第92話 『パーティ追放された付与術師、異世界に転移して人助けしながらハーレムを築く。今更戻ってくれと言われてももう遅い』第1話
「アルフ。お前は今日でこのパーティを抜けろ」
その日、アルフは幼馴染であり、パーティのリーダーでもあるカインから、そう告げられた。
最初は、意味が分からなかった。
宿の一室。
依頼を終え、いつものように五人で明日の予定を決めるはずだった。
剣を壁に立てかけたセシル。
杖を膝の上に置いたローザ。
窓際で腕を組んでいるリディア。
そして、机の向こうに立つカイン。
いつもの面子だった。
幼い頃から、ずっと一緒にいた五人だった。
だから、アルフは冗談だと思った。
「な、何を言っているんだよ、カイン」
「僕たち、幼馴染五人で、ずっとこれまでやってきたじゃないか」
「だからだよ」
カインは、冷たい声で言った。
「俺たち四人は強くなった」
「これから先、もっと強い魔物とも戦うことになる」
「もっと危険な依頼も受けることになる」
カインの目が、アルフを見る。
「それに引き替え、お前はどうだ」
アルフは、息を呑んだ。
「何の役に立っているのかも分からない付与術師」
「それだけだ」
何を言われたのか、すぐには理解できなかった。
何の役に立っているのかも分からない。
付与術師。
それだけ。
アルフは自分の手を見た。
この手で、何度も仲間の武器に術を重ねた。
この手で、何度も防具に衝撃を逃がす術を刻んだ。
この手で、セシルの剣に切断補助を、カインの槍に貫通補助を、ローザの杖に魔力循環を、リディアの杖に詠唱安定を与えてきた。
夜、皆が眠った後に。
朝、皆が起きる前に。
戦いの前に。
戦いの後に。
武器の刃こぼれを抑えた。
鎧の歪みを直した。
靴に滑り止めを重ねた。
荷物に軽量をかけた。
野営道具に保温をかけた。
誰も気づかなくてもいいと思っていた。
気づかれなくても、役に立っているならそれでいいと。
そう思っていた。
だが。
「本気で、言っているのか」
アルフの声は、震えていた。
「僕が、何の役にも立っていないって」
「本当に、そう思っているのか」
カインは答えなかった。
代わりに、視線を逸らさずに言う。
「これはパーティの総意だ」
「リーダーの俺が決めた」
アルフは、カインから視線を外した。
セシルを見る。
「セシル」
セシルは唇を噛み、目を逸らした。
「ローザ」
ローザは杖を握りしめたまま、何も言わなかった。
「リディア」
リディアは何かを言いかけた。
だが、結局、口を閉ざした。
それが、答えだった。
アルフの胸の奥で、何かが冷えていく。
幼馴染だった。
仲間だった。
ずっと、一緒に強くなってきたと思っていた。
違った。
彼らにとって、自分はもう仲間ではなかった。
彼らは、自分が何をしてきたのか、本当に分かっていなかった。
いや。
分かろうともしていなかった。
「……そうか」
アルフは、小さく呟いた。
手元の鞄を取る。
中には、付与用の道具と、わずかな衣類。
それから、これまで皆の武器や防具に使ってきた触媒が入っていた。
カインは何も言わない。
セシルも。
ローザも。
リディアも。
誰も止めなかった。
アルフは扉へ向かった。
取っ手に手をかける。
その瞬間、ほんの少しだけ、振り返りそうになった。
もしかしたら、誰かが呼び止めてくれるかもしれない。
冗談だったと言ってくれるかもしれない。
悪かったと。
必要だと。
一緒にいてくれと。
そう言ってくれるかもしれない。
だが、誰も言わなかった。
アルフは扉を開けた。
「分かった」
振り返らずに言う。
「もういい」
「こんな奴らに、未練なんてない」
扉が閉まった。
廊下を歩く足音が、自分のものではないように聞こえた。
宿の階段を下りる。
受付の横を通る。
外へ出る。
夜の風が、頬を撫でた。
冷たかった。
アルフは、そのまま歩き出した。
◇
扉が閉まった後。
部屋の中には、重い沈黙だけが残っていた。
誰も動かなかった。
誰も口を開かなかった。
やがて、リディアが小さく言った。
「カイン」
カインは答えない。
「本当に、いいの……?」
カインは、しばらく黙っていた。
そして、低く言った。
「これ以外の方法を思いつかなかった」
拳を握りしめる。
「すまない」
それ以上、誰も何も言えなかった。
◇
アルフは、夜の街を彷徨っていた。
宿を取る気にもなれなかった。
食事をする気にもなれなかった。
ただ、歩いていた。
カインの言葉が耳から離れない。
何の役に立っているのかも分からない付与術師。
それだけ。
「……何も、分かっていなかったんだな」
ぽつりと呟く。
何度も、カインの槍を強化した。
セシルの剣を補助した。
ローザの回復を支えた。
リディアの魔法を安定させた。
今まで容易く倒せていた魔物も。
長い遠征でも疲れ切らずに済んでいた旅も。
荷物を運べていたことも。
武器が折れずに済んでいたことも。
全部、全部。
自分の付与があったからだ。
なのに。
役に立っているのかも分からない。
アルフは唇を噛んだ。
怒りよりも先に、胸が痛かった。
なぜ、誰も見てくれなかったのか。
なぜ、誰も気づいてくれなかったのか。
なぜ、誰も必要だと言ってくれなかったのか。
自分は、そんなにも軽かったのか。
その時だった。
「待って!」
幼い声がした。
アルフが顔を上げると、一人の女の子が小さな犬を追いかけて通りへ飛び出していた。
角の向こうから、馬車が来る。
御者の悲鳴。
馬の嘶き。
車輪の音。
女の子は気づいていない。
考えるより先に、身体が動いた。
「危ない!」
アルフは駆け出した。
女の子に飛びつく。
小さな身体を抱え、通りの端へ突き飛ばす。
女の子の身体が、石畳の上に転がった。
犬が吠える。
その直後。
馬の蹄が、アルフの目の前に迫った。
ああ。
避けられない。
最後に見えたのは、驚愕に目を見開く女の子の顔だった。
◇
「――ここは、どこだ」
アルフは、白い空間の中で目を覚ました。
空もない。
地面もない。
ただ、どこまでも白い光だけが広がっている。
「僕は、あの時……」
記憶が曖昧だった。
夜の街。
女の子。
馬車。
馬の蹄。
そこまで思い出して、アルフは息を呑んだ。
「確か、女の子を庇おうとして、馬車の前に飛び出して……」
「アルフ」
声がした。
振り返ると、そこに一人の女性が立っていた。
美しい女性だった。
人間ではない。
それは、すぐに分かった。
穏やかで。
静かで。
けれど、人とは違う遠さを持つ存在。
アルフは、無意識に一歩下がった。
「あなたは死にました」
「……何を」
アルフは笑おうとした。
だが、笑えなかった。
「急に出てきて、何を言っているんですか」
「僕が死んだなんて、信じられるわけ――」
その瞬間、記憶が戻った。
馬の脚。
迫る車輪。
全身を潰す衝撃。
折れる音。
痛み。
そして、何もなくなった。
アルフは、言葉を失った。
「そうか」
小さく呟く。
「僕は、死んだのか」
「はい」
「あなたは、神様なんですね」
「そうです」
女神は静かに頷いた。
「神々は、あなたの行いを見ていました」
「あなたは、まだ死ぬには惜しい」
「だから、新たな力と人生を授けます」
「今のあなたのまま、違う世界でやり直せるのです」
アルフは、すぐには答えられなかった。
死んだ。
追放されたその日の夜に。
幼馴染たちに捨てられたその日に。
自分は、死んだ。
そして、目の前の女神は言う。
新しい人生を与えると。
「選ぶのは、あなた自身です」
女神が言った。
「どうしますか、アルフ」
アルフは拳を握った。
胸の奥に、まだ痛みが残っている。
カインの言葉。
セシルの沈黙。
ローザの伏せた目。
リディアの閉ざした口。
全部、まだ残っている。
「選ぶ前に」
アルフは言った。
「一つ、お願いがあります」
「何でしょう」
「あの四人がどうなったか」
「見せてもらうことはできますか」
女神は、わずかに目を伏せた。
「……良いでしょう」
白い光が揺れた。
目の前に、光景が映し出される。
森の中だった。
カインが槍を振るっている。
セシルが剣で魔物の攻撃を受け止めている。
ローザが必死に回復魔法を唱えている。
リディアが炎を放とうとして、詠唱を乱している。
相手は、これまで何度も倒してきた魔物だった。
だが、四人は苦戦していた。
カインの槍は重そうだった。
セシルの剣は魔物の鱗に弾かれた。
ローザの魔力は乱れ、リディアの炎は途中で揺らいで消えた。
鎧に刻んでいた衝撃緩和がない。
剣に重ねていた切断補助がない。
槍に与えていた貫通補助がない。
杖に入れていた詠唱安定がない。
回復魔法の魔力循環補助がない。
全部、ない。
当然だった。
アルフがいないのだから。
カインが吹き飛ばされた。
セシルが膝をついた。
ローザが血を流しながら、それでも回復魔法を唱えている。
リディアが唇を噛んで、震える手で杖を握り直す。
アルフの胸の奥が、熱くなった。
ほら。
やっぱりだ。
僕がいなければ、そんなものじゃないか。
僕の価値を分かっていなかった。
僕がどれだけ支えていたのか、分かっていなかった。
落ちぶれて当然だ。
ざまぁみろ。
そう思った瞬間、胸の奥が少しだけ痛んだ。
それでも、アルフは目を逸らせなかった。
女神は、何も言わなかった。
やがて、光景が消える。
アルフは深く息を吐いた。
「……次の人生を、授けてください」
顔を上げる。
「力も」
女神は頷いた。
「あなたへのギフトは、万能付与」
「どんなものにでも、思うがままの能力を付与できる」
「あなたらしいスキルです」
「僕らしい……」
「ええ」
「あなたは、誰かを支える力で生きてきました」
「その在り方を、神々は見ていました」
アルフは目を閉じた。
誰かを支える力。
それは、カインたちには分からなかった力だ。
でも、神々は見ていた。
自分の力を。
自分の価値を。
見てくれていた。
「分かりました」
アルフは頷いた。
「送ってください」
「次の人生へ」
「では、行きなさい」
女神が手をかざす。
「新しい世界で、あなた自身の人生を歩むのです」
白い光が、アルフを包んだ。
◇
新しい世界で、アルフの付与はすぐに役に立った。
疲れて歩けない旅人がいれば、靴に疲れを感じにくくなる術を付与した。
「足が軽い」
「これなら、次の村まで歩ける」
「ありがとう、若い付与術師さん」
感謝された。
痛みで仕事ができない男がいれば、腕輪に痛みを感じにくくする術を付与した。
「痛くない」
「これなら、まだ働ける」
「助かった。本当に助かった」
涙を流して礼を言われた。
切れ味の悪い包丁に苦労している女がいれば、刃に切れ味が落ちない術を付与した。
「すごい」
「こんなに簡単に切れるなんて」
「これなら仕事が早く終わるわ」
喜んでもらえた。
護身用の短剣を不安そうに握る少女がいれば、その刃に強い切断の術を付与した。
「これなら、私でも身を守れる」
「ありがとう」
笑顔を向けられた。
水に困っている村があれば、井戸に水が出る術を付与した。
枯れかけていた井戸から、水が溢れた。
村人たちは泣いて喜んだ。
「水だ」
「井戸に水が戻った」
「神様みたいだ」
アルフは何度も頭を下げられた。
破れやすい外套には、破れにくさを。
冷たい夜を越えられない毛布には、温かさを。
重い荷車には、軽さを。
すぐ欠ける鍬には、丈夫さを。
困っている人を見るたび、アルフは付与をした。
そのたびに、人は笑った。
そのたびに、ありがとうと言われた。
ありがとう。
助かった。
あなたのおかげだ。
その言葉を聞くたび、アルフの胸の奥に空いた穴が、少しずつ埋まっていく気がした。
僕の力は、役に立つ。
僕の付与は、人を救える。
この世界では、僕の力を必要としてくれる人がいる。
前の世界では、役立たずと言われた。
何の役に立っているのか分からないと言われた。
仲間だと思っていた者たちに、切り捨てられた。
だが、この世界では違う。
アルフを慕い、ついてくる者も現れた。
怪我をして働けなくなりかけていた娘。
重い荷を運べず困っていた商家の少女。
旅の途中で魔物に襲われ、足を痛めた女冒険者。
アルフは彼女たちを助けた。
助けられた彼女たちは、アルフを慕った。
一人、また一人と、アルフの旅についてくるようになった。
必要とされる。
感謝される。
頼られる。
それは、アルフがずっと欲しかったものだった。
そして、リナと出会った。
◇
リナは、最初からアルフに助けを求めたわけではなかった。
ただ、見ていた。
アルフが道具に付与し、井戸に付与し、人々から感謝される姿を。
少し離れた場所から。
獣の耳を伏せて。
尾を身体の後ろに隠すようにして。
人間ではなかった。
亜人と呼ばれる種族の少女だった。
アルフが彼女に気づいたのは、村外れの小道だった。
リナは一人で立っていた。
何かを言いたそうにして。
けれど、なかなか口を開けない。
「どうしたの?」
アルフが声をかけると、リナはびくりと肩を震わせた。
「えっと……」
視線が揺れる。
「あなたの付与って」
「物だけ、ですか」
「え?」
「人にも……できますか」
アルフは、リナを見た。
獣の耳。
尾。
人間とは違う足運び。
人間の町で見れば、すぐに亜人だと分かる姿。
リナは拳を握っていた。
「私、人間になりたい」
絞り出すような声だった。
「この耳が嫌い」
「この尾が嫌い」
「町へ行くと、見られる」
「服を選んでも、似合わないって笑われる」
「歩き方が変だって言われる」
「鏡を見るのが嫌」
リナの声が震える。
「人間の女の子みたいに、普通に歩きたい」
「普通に服を選びたい」
「普通に、笑われずに町を歩きたい」
アルフは、胸が痛くなった。
そんなことで苦しまなくていい。
そんな理由で、誰かが自分を嫌いになる必要なんてない。
前の世界で、自分は価値を見てもらえなかった。
この少女は、自分の姿を否定されてきた。
違う痛みだ。
けれど、苦しいことは分かった。
「僕なら」
アルフは言った。
「君を助けられるかもしれない」
リナが顔を上げる。
「本当に?」
「うん」
「僕の付与なら、できると思う」
アルフは魔石を取り出した。
この世界で手に入れた、澄んだ色の魔石だった。
そこに、術を重ねる。
形を変える。
見た目を変える。
亜人としての特徴を抑え、人間の姿へ近づける。
付与の光が、魔石の中に沈んでいく。
リナは震える手で、それを受け取った。
「これを使えば……」
「うん」
「君は、人間の姿になれる」
リナは、魔石を握りしめた。
しばらく、何も言わなかった。
やがて、小さく頷く。
「使う」
光が、リナの身体を包んだ。
獣の耳が消える。
尾が消える。
手足の形が変わる。
髪が揺れ、顔立ちがわずかに整う。
そこに立っていたのは、人間の少女だった。
リナは、自分の手を見た。
耳に触れる。
尾があった場所に手を回す。
足元を見る。
「……ない」
声が震えていた。
「耳が、ない」
「尾も、ない」
リナは近くの水桶へ駆け寄った。
水面を覗き込む。
そこに映った自分の姿を見て、リナは息を止めた。
そして、泣いた。
「私……」
ぽろぽろと涙が落ちる。
「私、人間だ」
アルフは、その姿を見ていた。
リナは振り返る。
「ありがとう」
涙で濡れた顔で、笑った。
「ありがとう、アルフ」
「私、初めて……鏡を見るのが嫌じゃない」
その言葉だけで、十分だった。
十分だと、アルフは思った。
自分は、彼女を救えた。
そう、確信した。
◇
それから、リナはアルフについてくるようになった。
元亜人のリナ。
彼女は、アルフが人間の姿を与えた少女だった。
リナはもう、耳を隠す必要がない。
尾を押さえる必要もない。
人間の町で、振り返られることもない。
少なくとも、アルフはそう思っていた。
リナはよく笑うようになった。
町で買った髪飾りを大事そうに付けた。
人間の少女たちが着るような服を、少し照れながら選んだ。
靴の歩き方に戸惑いながらも、何度も練習した。
そのたびに、アルフへ笑顔を向けた。
「アルフのおかげだよ」
そう言ってくれた。
アルフの胸は温かくなった。
僕は、間違っていない。
困っている人がいる。
苦しんでいる人がいる。
自分の力で、その人を助けられる。
なら、助けるべきだ。
疲れた人には、疲れを感じない靴を。
痛む人には、痛みを感じない腕輪を。
水に困る村には、水の出る井戸を。
姿に苦しむ人には、新しい姿を。
自分には、それができる。
もう、役立たずではない。
もう、誰にも必要とされない付与術師ではない。
僕は、人を救える。
アルフはそう信じた。
そして、次の町へ向かった。
リナと。
自分を慕ってついてきてくれる少女たちと共に。
その町でも、きっと困っている人がいる。
差別に苦しむ亜人がいるかもしれない。
痛みに耐えている人がいるかもしれない。
水に困っている村から、助けを求めて来た人がいるかもしれない。
ならば、自分の力は役に立つ。
アルフは門の前に立った。
大きな町だった。
人の出入りも多い。
冒険者も多い。
商人も、職人も、兵士もいる。
この町なら、もっと多くの人を救える。
「行こう、リナ」
アルフがそう言うと、リナは頷いた。
「うん」
だが、その時だった。
町の門の前に、数人の男女が立っていることに気づいた。
先頭に立つ男は、見慣れない服を着ていた。
職人のような。
旅人のような。
けれど、冒険者とも少し違う。
腰には工具らしきものが下がっている。
その後ろに、三人の女がいた。
一人は、艶やかな黒髪の魔法使いらしき女だった。
腕を組み、こちらを真っ直ぐに見ている。
その目は、アルフではなく、アルフの周囲に漂う魔力の流れを見ているようだった。
一人は、怯えているように見える少女だった。
だが、その視線は忙しなく動いていた。
リナの足元。
手元。
門の位置。
周囲の人の流れ。
怖がっているだけの目ではなかった。
一人は、白い法衣をまとった清楚な僧侶だった。
穏やかな顔をしている。
けれどその目は、リナの身体の動きと、呼吸と、立ち方を静かに見ていた。
町から出てきたのか。
それとも、どこかから戻ってきたところなのか。
アルフには分からなかった。
ただ、先頭の男の目だけは妙に強かった。
怒っているようで。
けれど、それだけではない。
男の視線が、アルフの手元へ落ちる。
リナに渡したものと同じ魔石。
いや、これからまた誰かを助けるために用意していた魔石へ。
男が一歩前へ出た。
「その石」
低い声だった。
「一旦止めろ」
アルフは眉をひそめた。
止める。
どうして。
僕は、また人を助けようとしているだけなのに。
男――上村良樹は、そう言って、《魔導工場》を展開し始めた。
続く。




