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第51話 誓いを胸に

そのあとも僕たちは、やんややんやと言いながら宴を楽しんだ。みんな、かなり出来上がっている。僕もいい感じだし、ビアンカもだいぶふわふわしている。


僕たちはまだ15歳と17歳。さすがにこれ以上飲むのはやめて、そろそろ帰ることにした。ちなみに、モーサムさんたちは今夜、夜通し飲むらしい。勢いでこの宴会は、僕の奢りだと言ってしまったが支払いは大丈夫だろうか。まぁ足りなくても15歳の僕が責められることはないと思うけど。


モーサムさんも、隊の皆さんも、相当飲みそうだ。明日の二日酔いは覚悟の上で、とことんまで飲むつもりなのだろう。まあ、今日ぐらいはしょうがないですよね。


みんなと別れ際、モーサムさんに呼び止められた。


「ナオえもん」

低い声だった。目だけが妙に据わっている。


「ビアンカを送るのは、わしの部屋の前までだ。部屋で二人きりになるんじゃねぇぞ」


「は、はい」

これは、マジのやつだ。

僕は精一杯、真剣に返事をした。


「おめぇの部屋に連れ込むなんざ、言語道断だ」

「分かってるな?」


「もちろんです」

「そんなことはいたしません」


僕は全力でうなずく。

隣でビアンカも、頬を赤くしながらうなずいている。


「お父さん、心配しすぎよ」

「ナオはそんなことしないわよ」


なぜだろう。

信頼の言葉なのに、僕の逃げ道がふさがっていく音がする。


「とにかく、部屋の前までだ」

「いいな?」


「はい」

「お任せください」


こうして、僕とビアンカはモーサムさんたちと別れた。


背後では、またすぐに笑い声と酒の音が響きはじめる。

一方こちらは、妙な緊張感を背負ったまま、帰り道を歩き始めた。


「まったく」

「お父さんは心配性なんだから」

「あんなに目を据わらせて言うことないのにね」

ビアンカは、ぷりぷりと怒っている。


そうですか?

この状態で、何だかんだ言いながら僕に送らせている時点で、そんなに心配していないようにも思えますけどね。


いや、違う。

信頼されているということだ。僕はこの半月ほどで、ちゃんと信用されるようになったということだ。

ドキメモ作戦、対お父様方面は、とても順調だ。


部屋に連れ込むな、か。

ビアンカも少し酔っているように見える。もしかしたら、何か甘いことが起きたりして?

なーんて考えるだけは許されますよね。うはっ。ドキドキしちゃいますよね。


王都の夜は、思ったより静かだった。遠くの方から、まだ宴の笑い声がかすかに聞こえてくる。通りに並ぶ灯りが、石畳の上にぼんやりと伸びていた。


隣を歩くビアンカは、少し足取りが軽い。酔っているせいなのか、機嫌がいいせいなのか、時々、僕の方へ肩が近づいてくる。そしてちょこちょこ肩が触れる。


僕じゃないですよ。僕はしっかりまっすぐ歩いているんで、肩が触れるのはビアンカがまっすぐ歩いてないからなんですよ。

モーサムさんの部屋の前まで送るだけ。僕は、その任務を胸の中で何度も確認する。


信頼。

任務。

部屋の前。


この三つを忘れてはいけない。でもちょっと遠回りして帰るまではセーフだったりしませんか?

ふふ。楽しいな。


「ねぇ、ナオ?」


「ん? どうしたの?」


何やら、ビアンカの声が少し甘い。

しかも、さっきより少し近い。肩が触れる距離、というより、もう触れる前提の距離だ。

そして彼女のその瞳は、どこかいたずらっぽく光っていた。


危険だ。


普段はとてもしっかりしたお姉さんなのだ。だが、こういう目をしている時のビアンカはとても危険だ。


なんだ。

何をする気だ。


歩く速度が少し遅くなる。

そしてビアンカは、僕の顔を下からのぞき込むようにして、にこりと笑った。

「今夜、ナオはお父さん公認の、わたくしの彼氏に……成りおおせましたわよね?」


目が怖い。

言葉遣いの変化も怖い。

成りおおせたんですか、僕?


ビアンカさん、何を考えているか知りませんが、くれぐれも慎重にお願いしますよ。


「そ、そうだっけ?」

「なんか周りの人たちがそう言ってただけで、モーサムさんは公認まではしてなかったような……」


「してたわよ」


「いや、してたかな?」


「しーてーた♪」

ぐ、かわいい。なになに?

ドキドキが止まらない。


「なーのーで」

その声は、妙に楽しそうで、表情には小悪魔の笑みが浮かんでいた。


「えいっ♪」

ビアンカは、僕の袖をぐいっと引っ張った。そして、そのまま僕の腕に自分の腕を絡めてきた。


「え?」

「え?」

「え?」


腕を組まれた。

ビアンカに。

あたたかい。やわらかい。


僕の右腕に、ビアンカの体温と柔らかな感触が伝わってくる。驚き、緊張、嬉しさ、いろんな感情が混ざり合って、体全体がカチコチになる。歩調がロボットのようになっているのが、自分でもわかる。だが、直し方がわからない。普段はどうやって歩いていたっけ?


モーサムさんから、部屋に連れ込むなと釘を刺された直後に、公道で腕を組んでいる。

はっ。

とっさになんとか動く首を振ってあたりを見回す。

誰も見てませんよね?


えーっと、これは、どの分類に入る行為なんでしょうか。


部屋じゃないです。

公道です。

決して僕からじゃありません。


信頼の範囲内ですか。

それとも、信頼の外側ですか。


「ふふっ」

「彼氏なんだから、これくらいはいいでしょ?」

ビアンカは、少し頬を赤くしながら、得意げにそう言った。


「いや、でも誰かに見られたら……」


「ここは王都だし。村のみんなは、ここにはいないでしょ?」


「そういうことなの?」


「そーゆーこと、そーゆーこと」


そういうことって。

ドキメモ作戦は?

誰も見ていないところでドキメモ作戦しても意味ないよね?それなのに、ビアンカは僕の腕を組んでいる。しかも、まだ離そうとしない。


強めにからかってるだけ?

酔った弾みなだけ?

それとも、もしかしてビアンカはドキメモ作戦とは関係なく、ほんの少しだけ僕のことを……。


ねぇみなさん?どう思います?


第51話 完


【ナオえもん:お父様の信頼とヒロインの腕組みの狭間で身動きが取れなくなった男のリザルト】

〇体の連動機能障害度:85

(腕を組まれた瞬間、全身がショート。ロボット歩行へ移行)


〇お父様の幻影恐怖度:85

(『部屋の前までだぞ』という誓いを前にして、公道での密着。可否の判定基準を調査中)


〇ビアンカの青春実行度:100

(お父様の心配をよそに「しーてーたー♪からの「えいっ♪」で物理的距離感をゼロにした猪突型青春娘)


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