もしもまだ、舞踏会へ行きたいのなら
2026.10/13 エピタイトルのみを修正(内容は同じです)
「せ、誠意――?」
ルシウスはわかりやすく固まっていた。
今からこんなだなんて。そんな為体でわたくしに付いて来られるの?
「ええ。せめて報いてくださいませんと。今日までのわたくしの忍耐に対して」
先が思いやられること。
「な、何をすればいいんだ……?」
それとも。無様に狼狽えるのは、鋼のごときわたくしが相手だから?
「そうですわね。とりあえず誓っていただこうかしら」
ならば教えてやろう。
鉄だ鋼だと誹ったわたくしの、しなやかで強い黄金の本領を。
「……は?」
「今後。愛人をおつくりになる際には、必ずわたくしの許可を取ると」
「ッ……⁈」
ルシウスが絶句した。
「今ここで、お約束くださいな。浮気であれ本気であれ。どんな相手でも先にわたくしの承諾を得てからになさると」
「――き、君がっ。そんなことを言うなんてっ」
信じられない。ギョロ目を瞠るルシウスに、オウレリアは構わず畳み掛けた。
「これからあなたのお傍に侍る女性は、すべてわたくしが決めます」
これは宣告。通達だった。元より、ルシウスに拒否権はない。
「き、君――……、君、は。結婚前から、そんなことを⁈」
どの口で? 結婚前から愛人を囲おうとした男が。
「あら。驚かれることですか? 側妃も愛妾も正妃が選ぶ。ブルグ王家の伝統でしたでしょう?」
それは最早、形骸化した伝統でもある。
亡き王妃はしっかり阻止できなかったから、あんな側妃に入り込む隙を与えたのだ。政敵の侵入を未然に防げていれば、もっと長生きできたろう。
そうすれば、自身で息子達を守れたはずだ。何もオウレリアの手を借りずとも。
だがこの際、オウレリアが王家の後宮規律を復活させるのも悪くない。
「ああ、勿論。拒まれてもけっこうなのですよ?」
もちろんルシウスに拒める選択など、できようはずがなかった。
どう転ぼうが、王宮の女主人になるのはオウレリアだ。次代の主になれるかどうかも定かでないルシウスとは、雲泥の差があった。
「それと。ほんのお戯れで、子供を作ったりはなさいませんように。そちらについても固くお約束願いますわ」
まあ誰と遊ぼうが、漏れなくオウレリアの耳には入って来る。
「…………」
あら? 水も喉を通らないようなお顔だこと。
こんな顔色で、この後乾杯の発声なんて取れるのかしら?
少しだけ、間が空いた。
「―――――わかった」
「本当に?」
「くどいな。――わかったと言っている」
「なら、こちらにご署名を」
オウレリアはテーブルの上の書類を示した。
わざと裏向きにして置かれていたそれを、サッと表返す。
「え。それ、は――」
「ええ。今申し上げた内容をまとめてございます。さあどうぞ、こちらにご署名なさって?」
ルシウスの顔が誤魔化しようもないくらいに引き攣って、その指先はわなわなと震えていた。
昨夜の十三歳。あの少女は、こんなに震えていたかしら?
「こ、ここまで――やるのか」
ええ。それだけあなたに信用がないということなので。
「どうぞご心配なく。これはあくまで、わたくし達が婚姻すればという前提なのですから」
「………」
嫌ならそれでいい。構わない。ルシウスはオウレリアとオウレリアの背後にあるものを喪い、後継争いからも脱落する。それだけだ。そしてそれは、ルシウスには死活問題に直結するというだけ。
問題ない。オウレリアには、失うものは何もなかった。




