小熊としての初めての戦い
土煙と瓦礫の中から……。
俺は、持てる力のすべてを使って走り出した。
だが、今回は……。
少し事情が違う。
少し考えてから、俺はある大切なことを思い出した。
熊は、二本足だけで走る生き物じゃない。
四本足を使う。
そして、そのほうが速い。
……。
はははは……。
本当に、何とも言えないほど恥ずかしい。
これまでずっと……。
俺は人間のように振る舞おうとしていた。
再び、ミミズが俺に向かって突進してくる。
まあいい。
どんな体にも、それぞれのやり方がある。
俺には人間の頭がある。
だから最初から、考え方は単純だった。
どうすれば、人間として生き延びられるのか。
熊の体になってしまった人間として。
ミミズの巨体が岩にぶつかり、洞窟が激しく揺れる。
だが、今は……。
そろそろ、そんな考え方をやめるべきなのかもしれない。
いつも、というわけではない。
だが……。
今の俺には、熊として戦う必要がある。
たぶん。
ミミズが俺へ向かって突進してきた。
口を開く。
その牙が、勢いよく回転している。
正直……。
見るたびに怖くなる。
だが、前にも言っただろう。
こんな情けない洞窟の中で、俺の人生が終わるわけにはいかない。
俺は体を低くした。
そして――。
ブォォン!
持てる力のすべてを使って跳んだ。
その瞬間……。
自分の体を、これまでとは違う感覚で感じ始めていた。
四本の足。
一つ一つの動き。
そして、それらをどうすれば最大限に使えるのか。
再び、ミミズの巨体が大きくうねる。
そして、その一部が洞窟の壁へ激しく叩きつけられた。
ガガガァン!
洞窟全体が揺れる。
そして――。
ドォォン!
天井から、何本もの尖った岩が落ちてきた。
そのうちの一本が、ミミズの体へ深く突き刺さる。
――おお……。
俺は少し後ずさった。
――あの岩、かなり強いな。
そして何より……。
このミミズにも効く。
俺は、その巨大な体を見た。
そして、自分を見る。
――よし。
あいつの体は大きい……。
俺の体は小さい。
さて……。
この方法で、何とかできるか?
目の前に、残り時間が表示された。
06:56
……。
時間が過ぎるのは、本当に早い。
それとも……。
俺がぐずぐずしすぎているだけか?
どちらにしても……。
あまりいい状況じゃない。
俺は洞窟の壁の近くを走り始めた。
そして跳ぶ。
別の方向へ移動する。
必要なのは……。
あいつを壁にぶつけることだけだ。
正直……。
まるで、何かの映画の中で踊っている気分だった。
再び、ミミズが俺へ向かって突進してくる。
俺は待った。
さらに待つ。
そして――。
ギリギリのところで!
横へ跳んだ。
ドォォン!
ミミズの巨体が、壁へ激しく激突した。
洞窟が揺れる。
そして、上から尖った岩が降り注ぐ。
ガガガァン!
そのうち三本が、ミミズの体に突き刺さった。
――グギィィィィィッ!
本当に耳を痛めるような声だった。
だが……。
少なくとも。
このまま続ければ……。
あいつは、自分で自分を倒してくれるかもしれない。
そのとき――。
目の前にウィンドウが現れた。
【《ナメクジワーム》は固有スキルを所持しています】
【スキル:繭】
――はぁ?
どういう意味だ?
ミミズが、突然動きを止めた。
……。
そして……。
奇妙なことが起こり始めた。
体の後方部分が、わずかに動く。
次の瞬間――。
そこから、粘ついた糸のようなものが吐き出され始めた。
それは地面の上へ積み重なっていく。
そして……。
どんどん大きな塊になっていった。
……。
見た目は、まるで卵のようだった。
その塊が、ゆっくりと震え始める。
俺は、その場で固まった。
――おい……。
――おいおいおい……。
これは、嫌な予感しかしない。
なんで急に、戦い方を変えたんだ?
俺はミミズの体を見た。
……。
まあ。
原因は、俺かもしれない。
あれだけの岩が、あいつの体に突き刺さったんだからな……。
そこで、俺は動きを止めた。
……。
――何が起きる?
正直、あの中から危険な何かが出てくると思っていた。
ほら……。
こういうのは、大抵そうだ。
敵が突然動きを止める。
奇妙なスキルを使う。
そして、そのあと……。
もっと厄介な何かが出てくる。
だが……。
何も起こらなかった。
……。
さて。
俺はどうすればいい?
何かが出てくるまで、主人公みたいに待つべきか?
それとも……。
あれを攻撃するか?
……。
よし。
二つ目にしよう。
――ふぅ……。
――行くぞ!
俺は全力で走り出した。
だが、あいつへ向かって走っている途中……。
小さな問題があることに気づいた。
確かに、俺は走っている。
だが……。
何の作戦もなく走っているだけだ。
短剣は使えない。
この体で、どうやって戦えばいいのかも分からない。
まるで、店で売られているぬいぐるみみたいな体だ。
どうすればいい?
……。
待て。
一つ、思い出した。
俺には、土魔法がある。
あの熊から手に入れたものだ。
そうだ。
問題は……。
どうやって使う?
何か特別な言葉でも唱える必要があるのか?
だが、あの熊は使ったとき、何も口にしていなかった。
俺は、はっきりとした作戦もないまま近づき続ける。
すると突然……。
ミミズの体が膨らみ始めた。
――はぁ?
今度は何だ?
また攻撃か?
急がなければならない。
走りながら、俺は考えた。
もしかして……。
ただ、イメージすればいいのか?
土魔法。
俺は高く跳んだ。
ミミズの体を見る。
そして――。
さっきの尖った岩を思い出した。
そうだ。
あれと同じだ。
岩の塊が、一つ……。
そして、もう一つ……。
空中に、次々と形成されていく。
……。
――おお……。
かなり格好いい。
まさか、本当に魔法を使っているなんて。
まるで、ゲームやアニメの中みたいだ。
――そして……。
――行けぇぇぇ!
三つの尖った岩が、空中に現れた。
そして――。
ドォォン!
勢いよく、ミミズの体へ落ちていった。
土煙が舞い上がる。
俺は一瞬、動きを止めた。
――成功したか?
正直……。
ただの岩でも効くなら、それで十分だ。
だが……。
土煙が晴れ始める。
……。
――おい。
ミミズの体が現れた。
傷一つ、ついていない。
――おいおいおい……。
どういうことだ?
あれだけの攻撃を受けて、なんで無傷なんだよ?
すると……。
ミミズの口が膨らみ始めた。
そこから、煙が立ち上る。
俺は一歩後ずさった。
――今度は何だ?
俺は地面へ降りた。
すると、その口が動き始める。
持ち上がり……。
さらに大きく開いた。
その奥で……。
赤く光る何かが見えた。
――は?
目の前にウィンドウが現れる。
【警告】
【《ナメクジワーム》が火魔法を使用します】
……。
俺はウィンドウを見た。
――なるほどな。
そして――。
――なんで、この警告はこんなに遅いんだよ!?
答えはなかった。
当然だ。
だから……。
俺に残された選択肢は、一つしかなかった。
――逃げろおおおおおおおおっ!
俺は後方へ走り出した。
その瞬間――。
ブォォォォォン!
ミミズの口から、炎が噴き出した。
炎は周囲へ広がっていく。
一気に温度が上昇した。
岩でさえ、溶け始めているように見える。
――おいおいおい!
――おい!
俺は走った。
持てる力のすべてで走った。
だが……。
背後から、溶岩が広がり始めていた。
――うおおおおおっ!?
冗談だろ!
なんでただの炎が……。
溶岩の洪水みたいなものになってるんだよ!?
――くそっ!
新たなウィンドウが現れた。
【《ナメクジワーム》は、卵を温めるために炎と溶岩を使用しています】
……。
……。
……。
俺の思考が、一瞬止まった。
――つまり……。
あいつは、卵を孵そうとしているのか!?
俺は、先ほどあいつが作り出した塊を見る。
再び……。
ゆっくりと震えている。
――よし……。
これは、本当に嫌な予感しかしない。
だが――。
――うおおおっ!?
俺は、その場から跳び退いた。
周囲を、溶岩が埋め尽くしていく。
――くそっ!
どこへ逃げろっていうんだよ!?
隠れる場所なんてない。
この溶岩から、俺の体を守ってくれるものもない。
……。
もしかしたら、この体には高い耐性があるのかもしれない。
何しろ、毛皮は分厚い。
もしかしたら――。
ジュッ!
小さな溶岩のしずくが、俺の毛皮に飛び散った。
……。
くん……。
くん……。
俺は動きを止めた。
……。
何だ、この匂い?
背中を見る。
俺の表情が固まった。
――あああああああっ!
燃えてる!
俺、燃えてるぞ!
消火器はどこだ!?
――誰か助けてくれぇぇぇ!
ふぅ!
ふぅ!
ふぅ!
ふぅ!
熱さは消えなかった。
それどころか……。
痛いほどの熱を感じ始めた。
……。
ああ。
これで分かった。
この体は、こういうものに耐えられるようにはできていない。
そのとき――。
俺の前に池が見えた。
――水だ!
俺は、持てる力のすべてでそちらへ走った。
そして、焼けるような熱が増していく中――。
跳んだ!
バシャァァァン!
水が、俺の体を包み込む。
――ふぅぅぅ……。
ようやく、少し楽になった。
水面の上では、溶岩が池へ落ち……。
すぐに蒸発している。
――くそ……。
水魔法でも使えればよかったのに。
だが……。
一つだけ、少し重要な問題がある。
熊って、水の中でも生きられるのか?
……。
うーん。
考える価値のある質問だ。
いや……。
たぶん、ない。
ほら。
この泡が、その答えを教えてくれている。
ぶく……。
ぶく……。
ぶく……。
……。
ぐっ……。
げほっ……。
俺は水面へ上がろうとした。
だが、できない。
必死に体を動かす。
それでも……。
無駄だった。
息が苦しくなっていく。
……。
――くそ……。
これは、まずい。
ここで溺れたら……。
俺は死ぬ。
そもそも、それが目的だったわけじゃない。
そして、しばらくすると……。
体から力が抜け始めた。
思考さえも、ゆっくりになっていく。
頭の中の言葉も……。
ほとんど聞こえなくなっていた。
そして……。
すべてが、少しずつ遠ざかっていく。
……。
どれくらい時間が経ったのか、俺には分からない。
だが……。
声が聞こえた。
遠くから聞こえてくる声。
――小さな獣よ……。
……。
――は?
誰だ?
――目を覚ませ……。
どうやって目を覚ませっていうんだよ……。
もう死んでるだろ?
すると……。
突然、強い冷気を感じた。
――何だ?
この寒さは?
死んだからか?
――小熊よ。
――目を覚ませ。
だから言ってるだろ……。
俺はもう死んでるんだ!
その瞬間――。
強い光が、目の前を照らした。
俺は勢いよく目を開けた。
――はぁぁぁぁっ!
――ゲホッ! ゲホッ! ゲホッ! ゲホッ!
……。
ところで。
小熊のくしゃみって、可愛いと思うか?
……待て。
違う。
何を言ってるんだ、俺?
俺は素早く顔を上げた。
――俺は……。
生きてるのか?
周囲を見回す。
俺は、池のそばに横たわっていた。
だが……。
この場所は、さっきとは違う。
地面は冷たく……。
まるで氷のようだ。
それでも、分厚い毛皮のおかげか。
俺は、それほど強い寒さを感じなかった。
すると……。
再び、あの声が聞こえた。
――どうやら、無事なようだな。小熊よ。
俺は動きを止めた。
……。
この声……。
さっきも聞いた気がする。
俺は顔を上げた。
そして、前を見る。
そこには……。
巨大な岩があった。
その周囲には、大きな鎖が巻きついている。
……。
――何が起きている?
その岩の中には、影のようなものがあった。
そして、声が響く。
――よく来たな。この場所へ。
俺は一歩後ずさった。
――誰だ!?




