第45話 呪物扱い
「さてと……思ったよりちゃんとしてるじゃない。 もっと脱ぎ散らかしてあるかと思ったけど」
「まぁね。 散らかすものがそもそもないからね」
部屋の中は、ベッドが1つ。勉強机が1つ、それにセットの椅子が1つ。あとは観音開きの箪笥がある。僕の脱いだ服は椅子に掛けてあり、ドアの近くに愛用の木の棒が立てかけてある。その他は箪笥の中だ。
僕は掛けてた服をどかして、椅子を彼女にすすめた。しかし、彼女は「この宿はコーヒーがいつでもただで飲めるから」と言って、一旦1階に降りて、ホットコーヒーを持ってきてくれた。
寝ていたのなら、そのままもう1回寝ていいと言ってくれたが、僕は眠気が一気に吹き飛んだ。
そこで僕は、改めて彼女に僕の適性を見てくれないかと頼んだ。
「どうしたのよ?何やら自信がおありのようですけど?」
「何かあったの?」
「いや、いろいろあったっちゃ、あったんだけどね。ほら、僕はこの世界について知らなすぎるからいろいろ数値が低いみたいなこと言ってたじゃない?道中いろいろ勉強になったから、少しは上がってるかなーなんて」
「ふーん。いいわよ。見てあげる。いきなりそんなに変わるもんじゃないんだけどね」
「はい、じゃ、じっとしててね……」
彼女は目を閉じると、手のひらを僕に向けた。
そして、目を開けると、空中を見始める。
「ナオえもんと、ええーと、どれどれー……」
「え?」
「なにこれ??」
「なんで? どうしたの?」
ビアンカの動きが完全に止まっている。
きたぞきたぞ。
この反応、思ったより上がってるぞ!
ビアンカがじーっと僕を見てくる。
しかしその目は、困惑の中を泳いでいる。
むふふ。ほらほら。
発表してみなさい。
僕のお数値様を!
「武力、18」
「統率、38!」
「知力、65!!」
「外交、70!!!」
「な、なんなのよこれ!!」
「ありえないっ!」
「ありえないわっ!!」
ほうほうほう。あの戦闘で結構認められたじゃないの僕!知力が40くらい上がってますがな!
バカ卒業ですね、これは!
外交に至っては70ですってよ!! まぁね、いくよね! この世界の基準だと、まぁまぁなんじゃない?なんだったらもうそこそこ使える男認定くるんじゃない?
前回見てもらってから、色々ありましたからね。なんてったって今回は敵を壊滅させたしね報告上は。あと、その前には、小さいけどバリューさんに「逃げてもいいよ」って言質も取ったし、1週間前くらいに、『日焼け君事件』も無事おさめて仲良くなれたし。
ほっほっほ!
「魔力は2のままね……」
あ、そう。
魔力に関することは何もなかったからね。変化なしは認めよう。
「ねぇ……、ほんとに何があったの? 40なんて数値、1日で上がる数字じゃないわよ。っていうか、1年かけても上がる数値じゃないわ……」
「まぁまぁ、それで適性の方はどう?」
「軍師なんて、上がってたりしない?」
「適性なんて、それこそ上がるわけ……」
「げっ」
「上がってる……」
「軍師:45 内政官:20……」
そこで、ビアンカの声が止まった。
「あ、暗黒騎士:57……」
「おおおーーーーっ」
「やっぱり上がってたか!」
「あれは、我ながらナイスすぎる判断だったからね。僕の軍師適性を認めざるを得なかったようだね!」
「そんなことって……」
ビアンカの顔が、ますますこわばっていく。
「こ、これは……、もしかして……」
「間違いないわ……」
「軍師と内政官の異常な上昇は、とりあえずいいわっ! ……本当はいいわけないんだけど」
「人間とは思えないけど、こんなものは今はもうどうでもいいわ!」
「え?なに?何ですって!!」
「こんなもの? もうどうでもいい? ええ??」
あの、僕の軍師と内政官の上昇ってどうでもいいの? そりゃないんじゃないの??
「問題は、これ!」
「暗黒騎士まで上がってしまっている……」
「どうしたらいいの」
ビアンカは目線を落とし、ぶつぶつ言いながら考えている。
そして目線が少し上に上がった。
だが、まだ低い。僕と目を合わせてこない。
「やっぱり、出すんじゃなかった。テントなんかで暮らさせるんじゃなかった! だから今日だってわたしの知らないうちに出発しちゃって……」
……いやな予感がする。
あの目。
ほら、あの思いつめた目。
僕も今は、軍師と内政官の上昇はどうでもいいような気がしてきた。
ビアンカがああいう目をした時は、ろくなことが起こらない……。
そこから一気にビアンカの目線が上がり、僕としっかりと目が合う。
「ナオ、あなた、呪われたのね!」
な、何を言い出すんだこの娘は?
「それ以外ないわ。こんな、数値の上昇。人間とは思えないもの。それに……、暗黒騎士が上がっているのが何よりの証拠よ。暗黒騎士は本当に未知の適性なのよ。勇者適性よりも、ずっと情報も少ない」
「ただ、ひとつだけ言えることがあるわ。暗黒騎士は、普通の経験で上がるような適性じゃない」
ビアンカは、僕を見た。
その目は、さっきまでの困惑とは違っていた。何かを怖がっている。
そして僕も、この先ろくな展開にならないことだけは分かる。
「ねぇ、ナオ」
「あなた、自分の意識はあるの?」
「あります」
「今のあなたはナオなの?」
「ナオです」
「それとも、ナオを乗っ取った何かなの?」
「違います」
ビアンカが涙ぐみながら一歩引いて、構えだす。
「ちょ、落ち着いて! 乗っ取られてないし、操られてもない」
「ね? いったん座ろう。コーヒーもあるし」
あーあ、なんでこうなっちゃったかなー。
そんなに上がりすぎたの??
ってか、軍師と内政官上がってるところに注目してほしいわけよ!
ね! 知力の上昇と合わせて、バカじゃないってところをさっ!
なんで暗黒騎士が上がっちゃうかなー。
ちゃんと戦闘で活躍したのに……
…やり方に問題でもあったってか?……
ううむ。嘘ついて別動隊の2人に離脱してもらって、金貨まで貰っちゃってるね……。
…結構なことしてるかもね……。
ええーーっと、ええーーっと。
「あ、そうだ!この後の祝勝会に行けばわかるよ!」
「そこで、みんなの話を聞いてみてよ。ね?」
その時、ベッドで寝ていたうさドラが、パタパタと僕の左肩に来て、小さくシギャッと鳴いた。
「う、うさドラちゃんが懐いている?」
いいぞ!いいタイミングだ!
最近お前、ほんとできるトカゲだぞ!
今だけは、うさ神様って呼んでやる。
「さぁ、さぁ、変なこと言ってないでコーヒー飲もうよ」
僕はカップを持って、ズズッとコーヒーをすすった。
熱い。
でも、今は熱いとか言っている場合ではない。
第45話 完
【ナオえもん:成長確認リザルト】
○バカ卒業アピールの失敗度:100
(人生最高のドヤ顔をキメるはずが、暗黒騎士適性の超反応により完全に帳消し。見返せるはずだった『人生気持ちいい瞬間ベスト3』が悲劇の始まりに)
○祝勝会だのみ度:100
(お願いみんな、この子を止めて)
〇コーヒーの体感温度:激熱
(口の中は大火傷寸前だけど、ビアンカの視線を逸らすための必死のズズッ)
〇呪物扱い度:100
(ビアンカの中では完全に呪い判定。バカ卒業どころか、人間卒業疑惑まで浮上)




