62話 査問・グラディウスへの恐怖
特記事項の『悪気がない』については、六休さんに伝えておいた方がいいのかどうか、判断がつかない。本人はいろいろ乗り越えて、今を生きている感じだし。
この場では、あくまで占いをしているかたちだ。僕たちは、しばらく様子を見ることにした。
重要なことが発覚した。
六休さんには、転生以前の記憶がおぼろげにしかないらしい。それは本当にぼんやりしたものらしく、僕が前世では当たり前だったアニメやゲームの話を振っても、『そんな感じのものがあったような気がします』くらいの反応だった。
したがって、例の黒歴史も記憶にないそうだ。
うらやましい。
はっきりと記憶にあるものは、真っ暗な部屋で目を覚ましたときかららしい。
なぜだろう。僕と六休さんは『真の我』から作られたと聞いている。それなら、僕と同じような条件で転生しているのが普通だと思うのだが。
ビアンカもそのあたりのことはわからないらしい。おそらく、あの事故が原因なんじゃないかということで、いったん落ち着いた。
午後になった。
僕たちは意を決してお城に向かった。さすがに、道中は会話も少ない。頼りは、和尚さんが僕たちを危ないところに向かわせるはずがないという、その一点だ。
他人任せだな。
まずは受付で事情を話す。
お城の見た目はガッツリお城なのだが、受付は門の横に平然とあった。駅にある、あの緑の窓口をそのまま大きくしたようなものだった。
門をくぐる際にボディチェックを受け、門から少し入った場所で待つように言われる。
そして、3時間くらい待った。
その間、六休さんはずっと瞑想に入っていた。さすがだ。六休さんの周りだけ、空気すら止まっているのではないかと思わせる静けさがある。体もまったく揺れない。
いっさいの邪念を捨てた『無』。
この人は今、1分1秒ごとに、何か成長しているのではないか。そんなふうに思えてならない。
僕とビアンカは、いざとなったらああしよう、こうしようと雑談して過ごしていた。ビアンカが緊張しているのが伝わってくる。何か話していないと、落ち着かないのだろう。
今、話している対応策も、おそらく何をしても無駄だろう。それはわかっていたが、僕はうんうんとうなずきながら、ビアンカに付き合うことにした。
緊張しているビアンカも、かわいい。
そして、僕たちは案内された。
突然やって来て、たった3時間でその国のトップに会える。よくよく考えれば、相当な優先順位なのだろう。やはり、緊急かつ重大なことがあるのだ。
大きな中庭を抜けたところで、靴を脱いだ。そこから城内を進み、大広間に着く。奥の方には、一段高くなった場所がある。
お殿様? 国王様? 正しい呼び名はわからないが、あそこに来られるのだろう。
僕たちは、上座から10メートルくらい離れたところに、横一列で腰を下ろすことになった。
僕の左にビアンカ。右に六休さん。
広間には、重臣と思われる人が1人、上座の近くに座っていた。あとは、護衛らしき人が数名控えている。
しばらくすると、『殿のおなりである』という声が上がり、その場の全員が頭を下げた。呼び名は『お殿様』で良さそうだ。
さて、どんな方なのだろう。また、戦神的な人はご遠慮願いたい。あれ、疲れるんだよ。
やたら切れ者風な人も困る。そういう人は感情が見えないから、こちらの言ったことの何が正解で、何が間違いなのかがわからない。
かといって、ハイテンションも困る。そういうのに合わせるのは苦手だ。
などと考えていると、襖の開く音がした。
人が上座に着く気配がする。
「面を上げよ」
そう言われて、僕たちは頭を上げた。上座には2人座っていた。40代半ばくらいの男性と、20歳くらいの青年。親子かな? 見た目は2人とも普通だった。少なくとも、ヒュドラに変身するようには見えない。
ごほん、と咳払いをして、お殿様の方が口を開いた。
「グラディウスから話は聞いておる。真ん中の者。お主がナオえもんじゃな。ふむ。普通に見えるがのう。では、単刀直入に聞こう。お主、グラディウスと会ってどう思った?」
キターーーッ。
僕、単独でキターーー。
僕、ですか。村長さんと会って、どうだったかですって? 何だ? 何があったっけ?
……あ、混じってないって言われた、あれなの?混じっていた方がよかったの? ちなみに、何が混じってなかったの?
えーーと、えーーと。
「殿の仰せである。答えよ」
「はいっ。あの、そうですね、混じってはない、とおっしゃっていましたが、僕的には混じってるんじゃないかと思う次第です」
「何を言っておるのじゃ? わしは、グラディウスを見てどうじゃったかと聞いておる」
違った。そうだよね、普通は混じってない方がいいよね。それで、村長さんを見てどう思ったか? 海賊? そういうことじゃなくて? もうこれは真意がわからん。思った通りに答えるしかない。
大丈夫?
でもしょうがないよね?
いくよ。
南無三っ!
「はい、海賊出身かな? と思いました。でも、あそこは山なので、山賊の方かな? などと」
僕は手をつき、頭を下げて言った。
隣のビアンカから、『何言ってんのっ』という抗議の声が聞こえてきそうだ。
すいません。僕もそう思います。
「はっはっは。ゆかいな子じゃ。そうじゃのぅ。そう見えてもおかしくはない。それで?」
お殿様は、途中までは楽しそうだった。だが最後、『それで』の部分には鋭さがこもった気がする。
しかし……だ。
それ以上、何かあっただろうか。ドカドカ音がして、椅子に座られて、信長じゃなくて、がっかりして。それから、手はフックじゃなくて、足も義足じゃなくて。
「何もないと申すか?」
お殿様が詰めてくる。
「殿の問いである。答えよ」
そう言われても。
なに? なにがお望み?? 謀反の兆しとかそっち系? そんなの知らないし。そのあとは、もう『混じる混じらない』だし。倒れ込んで医務室行きだったし。
あっ!!
「その、あまりの迫力で、倒れてしまい、気づいたら医務室でした」
「ふむぅ。そうか。普通じゃのう」
「怖かったじゃろう?」
「はい。それはもう、すごい迫力で。あの……そうです。とても怖かったです。あんなのは初めてでした。いえ、もちろんお殿様からも、その、迫力を感じております」
「ふははは。わしのことは気にすることはない。グラディウスのド迫力は本物じゃ。神のレベルかもしれんからの」
「どうじゃ? よかろう? グラディウスがああ言ってきておるが、いたって普通の反応じゃ。倒れて、運ばれておるのも事実。見た目もこの通りじゃ。よいか?」
「はっ。わたしも、これ以上は特にございません」
重臣の人が答えた。
「次に、六休じゃったな」
まったく状況はわからないが、どうやら僕はまさかの『お咎めなし』を勝ち取ったようだ。助かった。しかし、油断はできない。次の六休さん次第では、『連帯責任じゃ!』なんてこともあり得る。何を聞かれるかはわからないけど、頼みますよ、六休さん。お殿様をえぐるのだけはやめてくださいよ!!
「お主はどうじゃった? グラディウスとの対面は」
お殿様は、同じ質問を六休さんにした。
「はい。私は倒れはしませんでしたが、対面中は常に身の引き締まる思いでありました」
「それは、なぜじゃ?」
「なぜ、でございますか。やはり、あの迫力に押されてのことだと思います。……いや、正直なところ、怖かったのでしょう」
「で、あるか。しかし、お主の瞑想術は、その若さにして、すでに高位の有段者に近いと聞く。将来は王の位に届くやもしれぬと。それでもやはり、怖いか」
「王の位などと、恐れ多いことにございます。質問の意味は分かりませんが、怖かったことに間違いはございませぬ」
「ふぅむ。お主は、あの帝国でも噂になるほどなのにのぅ。なかなかうまくはいかぬものじゃな。さて、こちらもよいな?」
「はっ」
どうやら、六休さんも勝ち取った。
それにしても六休さんは本当に凄い人みたいだ。僕と同じ九人のうちの1人とは思えない。受け答えにも、場慣れしている落ち着きがある。この人、もしかしたら逆に『悪気』さえあれば、完璧だったんじゃないだろうか。
まぁ、いい。
最後はビアンカだ。
この子はたまにとんでもないことをしでかすからな。やはり油断はできない。
「では、最後、ビアンカか。噂通り、美人じゃのう。お主はどうじゃ。ひるがので育ったなら、何度もグラディウスは見ておるじゃろう」
「はい。美人だなんて……ありがとうございます。おっしゃるとおり、グラディウス様とは何度もお会いしております。確かにお顔は怖いですが、いつもやさしく話しかけてくださいます」
「ふははは。あの鬼のような顔で、優しくか。おそらく本人は、精一杯笑顔でも作っておるのだろうが、まったく表情は変わっておらんのだろうな」
よかった。今日はビアンカが、ちゃんとまともだ。よし、これにて一件落着だ。
「ふむ。よし、もうよいな?」
「はっ」
「では、お主たち、ご苦労じゃった。なに、気にすることはない。グラディウスの様子が聞きたかっただけじゃ。実はな、わしもあやつの前では縮こまってしまうんじゃ」
「殿っ!」
「本当のことじゃ。ふはははは。では、あとはお前に任せて、わしは行くとするかの」
「は。父上。では、私は別室にて、この者たちと話してみよう思います。よろしいでしょうか?」
「ほう。そうか。かまわん。好きにするがよい」
こうして僕たちのお殿様面談は無事、終了した。しかし、あきらかにヤバそうな第2ラウンドの鐘が鳴っていた。
第62話 完
【ナオえもん:お殿様面談を無事に突破したと思い込んだ男のリザルト】
〇恐怖心偽装成功度:89
(ギリギリ。何とか怖かった宣言に成功。グラディウス本人から向けられた疑惑を、お殿様の前で結果的に否定することに成功。)
〇六休さん安心の一般人度:78
(高位の瞑想術を持ちながら、『グラディウスは普通に怖い』宣言に一安心。ただ、王の位に届くかもしれない発言が飛び出し、何者感は否めない。王の位って何?)
〇ビアンカまとも度:95
(本日はお殿様の前でも暴走なし。グラディウスの優しさまで正確に説明。非常に珍しい安定運転)
〇第2ラウンド突入危険度:120
(お殿様面談は無事終了。しかし若殿より「もう少し話したい」と延長戦を申し渡される)
備考:帰れると思った瞬間が、一番危ない。




