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第58話 六休の正体

いやぁ、危なかった。ここで流してくれるなんて、やっぱりビアンカは優しいなぁ、と感動しているところに、まさかの六休さんが動いた。


「ナオえもんとやら……」

六休さんは、そこで言い止まり、僕を見た。

さっきまでの表情とは、まるで違う。

なぜかとても冷たかった。


「あなたは、いつもそうですね。ひるがの村でお会いしてから、何となくあなたを見ていたのですが……」


「え、あの、何ですか?」


「情けない」

六休さんの声も、先ほどまでとは別人のようだった。


「もうこれ以上は、見ていられません。表に出なさい」


「ど、どうしたんですか六休さん?」


「いいから、表に出なさい。これ以上、同じ空気を吸いたくありません。話は表に出てからです」

そう言って六休さんは外に出て行ってしまった。


僕はビアンカと目を合わせる。

ビアンカも、わからないといった表情をしていた。


とにかく、僕たちは六休さんの後を追って表に出た。人影はなく、虫の声だけがかすかに響いている。静かな夜だった。


「で、どうしたんですか六休さん」


振り向いた六休さんの目は細く、やはり冷たい。


「あなたは、能力が低いと『ウキッ』と拗ね、母性本能をくすぐる反撃を試みる。そして今回も結局、ビアンカ殿への言葉に妙な口説き文句を混ぜ込み、話をうやむやにした」」


「あなたのやることなすこと、その処世術には品がない」


な、なぜそれを。

六休さんの言葉は、思ったより深く刺さった。人から言われると、確かに恥ずかしいことをしている。思わず顔が赤くなる。


「こんな、あさましい心が私の中にもあるかもしれないと思うと、それはもう耐えられません」


どういう意味だ?

だが、六休さんの目は本気だ。


「ここであなたに出会ったのも、御仏のお導きでしょう。そして、これから私がすることもまた、仏の教え。いや、仏罰と思いなさい」


やばい。なんか色々ヤバそうなことを言っている。この人、悪意がない分、ヤバい時は本当にヤバそうだ。


「構えなさい」


「え、いや、僕は、その」

構えなさいって、僕と戦おうっていうの?

あの、構え方がわからないのですが……。


「待って。急にどうしたの、六休さん」

そう言ってビアンカが僕の前に立つ。


「おどきなさい。あなたは甘やかしすぎたのです」


「よくわからないけど、どくわけにはいかないわね」

そう言うと、ビアンカは顔をキリっと引き締めた。


「やる気ですか」

「いいでしょう。あなたにも責任はある」


「責任? ふーん、そう。いいわ。ナオに手を出そうって言うのなら、わたしが相手をするしかないわね」

ビアンカの眉が、ぐっと動いた。

そして、僕を庇うように構えた。


「あの戦神の右腕として活躍された一休様。その一番弟子であらせられる三休様の弟子の筆頭であるこの六休を止められますかな?」


1、3、6.相変わらず、数列が崩壊した系譜だ。前も思ったが、一休さんは戦神の右腕とのことなので良しとしよう。三休さんって人も、一休さんの一番弟子なので良し。だが、そこからの弟子の筆頭とやらは、どうなのだろう。ちょっと遠くない? 肩書きの階段を長くする奴は、だいたい中身に不安があると決まっているのだ。


「あの、六休さんは強いんですか?」

僕は、何か状況が変わるかもしれないと思い、意地悪に聞いてみた。


「愚かな。相手の強さもわからないのですか?」


「いや、だってその系譜の最強っぽい一休様も、いいとこなしで病院送りだったんで」


六休さんの目に怒りの色が灯った。

今のは、普通に地雷だったようだ。


「おだまりなさい。一休様への無礼は許しませんよっ」


六休さんの足が、わずかに沈む。


「だから、あなたの相手はこのわたしだって言ってるでしょうが」


「ふぅ。そうですか」

「それも案内人の役目なのですか?」


「「ええ?」」


「問答無用っ!」

「とうっ」


次の瞬間、両手を上げた六休さんの体が、夜の闇へ、真上に飛んだ。

高いっ。


『とうっ』て、まさか、ヒーローにでも変身するのかっ!

だが、腰に変身用のベルトは見えない。

無しでもいけるのかっ!


六休さんは、そのまま空中で回転し、着地した。次の瞬間、強烈に地面を蹴り、一気にこちらとの間を詰めてきた。

速いっ! そうとう速い!


一瞬、僕の頭に考えが走る。

変身はなかった。今のは何の意味があったんだ。くそっ。


六休さんは、ビアンカの手前で、軽いステップに切り替え横蹴りを放った。

ビアンカは両腕で受けたが、衝撃を殺しきれず後ろへ弾かれた。その方向は、戦況を見ていた僕の真正面だった。僕とビアンカがぶつかる。一瞬の出来事で見えてはいたが、ビアンカを支える動きには入れなかった。


六休さんはさらにト、トンと踏み込んできて、再び横蹴りを放った。ビアンカはまた両腕でガードする。今度は僕が後ろにくっついた状態なので、飛ばされはしなかった。だが、僕たちの体は少し浮いた。

なんとかその場に踏みとどまることはできたが、もの凄い威力だ。

ビアンカの腕は大丈夫だろうか。


その時、六休さんが僕に言葉を投げてきた。


「ナオえもん、ビアンカさんは私の蹴りを2度、まともに受け止めた。腕はもう限界です」

六休さんの視線が、僕に向く。

「次は上から行きます。あなたが止めてみなさい」


や、やはり、ビアンカの腕はダメなのか。


六休さんはまた、『とうっ』と言うと、ビアンカを跳び越すように、僕に向かって跳んできた。ビアンカは屈んだまま動けない。さっきの『とうっ』ほど高くはない。。だが、そこから体を縦回転させ、その勢いのまま、かかと落としを放ってきた。

これは重い。受けたら、終わる。


僕は反射的に動いていた。

今の僕が持っている、最高の技。

ビアンカの、あの上段後ろ回し蹴り。

気づいた時には、体がその軌道に入っていた。


僕の蹴りと、六休さんの蹴りが交差する。

お互いの蹴りが当たった瞬間、六休さんはわざと縦回転の勢いを殺し、僕への直撃を避けるかのように、自分の蹴りを横へ流した。


それでも、ぶつかった足には相当な衝撃が走った。僕の体は横へ飛ばされ、そのまま地面を転がった。

「ぐぅっ」

起き上がれない。

右足を抱えたまま、僕はうずくまった。


次の瞬間、ビアンカが六休さんの背後から飛び込んできた。そして、その勢いのまま、六休さんへ飛び蹴りを放つ。


六休さんは半身になって一歩引き、その蹴りを腕でいなした。


ビアンカは着地すると、勢いを殺さず体を回転させ、再び僕と六休さんの間に割って入った。

そして構え直し、言い放つ。


「わたしが相手だと言っているでしょうがっ」


だが、その両腕はやはり限界のようだった。構えは崩れていない。けれど、両腕にはほとんど力が入っていないように見える。。顔も苦痛に歪んでいる。


「まだ、その身を盾にしますか……。なんと健気な。しかし、やはり過保護が過ぎますね。あなたが彼を庇うその姿は、もはや案内人の役目を逸脱しているのではありませんか」


「さ、さっきからなぜそれを」


「まだ、わからないのですか」

「いけませんねぇ。あなたの役目は護衛ではない。自分の役目を見失うとは、職務怠慢と言ってもいいでしょう」


ビアンカの息が、止まった。

それを見た六休さんの口元が、わずかに緩む。


「やっと気づきましたか? 私は、そこのナオえもん君と同じ。真の我とやらが用意した、9人のうちの1人です」


第58話 完


【ナオえもん:ヒロインの庇護から出られない男のリザルト】

〇六休さんの図星説教の刺さり度:100

(『処世術に品がない』『妙な口説き文句でうやむやにした』とナオくんのあざとい生存戦略を完膚なきまでに論破。今後の生き方に検討が必要)


〇ヒロイン庇護依存度:95

(ビアンカの背中に隠れて生き延びてきた『ヒモ系処世術』。その居心地の良いぬるま湯を、六休さんに『過保護と職務怠慢』で一気に冷水へと変えられる)


〇正体暴露度:120

(ただの迷惑系暴露僧侶かと思いきや、まさかの根幹系マジ暴露僧侶に変身。変身ベルトはしてなかったのに……)


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