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第43話 勝敗の鍵

第43話 勝敗の鍵


僕は、走り出してすぐに立ち止まった。脱いだ革の防具セットは、再装備した方がいいだろうか。本物の槍や剣が飛び交う中、何の防具も装備してないとなると、少し当たっただけで即重傷になりそうだ。これでは戻っても意味がないかもしれない。


僕は装備の入った袋を開けると、慌てて身につけ始めた。


慌てているせいか、、朝着た時のようにすんなりいかない。留め具が引っかかったり、通す穴を間違えたり。焦る気持ちを抑えながら、何とかすべて装備し、再び走り出す。


重い。


革なので、防具の中ではおそらく軽い方だと思うが、それでも重い。馬車にたどり着いたときにはヘトヘトになってそうだ。


騎馬隊の重要性が、少しわかった気がした。


戦場までもう一歩というところまで来ても、怒号と金属のぶつかる音は聞こえてこない。

乱戦の最中ではなかった。ちょうど戦闘が止まっていた。お互いが、じりじりとにらみ合っている。両陣営とも、息を整えながら、次に踏み込む機会を探っている。


敵方に倒れている人が2人見える。

どうやら僕は、戦闘の隙間に駆け込んできたようだ。


こちらは、前衛の剣士さんがひとり、片手を負傷している。


僕を見送ったバリューさんも戦ったようで、怪我はなさそうだが、見た目がいろいろ乱れている。

僕たちは目が合った。

僕は親指を立てて成功したと伝えた。


バリューさんは驚いた顔をすると、敵に剣を向けたまま、じりじりと僕のすぐ近くまで寄ってきた。


「で、どれくらいだ?」

「あと、どれくらいで、来る?」


「いえ、あの2人は撤退しました」

「もう来ません」


「な、なにっ!!!」

「本当かっっ!!!」

バリューさんは、鋭い目で僕を見た。


「はい」


僕たちは、数秒だけ目を合わせたまま動かなかった。


次の瞬間、バリューさんの険しい表情から、余計な力が抜けた。目の奥も、静かに落ち着いたものに変わる。構えていた剣が、わずかに下がる。


「……」

「……それが本当なら、挟み撃ちは消えた」

「これで前の連中に集中できる……。いや、やつらの心を折れるかもしれない」


「はは。はははは。」

「いや、勝敗は決まったな」

「ナオえもん、今回の一番手柄はお前かもしれん」


「え?」


「ここにいろ」

そう言って、バリューさんはモーサムさんの方へ向かおうとした。


「待ってください」

僕はバリューさんの背中に声をかけた。


「あの2人は変装していました」

「実際は20代の男女です」

何となく、別動隊の2人のことを伝えた。


「…なるほど……」

バリューさんは一瞬動きを止めたあと、ゆっくりとこちらに振り返った。


「お前、戦場は初めてだろう?」


「ええ。まぁ」


「なのに俺と同じものが見えているようだな……。おもしろい」


バリューさんは、そう言って静かに笑い、剣を構えたまま、味方の間を縫ってモーサムさんのもとへ移動していった。


??? 

同じもの?見えている?



バリューさんはモーサムさんの後ろまで行くと、大きな声で言った。


「報告!」


するとモーサムさんが、バリューさんのところまでじりじり後退する。

そして、何か耳打ちされると、一呼吸おいて大きな声で笑い始めた。


「ガハハハッ!」


「お前らの別動隊はやられたぞーーっ!!」

「わしらの勝ちじゃぁぁーーーーっっ!!」


「おおおーーーーっ!」


味方の声が上がる。


「なにっっ!!!」

「騙されるな!!」

「流言だ!!」

敵のリーダーらしき男が叫ぶ。


「かわいそうに」

「変装しておったが、まだ若い20代の男女だったようじゃないか」


「ぐっ」

敵のリーダーらしき男の顔が、一瞬だけこわばった。


それを見た後ろの野盗たちが、ざわつき始める。何人かが、馬車の向こう側へ目をやった。来るはずの別動隊は、来ない。


「合図は何回も出したよな?」

「おい、本当にやられたのか……?」

小さな声が、敵の中で広がっていく。

すると後ろにいた者から、じりじりと下がり始めた。


「みなーーっっ!!」

「わしらの勝ちじゃぁーーーーっ!!」

「殲滅するぞーーーーっっっ!!!」


「「おおおおおおーーーーっ!!」」


モーサムさんの声は、味方には勝利宣言として、敵には最後通告として響いた。

味方が雄叫びを上げ、一斉に前へ出る。


戦況は、人数的にまだ敵の方が有利なはずだった。だが、一人の野盗が背を向けて走り出すと、それをきっかけに、敵の陣形は一気に崩れていった。


すごい。

戦況というものは、こうもあっさり、そして急激に変わるものなのか。戦は『生き物』。勝負は時の運。なんてことを聞いたことがある。まさにその通りだな。


そして野盗は、不利になると弱い。あんなに一瞬で逃げ腰になった。たぶん、命を懸ける理由が薄いのだ。忠誠心とか、義理とか、守るものとか。そういう重たい物を背負っていない。だから、自分の利益が消えた瞬間、もしくは状況が不利になったとたん、逃げる。そこで戦う理由がないからだ。


そもそも野盗になるくらいだ。一般常識を持ち合わせていない者も多いだろう。そういう連中を組織として束ねているだけでも大変そうだ。


今回の崩れ方を見ても、それが分かった。


だが、僕を「優秀な偵察役」と褒めてくれたリーダー格の男と、あと3人。


その4人は、倒れていた2人を連れて引こうとしている。

意外と強い。粘りもある。


あの4人はまだ、見どころがありそうだ。


モーサムさんは無理をしてこちらに犠牲者を出す気はないようだ。

ほどほどに追撃している感じだ。


どうやら勝った。


勝敗を分けたのは「士気」。


敵の士気を下げ、味方の士気を上げる。

それができれば、不利な状況もひっくり返せる。

とても勉強になった。


今回のモーサムさんのそれは、タイミング、声量、内容と、そのすべてが素晴らしかったと思う。

大将は、こうでなくちゃならない。


僕には向いていない。

魔王退治の際は、僕はできれば後ろの方で頑張りたい。


うさドラが左肩に降りてきて、シギャシギャ鳴きながら、僕の顔を押してくる。

現金なやつめ。


わかっている。

お前が敵を教えてくれたところから始まったんだ。おやつは極上のものを用意してやるぞ!


ほれ、この金貨が保証しよう。

僕はポケットの金貨を取り出し、手のひらに置いてそれを見せた。


うさドラは理解したのかどうかはわからないが、軽くシギャッと鳴いて、馬車の幌の上に戻っていった。


この一見『金貨』に見えるもの。

ホントに価値があればいいんだけど。

なにせ、野盗がくれたものだからな……。


そのあと、僕たちは全員の怪我の具合、荷駄の無事などを確認し、出発した。

油断大敵。

今回の戦闘の話は、王都に着いてからだ。


だが、怪我の確認の際、モーサムさんは僕に「よくやった」と短く声をかけてくれた。


バリューさんは、目を合わせて、頷いてくれた。


僕たちは気を引き締め直して、残りの道中を進んだ。


*****************

霧隠才子:著【ナオくん成長記】

〇〇年△月□□日

なおくんの初陣

・朝早くからモーサム邸に出勤。

(携帯食を持参していない模様。いざという時は、この才子の手作り弁当を支給する必要有)


・敵と遭遇。敵の奇襲を阻止。

(一瞬の判断は見事。味方の全滅を防いだと言っても過言ではない)


・戦場離脱。

(振り向きもせず、片手を上げて戦場を去る。その姿は私の勇者様)


・別動隊を壊滅させる。

(その頭脳派プレイはまさに神業。金貨を献上した敵は一時釈放。偽金貨だった場合は、必ず後悔させてあげる)


・前線に復帰。

(すでに人の何倍もの戦果を挙げているにも関わらず戦線復帰。疲労のケアが必要)


総評:

完全勝利。

この霧隠才子の武功評価では、戦功第1位から第5位までをナオくんが独占。

異論者には、死を。



第43話 完


【ナオえもん 初陣学習度】

〇騎馬隊について:70

(装備をつけては走れない。馬に乗っての移動力は相当な武器になる)

〇士気について:95

(士気の有無で、勝敗はほぼ決まる気がする)

〇野盗について:80

(みんな結構適当に集まっている。訓練された軍とは明らかに違う)



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