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金の姫の舞踏会  作者: vientoverde


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20/21

もしもまだ、舞踏会へ行きたいのなら


2026.10/13 エピタイトルのみを修正(内容は同じです)



 「せ、誠意――?」


 ルシウスはわかりやすく固まっていた。

今からこんなだなんて。そんな為体(ていたらく)でわたくしに付いて来られるの? 


「ええ。せめて報いてくださいませんと。今日までのわたくしの忍耐に対して」


 先が思いやられること。


「な、何をすればいいんだ……?」


 それとも。無様に狼狽えるのは、鋼のごときわたくしが相手だから?


「そうですわね。とりあえず誓っていただこうかしら」


 ならば教えてやろう。

 鉄だ鋼だと誹ったわたくしの、しなやかで強い黄金の本領を。


「……は?」

「今後。愛人をおつくりになる際には、必ずわたくしの許可を取ると」

「ッ……⁈」

 

 ルシウスが絶句した。


「今ここで、お約束くださいな。浮気であれ本気であれ。どんな相手でも先にわたくしの承諾を得てからになさると」

「――き、君がっ。そんなことを言うなんてっ」


 信じられない。ギョロ目を瞠るルシウスに、オウレリアは構わず畳み掛けた。


「これからあなたのお傍に侍る女性は、すべてわたくしが決めます」


 これは宣告。通達だった。元より、ルシウスに拒否権はない。


「き、君――……、君、は。結婚前から、そんなことを⁈」


 どの口で? 結婚前から愛人を囲おうとした男が。


「あら。驚かれることですか? 側妃も愛妾も正妃が選ぶ。ブルグ王家の伝統でしたでしょう?」


 それは最早、形骸化した伝統でもある。

 亡き王妃はしっかり阻止できなかったから、あんな側妃に入り込む隙を与えたのだ。政敵の侵入を未然に防げていれば、もっと長生きできたろう。

 そうすれば、自身で息子達を守れたはずだ。何もオウレリアの手を借りずとも。


 だがこの際、オウレリアが王家の後宮規律を復活させるのも悪くない。


「ああ、勿論。拒まれてもけっこうなのですよ?」


 もちろんルシウスに拒める選択など、できようはずがなかった。

どう転ぼうが、王宮の女主人になるのはオウレリアだ。次代の主になれるかどうかも定かでないルシウスとは、雲泥の差があった。


「それと。ほんのお戯れで、子供を作ったりはなさいませんように。そちらについても固くお約束願いますわ」


 まあ誰と遊ぼうが、漏れなくオウレリアの耳には入って来る。


「…………」


 あら? 水も喉を通らないようなお顔だこと。

 こんな顔色で、この後乾杯の発声なんて取れるのかしら? 


 少しだけ、間が空いた。

 


「―――――わかった」

「本当に?」

「くどいな。――わかったと言っている」

「なら、こちらにご署名を」


 オウレリアはテーブルの上の書類を示した。

わざと裏向きにして置かれていたそれを、サッと表返す。


「え。それ、は――」

「ええ。今申し上げた内容をまとめてございます。さあどうぞ、こちらにご署名なさって?」


 ルシウスの顔が誤魔化しようもないくらいに引き攣って、その指先はわなわなと震えていた。


 昨夜の十三歳。あの少女は、こんなに震えていたかしら?


「こ、ここまで――やるのか」


 ええ。それだけあなたに信用がないということなので。


「どうぞご心配なく。これはあくまで、わたくし達が婚(・)姻(・)す(・)れ(・)ば(・)という前提なのですから」

「………」


 嫌ならそれでいい。構わない。ルシウスはオウレリアとオウレリアの背後にあるものを喪い、後継争いからも脱落する。それだけだ。そしてそれは、ルシウスには死活問題に直結するというだけ。

 問題ない。オウレリアには、失うものは何もなかった。

 


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