第65話 未来対策
「はははは。君たちは素直で面白いなぁ。頭を上げてくれよ。僕たちは同じ目的でここにいるんだからさ」
「それとね、その代わりと言っちゃ何なんだけどね。その、少し協力してもらいたいこともあるんだよ」
「あ、警戒しないでね。簡単なことだから。君たちにちょっとした芝居に付き合ってほしいんだ。やることは主に、手紙のやり取りって感じかな? 簡単でしょ? あははは」
「全然わからないんですが……」
毘螺門さんは、おそらく頭が切れる。手紙と言ったがおそらく密書の類だろう。危険なにおいがする。僕は警戒しながら次の言葉を待った。
「君たちに、僕と軽く敵対してほしいんだよ。軽くね。でもこれはね、君たちのためでもあるんだよ。あはっ。最後まで聞いてね」
「僕には弟がいてね。で、王族で兄弟がいると、やっぱり多少は後継者争いってやつが起こるんだよ。家臣を巻き込んでね。あ、今、なにがどうこう起こってるわけじゃないよ。先の話さ。でもね、王族の後継者争いは、本当に容赦ないんだよ。僕と弟がもう少し歳を取れば、嫌でも本格的になってくるだろうね」
こ、国家の後継者争い……。
それってもう第一級の危ない話じゃないですか。
「僕はね、父上とはわりと気が合うんだけどね。母上や、その他大勢には、なぜかあまりいい評価を受けてないんだよ。」
「なんでかなーって思ってたんだけど、さっき六休くんが教えてくれたよ。みんなイラッとしてたんだね。いやー、しょんぼりだよ」
「「「……」」」
「ははは。続けるよー。君たちは、こうやって僕と別室で話をしてしまった。おそらく弟派からは『敵』認定だね。このままだと、今後あまり良くないことが起こりそうだろ?」
やられた。
すでに僕たちは、若殿陣営に寄ったと判断されてしまったようだ。これはもはや拒否なんてできない……。
飛騨国の次期当主候補。あまくはない。
「そこでだ。僕はビアンカちゃんに一目ぼれした」
「「「えっっ???」」」
「聞いてね。したことにするんだ。何度も言うけど、僕は胸の専門家なんだ。僕にはビアンカちゃんじゃ足りない」
「ぐっ」
(ほっ)
(無)
「それで、ビアンカちゃんはね、僕が気になりはじめ、後ろ髪を引かれながら、僕の愛に揺れながら旅をするんだ。僕はせっせとラブレターを書く。悩むビアンカちゃん。面白くないナオえもんくんと、六休くん」
「わたしもですか?」
「そう。君も。そうしたら、そのうち弟陣営が君たちに接触してくるかもしれない。ナオえもん君と、六休君は僕の敵。敵の敵は味方ってやつさ。でしょ?」
「それで、僕は君たちが魔王に迫る頃には、必ず、君たちというか、ビアンカちゃんを支えに行く。そして、魔王の件が片づいたら、結婚しよう。そう言ってることを、うまく漏らしてほしいんだ」
「そうすればさ、僕が邪魔な向こうさんからしたら、僕をその旅先で始末するのが、一番簡単かつ、無難だろ? 城の中で動くより、ずっとやりやすい。魔王絡みの危険地帯なら、何が起きてもおかしくない。ろくな捜査も届かない」
「そ、う、す、る、と」
「その時まで、僕は手を出されないだろうから、たぶん安心。君たちも、僕をおびき出す餌として重要だから、その時までは、たぶん安心。なんだったら、しっかり魔王のところまで、行き着いてほしいから、僕とは別に、向こうが君たちを支援するかもしれない」
「それから、向こうが君たちに何か、指示でも出してきたら、向こうの狙いも読みやすい」
「どうだい? 多少、うまくいかないところがあっても、大筋はいい方向だろ? 今のままよりは、お互いかなり安全だよ。なははははは」
うーーむ。
言ってることは正しい気がする。
ただ僕たちは餌は餌なんだよね。
そこがねー。
でも、とりあえず毘螺門さんは、僕たちより先を見通す力を持っている。何かあっても、その都度対策してくれそうだ。少なくとも、今すぐ僕たちが何か危険な仕事をするわけではないらしい。
僕はビアンカと六休さんを見た。
2人とも、無言で頷いている。
「わかりました。それでいきましょう。僕たちはおいしそうな、立派な餌になってみせます。そのかわり、立派なお皿を用意してくださいよ」
「ははは。いいねぇ。そうこなくっちゃ。任せてよ。餌がよりおいしく見えるように、最高の皿を用意するよ。ははははー」
頼もしい。言動も表情も軽いのだが、この人の地位はこの国の若殿。やはり民間人の『任せてよ』とは重みが違う。だがしかし、浮かれてはいけない。他人の金を当てにしすぎると、ろくなことにならないのを僕は知っている。
「それでだよ。むはっ。君たちは、いつから魔王退治に出発するつもりだい? でもって、何から始めるつもりだい?」
僕は、六休さんにも話した通り、現在ドッキリメモリアル、いわゆるドキメモ作戦中だということを話した。そして、まずは京都帝国を目指す予定で、理由は、『何となく色々ありそうだから』と伝えた。
「ふーむ。1つずついこうか。まず、ビアンカちゃんは魔王退治後に僕と結婚する。だから、そのドキメモ作戦は駄目だ。ね?」
「あ、ビアンカちゃん? 言っとくけど、さっき言った作戦上の話だからね。興奮しないでね。あはははは」
ビアンカを見ると、少し腰が浮き、前のめりになったところで止まっている。おそらく、何か抗議するところだったみたいだ。
ビアンカの機先を制するとは。
この若殿、やはりできる……。
そして、確かにその通りだ。
若殿の結婚相手がすでに人妻ってのは良くない。
「次にね、まず京都帝国を目指すってのは悪くない。あそこは魔術の勉強もできるし、武術も学べるからね。そうだねー。2~3年はそこで実力を上げないと、今のままだとすぐ死んじゃうと思うよ。さくっとね。あはは」
それもまた、おっしゃるその通りだ。
すっかり忘れていたが僕は弱い。
隣の二人は僕からすると強いけど、魔王退治となると、そうか。もっととんでもない力が必要なのか。
そりゃそうだ。
僕たちは顔を見合わせた。
2人ともきれいに顔引きつらせ、苦笑いしていた。どうやら僕と同じでうっかりしていたようだ。
「それでね、僕もね、君たちが報告で上ってきた時にね、思ったんだよ。若いなと。僕よりも若い。まだ10代だ。こりゃ、すぐに旅に出るなんて難しそうだなと。しかも、たぶん魔王退治の実力もないだろうなと」
「それでだ。この2つを解決する㊙スペシャルプランを考えました!」
ごくり。
そ、そんな、技があるんですか、若殿様!
「ふふ。君たち、留学しちゃいなよ♪」
第65話 完
【ナオえもん:若殿に進路相談中の男のリザルト】
〇高級餌への昇格度:95
(弟陣営に狙われる立場に追い込まれたが、その追い込んだ張本人の作戦にて、なぜかお互い一定期間の安全を獲得。支援を受ける代わりに『おいしそうな餌』への就任も決定。)
〇ドキメモ作戦頓挫度:100
(若殿の策により、順調に進んでいたドキメモ作戦が中止に。恋愛が政治に負け戸惑うヒロインをよそに、ナオえもん本人は若殿の手腕に感心中)
〇京都帝国留学決定期待度:99
(魔王討伐を謳いながら、パーティーの実力を考えていなかったという、冒険者にあるまじきうっかりが発覚。そこへ若殿による一石二鳥の㊙スペシャルプランが発動。その名も『留学しちゃいなよ♪』。魔王討伐編に突入するはずが、まさかの学園・修行編へ)




