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三 ヴァレンティナ・ドラグノワというひとは

 ヴァレンティナ・ドラグノワ。

 偉大なる六大侯爵家の令嬢。

 どんなときも光を返す銀糸の髪、揺らめく幻想的な菫色の瞳。薄く、だが形よく桜色に色づいた唇。

 本来であれば深窓の――高嶺の花だったはずの女性。

 それは稀代の魔力量と軍閥家系という前にあえなく散った。



 ただでさえ高い背は、真っ直ぐと威圧感を放ち、偉丈夫さえ震え上がらせる。

 訓練で酷使したその声は割れ、掠れ低くなった。

 そしてその鋭い眼光は。



「……」

「ど、ドラグノワ少将…っ!申し訳ありません!魔が、魔が差してっ…」

「ほう、魔が」

「…あ、ええ!そうなんです!魔が…っ」

「……成程……」

「し、少将…?」





「その程度の言い分でなんとかなると思ったのか」






「ひっ…!!」



 筋骨隆々の佐官をも、失禁させる…オエッ…!

「拘束しろ。軍法会議に回す」

「そんなっ…少将っ少将ーー!!」

「連れて行け」

 泣き叫ぶ男の断末魔の残響が残る部屋で、麗人は溜息をひとつだけ落とした。

「…補給物資の鎮静剤に手を出すとはな」

 助かった、貴殿の記録がなければ見落としていた、と声を落とす。

「…事務方も抱き込んででしたから、なかなか気づけないかと」

「それは言い訳にならない」

 ピシャリと切って捨てる。

 …切り捨てるのは己自身もだ。


「部下の管理不足は、私の手落ちでもある」



 薄氷のような、危うい鋭さ。

 思わず息を詰める。

 と。



「それはそうと今日は一緒に晩餐でもどうだろうか」

「台無しです色々とッ!!」


 






「いや〜ニコ君本当おつかれさま」

「いや笑い事じゃないんですよこっちは…」 

 あっはっはっと軽妙な笑い声をあげるのは経理部の係長…直属上司である。

「でもねぇ本当信じられないよねぇ」

 軍閥のお姫さまがなんでこんな事務方に興味持つんだろうねぇと…なかなか鋭い一撃で刺す。

「…ぼくが聞きたいです、本当それ」

「いや知りたいのはこっちだって!」

「うおっ?!」

 強引に肩を組んできたのは―同期のイワン。事務方なのに華やかで明瞭…色々と劣等感を刺激される存在だ。その彼が眉をしかめて言う。

「絶対!何かあったよな?軍閥とはいえ侯爵家のご令嬢だぞ?玉の輿間違いなし!うらやましーったらない!」

「こらこらイワン君、不敬だよ」

「いやでもだってそうでしょー…まぁ、相手があの主砲令嬢ってのは、アレですけど」

 …アレとは。

「美人だけど、表情が無過ぎて何考えてるか分かんないし」

 それはそう。

「なんかやたらでかくて威圧感すごいし」

 …それ、は、ちょっと、思ってしまったけど。

「そもそも強すぎ怖すぎてなんかあったら処されそう」

 …それ、は。

「それ、は、関係、ないでしょ」

「ん?」

「数字は」



「数字は、嘘つかない」



「は?」

「ドラグノワ少将は、確かに、何考えてるか!分かんないけど!…あの人の出陣した戦場の兵士の帰還率は、他より15%も、高い」

「え」

「あらまぁ」

「だっ…だからっ」

 言い争うのは苦手だ。意見を通すのも苦手だ。声がどもる。変な汗をかく。でも。


 ……言わずに、いられない時も、ある。


「…ドラグノワ少将は、そんな、理不尽なこと、しないっ」

 必死になって言い募れば。

「いやーそれ知らんかったわ、あ、てかごめんなー?感じ悪かったよな?」

 めんごめんご!と軽く謝られる。

 ……

 え。

「イワン君…さすがにさっきのは僕も感じ悪いと思ったよ〜」

「え?!マジですかうわーニコライごめんな!!」

 


 軽い。



 思わず机に突っ伏す。



「え、まじでごめんてーニコライ〜〜」

「…ぼくは…心底、きみがきらいだよ…!!」

「OH…情熱的な告白ありがとな!」

「死ね」

「生きる!」

「仲いいねぇ君たち」

 のほほんとこちらを見る係長まで憎い。

 と、その係長が首を傾げた。


「あれ?」


「…なんですか?」

「さっきのニコ君のあれ、ほら」

「ドラグノワ少将がいた場合の帰還率ですか?」

「じゃなくてぇ、ほら」



「『数字は嘘つかない』」



 あれ確か、前も君言ってなかったっけ〜?

 と係長がほやほやいっている執務室の外で。





 ヴァレンティナ・ドラグノワ、そのひとが。



「…やっぱり……すきっ……!!」



 悶えてることなど、ぼくは知る由もなかったのである。

4話以降は明日以降、1話ずつ掲載予定です。

☆ひとつでも構いませんので、よければ評価いただけますと嬉しいです!

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