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第57話 お誘いは偶然に

ごごごごごご。

すさまじい怒りの気配で、空気が鳴っている。


なんとかしなければ。


暴露系僧侶は当てにならない。

彼は今、解脱している。


頼れるのは自分のみ。

どれだ? どの言葉だ?


やっぱり、あれだ。ビアンカは布団掛けに反応していた。まずはその弁解から入るのはどうだろう?

「布団掛けてもらってたなんて、本当に知らないんだよ」

↓

「38回も布団掛けてもらっといて、知らない訳ないでしょー!」

↓

死亡


うーむ、真正面からはだめだ……。

そうだ。ビアンカは「ブス」に思ったより反応していた。この線で攻めてみるのはどうだろう?

「ビアンカはブスなんかじゃないよ」

↓

「布団掛けてもらっといてなによー!」

↓

死亡


だめだだめだ。

落ち着け。大丈夫。何かあるはずだ。

えーーっと、えーーっと。


あ、あれだ!! 

ビアンカを涙ぐませたあれ! 

あれでダメならもうしょうがない!


いくぞ。

ナオえもん、勝負だ!


「暗黒騎士の適性が、上がった原因がわかったよ!」


「はぁ?」

ビアンカは眉をひそめる。


よし。反射的な動きは止めた。聞く姿勢はある。


「これだったんだよ。ほら、僕、思いっきり、ストーキングされてたんだよ」


「なにが?」


「だから、暗黒騎士が上がった原因、呪いの正体はこれだったんだよ。僕は、物理的に?現実的に? 呪われてたんだよ。怨霊的というか、地縛霊的というか。そりゃ、知らない間に寝返りとかを枕元でログ取られてるなんて、いかにも『うらめしや』的でしょ。それに知らない人に、一晩中布団掛け直されてたら、もう、ほら、金縛りさ! ね、そりゃあ、ステータスも暗黒を上げるってもんさ!」


【ナオえもんスキル:関連ワード連結雪崩話法】

解説:思いつく関係ありそうな単語をとにかく繋げて話す限界系生存スキル。

コツ:相手の質問に正面から答えてはいけない。

〇効果:相手が興奮状態の場合、興奮を抑え、一定時間、相手を混乱させることができる。

〇逆効果:相手がまともな場合、怒りを倍増させてしまう。

〇備考:スキル使用後、その発言内容によっては暗黒が上昇する可能性があるとかないとか。



「……えっと……」


「ね! ね! ね?」

「そうだよ。やだなー。ほんと、困っちゃうよね?」

僕は必死に笑顔を作りながら、ビアンカの反応を見る。


「言ってることが、わかるような、わからないような……」


よし!ビアンカは混乱中だ。

このまま煙に巻いてみせる。


「あはは。あるんだね。現実的に呪われるって。世の中、怖いよねー」


僕は、瞑想したまま気配を消している六休さんを見た。


「あ、六休さんは僧侶ですよね。やっぱり怨霊とかってだいぶいるんですか?」


僕は、話がズレればいいな、くらいの気持ちで六休さんに話を振った。


六休さんは、片目だけ開けてこちらを見た。


「そうですね。霊はいます。人間にとって有益、もしくは無害のものは精霊と呼ばれ、有害なものは怨霊と呼ばれる。そして、呪いもある」


「……へぇ」

思ったより真面目な返事がきた。

呪いとか、なんか危なくない?

いや、それはあとだ。今はこの線で、強行突破だ。そう思った時だった。


「ねぇ、ナオ」


その声には、再び怒りの熱がこもっていた。

混乱から立ち直ってしまっている。


「暗黒なんていいわ。一番聞きたいことがあるの」


「な、な、な、何ですか?」

なぜだ。さっきより、怒りのボルテージが……。


「最後、才子ちゃんが行こうとしたときに、僕には君が必要とかなんとか言ってなかったかしら?」


「え?」

いやいやいや、抜けてる!!

大事なところ、忍法が抜けてる!


僕が言いたかったのは、『君が必要』じゃない。『君の忍法が必要なんだ』です。

違うでしょ? どう考えても、別の引き出しの話でしょ?


でも、その忍法が必要なところは、スパイラル蒼空剣に寄り添う問題なので、詳しく説明することは、断じてできない。

でも、あの目、このままではバーサクとなったビアンカにやられてしまう。しかし、今の僕にできることは、1つしかないんだ。破られても、何度でもこれで挑むしかない!


【ナオえもんスキル:関連ワード連結雪崩話法・泣きの一手】

「それも、あれだよ。あんな狭いテント、窓だってないんだよ? 普通、侵入禁止でしょ? それにさ、寝返り平均38回って、もう観察っていうか、研究されてるレベルでしょ。実験室だよ。マッドサイエンスな人体実験なんて反対だよね?」


「ね? ね?」


「それは、反対だけど……、わたしが聞いてるのは『君が必要』っていう……」


「ほら、藁みたいな草は敷いたけど、地面の上で寝てるわけじゃない? 背中が痛いんだよ。だから、寝返りをいっぱいしちゃうのは自然っちゃ自然だけど……」


「あっ!!!」

「そうだ。今度、ビアンカが、お布団掛けてよ」

あれ? 僕、大丈夫?

なんかとんでもないこと言ってない? 

しかし、もう、このまま続けるしかない。


「ビアンカだったら、枕元で立ってないで、横に寝てくれても大歓迎だよ? 僕も布団、掛けてあげられるし。それなら風邪もひきにくいよね」


「な、なによそれ」

「どういう誘いなのよ」

「それに、わたしの質問に……」


僕は、必死の誤魔化し中に、偶然潜んでいた『添い寝のお誘い』に顔が熱くなる。おそらく顔も真っ赤だろう。

そして、ビアンカも顔を真っ赤にしている。


「同じ、38回でも、ビアンカだったら……嫌じゃないし……むしろ、その、嬉しいよ……」

僕は下を向き、声のトーンも徐々に消えていった。


「そんなこと言って……」


「「…………」」


「も、もう! バカッ」

「わかったわよ。今度、お布団掛けてあげるわよっ」

ビアンカは、照れながら、でも呆れたように笑ってそう言ってくれた。


し、しのいだ。

何とかしのいだ。


第57話 完


【ナオえもん:関連ワードを雪崩れさせて死線を越えた男のリザルト】

〇スキル・関連ワード連結雪崩話法完成度:70

(ビアンカの怒りを一時的に混乱へ変換に成功。しかし、短時間で回復される。これからの修行が必要)


〇六休さんの授業度:88

(救援を求めた結果、完全な『無』から片目だけ開き、怨霊と呪いについて真面目な解説を実施。もっと聞きたかったが、状況がそれを許さなかった)


〇ナオえもん天性のプレイボーイ度:99

(弁解を続けていた結果、まさかの添い寝のお誘いを発動。恋愛の順序をすべてすっ飛ばした発言に、誘った側も誘われた側も赤面硬直。しかしまさかのOKをゲット)


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