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第44話 王都と家出少女

後半の街道はくねりながら、ずっと下り道だった。馬車が勢いよく下っていってしまわないよう、後ろから引っ張るのはかなり疲れた。


途中、約1時間ごとに、2回の小休憩を挟む。その都度、軽食と水が支給された。急がず、乱れず、きっちり運ぶ。なるほど、これは旅ではなく輸送なのだ。


順調に下っていくと右手に、王都の入口らしき場所が見えてきた。幅10メートルくらいの道の左右に、小さな建物がある。門番の駐屯場所といった雰囲気だ。

門はない。敵が来てもここで止める気はなさそうだ。


ここからは上り坂に変わる。王都はいわゆる山城といったところのようだ。


1キロくらい、うねうねと街道を登っていくとわりと平地が見えてきた。そこにはしっかりとした門があり、壁がある。


ひるがのの村長さん宅を大きくしたものだ。堀には水がたたえてある。こんな山の上のさらに上に水源があるようだ。


門では、けっこう人が並んでいた。入るにはしっかりとしたチェックを受ける必要があるようだ。

しかし、僕たちは別の門へと促され、そちらでは並ぶことも無く、必要なチェックをされた後、すぐに入ることが許された。


門番たちに、嫌味なところはなく、賄賂がはびこっている様子もなかった。

上の者がしっかりしているのだろう。こういうところを見れば国の状態が分かるのは、いつの時代でも、どこの世界でも同じだ。


検査の建物を抜け、正式に城下町に出た。思ったより、ずっと広い。道幅はしっかり10mはあり、その横には2mくらいの歩行者専用の道も整備されている。店の前には荷車が並び、人の声が行き交っていた。布、穀物、鍛冶道具、木箱、壺。あちこちで物が動いている。


山の中の王都、と聞いていたから、僕はどこか素朴な町を想像していた。けれど、これは違う。ちゃんと経済が回っている町だ。


僕は、村長さんの家の歴史から、はっきり言って国王を舐めていた。しかしこれは改めねばなるまい。経済に明るい、あるいは、ちゃんとわかる人の意見を聞ける王様なのだろう。どちらにしても、思っていたよりずっとまともだ。


そして一番驚いたのが、幅の広いまっすぐな中央の道路の先に、城が見えたことだ。大きな門があり、天守閣も備えている。そのたたずまいには、一ミリの怯えもない。堂々と、そこにあった。


かっこいい。ぜひ見学したいが、まず無理だろう。あれは観光地ではない。役所を兼ねた、本物の軍事施設だ。


僕たちの馬車は、町の中ほどにある大きな商会の馬車置き場のような場所に収まった。そこにはすでに2台の馬車が停まっている。僕らの3台を合わせても、まだあと5台は置ける大きな場所だった。


モーサムさんと他の人はそれぞれ、用事があるらしい。僕は宿の場所と今夜の宴会場所を教えてもらい、一時解散となった。


宴会までは、まだ時間がある。町の見学をしたいところだけど、今日はさすがに疲れた。宿に入って昼寝することにした。


宿は、10分ほど歩いたところにあった。特徴のない普通の宿だ。モーサムさんが王都に来たときはいつも使う常連宿らしい。新しくはないが、建物は清潔で、おかみさんもいい人だ。


うさドラを部屋にいれてもいいそうだ。

こいつは鳴かないし、毛も落ちない。

普段パタパタ飛んでいるので、そんなに汚れもしない。部屋飼いにはとても向いているやつなのだ。


鍵をもらって部屋に入ると、早速タオルを持ってお風呂に向かった。


正直すぐにベッドで寝てしまいたかったが、汗もかいたし、埃っぽいし。このままベッドに飛び込むには気が引けた。


風呂場には、まだ誰もいなかった。どうやら一番風呂だ!


ゴシゴシ。

ザパァーン。


ふぅ。

疲れが取れる……。


「………」

ガブブッ。

危ない。

湯船につかって5秒で寝てしまった。

やはりかなり疲れている。


このままではまた数秒で眠ってしまいそうだ。僕はお風呂で溺れる前に上がることにした。


そういえばと思い、脱衣所に出て、鏡を見てみた。やっぱり僕の顔は、靄がかかったようによくわからない。


別に、不自由はない。髪の毛はわかるので、寝癖さえ直せれば驚くほど普通なのだ。


部屋に戻る時に廊下の張り紙に気づいた。

必要な時に呼び出しサービスがあるみたいだ。ラッキー!僕は、おかみさんに夕方の5時に起こしてもらえるように頼んだ。


これで安心だ。

寝過ごすこともない。

僕はベッドに飛び込み、おやすみなさい。


「コンコンコン」

眠りについて、10分もたってないだろう。ドアをノックする音で起こされた。


なに?

なにかあったのだろうか。


むにゃむにゃしながら、はーい、とドアを少し開けて、隙間から通路を伺う。


するとドアの隙間のすぐ近くに、向こう側からこちらを覗き込む顔があった。


「うわっっ!!!」

「ビ、ビアンカ???」


あわててドアを開けるとビアンカが笑顔で立っていた。


「ハロー♪」

と言って、肩のあたりで小さく手を振っている。


いつもの格好に、旅用のマントを羽織った感じで、これはこれでかわいい。


「な、な、なに?」

「どうしたの??」

「なんでここに??」


僕は別に何か悪いことをして、それがバレたわけではない。

なのに、なぜかそれに似た感情が湧いてくる。


「聞いてよ。お父さんたらひどいのよ」


「ひどい?」


「何を、どう説明しても同行するのは絶対ダメだって。それでね、お母さんと協力して、わたしに内緒で出発したのよ。まさかお母さんまでお父さん側につくとは予想外だったわ」


「んー……。まぁ、さすがにそうなるかもね」

「そ、それで???」

「まさか、一人で来たの??」


「最初は1人で来るつもりだったんだけど、ちょうど和尚さんがね、王都に行く用事があるって言うから、そっちに同行させてもらっちゃった」


「いや、ドーラさんは?」


「ん?」

「置き手紙してきちゃった。『探さないでください』って」


「ええーーーーーっっ!!」


「嘘よ。ちゃんと書いたわよ」


「いや、ちゃんと書いたも何も、それで来ちゃったら心配しちゃうでしょ?」


「平気よ。和尚さんたちと一緒って書いたし、お父さんのところに行くとも書いたし」


「そ、そういうもんなの??」

「違う気もするけど。でもまぁ、今さらしょうがないか……」


「そうなのよ。ま、王都はお父さんとも何度も来てるし、この宿だってお父さんご用達だから何度も泊まったことあるしね。さて、夜までいるところもないし、立ち話も他の人に迷惑かけちゃうし、お部屋に入れてよ」


「え? いいの? 僕はいいけど、いいの?」


「どういう意味? さ、入った入った」


「それ、僕のセリフなんじゃ……」


第44話 完


【ナオえもん:完璧な昼寝プランをわずか10分で粉砕された男のリザルト】

〇国王見直し度:90

(この田舎の山の中に、ここまでの街を築いている手腕にはあっぱれ。戦神に要塞をプレゼントした人と同一人物とは思えない)

〇さまようヒロインとのエンカウント率:100

(『探さないでください』は家出少女のテンプレ。しかも行先は男のもとという、もはや駆け落ち。そのあまりに剛な推しにも、本人は和尚さん同行なのでセーフ判定)

〇自室防衛ライン脆弱度:80

(笑顔のヒロインによる『ハロー』からの『お部屋入れてよ」のワンツーを被弾。締めの『入った入った』で部屋の主権を強奪され、秒で陥落』








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