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封印されたドラゴン


目の前にある、巨大な氷の塊を見つめた。


いや、そもそも……。


あれを本当に「氷」と呼んでいいのだろうか?


明らかに、ただの氷とは違っていた。


巨大な氷塊の奥には、何か巨大な存在の影が閉じ込められている。


そして、その周囲には何本もの巨大な鎖が巻きついていた。


――小熊よ……。


再び、氷の中から声が聞こえてきた。


――我が特別な場所へようこそ。


特別な場所?


どういう意味だ?


俺は目の前の巨大な氷塊を見つめながら、口を開いた。


――すみません。


――もしかして、この氷の中から声を出しているのは、あなたですか?


――クククク……。


声の主が笑った。


――その通りだ。


そして、続ける。


――だが、これはただの氷ではない。


――これは、私を閉じ込めるための封印だ。


なるほど。


巨大な鎖。


そして、この異様な氷。


少しだけ事情が分かった気がする。


――つまり……。


俺は少し迷った。


――すみません、その……。


――あなたは、一体何者なんですか?


氷の向こうには、巨大な影が見えている。


だが、それが何なのかまでは分からなかった。


すると――。


――なにぃぃぃぃぃ!?


俺は動きを止めた。


怒ったのか?


――この私が分からないのか、小さな獣よ!?


その声には、明らかな怒りが含まれていた。


だから……。


俺は少し慌てた。


――あ……。


――あ、申し訳ありません!


――そんなつもりじゃ……!


もう一度、氷の向こうにある影をじっと見つめる。


そして、考えた。


――もしかして……。


少し間を置く。


――ここに閉じ込められている、人間とか?


ブオオオオオオッ!


凄まじい冷気が吹き荒れた。


俺は、その場で凍りつく。


うん。


何か間違ったことを言ったらしい。


いや……。


かなり、とんでもなく間違ったことを言ったようだ。


――この私を人間だと言ったのか、この下等な獣が!?


声がさらに大きくなる。


――私は、そんな下等な人間などとは比べものにならん!


俺は唾を飲み込んだ。


――首を切り落としてほしいのか!?


――本当に申し訳ありませんでした!


俺は慌てて頭を下げた。


――決して侮辱するつもりではありませんでした、偉大なる存在よ!


実際……。


俺は、とてつもない力を感じていた。


普通の魔物にはあり得ない力。


もちろん、普通の人間にもあり得ない。


だからこそ……。


俺のすべての感覚が、一つのことを訴えていた。


頭を下げろ。


そして、生き延びるために許しを請え。


――俺は、ただの小熊ですから!


俺は慌てて言った。


――ここへ来たばかりで、何も知らないんです!


――どうか、お許しください!


しばらくすると……。


吹き荒れていた冷気が、ゆっくりと収まっていった。


――フフフ……。


声の主が笑う。


――よろしい。


――どうやら、自分の立場を理解しているようだな。小さな獣よ。


よし。


どうやら、少しは落ち着いたらしい。


だが……。


さて。


ここからどうすればいい?


このまま頭を下げているべきか?


それとも、立ち上がるべきか?


何か別のことを言ったほうがいいのか?


考えてみれば……。


俺がこの場所で誰かと出会うのは、これが初めてだった。


すると、再び声が響く。


――お前は、どこから来た? 小熊よ。


俺は動きを止めた。


――それに、お前には特別な意識がある。


――言葉を話し、意思疎通もできる。


――この迷宮の魔物は、すべて知性のない獣だと思っていた。


――己の本能だけに従っているものだと。


ああ。


ここで問題が発生した。


どう答えればいい?


俺が……。


ただの人間で、間違ってこの場所へ来てしまったなんて言うのか?


いや。


待て。


さっき、こいつは人間を「下等」と呼んでいた。


そんな相手に、自分が元人間だったと話すのは……。


本当に賢明な選択なのか?


すると、再び声が聞こえてきた。


――嘘をつこうなどと考えるなよ、小熊。


俺の体が固まった。


――お前が嘘をついているかどうかくらい、私には分かる。


うん。


さらに面倒なことになった。


となると……。


もう選択肢は一つしかない。


真実を話すことだ。


俺は深く息を吸った。


そして、勇気を振り絞る。


この存在に、自分が何者なのかを説明するために。


俺は最初から話し始めた。


――俺は、自分の世界ではただの人間でした。


――ある日、眠りから目を覚まして、少し買い物をしようとしていたんですけど……。


少しだけ言葉を止める。


――次の瞬間には、もうこの場所にいました。


もちろん。


いくつかの細かい部分は省いた。


目の前に、あのウィンドウが現れたこと。


そして、別の世界にいる誰かを救うという、よく分からない任務に選ばれたこと。


だが……。


会って間もない相手に、自分の秘密をすべて話す理由なんてない。


特に……。


俺自身、あの任務についても。


あのウィンドウについても。


まだ何も分かっていないのだから。


だから……。


俺は真実を話した。


いや。


正確には……。


話せる範囲の真実を。


――そのあと、俺は一体の魔物と戦いました。


――そして、どうにかそいつを倒したんです。


まあ。


その勝利には、洞窟が少し協力してくれたけどな。


――そのあと、その魔物に呪いをかけられました。


俺は自分の小さな体を見る。


――だから、俺は熊になってしまったんです。


――それから、色々あって……。


――光る池に落ちました。


少し言葉を止める。


――溺れて死ぬと思ったんです。


――でも、気がついたらこの場所にいました。


そして。


俺の説明は、だいたいそこで終わった。


あまりにも急速に変わっていく人生の。


短いまとめのようなものだった。


しばらく、沈黙が続いた。


そして……。


再び声が聞こえてくる。


――ふむ……。


俺は待った。


――どうやら、嘘をついているわけではなさそうだな。小熊よ。


俺は、ほっと息を吐いた。


――つまり……。


声の主が続ける。


――お前は、以前は人間だったということか。


いや。


ちゃんと話を聞いていたのか?


今、まさにそれを説明したばかりなんだけど。


もちろん。


そんなことを口に出すわけにはいかない。


表向きは……。


俺はただ笑った。


熊の笑顔が可愛いのか。


それとも怖いのか。


俺には分からない。


だが、とにかく笑った。


――はい。


そして、俺は顔を上げた。


――ですが……。


――もし、お気を悪くされないのでしたら……。


――あなたが何者なのか、教えてもらえますか?


――話している相手のことを分からないままというのは、あまり好きではないので。


――クククク……。


声の主が笑った。


――もちろんだ、小熊よ。


――考えてみれば、最初に名乗るべきだったな。


声の雰囲気が変わった。


明らかに……。


誇らしげなものへと。


――心の準備をしろ。


心の準備?


――お前はこれから、この世界に存在した最も偉大な存在の一人を知ることになる。


は?


――私は……。


一瞬、言葉が止まる。


そして。


誇らしげに名乗った。


――ヴィアフェンナー。


俺は待った。


――生命の竜。


ふむ。


生命の竜。


つまり、竜で……。


竜!?


――はぁ!?


俺は勢いよく顔を上げた。


――今、俺の目の前にドラゴンがいるのか!?


――クククク!


再び、笑い声が響く。


――その通りだ、小熊よ。


――この私の前にいられることを、ありがたく思うがいい。


正直……。


複雑な気持ちだった。


怖がれば、怒って殺されるかもしれない。


疑えば、怒って殺されるかもしれない。


だから……。


俺は三つ目の道を選んだ。


――お会いできて光栄です、偉大なる竜よ。


――クククク……。


どうやら、この返事は気に入ったらしい。


すると、彼女が尋ねてきた。


――では、お前は?


――小熊よ。お前の名は何という?


ああ。


その質問か。


――俺は……。


少し止まる。


――実は……。


――今は、名前がありません。


――名前がない?


――理由は分かりません。


俺はため息をついた。


――昔は、ちゃんと名前がありました。


――でも、この世界へ来て、この姿になってから……。


――完全に忘れてしまったんです。


――クククククク!


彼女が笑い始めた。


――どうすれば、そんな短期間で自分の名前を忘れられるのだ?


――恐怖で頭でもおかしくなったのか、小熊よ?


くそ。


これ以上、俺を惨めにするな。


ただでさえ、十分に恥ずかしいんだから。


――クククククク!


彼女は笑い続ける。


――まさか、自分の名前を忘れるとはな!


――これ以上、俺を笑うなら……。


俺は後ろを振り返った。


――帰ります。


実際……。


本当に恥ずかしかった。


だから、俺は去ることにした。


まあ。


そういうふりをしただけだが。


――待て、小熊よ!


俺は動きを止めた。


――行くな。


――え?


俺はゆっくりと振り返った。


――帰ります。


いや。


正直なところ。


俺には行く場所なんてなかった。


周囲を見回す。


氷。


そして、また氷。


見渡す限り……。


どこまでも氷しかない。


唯一の光は……。


あの池から放たれていた。


だから、そう。


俺が「帰る」と言ったのは嘘だった。


だが……。


それを彼女に教える必要はない。


すると、再び彼女の声が聞こえた。


――実は……。


少し言葉が止まる。


――私は……。


彼女は、少しためらっているようだった。


――その……。


――あの……。


もしかして。


恥ずかしがっているのか?


――長い間、誰かと話していなかったんだ。


少し沈黙する。


――だから……。


――自分が言いたいことを、どう言えばいいのか……。


――よく分からない。


俺は待った。


――だから……。


――その……。


――私は……。


そして――。


――まあ……。


再び、沈黙する。


思っていたより、難しいことらしい。


そして、ようやく。


彼女は口を開いた。


――すまない。


俺は動きを止めた。


――さっきは、少し礼儀を欠いた。


――だから……。


――ここにいてくれないか?


ふむ。


正直……。


その言葉を聞いて、一つのことに気づいた。


彼女は孤独だった。


そして……。


本当に、誰かと話せる相手を求めていたのかもしれない。


俺は笑った。


――俺の状況を理解していただき、ありがとうございます。偉大なる竜よ。


――もう二度と、このようなことはない!


一瞬で、誇らしげな口調が戻ってきた。


――だから、感謝するがいい!


――この私が、自らの非礼を謝罪したのだからな!


分からない。


だが……。


もし、あの巨大な氷の封印が俺たちの間になかったら。


俺は、すでに死んでいた気がする。


それでも……。


今のところは。


そこまで悪い存在には見えなかった。


――そうだ。


彼女が突然言った。


――お前は、私の名前で呼んでも構わない。


は?


――本当にいいんですか?


――クククク!


彼女は誇らしげに笑った。


――この偉大なる私が許可したのだ。


――お前に、私の名で呼ぶことを許そう。小熊よ。


なるほど。


やっぱり。


ドラゴンというのは、本当にプライドが高いらしい。


――分かりました。


俺は笑った。


――会えて嬉しいです、ヴィアさん。


……。


……。


ヴィア――。


さん!?


俺は動きを止めた。


くそ。


また、知らないうちに怒らせたのか?


だが……。


名前で呼んでいいと言ったのは、彼女のほうだ。


――すみません、偉大なる竜よ。


――「さん」と呼んだことが、お気に障りましたか?


――コホン……。


今度の声は、少し違っていた。


――いや。


少し間を置く。


――そういうわけではない。


そして――。


――ただ……。


再び、彼女はためらった。


――私の名を、そうやって呼んだ者が……。


沈黙する。


――一人しかいなかった。


――正直……。


――私自身、自分の名前さえ忘れかけていた。


ああ。


そういうことか。


もしかすると……。


誰かが自分の存在を知っている。


そして。


自分の名前を呼んでくれる。


それは、そういう感覚なのかもしれない。


――そうですか。


俺は笑った。


――それなら、改めて。


――会えて嬉しいです、ヴィアさん。


――ククク……。


彼女が小さく笑った。


――ああ。


――私もだ、小熊よ。


すると、一つ気になることが浮かんだ。


――ヴィアさん。


――ん?


――あなたは、いつからここにいるんですか?


――気になるのか?


――ええ。


――そんなところです。


彼女は少し笑った。


そして、答える。


――おそらく……。


――この部屋の外では……。


少し言葉を止める。


――およそ三千年が過ぎている。


三千年!?


とんでもない時間だ。


長い間、孤独を感じていたのも当然だろう。


だが……。


待て。


――「この部屋の外では」というのは、どういう意味ですか?


――ああ。


彼女は落ち着いた声で答えた。


――ここでは、外とは時間の流れ方が違うということだ。


俺は顔を上げた。


――ここでは、一年しか経っていないのかもしれない。


――一か月かもしれない。


――あるいは、三日しか経っていない可能性だってある。


ふむ。


なるほど。


……待て。


おい、おい、おい……。


それはどういう意味だ?


どうして、ここでは短い時間しか経っていないのに……。


外では、三千年もの時間が過ぎているんだ?

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