第25話 付き合いはじめ?
「お母さーーん?」
「あれ? おばあちゃーーん?」
「……」
「そういえば二人とも、今日は用事があるとか言ってたわね」
ビアンカちゃんが振り返る。
そこには、お腹を空かせた二頭と僕が、きれいに並んでいた。
「……しょうがないわね」
「何か作るかっ」
「今から作るから、ちょっと待っててねー」
ビアンカちゃんは、二頭を撫でながら言った。
「あなたは、そうね」
「うさドラちゃんと仲良くなっておいて」
「これから大事なパートナーになるんだからね」
そう言って、ビアンカちゃんは僕を見ると、台所へ向かっていった。
そうですね、まずはうさドラと仲良くなりますか!
僕はリビングのテーブルの上にいるうさドラの首元あたりをひょいとつかんで、そのまま椅子に座った。
そして、うさドラを膝の上においてやる。
うさドラは少し不服そうだが、膝の上で伏せの態勢になる。
チロルは、そんな僕らを特に気にすることもなく、部屋の中をパタパタ飛んでいる。
ぐりなで、ぐりなで。
うさドラは目をつむり、僕の少し強めの「なでなで」に耐えているといった感じだ。
反抗してこないところが、意外とかわいいな。
ただ、しっぽには、ちょっと不満そうに力が入っている。
服従はしているが、納得はしていないらしい。
何せ出会いが、カプッ&ホームランだったからな。
あれは、カプッとしたうさドラが悪いだろう。
それで次に会ったら、ウサギの王になっていた。
とんでもない奴だと思ったが、一度負けを認めた相手には従うタイプらしい。
僕はお昼ご飯が出てくるまで、うさドラの頭や、あごの下、お腹あたりを撫でながら時間をつぶした。
どうやら、どこを撫でても気持ちいいらしい。
あごの下を撫でたときは、ゴロゴロいっていて、猫っぽいところもある。
ドラゴンは爬虫類ではないのだろう。
うろこ?っぽい表面をしているが、意外と柔らかくて、温かい。
どういう構造なんだろう。
「お待たせー」と言いながら、台所からエプロン姿のビアンカちゃんが出てきた。
かわいい。
「まずは、うさドラちゃんと、チロルからねー」
そう言って、サラダの上にお肉が乗ったお皿を、両手に一皿ずつ持っている。
新鮮で、おいしそうだ。
リビングの隅に、椅子くらいの高さの小さな台がある。
どうやら、そこがチロルの定位置らしい。
そこに二皿置くと、二頭は並んで嬉しそうに食べ始めた。
「ナオえもん君はもう少し待ってね」
そう言ってビアンカちゃんはまた台所に戻っていった。
今、ナオえもん君って呼ばれなかった?
今まではずっと、「あなたは」とかだったのに!
ちょっとうれしい。
僕がにやけていると、ビアンカちゃんがチャーハンらしきご飯を2皿と、お茶を持って出てきた。
「はい、どうぞ」
そう言って、テーブルに置いてくれる。
こちらもおいしそうだ!
僕たちは向かい合わせに食事した。
「熱いから、気をつけてね」
そう言って、ビアンカちゃんは自分の皿を少しだけこちらに寄せた。
お皿をちょっと近づけてくれたぞ!
ほんの少しのことだ。
でも、とてもうれしい。
二人の空気が、少し近くなったように感じる。
食事中は、世界に関する難しい話はやめて、好きな食べ物や普段の生活などの他愛もない話をした。
監視メモ⑤ 12時20分。
場所:対象は庭から家の中へ移動。窓から室内を監視。
状況:みんなで昼食を開始。
雰囲気:対象女、手料理にて一気に対象男をたたみかける模様。わざとらしいエプロンを着用。意図的な家庭的演出の可能性あり。警戒レベルを引き上げる。
注意事項:テーブル下でお互いの足が触れ合っている可能性は無視できない。ここからでは視認できず。
昼食が終わり、お茶を持って再び庭へ。
話の続きである。
「さて、始めましょうか」
「待ってました!!」
「でもその前に、大事な提案があるの」
「な、なに?」
なんだろう。
この子、こんなにかわいいのに、意外とぶっ飛んだことを言い出すから油断できないんだよね……。
【ナオえもん:ビアンカ可愛い度100 ビアンカ分かってきた度75 ビアンカ警戒度90】
ビアンカちゃんの顔が少し赤くなってる気がする。
「あ、あのね、お互いの呼び方よ」
「呼び方?」
「そう! それって大事じゃない?」
「ほら、呼び方ひとつで、二人の親密度がまわりにも伝わるじゃない?」
「んー、まぁ確かにそうだね」
僕は何気なく返したが、内心はかなりドキドキしている。
「で、でね」
「わたしのことは、ビアンカって呼んでくれない?……かな……」
な、なんてかわいいんだ。
いいんですか?
そんな!
ビアンカだなんて!!!
「い、いいの?」
「君がいいって言うなら、僕はいいんだけど・・・」
「その、みんなにはなんて呼ばれているの?」
「え? みんな?」
「んーー、普通よ」
「ビアンカだったり、ビアンカちゃんだったり」
「来たばっかりの僕が、いきなりビアンカなんて呼んだら、みんなの反感を買わないかな?」
何を言ってるんだ僕は!!
ここは逃げたりしないで、「わかった」と男らしく言えばいいだろう!
我ながら情けない。
「それは気にしすぎよ」
「それで誰かに何か言われたら、私がちゃんと言ってあげるから」
「ね?」
「う、うん」
「わかった」
嬉しすぎる。
でも、結局この子に、あとのことまで全部引き受けてもらう感じじゃないか。
こんなことでは、いずれビアンカちゃんにあきれられるな……。
しっかりしないと!
でも、これでビアンカちゃんをビアンカって呼べるぞ!!
ビアンカちゃん派の諸君!!
うらやましいだろうーー!!
むふむふ♪
僕がひとり勝利の余韻に浸っていると、ビアンカちゃんはまだ何か言いたそうに、膝の上で両手をぎゅっと握っていた。
「で、でね」
「ん?」
「わ、わたしは、その、あなたのこと……」
「ナオって呼んでもいいかな?……」
「あ、い、嫌なら全然いいのよ!!」
「違う呼び方にするから……」
ビアンカちゃんは、顔を赤くし、上目づかいで、細い声で聞いてくる。
なんて、かわいいんだ!!
この可愛さをまともに処理するなんて僕にはできない。
気づくと僕は再び、てふてふの世界にいた。
ははははーーっ♪
なにこれ?
やわらかい!!
世界がとーーても柔らかいのーーっ!!
かわゆい!!
もう顔も、声も、仕草も、なんかぜーーんぶかわいいのよーーっ!!
世界のみんなあーーー!!!
何してるのさっ!!
こんなにやわらかい世界、走らないともったいないよーーー♪♪
「でへっ♪」
「むふふふふ♪」
「あ、あの……」
「や、やっぱり嫌よね?」
「うん、普通に呼ぶ……」
「い、嫌じゃありません!!!!」
「わっ」
「全然!!」
「是非それでお願いします!!!」
「……は、はい…」
監視メモ⑥ 12時50分。
場所:庭のテーブル
状況:手乗りドラゴン二頭はお昼寝を開始。
雰囲気:対象女、お互いの呼び名を提案。その態度、表情、話し方、すべてにあざとさを確認。
対象男:あんな演出に陥落した模様。情けない。
両名、付き合いたてのカップル感全開。今後の進展に要注意。
重要特記事項:対象女の「ビアンカって呼んで」あたりから、草むらに当方とは別の密偵3名(青年2名・年頃の女1名)の出現を確認。
さらに、家の軒下に別の密偵3名(中年男1名・中年女1名・老婆1名)を確認。
所見:全員、隠密の練度は低い。
「じゃ、じゃあ、練習しましょうよ」
「ちょ、ちょっとあたしのこと呼んでみてよ……」
「え、い、いきなり??」
「うん、いきなり…」
「そ、それでは失礼します」
僕は一度、姿勢を正した。
なんだこの甘い儀式感。
たまらない!!
名前を呼ぶだけなのに……
だが、呼べば二人の国境がなくなるのがわかる。
落ち着いてー。
ゆっくりでいいんだぞー。
いくぞー。
「……ビ、ビアンカ?……」
「は、はい」
彼女は下を向いてそっと返事をした。
耳まで赤い。
死ぬ!!!
ナニコレ???
あれ?
僕すでに死んでる?
かわいすぎない??
本家ドキメモすぎない???
あのゲームってリアルでするとこんななの???
「じゃ、次は、わたしが失礼します……」
ビアンカは胸の前で小さく手を握った。
そして、ちらりと僕を見る。
「あ、あの……」
「な、ナオ?……」
その瞬間、僕の中の何かが、きれいにほどけた。
「げrhgふどぢろろびyhbaaa」
監視メモ⑦ 13時00分。
場所:庭のテーブル
状況:世界は二人のために 。
雰囲気:対象女、対象男、ともに青春恋愛危険人物リストに追加。これ以上の監視を中止する。勝手にやってろっ!!
重要特記事項:密偵2組の動揺・混乱を確認。明らかに平常心を喪失中。
追記:最後に対象男の口から魂の流出を確認。帰還率は極めて低いと断定。
以上っ!!!
第25話 完




