第49話 尊厳防衛戦
「引かせた方法ですか?」
やはりそこは聞かれますよね。さて、なんて返そう。『それは企業秘密です』じゃ、この場がしらけてしまう。かといって、ありのままを話すには、その内容は僕の尊厳にかかわる。
ここは、ちょこちょこと盛らせていただいて、悲しすぎるところは省略して話す、この線でいかせてもらいましょう。これはズルではない。いわゆる演出と編集というやつだ。
「ごほん。では皆さん。ここからは僕が話させていただきます」
一同がそれぞれに声を出し盛り上げてくれるので、少し話しやすくなった。
グビッと一口ビールを飲んでと。
「まず僕は、輸送隊の者だと気づかれないよう、防具を脱ぎました。最初に防具が入っていた袋へ戻して肩に担ぎました。重いので置いていってもよかったのですが、荷物を担いでいた方が、旅人として相手に近づくにはいいかなと思った次第です。そして、木の棒を杖代わりにして街道へ向かいました」
「ほう。斬り合いになる可能性が十分あるのに防具を外すとは大した度胸だ」
誰かが感心したように言った。
よし。
出だしはいい。
ここまでは、ほぼ真実だ。
「その2人は、緩やかに曲がった先にいました。やはり変装していましたね。いたのは中年の男女ではなく、実際には20代くらいの男女でした」
「ただ、二人はまだ僕に気づいていませんでした。そこで僕は、あえていったん森へ入り、彼らの近くまで近づいて横から街道へ出ました。相手に、僕が偶然逃げてきた旅人だと思わせるためです」
「正面から行かなかったのか」
「なるほど、いい判断だ」
「はい」
「正面から行けば、この後に僕が、彼らに語る内容とつじつまが合わなくなりますので。だから、森から逃げてきたように見せました」
ここまでのところ真実しか話していないが、今の僕、かなり冷静で、しっかり考えて動いている。自分で話しておきながら、少し感心してきた。
「そして僕は、彼らをひるがの村の警備兵だと勘違いしたふりをして話しかけました」
「助けを求める旅人として近づいたんです」
ここまではいい。ここからが編集の見せ場だ。
「それで?」
バリューさんが楽しそうに聞いてくる。
「それで、僕は言いました」
「この先で大変なことが起きている、と」
「囲まれている者がいて、囲んでいる側には20人、いや30人ほどいるように見えた、と」
「30人!」
「そりゃなかなか盛ったなぁ」
「はい。僕も多すぎるかなとは思いましたが、動揺しているのでそれくらいに感じた、ということにしました」
「すると、男の方がわりと冷静で、どういう連中だと探ってきたので、僕はそれを正規軍らしいと伝えました」
「飛騨の軍の装備に見えた、と」
「飛騨の軍?」
モーサムさんが眉を上げた。
「はい」
「村長さんのところで見た衛兵さんの姿を思い出して、それっぽく伝えました」
「ほう」
「よく咄嗟に出たな」
「ありがとうございます」
実際は、かなり必死だった。突然の問いかけに、頭の中で、正規軍、正規軍、正規軍、と念仏みたいに連呼していたら、ぎりぎり出てきたと言った感じだった。でも、そこは言わなくていいでしょう。
「すると、二人は顔を見合わせました」
「どうやら2人は、依頼主を最初からあまり信用していなかったようです」
「正規軍が絡んでいるかもしれないと知った瞬間、明らかに空気が変わりました」
「なるほど」
「確かに正規軍が相手となると、話が違うだろうな」
「さらに僕は、その正規軍の任務は、かなり内密で重要度が高いようで、その野盗だけにとどまらず、目撃者をも完全に始末するつもりだと。僕の連れは槍で刺されてしまったと伝えました」
「つまり、僕は命からがら逃げてきて、まだ追われている。もうすぐここまで追っ手が来るだろうから、助けて下さい。あなたたちは村の警備兵なんでしょと」
おお。
なかなかまともな作戦に聞こえる。
尊厳、守れている。
今のところ、僕の尊厳は完璧だ。損なわれる隙などまったくない。半泣きで男の手を握って助けを懇願した記憶は、すでに懐かしさすら覚える。そこはこれからも語られることはない。墓まで持っていく予定だ。
「それで、奴らは引いたのか?」
「はい。そのあとも、少しああだこうだありましたが、二人はこの件から手を引くと言って、そのまま森の中へ消えていきました」
一瞬、場が静かになった。
そして、誰かが低く唸った。
「なかなかやるじゃねぇか……」
「別動隊を引かせたんだ。大手柄だ」
ざわざわと声が広がる。
よし。かなりよくまとまった。
今の僕は、知略型の人物に見えているはず。このままいけば、尊厳を守ったまま着地できる。
しかしなのだ。ここから、最後がとても重要なのだ。ご年配の方々は、年下の自慢話の最後には必ず説教をしてくるものだ。
・『運』の要素が強すぎる
・次もうまくいくなんて考えるなよ
・調子に乗るんじゃないぞ
このまま終われば必ず、この3つがどこからか出てくる。
ここであえて、自分から運が良かっただけだと言う。そうすれば、周りの方が勝手に「いや、それも実力だ」と補強してくれるはずなのだ。
「実際、かなり運任せでした」
僕は、できるだけ謙虚な男に見えるようにドヤ顔は封印し、とても控えめな表情で言った。
「もっと手練れで、もう少し覚悟の決まった2人だったら、撤退するにしても確認くらいしてから引いたと思います。即席で雇われたような空気があったから、そこを突けました」
「いや、それはそうかもしれないが……」
だれかが、いい感じの合いの手を入れてくれた。よし。これは最後の一押しで決まりだ。
「それに、最悪の場合は、近くにいる方へ一撃入れて、その隙に逃げるつもりでした」
「当初の目的は時間稼ぎだったので、それでも十分だと思いましたし」
僕はそう言ってバリューさんを見た。
バリューさんは大きく頷いた。
「その通りだ。時間稼ぎとしては上出来だ」
「まったく、ツッコむところがまるでないな。可愛げのない奴め。ははは」
一連の話を聞き終わったビアンカは不安そうな顔をしていた。
あ。
これは後で怒られるやつだ。
心配されて、怒られるやつだ。
それはそれで、軽めのお叱りならちょっと嬉しいかも。
「ということで、相棒の武勇伝はこの通りよ」
バリューさんはがっしりと肩を組んで顔を寄せてきた。
「いいか、相棒」
「俺たちは警備の仕事を受けて、しっかり仕事は果たした。しかも今回は王都に通じる街道輸送の警護で戦闘は想定外に含まれていなかった。だが、実際は戦闘があり、それに勝利した。こういう時は、依頼主から別途で謝礼が出るもんだ。その謝礼は全員に配られる。怪我した奴には見舞金も付く」
「さらにだ。状況によっちゃ、手柄に応じた個別の褒賞も出る」
バリューさんが、楽しそうに笑った。
「今回だと3番手柄くらいまではボーナスが出るんじゃないか?」
「さぁて、きたぞきたぞ。ボーナスの発表だーー!」
「モーサム隊長、お願いしますぜーーー」
一同が再び盛り上がる。
そこで、今まで、ガハハと笑うだけだったモーサムさんが初めて立ち上がった。
「おう、みんな。よーく聞いてくれ」
場が、少し静かになる。
「今回はバリューが言う通り、3番手柄まで付けさせてもらった」
「おお!」
「まずは3番手柄から、と言いたいところだが。今回はとんでもねーことになっちまった。一気に行くぜ!」
モーサムさんは、にやりと笑った。
「敵襲と声を上げ、奇襲を防いだ者」
「別動隊を撤退させた者」
「敵の崩壊を決定づけた者」
「ナオえもんだぁっ!」
「1番から3番手柄まで、おまけもあるが、全部もっていきやがれーー!!!」
「???」
「「おおおおおーーーー!!!」」
宴会場が爆発した。
「完璧だーーー!」
「異存はねぇぞーーー!」
「そりゃそうだーーー!」
え?ええ??
いやいやいや、モーサムさん、それはやりすぎなんじゃ。
みんなも命を懸けて戦ったんだから、それじゃ不満が……。
そう思ったけれど、場は今日一番の盛り上がりを見せている。
不満どころか、大賛成といったところだった。
いいのかな? でもみんな楽しそうだし、今はいっか。 あとで、何かお返しすることにして、今はこのノリを大事にしよう!
僕は立ち上がった。
「みなさーーん、それでは今日は僕の奢りです!思いっきり飲み食いしちゃってくださーい!」
「やっほーー!若けーのに話の分かるじゃねーーかーー!!」
「さすがモーサム隊長の娘婿さんだぁ!太っ腹だぜーーー!」
「ちょっっ!」
「む、娘婿って!」
「それはさすがにまずいって!!!」
「娘婿だぁ???」
その瞬間。
空気が、すん、と冷えた。
低い。
あまりにも低い。
冗談では済まない声が、モーサムさんの方から聞こえてきた。
僕は、ゆっくりと首を向けた。
モーサムさんは、笑っていなかった。
第49話 完
【ナオえもん:尊厳の編集に成功した男のリザルト】
〇知略家としての評価:90
(神編集で、かなりうまく説明できた)
〇褒賞獲得度:100
(一番手柄から三番手柄まで総取り)
〇宴会制御不能度及び次回危険度:120
(娘婿という言葉が投下され、モーサムさんの笑顔が行方不明)
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