【最後の回想】 挑む白薔薇、ロザリンデ(1)
「愛を分かち合うのは嫌です……!」
ロザリンデを見たのは、あれが最後だった。
たまたまオウレリアが遭遇してしまった、あの修羅場が。
「殿下の仰ることが、私にはわかりません――」
卒業式よりは前。期末考査の発表よりは後だっと思う。
甚だ不本意ながら、またもオウレリアはその現場に居合わせてしまった。
学院の中庭より少し奥、花壇の向こうの四阿は校舎からは少し遠い場所だ。
そこは、元々はオウレリアだけの内緒の休憩処だった。昼休み終わりに授業に戻るには、僅かだけ余計に時間がかかる微妙な距離。そのおかげで人気は少なく、そこが気に入っていた。時にはルシウスも来て、一緒に時間を過ごしたこともある。
一年、二年生時までは確かにそういう記憶があった。政略による婚約者同士ではあっても、決して不仲ではなかったのだ。
だがルシウスはロザリンデと邂逅し、いつしか頻繁に二人で会い始め、やがてほとんど一緒にいるようになり、遂にはオウレリアがいる時やオウレリアといるべき場面にまでロザリンデを伴うようになってしまった。そうして次第にオウレリアは学院内の安息の場所――この四阿には近寄らなくなった。
王太子の態度が気に障るとかロザリンデを疎ましいとかいうよりも以前に、ただオウレリアは静かに過ごしたかった。
悪気はなかったのかもしれないが、ロザリンデが来るとうるさい。
ルシウスは必ずしも発言が多くないが、ロザリンデはお喋りが好きな女の子だった。だから単に物理的に騒がしかったのだ。
『最近はギクシャクしているようです。はい、妹さんの一件以来』
何でもこなす専属メイドのニケにそう報告を受けていたから、オウレリアは久し振りにかつてのお気に入りの場所まで来てみた。
(まさか。まだここで会っていたなんて……)
そうしたら、案に相違して四阿には先客がいた。
会いたくもない、見たくもない二人。婚約者ルシウスとロザリンデが。
懲りもせずに痴話ゲンカ。それもこんな人目に触れる所で――
「私、そんなのは嫌ですっ……」
しかも。どうやら今度は修羅場だった。
「愛を分かち合うのは……嫌です!」
立ち去るべき間を逸してしまい、オウレリアは瞬時思案した。
どのあたりで消えようかしら? それともどこまで聞いておくべき?
「私達どちらも、だなんて――そんなの、耐えられない」
ああ。大体わかった。途中からだけれど、話の流れが。
二股を二股のまま成就させたいと。これはそういう都合のいい提案なのね?
「王冠か私か。どちらかを選んでください……‼」
え。そう来るの?
聞かされるオウレリアは眩暈を覚えた。
現実問題として、ロザリンデはバカなのだ。しかもどうやら痛い類のバカ。
ルシウスが愛妾にしたくとも、これでは困る。最低限の弁えを欠くようでは。
――こういうのが一途に見えるの?
ならば、どうかしている。現状認識能力に著しく欠けるとしか思えない。
これを純粋だと思う? 感動的だと? 人を見る目が無さ過ぎるだけでしょう?
これではとても公妾など務まらない。愛人さえ無理だ。
戯言を。その男から王冠を取ったら何が残ると言うのか。
おそらく何もない。王冠と抱き合わせてさえ、魅力に乏しい人間だ。
ルシウスのどこに、全てを投げ打つ価値がある?
ロザリンデは、本当に目が開いているのか。
(学院でのこの一年次、あなた何を習ってきたの?)
気でも狂った?
偶然にもロザリンデのおそろしく大問題な発言を耳にして、オウレリアは彼女の正気を疑った。
本気なの? あなた、頭は大丈夫?
頭痛がしてきた。だが同時にオウレリアは気付く。
――いえ。これでも学んだのかも知れないわ。彼女なりに。
少なくとも、エステル妃よりはマシなのだ。




