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第63話 若殿

うかつだった。

3人とも完全にほっとした瞬間だった。


僕たちは、一休さんに言われて、お殿様に会った。話した内容は村長さんの印象を聞かれただけ。お殿様は村長さんの様子が聞きたかっただけと言っていたが、到底納得できない。最後も重臣の人に、『もうよいな』と確認していた。

絶対、他に何かある。


しかし、どう考えても僕たちが転生者であることを確認するような内容ではなかった。ますますわからない。


そして、若殿様。

わざわざ別室で話そうと言う。お殿様とのやりとりから、若殿様個別の案件であることは間違いない。次こそ、僕たちが転生者であることか。あの事故か。おそらく両方だろう。


若殿様がヒュドラか。

食べられないことを祈る。


僕たちは別室に通された。大広間から少し離れた小部屋だ。そこで先ほどと同じように3人並んで、若殿を待った。


僕たちに座布団はない。だが、床の間の前には高そうな敷物があり、その上には座布団が置かれていた。パッと見た感じ、いきなり床が抜かれて地下室に落ちるような仕組みはなさそうだ。そして、特に防音や防水が施された部屋でもない。ここでいきなり食べられることもなさそうだ。

一旦、落ち着くとしよう。


しばらくすると、襖が開いた。『待たせたね』と言って若殿が入ってきて、そこに座った。お供の者はいない。僕らだけの話のようだ。


「いやぁ、どうだった? 父上の質問、意味が分かったかい?」

若殿は、さわやかな笑顔を浮かべ、とてもフレンドリーに話しかけてきた。だが、質問内容は結構深い。


「そうですね。よくわからなかったですが、その……グラディウス様の様子を聞きたかっただけ、ではなさそうな気もしますけど……」

僕は、殿様の言葉を、否定するわけにもいかず、もぞもぞと答えた。


「そうだね。あっちはあっちでいろいろあるみたいだけどね。大したことじゃないよ。安心していいよ。ははは」


「ありがとうございます」

ふむ。結局、何だったのかわからないままだが、とりあえず安心していいらしい。

よかった。


「さてと、こっちの話はあれだ。そうだね……ビアンカ。君がかわいいということだ」

若殿様はニッコリ笑っている。


げっっ。

うそー。そっちで来るの?

権力者のそういうやつ?

思ってたのよりだいぶレベルの低い話だったけど、これはこれで、大問題じゃないか!!

このエロ若め。

どうしよう。

僕らはドキメモ作戦の最中だ。魔王退治の途中でもあるのだ。ビアンカを渡すわけにはいかない。し、しかし、このエロ若は、この国の次期殿様だ。ビアンカにとっては、それはもう玉の輿。

僕は、ビアンカの反応を見ようと、ゆっくりと、そちらを見た。


「あの、それは、その、困ります」

そう言って、ビアンカは顔を赤くしながら僕を見た。


ビアンカは僕を見てくれた。うれしい。とてもうれしい。

だが、これが予想外の修羅場であることには変わりがない。恋愛沙汰なんて、だいたいもめる。まして相手は次期殿様だ。何を言っても無理パターンな気がする。


「ほう。なぜ困る? そこのナオえもんとやらと、何かあるのかい?」

「では、ナオえもん。お主、どうなんだい? ぷぷぷ」


あーあ。

結局捕らえられるルートか。

僕は何も答えられずにいた。


「だははははっ。嘘だよ。嘘。ごめんねー。ビアンカちゃんは確かにかわいいが、僕はもっと、こう、ボリュームのある……。ビアンカちゃんじゃ、足りない。君たちに残ってもらったのは、ぜーんぜん違う話だ。ちょっと緊張をほぐそうと思ってね」

「あははははー」


「「は、はは、ははは。若殿様ったらご冗談を……」」

殺す。

今、僕とビアンカには完全に同じワードが心に浮かんだはずだ。だが、ビアンカのその目には、僕とは種類の違う怒気が含まれているような気がしないでもない。

六休さんは、無。


「さて、本題に入ろう。僕はね、数年前から、人を探していてね。でもこれがかなり難しいんだ。顔も年齢も、わからない。だから、いろいろなところに触れを出していたんだ。グラディウス、一休、鉄心など、国内のそれなりの実力者には、ひと通り出したと思う」

「不自然な者、急に力を伸ばす者、やたら旅に出ようとする者を見たら、僕に知らせてほしいとね。ふふふ。」


『『『げっ』』』 


なんだそれ? ビ、ビンゴ過ぎる。それ、見事に全部、僕たち3人じゃないですか。無理。これ完全に無理。だって、もう、それだもの。


僕はビアンカを見た。(無理ね) 

続いて六休さんを見た。(無理です)

うん。無理だ。


「それで、若殿様が探していたのは、僕たちなんですか?」


「うーん、そうだね。それを今から答え合わせしようと思ってね」

「さあ、どうなるかなあ?」

若殿は楽しそうにそう言って、ビアンカの方を見た。


「まずビアンカちゃん。小さい頃から、かわいく、性格もよく、運動もできると村では評判だった。だが、3、4年ほど前から、明らかに武術の質が上がり、天才少女と呼ばれ始めた。同時に旅に出なくてはならないと言い始めた」


よく調べていらっしゃる。

その通りだ。


若殿は、次に僕を見た。


「そこに最近になって、妙な少年が村に来た。この少年は、全裸で街道に現れ、記憶もない。とりあえず様子を見ることとなったが、その落ち着き具合がどうも不自然だという。しかもビアンカと突然仲良くなり、何やら企んでいそうだと」


その企みはドキメモ作戦のことですかね?

本当の企みは魔王退治なのですが。


若殿は六休さんへ視線を移す。


「そこに六休くんが現れる。六休くんは、ずば抜けた瞑想の才と武術の実力で京都帝国で評判だった。その六休くんを、師である三休が一休のもとへ送り出した。自分では、これ以上高みに導くことができないと言っていたらしい」

「いざ一休が預かってみると、実力は申し分ない。だが、人との接し方が妙にズレている。ははは。優しい性格なのに、なぜか人を怒らせる。それもまた、不自然に見えなくもないという」


六休さんの人をえぐる力は、なかなかなものがありますからね。


ここで、若殿は視線を落とし、自分の指先を眺め始めた。中指を親指で弾いている。何か爪に挟まっているのだろうか。いや、もしかして、自分で話をしておいて『飽きた』とかじゃないだろうな。


「そして六休くんは、ナオえもんくんとビアンカちゃんに出会った。出会いそのものは、お寺での、なんの変哲もないものだったらしい。だがそれ以降、六休くんは2人を気にし始めた。人に興味を持つことなど、ほとんどなかった男がだよ?」


「どうだい?君たち3人は、もう決まりだろう」

若殿は特に感情は表さず、自分の指先を見ながら、サラっとそう言った。


はぁ……。

『『『僕たちですね』』』


どう考えても僕たちだ。もう完璧に仕上がってるじゃないか。ここはもう、しらばっくれても意味はない。

これからどうなるんだろう。裁判とかはないだろうし。若殿様次第なのかな。

牢屋?

処刑? 


「あの、僕たち3人は、若殿様の探されていた条件に見事に一致していますね。もう、それは僕たちでしょう。でも、なぜそんな僕たちを探していたのですか?」


「ふふ。そうだね。もっともな質問だね。だがそれに答える前に、こちらから1つ質問だ」

「君たちは何をしようとしているんだい?」

若殿様は、ニコニコしながらズバッと聞いてきた。


「何をしようと……ですか……」

どう答えればいい。ここまで条件がそろっていて、やっぱり、たまたま僕たちが引っかかっただけの人違いでした、なんてオチはないだろう。

正直に答えた方がいいだろうな。

3人でここまでの打ち合せなんてしていない。嘘をついたところで、別室で、別々に質問されたら即アウトだ。逃げ通せるはずがない。

本当のことを言うしかない。

ただ、全部は言わない。この世界で通じる範囲までだ。

僕はもう一度、ビアンカを見て、それから六休さんを見た。2人とも頷いてくれた。いくしかない。僕は若殿様の目をしっかり見つめて言った。


「魔王を、倒しに行こうと思います」


「おっ。素直にきたねぇ。なかなかいいぞ」

「でも、それじゃあ足りない」

「質問を変えよう。君たち、何者だい?」


僕たち3人が固まる。どっと汗が噴き出す。

なんだ? 何を? どこまで知っているんだ?


僕たちは答えられず、時間だけが流れた。


「ふふふ。楽しいなぁ」

「まぁいい。あまり引っ張るのも良くない。そろそろ教えてあげよう」


「僕はね、九人のうちの1人なのさ」


第63話 完


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