第11話 村長さんの家……という名の「要塞」
第11話、ナオえもんはこの世界の行政システム(?)の洗礼を受けます。
豊かな水をたたえた堀、そびえ立つ石垣、そして侵入者のリズムを狂わせる殺意に満ちた道筋。
「村長さんに挨拶するだけ」のはずが、なぜか潜入任務のような緊張感に。
「ここじゃ」
モーサムさんは村の家にしては立派すぎる建物の前で立ち止まった。
「ここが、役所兼村長さんのお家だ。」
「こ、ここですか?」
僕は目の前の建物を見て開いた口が塞がらない。
あのう、これ、城じゃないですか......
わかりました。
この異世界、もう全力でこっちで来るんですね。
僕は軽いめまいを覚えながら、その「村長さんの家」だか「役所」だかを見上げた。
全体としては「ようこそ」と言うより「近づくな」と言っているような建物だ。
はぁ。
まず、しっかりと水をたたえた堀がある。
長さは200mはあるだろう。
幅は5mくらい、高さは水面まで3mくらいある。
立派なお堀だ。
ここからでは奥行きはわからないが、城だとすると正方形に近いはずだから、奥行きも同じくらいはありそうだ。
堀の内側には石垣、その上には白壁と瓦。
しかも堀には橋が架かり、その先には立派な門まである。
あれは追手門ってやつだな。
いわゆる正門だ。
ただ、天守閣は無さそうだ。
あれは、城の権勢や威厳を示すシンボルタワーのはずだから、正門から見えないというのは考えにくい。
印象としては、二条城や、金沢城に近い感じがする。
それでも堀や門、その造りからして、この城はかなり防御力が高い方に入るはずだ。
村長って、行政の役職ですよね?
お役所ですよね?
見た目を豪華にした結果こうなったのか。
それとも、攻められた際の防衛を考えた結果これなのか。
僕が唖然としている間にも、モーサムさんはさっさと堀にかかる橋を渡っていく。
中央が高く円弧を描くあの橋だ。
嫌な予感がする。
いったん冷静になろう。
村長さんの家:
・お城度:95(堀と石垣がガチ)
・役所度:5(窓口業務をやっている気配ゼロ)
・ナオえもん警戒レベル:120
僕は気を引き締めながらモーサムさんの後を追った。
追手門は開いており、衛兵らしき槍持ちがその左右に二人立っている。
ただ立っているだけなのに、彼らのその雰囲気だけで只者ではないと分かる。
モーサムさんは、衛兵に「失礼するよー」と声をかけ、そのまま門を通り過ぎていく。
その背中は、この異常な空間に溶け込みすぎていて、逆に不気味だ。
「……おい、ナオえもん。あんまりキョロキョロしてるとつまずくぞ」
前を歩くモーサムさんが、振り返りもせずに忠告してくる。
モーサムさんと僕は、高い城壁に挟まれた道を、奥へ奥へと進んでいく。
門をくぐった途端、外の明るさが少し遠のいた気がした。
高い壁に挟まれた道は妙にひんやりしていて、足音だけが石と土に反響する。
壁には一定間隔で穴が開いている。
戦になれば、おそらくあそこから、弓などで一方的に攻撃されるのであろう。
さらに道は、ある程度進むと右に90度曲がり、またある程度進むと左に90度曲がる、
という具合に続いていく。
曲がるたびに視界が切れ、その先に何があるのかは初見ではわからない。
そのうえ、歩幅にまるで統一感のない階段を上ったりしながら、ようやく村長さんの母屋にたどり着いた。
...城だな...
これは外見だけでなく、内部までしっかりお城してやがる……
僕は知ってるぞ。
90度曲がっているのは、敵の視界を妨げ、走ってきた勢いを殺すため。
歩幅のそろっていない階段は、リズムを狂わせ、視線を足元に落とさせ、奇襲を容易にするため。
できる...
村長さんは間違いなくできる...
やはりここは行政を目的とした建物じゃないな...
僕は冷静に分析しながら進んで行く。
村長さんの家 門から母屋
行政度:5
突撃しやすい度:25
殺し間設置度:85
最初の門から5分ほど歩いたところでやっと、「ここだな」と思わせる母屋前の門にたどり着いた。
そこには、これまで見てきた無骨な石垣や城壁とは一線を画す、洗練された趣の正門が構えられていた。
しかし、それは安心感を与えるわけではなく、「ここから先は選ばれた者だけだ」とでも言いたげな静かな圧があった。
門は開いているが、衛兵らしき槍持ちが1人立っている。
やはり彼もその雰囲気だけで只者ではないことが分かる。
「モーサムだな。要件は何だ?」
「例の、昨日保護した『全裸……あ、いや、身元のわからん男』を連れてきた!」
(おい、今『全裸』って言いかけたな!? 役所の公式記録に残ったらどうすんだよ!)
「よし。事前申請通りだな。通るがよい」
通りながら、僕はモーサムさんの顔をそっと見る。
事前申請?
そういえば昨日モーサムさんが馬車から降りてすぐ行ってたな。
うむ。
見た目は100%衛兵だが、業務内容は受付だったな。
やっと役所らしいところが垣間見れた。
モーサムさんはその間を、何の躊躇もなく通っていく。
僕も慌てて後に続いた。
彼の目が、しっかりと僕を見ていた。
観察し、記憶している。
そんな感じがした。
「モーサムでさぁ。お邪魔しますよ」
そう言って、モーサムさんは門を抜け左側へ、建物の縁に沿って歩いていった。
すると、時代劇で殿様が裁きを下すような、広い庭に出た。
庭は広いのに、不思議なくらい音がない。
そこにまた一人、衛兵みたいな人が立っている。
立ち姿に隙は無い。
4、5段ほど上った先に部屋があり、そこには畳が敷かれている。
その中央に、少し暗くてよく見えないが、「いかにも」といった豪奢なひじ掛け椅子が1つ、こちらに向けて置かれている。
広間の中央には、木でできた長椅子が部屋に向かって置かれていた。
どうやら、土の上に座らされることはないようだ。
少しだけ安心する。
立っている衛兵が座るよう指示する。
モーサムさんはその長椅子に座り、僕もその横に座った。
「さぁて、ナオえもん」
「今からやることは、おめぇを村長さんに紹介することだ」
「はい」
「で、村長さんがおめぇを村に置いていいかどうかを判断する」
「まぁ、緊張するなってのは無理だろうが、聞かれたことに素直に答えりゃそれでええ」
「村長さんは見た目は怖いが、悪い人ではない」
「大丈夫だ!」
と、モーサムさんは言った。
「あ、はい、わかりました」
見た目は怖いのか。
やはり田舎の村長さんのイメージには合わないな。
「それで、駄目だった場合、僕は追放ですか?」
僕は、何気なく聞いてみた。
「ははっ。肝っ玉座ってるな」
「自分自身のことにも、全然動揺しとらんな」
「その調子なら大丈夫だろ。ははは」
しまった。
確かに、端から見たら他人事みたいに話しているように見えるかもしれない。
はっ!
見ると、脇に立っている衛兵がじぃーーっとこちらを見ている。
その雰囲気には、僕に何か警戒心を抱いているのかもしれない。
これはマズイ。
「そ、そんなぁ。余裕こいてるわけじゃないんです」
「不安で不安でしかたないんですよ!」
「ダメだったらどうなるんですか僕っ!!」
「教えて下さいよーーー!」
僕はモーサムさんの袖を引っ張りながら、取り乱してみた。
チラ目の衛兵さんを確認する。
どうだ?
衛兵さんの雰囲気は普通に戻った。
どうやら成功したようだ。
「なんだなんだ」
「大丈夫だよ」
「めったなことじゃ追放なんてされねぇし、されたとしても、何もなしに放り出されるわけじゃねえって」
「な、安心しな」
モーサムさんも必死になだめてくれた。
良かった。
なんとか成功したようだ。
やはり油断した時が危ない。
僕はもう一度冷静になり、改めて村長さんに会うことを決意した。
お庭の衛兵
立ち姿隙無い度:80
違和感見逃さない度:85
見る目無い度:75
ナオえもん スキル:偽パニック・弱
解説:必死に取り乱す演技で、自分の不自然な冷静さを隠蔽する、混乱系隠蔽スキル。
効果:見る目が無い相手なら、そこそこ騙せる。
その時、廊下の奥から、重い足音が近づいてくるのが聞こえてきた。
その足音には、一切の迷いがなかった。
第11話 完
ナオえもんの物件・状況リザルト
村長宅敷地面積: 目算4万平米 (ドーム0.86個分)
村長宅の防御力: 95(攻城の際は覚悟が必要)
行政機能の気配: 5(ハンコより槍が出てくる)
【要塞視察:警戒レベル100】
ご覧いただきありがとうございました。
村長さんの家、もはや二条城か金沢城でしたね。
「行政度 5」という査定結果がすべてを物語っています。あそこは間違いなく、書類仕事ではなく「首を取る」ための場所です。




