第7話「聖痕者の食卓」
少し短い?かも?です。
いや、かわらないかも。
その日の昼過ぎ、古鍛冶場の中庭にセラフィーナが現れた。
両手に籠を持っていた。
「血施院の帰りに厨房に寄ったら、今日は食材が余っているからって。少し多く作りすぎてしまって……」
籠の中から、包んだ食べ物を何個も取り出した。
「こんなにですか」
「量の計算を間違えました!」
遥は少し考えた。「中に入って食べましょうか」
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食堂に人が集まった。
聖痕院の若い聖痕者たちが、セラが持ってきた食事を囲んでいる。普段から訓練や任務で顔は知っているが、これだけ揃うのは珍しかった。
「なんかいつもと違う味がしますね」
「教会の厨房の食材ですよ。少し上品な感じです」
「うまい」
「もう一個いいか」
「どうぞ!」
セラが嬉しそうに配り始めた。
賑やかな食卓だ。遥は少し端の方に座って、その様子を見ていた。
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気づいたことがある。
食堂の奥、壁際の椅子に、イグニスが一人でいた。
食事を持って、ひとりで食べている。輪に入っていない。話しかけられていないのではなく——自分から輪に入っていない。
別の聖痕者が「イグニスさんもこっちに来ませんか」と声をかけた。イグニスは「いい」と短く答えた。それだけだった。
遥は皿を一枚取った。もう一皿分、食事を乗せた。
壁際まで歩いた。
「余っています」
イグニスが遥を見た。「……何」
「セラさんが多く作りすぎたので。食べてもらえると助かります」
短い沈黙。
「……置いとけ」
遥は皿を横に置いた。その場を離れようとすると、
「座れ」
と言われた。
遥は椅子を引いて座った。
イグニスは何も言わずに、食事を食べ始めた。遥も食べた。
特に会話はなかった。でも、それでよかった。
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セラが食堂を見回して、遥とイグニスが壁際に並んで座っているのを見つけた。
少しの間、その場面を見ていた。それから、にこっとして視線を戻した。
遥は気づかなかった。
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食事が終わったころ、食堂が少し静かになった。
帰りがけに、イグニスが通り際に言った。「明日の訓練、時間を早める」
「何時からですか」
「夜明け前」
「分かりました」
それだけだった。
遥は少し考えた。訓練の時間を変えることに、何か理由があるのかもしれない。でもイグニスが言わない以上、聞いても意味はない。
ただ——今日初めて、壁際に「座れ」と言われた。
それは訓練のときの「来い」とは、少し違う声だった気がした。
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その夜、訓練のことを考えながら横になっていると、声が聞こえた。
遠い、低い声。ここのところ、毎晩聞こえる。
【——扉が。扉が。まだ——】
遥は目を開け、天井を見た。
声は消えて、また静かな夜になった。
古鍛冶場の天井は、どこか煤けていて、ランタンの光が届かない部分は純粋に暗い。
遥はその暗い部分をしばらく見ていた。
この声が何なのか、まだ分からなかった。でも、無視できないことは分かっていた。




