第46話 祝勝会
「ほんとに、ほんとに大丈夫なのね?」
ビアンカはまだちょっと不安そうに僕を見ている。
「ホントだってば。ほら、見てよ。全然暗黒なんかしてないでしょ?」
「暗黒は、するとかしないとかじゃない気がするけど……」
「はぁ……まぁ、とりあえずは大丈夫なのね?」
「うん。大丈夫。呪われてなんかないし」
「とりあえず、座ろうよ」
ふぅ……あぶないあぶない。
ビアンカは、とりあえずは納得してくれたようだ。全身の力を抜くと、ゆらゆらと椅子に座った。
でも確かに、あれは戦場だった。初めての戦場で、なかなかの修羅場を潜り抜けたと言ってもいいだろう。交渉も、一応、命がけだった。
恐怖心がない僕にとっては、わりと軽くできた行動だった。でも、普通はそうはいかないだろう。
戦闘の後、おそらく歴戦の剣士であるバリューさんから、ある程度認められた感じがあった。隊の人たちから向けられる視線も、出発前とは違っていたし、モーサムさんの目も、頼りない青年を見る目ではなくなっていた。
それを考えると、僕のステータスがあそこまで一気に上がったことに納得できる。たぶん、それだけのことをやったのだ。
ただ、それを知らないビアンカから見れば、意味不明な急成長でしかない。もう少し説明してあげた方がいいとは思う。思うのだが、自分で自分の武勇伝を語るのは、ちょっと恥ずかしい。
急激な成長ねぇ……。
言葉だけ聞くと、いかにも才能ある主人公っぽい。でも実際に起こると、どうやら人を不安にさせるらしい。何に気を付ければいいのかはわからないが、とりあえず気を付けた方がいいようだ。
そういえば、仲間に認められるということも、ほんの少し分かった気がする。
本気を見せることが大事なのだろう。
世にいる英雄たちは何度死線をくぐり抜けて、仲間や部下を得ていったのだろう。
……できれば僕は、もう少し安全な方法で成長したい。
さて、ビアンカに落ち着いてもらうためにも、僕たちは祝勝会の会場に向かうことにした。まだ時間は少し早い。ただ、その前に寄り道をする必要がある。うさ神に昇格したうさドラに、高級おやつを買ってあげないといけないのだ。
結局、うさドラの『おやつ』に何がいいのかわからなかったので、肉屋でサーロインっぽい、少し高めのお肉を買ってあげることにした。
「こんな高いお肉、どうしたの?」
ビアンカに聞かれたが、
「うさドラは頑張ったのさ」
とだけ答えておいた。
肉屋の亭主から包みを受け取った途端、うさドラが暴れ出した。パタパタとせわしなく飛び回り、包みを持つ僕の手に、頭をグイグイ押し付けてくる。
寄こせ。
それを寄こせ。
そう言っているのが、言葉がなくてもわかる。
「わかったわかった。すぐあげるから待ちなさい」
なでなで。
しかし、うさドラは全く待てない様子。邪魔だとばかりに、さらに強く頭で僕の腕をぐいぐい押しのけてくる。食い意地のはったやつめ。
仕方ないので、通りの端にある腰をかけられる場所で、お肉をあげることにした。僕がお肉の端を摘まんで差し出すと、うさドラは、あーんと口を開けて、ぱくっ。
小刻みに噛み噛みしながら、おいしそうに食べている。
かわいい奴だ。
ものすごい勢いでお肉をすべて平らげると、うさドラは満足したように僕の腕の中に収まった。どうやら、このまま寝てしまうらしい。今から行くのは、うさドラには退屈な宴会だ。寝ていてくれた方が、こちらとしても都合がいい。
僕が少しの間、頭を撫でてやると、うさドラはそのままぐーぐーと寝てしまった。現金なやつだ。眠ったうさドラを抱え、僕たちは指定された大きな食堂へと向かった。ちなみにビアンカのチロルはというと、王都に入ると興奮してお散歩に飛んで行ってしまったらしい。思念伝達があるので、迷子にはならないらしい。便利なペットだ。
指定されていた店は、少し品のいい大きな食堂といったところだった。かなり広い店だったが、それでも席の多くはすでに埋まっている。
その奥の一角に、モーサムさんたちがいた。どうやら、すでに全員揃っているようだ。
モーサムさんが僕に気づき、「おーいこっちだ」というように手を振ってくれる。しかし、僕の後ろにいるビアンカを見るなり、顔を激しく引きつらせた。
「ビ、ビアンカ。なんでお前がここに……」
「あたしを騙そうったって、そうはいかないんだから! お父さんたちとは別で、和尚さんたちとこっちに来たの。お母さんには言ってあるから、心配しなくてもいいわよ」
お母さんに言ってあるって、置手紙でしょ? 僕は静かに目で突っ込む。
隊のみんなが、ざわついた。
「え? なに? 娘さん?」
「こんなに美人の?」
そんな声が聞こえてくる。
そして、次の瞬間。
「ナオえもんと一緒だぞ?」
「奴が彼氏なのか?」
ざわざわざわ。
ドキメモ作戦は、王都でも着実に効果を上げている。
モーサムさんは何か言いたげだったが、周りの熱気に押し流される形で、強引に宴会が始まってしまった。
「さぁて、道中まさかのひと戦あったが、完勝だった!負傷者はいたような、いなかったような?」
「おうっ!俺は腕をやられたが、この通り!ヒビが入った程度だ!飲めば治る!」
「ハハハ。その意気だ!なんせ今日は、あの多人数を相手に完勝したんだからなっ!」
勝利の高揚感で、みんなやたらとテンションが高い。
「戦??」
ビアンカが、ぴくりと眉をひそめて僕を見た。
その目は、驚いたというより、すでにお怒り色が強い。
あれ? この感じ、まずい?
もしかして、戦闘に巻き込まれたことって、怒られるやつなのかな。 いや、でも、けっこう活躍したんですけど。ちゃんと生きて帰ってきたし、怪我もしてない。
「それでは、今回の一番手柄、ナオえもんに一言いただこう!」
え? あ、えーっと、挨拶ですか?
これもマズイ。僕、そういうの苦手。
「ほらほら、立った立った」と、はやし立てられ、僕は戸惑いながら立ち上がった。だが何を言えばいいのかわからず、その場でもじもじしてしまう。
すると、隣から力強い声が飛んできた。
「相棒! 『お疲れ様』でいいんだ! 『今夜は飲むぞー』って言っておけ!」
バリューさんが助け舟を出してくれた。
そうだそうだ。それでいい。「しこたま飲むぞと言っておけー」と他の皆さんも助けてくれた。
「それはそうと、おいバリュー。お前いつからナオえもんの相棒になったんだ? 手柄のおすそ分けをもらう気か?」
「バカを言うな。俺たちは最初から、最後衛を守り抜いた戦友だ!」
「なっ?」
「そ、そうですね」
「バリューさんには、背中を押してもらいましたし、それはもう、とっても相棒です」
「ほんとかー? そうは見えなかったぜ?」
早くこの注目から逃れたい僕は、手元の杯を掲げた。
「アハハ……あの、それではみなさん……」
「か、かんぱい……」
「「「乾杯っ」」」
どっと店内に歓声が響き、無事に宴会が始まった。
……と思った。
席に座った瞬間、クイ、と僕の袖が強く引っ張られる。
「どういうこと?」
声は小さい。
まずかったみたいだ。となると、この祝勝会は僕にとって、公開取り調べ会場になってしまいそうだ。
向けられたビアンカの目は、完全に据わっており、1ミリも笑っていなかった。
第46話 完
【ナオえもん:味方の好意で外堀を埋められた男のリザルト】
〇成長値納得度:90
(修羅場を越えたんだから当然。ただし暗黒騎士だけは本人も目を逸らしている)
〇ドキメモ作戦の王都達成度:80
(まさかの王都でも作戦が進捗中。これはもう勝手に自走していきそう)
〇祝勝会先行き不穏度:95
(乾杯直後、袖を引かれて取り調べ開始。ビアンカの目が1ミリも笑っていない)
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