第64話 若殿の戦略
「な、な、何ですか、それ!」
僕は思わず立ち上がりそうになり、ビアンカは両手で口元を押さえている。六休さんは目をカッと見開いた。
「ふははは。そうなる? そうなるよね? でもホントのホントさっ。いやー、探したよ。やっと会えた」
「改めまして。僕の名は毘螺門。飛騨の国の若殿をやっています。ははは」
開いた口が塞がらないとは、このことだ。
六休さんの時もそうだったが、今回はそれ以上だ。もうちょっと普通に出会えませんか? 心臓に悪い。
「あの、その、毘螺門様」
「あ、毘螺門でいいよ。今は、若殿だけど、僕らは同じような立場だしね」
聞けば、毘螺門様は20歳らしい。この中では一番年上だ。なので毘螺門さんと呼ばせていただくことになった。
記憶があるのは、六休さんと同じで、暗い世界からのようだ。
10歳の頃から、徐々に思い出し始めたらしい。
最初に記憶がよみがえったのは、城の池に枯葉が落ち、その波紋を見ていた時だった。暗闇で誰かと話している場面が、突然頭をよぎったという。それから少しずつ、同じように記憶がよみがえることを繰り返し、今に至っているらしい。
ちなみにビアンカはここでも、僕や六休さんの時と同様に、毘螺門さんが『声の主』と話をしていることに引っかかっていた。
16歳くらいで大まかな経緯を思い出し、それから他の人たちを探そうと、国内の主だった実力者たちに触れを出したようだ。
不自然な者。
急に力を伸ばす者。
やたら旅に出ようとする者。
そういう条件にしたのは、毘螺門さん自身の経験かららしい。ヘラヘラしているけど、意外と頭はいいのかもしれない。
本人は、条件に合いすぎる3人の報告が上がってきた時には、飛び跳ねて喜んだらしい。やっと見つけたという気持ちと、ここまで条件に当てはまるものかという驚きで、相当うれしかったとのことだ。
次に、僕たちもそれぞれ、この世界に来た時から今に至るまでを話した。ビアンカはここでも勇導師のことは話さなかった。それと、あの事故の原因が僕にありそうだという話も、もちろん伏せた。
「ははは。楽しいな。みんな苦労してるんだね。でも、ナオえもん君だけは最近なんだね。なんでだろうね。んんー、飛ばされた時期がみんな違うから、そんなものなのかもね。ははは」
「それで、大事なところなんだけどね。ビアンカちゃんは案内人だから、僕たち九人とは少し事情が違うかもしれないけど、僕たちはみんな、何かが欠けてると思うんだけど、どうだろう。僕が触れを出すときに『不自然な者』という条件を、最初に持ってきた理由でもあるんだけどね」
うむ。毘螺門さんは、やはり頭がいい。
僕は、『恐怖心』がないということを明かした。
すると、毘螺門さんより、六休さんの方が驚いていた。
「そ、そんなことが、あるのですか?」
「恐怖心がない? そんなことが……。いや、それなら、納得できる話です」
「あれ? 六休くんも知らなかったのかい? ふーん」
「いえ、その、隠していたとかではなくてですね、六休さんと合流してから怒涛の勢いでいろいろありまして……気づいたら今ってわけでして」
「確かに。お互いの深い話をする時間はありませんでしたね」
良かった。六休さんも気を悪くした様子はない。
「そっか、そっか」
「僕はね、待合室と、大広間で、ナオえもん君を見た。そしてグラディウスの報告。なるほどね。なんとなく感じたものは、そういうことだったのか」
毘螺門さんは、随分納得がいったようだ。
「そんなに何か出てました? 僕は、なるべく隠しているつもりなんですけど」
「んーー、でもこれだけみんなに不審に思われてるしね。危ないんじゃないの?」
「ですよね」
ハッキリ言われてしまった。今後の課題だな。
「次に、六休君は何が欠けているんだい? 君も結構なものが欠けていそうだけどね。ははは」
「私ですか? いや、私は特に何かが欠けているということはないかと思われますが……」
六休さんは、そのまま考え込んでしまった。だが、おそらく自力ではその答えにはたどり着けないだろう。『悪気はなかった』なんていう話は、世の中に普通に転がってるものだ。ただ、それがあまりに連続して起こるから変なのだ。
僕とビアンカの視線が交差する。
ビアンカ。任せた。
僕は目をつむり、ゆっくりと頷いた。
「ずるい……」
ビアンカの小さな抗議の声が聞こえた気がしたが、僕はそのまま『無』に入った。
すまない、ビアンカ。
だが、ここは、女性である君から伝えた方が、きっと柔らかく伝わるはずなんだ。それに、実際にステータスで六休さんを確認したのはビアンカ、君なんだ。
よろしく頼む……。
「……えっと、六休さんには……悪気というものが……ないんじゃないのかなーなんて思います……」
「な、なんとっ!」
「この私にそんなっ」
戸惑う六休さん。
下を向き、視線を合わせないビアンカ。
「だははははははっ」
そして、ただただ爆笑する毘螺門さん。
「いいね、いいね、六休くん!」
「とてもいいじゃないか、それ。とても君に似合ってる気がするよ。だはははは」
六休さんは、泳いだ目をしながら、また考え込んでしまった。
「さてと。次は僕の番だね。えーーっとね、僕だけどね、お気づきかもしれないが、僕にはね、ふふふ。『真剣味』がないんだよ。だはははは」
それでなんかいっっ!!
な、納得いきすぎる!!
最初から、軽いなとは思っていた。
いや、軽すぎるんじゃないかとも思っていた。
何だったらもう、少しイラッとしてたくらいだ。
でも、そういうことなのか。
これはさすがに、相当苦労してきたことだろう。
「あー、みんなのその顔、納得って顔だね。やっぱり? 思ってた? この人軽いなーって思ってた? 六休くん、どうだい?」
「いえ、その、失礼ながら、ヘラヘラしておられるなとは思っておりました。ただ、私はイラッとはしておりませんので、ご安心を」
「ヘラヘラ……ね。イラッとか……。そうだね。ははは。きついなー。あははは」
あーあ。言っちゃったよ……。
いや、でも今のは毘螺門さんが悪いかな。
自分から六休さんに聞いちゃうんだもの。
「あの、悪気はないんです。気にしないでください」
「あ、ああ。そうだね。あはは。これはみんな、想像以上に苦労して生きてきたみたいだね。僕も含めて」
「まあ、それはいいや。話を進めようか」
「さて、これからのことだけどね、魔王退治に行くんだよね? 『真の我』を助けるために。間違いないかな、ビアンカちゃん」
「あ、はい。間違いありません」
「みんなで?」
「はい……みんなで、の予定ですけど……」
「そこなんだけどね。僕は今まで、適性の修行も、武術もやってきた。若殿だからね。ははは」
「でね、武術はだめだ。向いていない。適性も戦う系には、ほとんどピンとくるものがない。僕はいわゆる文系ってやつさ。ははは。オタクでもあるしね。はははは」
「そんな僕が、この立場を放り出して、みんなと旅に出ても、役に立たないと思うんだよね。それより、飛騨の国の若殿として、この立場を使って支援した方がいいと思うんだけど、どうだろう」
「若殿の僕はいろいろ便利だよ。触れも出せるし、情報を集めやすい。国内のことはそれなりに便宜を図れるし、国外だって、外交を通じて、多少は何とかなる」
「そうですね。確かに、そういう裏方支援も必要かもしれませんね」
ビアンカはなるほど、といった表情をしていた。
確かに僕も、そっち方面は考えていなかった。
なるほど。後ろから支えるって手もあるのか。
「あとね、むふふ、お金もあるよ。どうだい?」
「えっっ!!」
「そ、それはっ……あの……とても、素敵です……」
あの、ビアンカさん?
目。
今、目が変に輝きませんでした?
大丈夫?
「ビアンカちゃん、素直でいいよ。お金はとても大事だからね。旅費がなければ旅なんて言っていられないからね」
「はいっ!よろしくお願いします!」
ビアンカは勢いよく頭を下げていた。
世知辛い。
ここは半分とはいえ異世界なのに、なんと世知辛い世の中なのだろうか。
ビアンカは間違っていない。世界は財布の中身で、見え方が変わるからな。
気づけば僕も、六休さんも頭を下げていた。
第64話 完
【ナオえもん:若殿という名の高性能スポンサーを発掘した男のリザルト】
〇毘螺門さん真剣味欠落納得度:100
(軽い。とにかく軽い。国の若殿なのに、自己紹介も会話も全体的にふわふわしている理由に、納得しかない)
〇六休さん悪気なし追撃力:90
(毘螺門さん本人に向かって、ヘラヘラしていると正直に申告。さらに「私はイラッとはしておりませんので」と追撃。悪気がない者の言葉は、防御不能)
〇新たな九人のうちの1人・重要人物度:100
(飛騨の国の若殿・毘螺門さんが、まさかの九人側と判明。若殿特権支援プランは秀逸)
〇旅費支援への感謝度:100×3
(「お金もあるよ」の一言に、ビアンカの目が光る。気づけば僕も六休さんも頭を下げていた。ファンタジーにもまずは旅費)
備考:世界は財布の中身で、見え方が変わる。




