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【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
終章 寒空の下で
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第124節 回憶 ~放心の夜~

 ――時は遡って、あの祭りの夜。


(ああ、わたくしはまた何もできなかった……。)


 あと少し、もう少し――

 大王に意見できるだけの勇気が欲しい。

 そんなことばかり考えて決断を先延ばしにしていたら、またしても状況はわたくしを置き去りにして急激に変化してしまっていた。

 気が付けば辺りは叫喚と混乱の嵐にすっぽりと呑み込まれていて、一度は降伏したはずの養父(ちち)大王(おおきみ)白面(しろおもて)舞娘(まいこ)の凶刃に倒れ、クマ国もまたその流れの中で滅亡を宣言されてしまっていた。

 その間わたくしはただオロオロと事の成り行きを眺めていただけ。


(わたくしは臆病なだけではなく無力。そして無能。)


 この数日間で散々思い知らされて、そして今夜とどめを刺された。

 もうどうすれば良いのか分からない。

 どうする気にもなれない。

 せっかく返り咲けるかと思われた橘の花は根元から抜き去られると、そのまま何処かへと捨て去られ気が付けばカラカラに干乾びて死んでしまっていた。

 そのことに気が付いた時、わたくしの心から何かが失われた。


(もう嫌です。こんなわたくしは。)


 もうすべてなかったことにしたい。

 そして今の身分など投げ捨てて、一人の民として当たり前に生きて当たり前に死んでゆきたい。と、わたくしはそう心から願った。




 そうしてうなだれてばかりいる内に何があったのか、周りから下女たちの姿が消えていたことにわたくしは気が付いた。

 わたくしは動揺した。

 しかしその動揺も束の間のことで、考えてみればこれも当然の成り行き。

 なぜなら、こんな大変な事態になってもなおこの場から一歩も動けないような不甲斐ない高女に仕えたがる者などいるはずがないのだから。


(逃げ出して当然なのです。)


 むしろ、よくぞ今まで仕えてくれたもの。そんな献身的に尽くしてくれた彼女たちに恨みなんてあるはずがない。

 わたくしは既にこの場にいない三人に感謝の気持ちを念じると快く送り出してやっていた。

 そうして、すでに崩れかけていた心の内側からさらに三人分の支えを失ったわたくしは再び自分の殻の中に閉じこもっていた。




 それから更にどれだけの時が経ったのか――

 突然ハチに刺されたかのような熱くて乾いた衝撃がわたくしの頬を襲っていた。


「え……あ……。」


 わたくしはそこではじめて気が付いた、自分の前に随分と整った繊細な面立ちの者がすぐ傍まで迫っていたことに。

 その顔は平時であれば赤面して顔を背けずにはいられないほどに美しく、それでもそんな浮ついた気持など起こしようもないほどに真剣な面持ちでわたくしを見つめていた。


「……あ……タケハヤ様?」


 彼は、支えを失い崩れた気持ちに潰されて白昼夢のような世界から醒め切らないわたくしを、深い悲しみの色とはっきりとした強い意志を宿した瞳で真直ぐに見つめてこう言った。


「しっかりなされよ、姫君。そなたにはこれから是非ともやってもらわねばならぬことがあるのですぞ。」

「わた、くし……が……?」


 言わんとしていることの理解が追い付かないまま、わたくしは彼に言われたことを聞き返していた。

 この方はわたくしに何をせよというのか。

 こんな……何の甲斐性も持っていない、ただのつまらない女に。


「無論。タギリビコ大王の一子であるそなたがこの地を治めるのに一体何の不都合があろうか。」

「あの……ですが……。」


 わたくしはしどろもどろになりながらどうにか間を繋いでいた。

 そうして分かってきたのは、タケハヤ様はわたくしに養父大王の代わりをさせようという腹積もりであるらしいこと。彼はわたくしにこのクマの地を統治させ、あわよくば反乱の芽を出させない、或いは出かけた芽を摘み取らせてしまいたいとそう考えているのでしょう。


(わたくしが大王に……。)


 しかし、突然次の王座に収まれなどと命じられたところでそう簡単に受けられるはずもなく、わたくしには困惑していた。

 わたくしには民をまとめる求心力もなければ、クニを善い方向へと導く才覚もありはしない。そんな人間が王座に就くなどあってはならないことなのだから。――


 そうしてこの時のわたくしは、なかなかしっかりと回ろうとしない頭をどうにか回転させながら彼の要求を跳ね除けようとしていた。


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