↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/65

第54話 だから誰?

「一休様ぁーーっ」

そう叫ぶ声が聞こえたかと思うと、何者かがすごい勢いで割って入ってきた。そして和尚さんを抱き起こす。その顔を見ると、確かにそれは、あのロンゲのイケオジ和尚様だった。割り込んできた者の顔には見覚えがない。だが、頭は丸坊主で、この状況だから和尚様の関係者だろう。

それにしてもこのイケオジ和尚さんの名前が『一休』だとは。かわいさも、とんち感も全くないんですけど。残念なような、逆にうれしいような……。


「一休様!しっかりしてくださいっ!」

「だ、駄目だ。息をしていない」


「え? え?」

ビアンカが焦りに焦っている。


「そ、そんな……、でもあの一撃なら……」

謎の少女は震えた声でつぶやいた。


「だ、だって急に飛び込んできてとっさに……。お、和尚さん、しっかりしてくださいっ」

ビアンカはようやく体が動いたのか和尚さんのもとにしゃがみ込む。


「確かにあれはとっさでしょうけど、あれほどの肘の一撃……。さすがにもう……」

少女は震えて立ち尽くしている。


「ここは荒治療だが活を入れて、息を吹き返させるしかあるまい」

そう言って、和尚さん関係者らしき丸坊主さんは、活を入れる体勢を整え出した。そしてなぜか和尚さんの腹の前で拳を構える。


ん? 

お、おかしい。

しょ、正面からいくの?


しかも、何か、みぞおちのド真ん中を狙ってない? ガチで拳、握りしめてない?和尚さん、息してないよ?その人間のみぞおちに正拳突き、いく気?


それ、活を入れるんじゃなくてとどめを刺しちゃうんじゃ……。


ねぇ。 それ、違うくない!? 僕、詳しく知らないけど違うくない? ねぇ、誰か。止めた方が。ちょっ? 待って。いくの? マジで?


丸坊主の目が光る。


「ま、待ったぁっ!」

僕はそこに飛び込んだ。もう身を挺す勢いで。


「ちょ、ちょっと落ち着いて! お腹って合ってるんですか? あの、僕、知らないですけど、普通、そうだ。背中でしょ、背中! お腹は違うでしょ!」


「む」

「わ、わたしとしたことが」


「ちょっと、どいて。バカなことしてる場合じゃないでしょっ」

少女がすっと割って入り、和尚さんの背中に手を当てた。そしてそのまま「はっ」と短い気合いとともに、少女が活を入れる。慣れた手つきだった。


すると和尚さんが息を吹き返した。


「げふっげふっ……」


「「「一休様! 一休殿! 和尚さん!」」」


「お、うぅ。ビ、ビアンカちゃんに、才子。あ、争いはいかんぞ……。し、しかし、2人とも、見事であった……。六休(ろっきゅう)、あとは頼んだ……」

和尚さんの目は今にも閉じかけている。


「一休様、何を言われて……」

六休さんは涙しながらうろたえている。


この人、六休って言うんだ。

そして、この謎の少女は才子って言うのか。かわいい子だし、才子ちゃんでいいだろう。

でもって、いいんだけど、いいんだけど和尚さん、僕もここにいます。


がくっ

和尚さんの首が再び落ちた。


「「「一休様! 和尚さん! 一休殿!」」」


「と、とにかくお医者様に」

六休さんが和尚さんを抱え直す。


「こっちよ」

才子ちゃんが、迷いなく路地の方を指した。


六休さんが和尚さんの上半身を支え、僕とビアンカも慌てて足側を持つ。才子ちゃんは腰のあたりを支えた。なるべく安静に。


「背中はあまり触れない方がいい。肘、かなり深く入ってたから」

才子ちゃんは、沈んだ目でボソッとつぶやいた。


「その通りですね。背中は触れてはいけないでしょう。あれはもう、めり込むといった表現がぴったりな一撃でしたから」

六休さんは、悪気はないようだがビアンカを追い詰める。


「ご、ごめんなさい」

ビアンカはもう泣きだしそうに小さな声で謝る。


「あ、あれはそう、事故だよ。みんな悪くない。和尚さんも止めようとして、その、間に飛び込んじゃったけど、最初、2人の動きは見切ってたようだったし。それが、2人も驚くくらいの反応を見せたから……。しかもそれは、もうほとんど反射的だったわけで」

僕は何とかビアンカをフォローしようと、言葉を出した。


「そうね。とっさだった。私もきれいに足をすくっちゃったし。そのせいで、一休殿が防御できるものも、できなかった感じだし」


「そうですね。あの足払いも見事でした。足首あたりも触れないようにしてください。骨がいっているかもしれない」

六休さんは、悪気はないようだが、才子ちゃんを追い詰める。


「す、すいません」

才子ちゃんは泣き出しそうな、かすれた声で謝る。


この人、悪気はない。確かに悪気はないし、言ってることも注意すべき点を指摘しているだけで、正しい。だが、なぜかこの六休さんは人をえぐる。善人だけど、言葉の刃物を消毒せずに振るうタイプだ。


しかも僕が止めなきゃ、和尚さんにとどめを刺していた。それも本人は大まじめだったわけで、今はすっかりそのことは忘れているようだ。笑えない天然ってやつだろうか。


そんなことを考えつつ、ゆっくり僕たちは診療所まで運んで行った。診療台に和尚さんを乗せ、僕たちは治療室を出た。あとは診察を待つしかない。


待合室の固い長椅子に、六休さんと、僕とビアンカ。そして黒装束の少女が並んで座る。診療所の待合室っていうものは、いつの時代でも似たようなものみたいだ。


気まずい沈黙だけが、ただ流れていた。


そこで、ビアンカが重い空気を破り、本来の疑問に戻る一言を発した。

「で、あなた。結局誰なの?」


「そうだよ。君は誰なんだい?」

僕も便乗する。


「まったく、まだわからないの? 一休殿も言ってたでしょ?」

少女はふぅと、一息吐く。


「わたしは才子。霧隠才子よ」


「「………」」

「「だ、だから誰?」」


第54話 完


【ナオえもん: 診療所の長椅子に座っての本日のリザルト】

〇活入れ阻止度:100

(息をしていない和尚のみぞおちに、正拳突きを叩き込もうとした弟子の暴挙を、間一髪で阻止。詳しく知らないのに「それ違うくない?」だけで人命を救う奇跡の判断力はかつての「敵襲」に勝るとも劣らない)

〇六休さんへの警戒度:85

(善意しかない。言っていることも正しい。なのに、なぜか一言一言がビアンカと才子ちゃんの心をえぐっていく、笑えない天然僧侶として脳内登録)

〇才子ちゃん脳内登録度:70

(一休さんの呼び方から名前だけを回収。依然、正体は不明のまま。かわいい子なのでひとまず「才子ちゃん」呼びで問題なしと判断したが、危ないものは危ない小娘)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。