が鳴る。時計を見れば、もう終宴の時刻であった。


「おっと。もうこんな時間か」

「えっ? あっ、本当ですね。お話しするのが楽しくて、時間があっという間に過ぎてしまいましたわ。終宴まで居た夜会だなんて、今日が初めてかも」

「実は、妾(わらわ)もだ。事情があってのことだが」

「まあっ、うれしい。アナスタシア様とおそろいだなんて」

「うむ。悪いが、妾(わらわ)たちは先に退出せねばならない。じゃあな、イザベラ嬢」

「はい! 招待状が届くのを、楽しみにお待ちしております」

「ああ。ユリウス、行こう」

「はい、アナスタシア様」


 彼を伴い、妾(わらわ)たちはダンススペースに向かった。ダンスの時間は終わり、エッセンバッハ公からの終宴の挨拶を聞こうと、参加者たちが集まっていた。


「ご来場の皆様。本日は、我が家の夜会にお越し頂き――」


 ――型どおりの挨拶が終わり、妾(わらわ)たちは先に退出をうながされる。

 エッセンバッハ公爵家一家、それに参加者の貴族らに拍手で見送られ、妾(わらわ)たちは手を軽くあげて応じつつ、会場をあとにした。


 馬車寄せへ向かう道すがら、妾(わらわ)は今(こ)宵(よい)を振り返った。挨拶回りも、イザベラとの縁も、ダンスの評判も、上出来と言っていい夜だったと思う。

 しかし、ユリウスの機嫌の良さだけが、妾(わらわ)にはまだ理解しきれずにいた。

 ダンスへの評判をこんなに喜ぶ彼を見るのは初めてだ。喜ばしいことのはずなのに、なぜか、そのはしゃぎ方の底に、なにかが沈んでいるという気がする。気のせいだろうか。


 妾(わらわ)は、それ以上深く考えるのをやめ、迎えの馬車へと足を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。