第61話 お殿様面談作戦会議
「あの、記憶がない状態でお殿様に会うなんて恐れ多いですよ。僕がいろいろ思い出してから、その時、もしご都合よろしければということでお願いします。ねぇ、ビアンカ」
「そ、そ、そうね。わたしも美人って言われても、村レベルなものだと思いますし。お殿様にお会いするなんて、そんなそんな。そうよね、六休さん」
「あははは。一休様ともあろうお方が、何を言い出されることやら。この六休の名など、知れていたとしても回覧板程度のものですよ。お殿様の前では、ゴマ粒のようなものでございます」
「「「というわけで、また次の機会ということで」」」
「なんじゃ、揃いもそろって。大したことではないというに……ぐっ、い、イカン。傷が痛み出しおった。話すのもキツイ。一旦休ませてもらうよ」
そう言って和尚さんは胸を押さえ、わざとらしく呻きながら布団へ潜り込んだ。
「ぐぐぐ……お城の受付に言えばわかるから。あとは頼んだよ。いたたたた……」
和尚さんはさらに、布団を頭までかぶってしまい、あとはもう、何も言わなくなってしまった。
ひ、ひきょうな……。
僕たちは、もう断り切れる状況ではないと判断し、退出した。その後、近くの酒場に入り、お殿様との面談について作戦会議をすることにした。酒場といっても、午前中はカフェみたいな感じで、みんな普通に利用しているようだ。
注文した飲み物が、3人の前に置かれる。
まず、最大の問題は、僕たちが転生者であることがバレているのかどうかということだ。
僕はつい先日来たばかりで、バレるもなにもないはずだ。怪しい点と言えば、全裸であんな所にいたこと。記憶がないことくらいなもので、基本的に、転生に結び付くものは無いように思う。
村長さんとの面談でも混じってないと言われたし。どういう意味かは知らないけど。
だが、あるとすれば、ビアンカとの転生についての会話を聞かれたことくらいか。これは確かにあり得る。
向こうには僕の寝返りのログをとるほどの忍びもいるくらいだ。
まずいな……。
次はビアンカ。
怪しいと言えば、17年前にさかのぼる。生まれた時や、物心つくまでの間に何かあったのかは、わからない。だが、今さらそんな昔のことで呼ばれることはないだろう。それ以外に、特にバレるようなことはしていないらしい。『勇導師』の適性やステータス関連の能力は、他言したことはないという。
うーーむ。やはりビアンカの場合も、あるとすれば、僕との会話か。
やはりまずいかな……。
六休さんも同じようなものだ。
ただ、この人の場合、本人にその気がなくても怪しまれている可能性がある。
どう考えてもまずいな……。
また、僕たちが転生したことで、この国に何か害をもたらしたとも思えない。事故はあったが、あれは僕たちだけの問題のようだし。
やはり、どう考えても、それ系のことでお殿様に呼ばれるとは思えない。だが、それ以外となると、ますます理由がわからない。
はぁ。とりあえず、次に行こう。
では、バレていた場合、どうなるか。
1、捕まる(理由:それ系)
2、その場で食べられる。
3、話だけでとりあえずお咎めなし。
「食べられるってなんなの?」
「あ、こっちの話です。とりあえずお気になさらずに」
では、バレていなかった場合。
1、捕まる(理由:不明)
2、その場で食べられる。
3、話だけでとりあえずお咎めなし。
「だから、何で食べられるの?」
「あ、何度もすいません。忘れてください」
一応、『3』として入れてはみたものの、『おとがめなし』という選択肢はないだろう。なぜなら、お殿様にお呼ばれしているのだ。ビアンカも六休さんも、そこは完全に同意していた。
では、捕まったあとはどうだろう。
1、痛みを伴わない尋問を受ける。
2、痛みを伴う尋問を受ける。
「きついですね」
「怖いわね」
「ごめんこうむりますね」
では、さらにそのあとは?
1、解放される。
2、監禁される。
3、処刑される。
「……だめだね」
「……だめね」
「……だめですね」
お殿様面談の作戦会議、開始10分でだめでした。こんな時に軍師適性が高い人なんかがいればもっと違うのだろうか。でも、いないものはしょうがない。
「これはもう行かない方がいいよね」
「そうよ。これは行っては駄目! ナオ、逃げましょう!!」
勢いよくこっちに向き直ったビアンカが、僕の手を両手で握りしめてくる。
「おそらく追っ手が来るはずだから、もう村にも戻れない。どこか遠くへ行くしかない。でも、大丈夫。ナオと2人ならわたしはどこだって平気よ」
「あの、ビアンカ。ここには六休さんも……」
「あ……ご、ごめんなさい。わたしったら……」
ビアンカはハッと我に返り、僕から手を放すと、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
音の消えたテーブル席。
しばしの沈黙のあと、六休さんは特に表情を動かすこともなく、だがとても優しい目をして僕たちを見つめ、口を開いた。
「……いえ、かまいません。慣れていますから……」
ろ、六休さん。慣れていらっしゃるのですね。僕の目頭が、少し熱くなった。これからは少し優しく接しようと心に誓った。
「しかし、一休様が、私たちをそんな死地に送り出すようなことをするでしょうか」
「そうですよね。六休さん。そうですよ。あの和尚さんがそんなことするとは思えませんよ」
六休さんは、めずらしくいいことを言う。
いや、この人は今までも結構いいことを言っているのだ。たまにエグってしまうだけで、本当はちゃんと頭のいい人なのかもしれない。
結局、六休さんのその一言で、僕たちは、午後から普通に登城することに決めた。
次に、今後の方針を話し合う。
まずは、ビアンカのご両親に、旅の許可をもらうため、ドキメモ作戦を成功させること。
その後、円満に村を出発する。最初の目的地は、京都帝国。理由は簡単。どう考えても行けばいろいろありそうだからだ。六休さんの故郷でもあるし、土地勘のある人がいるのは大きい。最初の行き先としては、この上なく妥当だろう。
六休さんについても少し話を聞いた。
手乗りドラゴンはいるのかと聞いたが、知らないと言っていた。だが、『そう言われてみれば、いつもこちらを寂しそうに見つめてくる、羽の生えた小さなトカゲならいた気がします。あまり動物を好まないため、放っておきましたが』とのこと。
それだよ。それ、気づいてほしい手乗りドラゴンだよ。ずっと? 19年も? かわいそうに。
隣を見ると、ビアンカは少し涙ぐんでいた。
もしかして、今も近くで、じっと見つめていたりするんじゃないだろうか。
僕とビアンカはしばらくあたりを見回したが、それらしき姿は見当たらなかった。
そういえば、チロルとうさドラは宿を出る前、朝ご飯をあげたら2匹でシギャシギャと飛んでいった。どうせ今頃、どこかで寝ているのだろう。
ビアンカは、六休さんの適性を少し占うと言って、彼の頭に手をかざした。占いということにして、ステータスを見ているのだ。なんだか騙しているようで気が引けるが、やはり自分が勇導師だということを明かすつもりはないらしい。後々危険になる可能性があるからだ。
本当になんで、僕にだけ教えてくれたのだろう。
ふふ。
六休さんには悪いが、優越感だ。
あくまで占いなので、見せたくなければ無理強いはしないと伝えたが、六休さんも興味津々だった。ぜひ見てくれとのことだ。
ビアンカは、六休さんに対し、武力が高そうだという結果を伝えた。さらに、強い魔力を秘めているかもしれない、と付け加える。
六休さんは、武力には自信があったらしいが、魔力の方には驚いていた。これまで仏の道に励んでいたため、魔力の修行など考えたこともなかったらしい。『少しは試してみよう』とかなり乗り気だった。
後で、ビアンカと二人の時に六休さんの数値を聞いてみた。
結果は、武力:86、統率力:40、知力:45、外交:9、魔力:65。
強い!
そして、いろいろ納得の数値だ。
外交は9。
でしょうね。
所持スキルに『絶対無心』というのがあった。六休さん曰く、無心は仏道の基本とのこと。どういう効果があるのだろう。『絶対』なんて言葉が付いているので、凄そうだ。
適性については、僧侶が88と断トツだった。すごい。かなり褒められた僕の交渉官でも85だったのに。しかし、僧侶以外は大半が20から30台で、これといったものはなかった。仏道一本でいけば、かなりの高僧になれそうだ。勇者適性は3。あるだけですごいというやつだ。
僕は5だったけど♪
あと暗黒騎士が50。これもなんかわかる気がする。エグり癖のたまものだろう。
極めつけは特記事項。
『悪気がない』
知ってた。
全然知ってた。
でもまさか、本当にマジの無しだったとは……。
【ナオえもん: 危険な善人の数値化に納得した男のリザルト】
〇お殿様面談作戦会議の全会一致のダメ度:100
(バレていても捕まる。バレていなくても捕まる。捕まった後は尋問を経て、おそらく監禁か処刑。僕らに残された道は、あの仮病和尚を信じるのみ)
〇六休さんの人生に乾杯度:88
(お殿様面談から逃げる話だったはずが、ビアンカの中ではなぜか駆け落ちルートへ。目の前で完全にハブられたうえ、『慣れてますから』の一言に全米が落涙。なお、19年放置のトカゲにも幸あれ)
〇六休さん数値化納得度:90
(武力86、僧侶適性88の有能僧侶。しかし外交9、暗黒騎士50、特記事項「悪気がない」。光属性の袈裟を着た僧侶は、闇属性の言葉を発する)




