表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/114

第39話 信号を試すための信号(挿絵有)

 翌朝。


 作業場の試験台には、四つの魔石が並んでいた。


 左に二つ。

 右に二つ。


 それぞれが小さな木枠に収められ、触れやすい高さに置かれている。

 横には、粗い紙に書いた仮の符号表。


 昨日決めた通り、四つの魔石は左右二個ずつ。

 触れれば点灯し、もう一度触れれば消える。

 光った状態は保持され、最後には全て消えていることを確認する。


 そこまでは、昨日やった。


 今日は、その先だ。


「次は離して試す」


 良樹が言うと、リシアが試験台の魔石を見ながら頷いた。


「届くか、ね」


「違う」


 良樹は即座に返した。


「届いて」

「読めて」

「消せるかだ」


 リシアは、少しだけ目を細めた。


「昨日も聞いたわね、それ」


「昨日で終わるなら苦労しねえ」


 良樹は試験台の横に置いた紙へ、簡単な配置図を描いた。


 送信側。

 受信側。

 中央。


「離して試すなら、合図がいる」

「送信側がいつ触ったか」

「受信側がいつ光ったか」

「消えたか」

「遅れたか」

「聞こえなきゃ試験にならねえ」


 カレンが、少し首を傾げた。


「あの……声をかけるのは駄目ですか?」


「近距離ならいい」


 良樹は頷いた。


「でも、声が届く距離だけ試しても意味がねえ」

「手を振って分かる距離も同じだ」

「それだと、魔石信号器を作る意味が薄い」


 クラリスが、静かに言った。


「合図を確認するために高台の端へ出るなら、本末転倒ですね」


「ああ」


 良樹はクラリスを見る。


「そのために信号器を作ってる」

「なのに、試験のために端へ出たら意味がねえ」


 リシアが、そこで気づいたように言った。


「端子台通信?」


「そうだ」


 良樹は、試験台の端に置いた別の魔導盤へ目を向けた。


「前に使った魔導自立盤を、今回は試験用の連絡盤として使う」

「信号器を試験するために、別の連絡手段が要る」


 リシアは腕を組む。


「同じ魔力の通信なのに、分けるの?」


「分ける」


 良樹は即答した。


「試験してる信号で、試験の合図を送るな」

「どこからどこまでが試験結果か分からなくなる」

「試験対象と、試験用の連絡は分ける」


「良樹くんらしいですね」


 クラリスが微笑む。


「何がだ」


「信号を試すための信号を、先に考えるところが」


「そこを雑にすると、全部雑になる」


 良樹は配置図へ名前を書き込んだ。


「リシアは送信側」

「カレンは受信側」

「俺は中央」

「クラリスは、俺の傍で状態確認を頼む」


「はい」


 クラリスは、いつものように穏やかに頷いた。


「良樹くんの状態確認ですね」


「ああ」

「二方向に端子台通信を伸ばす」

「負荷が出るかもしれねえ」

「俺が変な反応をしたら止めてくれ」


「お任せください」


 そこまでは、いつものクラリスだった。


 落ち着いていて。

 静かで。

 清楚で。

 確認役として、何の問題もない。


 良樹は何気なく続けた。


「触った方が分かるなら、触って確認してくれて構わない」


 クラリスの指先が、止まった。


「……触って」


「ああ」

「脈でも、魔力の流れでもいい」

「俺は通信に集中するから、自分の変化を見落とすかもしれねえ」


「……良樹くんに」

「触って」


「必要ならな」


 クラリスの微笑みが、ほんの少し固まった。


 治療ならできる。

 怪我人の身体を見ることもできる。

 戦闘後確認なら、迷わず腕を取り、肩を支え、呼吸も脈も見る。


 それは、できる。


 けれど今、良樹は怪我人ではない。

 戦闘後でもない。

 三人で覗き込む流れでもない。


 これからリシアとカレンは離れる。

 中央には、良樹とクラリスが残る。


 状態確認。

 必要な配置。

 試験のため。


 そうです。

 これは試験です。


 ……試験、ですよね。


「クラリス?」


「はい」


「大丈夫か」


「はい」

「状態確認ですね」

「お任せください」


 声は落ち着いていた。


 ただ、手はまだ伸びなかった。


   ◇


 まず、作業場内で短距離の確認をした。


 距離は、数メル。


 良樹が中央で端子台通信を繋ぐ。

 リシアが送信側の魔石に触れる。

 カレンが受信側の魔石を見る。

 クラリスは、良樹の傍に立つ。


《リシア、左一、点灯》


《左一、点灯》


 リシアの報告が返る。


《カレン、受信》


《受信。左一、確認》


「消灯」


《左一、消灯》


《受信。消灯確認》


 良樹は紙に印を付けた。


「作業場内は問題なし」

「短文で回る」


《良樹、聞こえる?》


 リシアの声が来た。


「聞こえる。雑談禁止」


《確認よ》


「今のは確認じゃなくて呼んだだけだ」


《聞こえるかの確認でしょ》


「……続ける」


 カレンの小さな笑いが、端子台越しに少しだけ滲んだ。


 良樹は眉間を押さえかけて、やめた。


 思考は漏れない。

 ただし、感情はわずかに滲む。


 やはり、戦闘中の運用には制限がいる。


「次、全消灯確認」


《全消灯》


《受信。全消灯確認》


「よし」

「外へ出る」


 クラリスは、良樹の横で一歩動いた。


 触った方が分かるなら、触っていい。


 その言葉は、まだ耳に残っている。


 けれど、手は伸びない。


 必要なのは分かっている。

 けれど今触れたら、自分が何を意識しているのかまで伝わってしまいそうだった。


   ◇


 町外れの原っぱは、見通しがよかった。


 旧街道から少し外れた場所。

 人通りは少なく、距離も取れる。


 今日ここで試すのは、高台本番ではない。

 あくまで、距離確認だ。


 良樹は地面に中央の印を付けた。


「まず端子台通信の距離を測る」

「信号器はその後だ」

「リシア、少しずつ離れろ」

「聞こえ方が変わったら報告」


《了解》


 リシアが離れる。


 五十メル。


《聞こえる》


 百メル。


《聞こえる。少し細い》


「記録」


 二百メル。


《聞こえる。少し遅い》


「了解」


 良樹は紙に書き込む。


 クラリスは横で見ていた。


 良樹の呼吸。

 肩。

 指先。

 魔力の流れ。


 見ているだけでも、ある程度は分かる。


 けれど、二方向へ伸ばす端子台通信の細かい負荷までは、見ているだけでは拾い切れない。


 触れれば分かる。


 分かっている。


 だが、まだ触れない。


「クラリス」


「はい」


「触った方が分かるなら、無理に遠慮するな」


「……はい」

「必要な時に、確認します」


 良樹は一拍だけクラリスを見た。


 何か言いかけて、やめた。


 試験中だ。


「リシア、二百五十まで」


《了解》


 リシアの声が、さらに細くなる。


 二百五十メル。


 少し間があった。


《聞こえる》

《ただし、短文だけね》

《長文は厳しいと思う》


「了解」

「二百五十メル、短文通信可」

「長文不可」

「通信のみなら実用範囲」


 良樹は紙に書く。


 クラリスは、良樹の手元を見ていた。


 通信のみ。


 その言葉が、少し気になった。


 声だけを送る線。

 けれど、声だけではない。

 端子台通信には、相手の気配がわずかに戻ってくる。


 それは以前から分かっていた。


 だが、今はまだ、そこで止まっている。


《……クラリス?》


 リシアの声が来た。


 クラリスは顔を上げる。


「問題ありません」


《本当に?》


「はい」


 カレンの声も続いた。


《あの、無理はしないでください》


「はい」

「無理はしていません」


 そう答えた。


 ただし、自分でも少しだけ分かっていた。


 している。


   ◇


 端子台通信の確認が終わると、魔石信号器の距離試験に移った。


 最初は五十メル。


 リシアが送信側の魔石に触れる。

 カレンが受信側を見る。

 良樹が中央で合図を出す。


《左一、点灯》


《受信。左一、確認》


「消灯」


《左一、消灯》


《受信。消灯確認》


 五十メルでは問題なし。


 百メルでは、わずかに遅れた。


《受信。少し遅れました》


「記録」


 二百メルでは、光量が少し落ちた。


《受信。左二、確認》

《少し弱いです》


「怖いか」


 良樹は聞いた。


 端子台通信の向こうで、少しだけ間が空く。


《少し怖いです》


「なら、その状態で読めるか確認してくれ」

「怖い時に読めない信号は使えない」


《はい》

《見ます》


 カレンの声が、少し引き締まった。


 沈黙。


 良樹は待った。


 急かさない。

 読む時間も、試験結果だ。


《読めます》

《左と右が分かれているのは、読みやすいです》

《でも、文字が小さいと駄目です》

《光が弱い時は、どちら側かを先に見た方が分かりやすいです》


「重要だ」

「符号表は大きく書く」

「実物と同じ左右配置」

「種類と緊急度の区切りをはっきり」

「記録する」


《はい》


 良樹は紙へ書き込んだ。


 その横で、クラリスは良樹の手元を見ている。


 まだ、触れない。


 必要なのは分かっている。

 良樹の呼吸が、ほんの少し深くなっている。

 端子台通信の線も、距離が伸びるほど細くなっている。


 見ているだけでは、限界がある。


 けれど。


 これは確認です。

 治療ではありません。

 戦闘後確認でもありません。

 良樹くんは怪我をしていません。


 けれど、必要なら触れてよいと、言われました。


 必要です。

 分かっています。


 なのに、指が動きません。


 挿絵(By みてみん)


「カレン」


 良樹が通信へ声を乗せた。


《はい》


「今の確認は、かなり重要だ」


《……はい》


「怖い時にどう読めるかは、怖い奴にしか分からねえ」

「助かる」


 端子台通信の向こうで、カレンの気配が少し揺れた。


《はい》

《見ます》


 短い返事だった。


 だが、強かった。


   ◇


 最後は、最大距離の確認だった。


 リシアを片側へ二百五十メル。

 カレンを反対側へ二百五十メル。


 良樹が中央。

 クラリスがその傍。


 魔石信号器同士の距離は、五百メル相当。


 声は届かない。

 手を振っても、細かい合図は分からない。

 端子台通信だけが、試験者同士を繋いでいる。


 だが、その端子台通信も細い。


 良樹は、二方向へ意識を伸ばした。


《リシア、聞こえるか》


《聞こえる》


《カレン》


《聞こえます》


 短文なら通る。


 だが、長くはない。

 余計な情報を流せば、すぐに重くなる。


 良樹は息を整えた。


 ここからが、本番だ。


 クラリスは、良樹の横顔を見た。


 見ているだけでは、もう分からない。


 良樹の呼吸は落ち着いている。

 表情も大きく崩れていない。

 手の震えもない。


 だが、端子台通信は二方向へ限界近くまで伸びている。

 その負荷が、身体の内側にどう出ているかまでは、見ているだけでは拾えない。


 触れなければならない。


 治療ではない。

 戦闘後確認でもない。

 良樹くんは怪我をしていない。


 それでも、必要だから触れる。


 クラリスは、ようやく手を伸ばした。


「良樹くん」


「何だ」


「脈を見ます」


「ああ」

「頼む」


「はい」


 クラリスの指が、良樹の手首に触れた。


 脈。

 体温。

 魔力の流れ。


 それを確認しようとした、その瞬間だった。


 良樹の内側で、何かが震えた。


 胸元に浮かべた魔導盤。

 そこに通している端子台通信の線。

 普段なら、声を乗せるだけの細い接続。


 その線の奥で、スキャナーの光が波のように広がった。


 外へ出たわけではない。

 空気を照らしたわけでもない。

 誰かの目に見えたわけでもない。


 だが、端子台に繋がっていた二人には、何かが通った。


《……今、何かした?》


 リシアの声が来た。


 いつもより少し硬い。


《良樹さん》

《今、一瞬だけ……こちらを見られたような感じがしました》


 カレンの声も、不安そうに震えていた。


 良樹は返事をしようとして、止まった。


 分からない。


 だが、一つだけ分かったことがあった。


 あの一瞬。


 二百五十メル先にいるはずのリシアとカレンの位置が、はっきりと感じられた。


 見えた、ではない。

 聞こえた、でもない。


 リシアは、少し下った坂の手前にいる。

 草の低い場所で、片手を送信側の魔石に添えている。


 カレンは、反対側の岩の上に立っている。

 片足を少し引いて、符号表を胸元に抱えている。


 そこにいる。


 その位置と姿勢だけが、胸の中へ置かれたように分かった。


「……リシア」


《何?》


「お前、少し下った坂の手前にいるか」

「草の低い場所だ」


 通信の向こうで、リシアが黙った。


《……いるわ》

《何で分かるの?》


 良樹は答えられなかった。


「カレン」


《は、はい》


「お前は岩の上だな」

「符号表を胸元に抱えてる」


《……はい》

《合っています》


 良樹は息を止めた。


 合っている。


 距離がある。

 見えていない。

 声の方向でもない。


 それでも、分かった。


 クラリスは、良樹の手首に触れたまま、自分の指先を見ていた。


「クラリス」


「はい」


「今、何か分かるか」


「……分かりません」


 クラリスは、少しだけ頬を赤くしたまま言った。


「ただ」

「少しだけ、奥へ通ったような感覚がありました」


「奥へ?」


「はい」

「声を運ぶ線より、少し深いところへ」

「でも、それ以上は分かりません」


 良樹は紙へ視線を落とした。


 今すぐ試したい。

 条件を変えたい。

 もう一度触れて、同じことが起きるか見たい。

 リシアとカレンの位置以外も拾えるのか、確認したい。


 だが。


 良樹は筆を取った。


 クラリス接触時。

 端子台通信の奥で位置感知。

 接続者の位置、足場、姿勢の一部を一瞬取得。

 接続者側にも違和感あり。

 原因不明。


「今のは保留する」


《保留?》


 リシアの声が尖る。


「ああ」

「今日は端子台通信の距離確認と、魔石信号器の距離試験だ」

「試験項目を増やすな」

「原因不明の現象を追うと、今日の結果が濁る」


《……珍しく我慢するのね》


「我慢じゃねえ」

「段取りだ」


《でも、良樹さん、少し試したそうです》


「カレン」

「試験中の雑談は禁止だ」


《す、すみません》


 クラリスは、良樹の手首に指を添えたまま息を整えた。


「脈は少し速いです」

「魔力の戻りも、少し乱れています」

「ですが、試験続行は可能です」


「了解」


「ただし、今の現象を繰り返すのは反対です」


「繰り返さない」

「最大距離試験を続ける」


 クラリスは頷いた。


「はい」

「続行可能です」


「それは俺の台詞じゃないのか」


「今は、私も確認対象です」


 良樹は何か言いかけて、やめた。


「……試験を続ける」


   ◇


 原因不明の現象は、紙の上に一行だけ残した。


 それ以上は追わない。


 良樹は、端子台通信を整え直した。


《リシア、左一、点灯》


《左一、点灯》


 少し遅れて、カレンの声。


《受信。左一、確認》

《少し弱いです》


「消灯」


《左一、消灯》


《受信。消灯確認》


 良樹は記録する。


 届く。

 読める。

 消せる。


 ただし、遅い。


「次、左一右二」


《左一右二、点灯》


 間。


《受信》

《左一、右二、確認》

《符号表と照合できます》

《ただし、急いでいる時は少し不安です》


「了解」

「急時、読み取り不安」

「符号表改善」

「光量改善」


 リシアの声が入る。


《思ったより届くわね》


「感想は後でいい」


《感想も記録でしょ》


「試験中の雑談は不合格だ」


《不合格通信?》


「言ってない」


 カレンの小さな笑いが、また少しだけ滲んだ。


 クラリスの指が、良樹の手首を軽く押さえる。


「良樹くん」

「これ以上は反対です」


「まだ――」


 言いかけて、良樹は止めた。


 クラリスが見ている。

 見ているだけではなく、触れている。


 誤魔化せない。


「了解」

「ここで止める」


 クラリスの指先が、ほんの少し緩む。


「良い判断です」


「評価されてるのか、俺は」


「はい」


 良樹は通信へ声を乗せた。


「最後、全消灯確認」


《全消灯》


 リシアの報告。


 少しして、カレン。


《受信。全消灯確認》


 良樹は大きく丸を付けた。


「信号は送って終わりじゃねえ」

「消したことを確認して終わりだ」


   ◇


 リシアとカレンが戻ってくる頃には、日が少し傾いていた。


 四人は原っぱの中央に集まり、試験器と記録を見直した。


 リシアは腕を組み、紙を覗き込む。


「二百五十メルで短文通信」

「魔石同士は五百メル相当」

「かなり届いたわね」


「届いた」


 良樹は頷いた。


「だが、安定して使えるとはまだ言えねえ」


「またそれね」


「届くことと、使えることは別だ」


「分かってるわよ」


 カレンは受信側の符号表を見ながら、少し真面目な顔で言った。


「あの」

「遠くても、光は見えました」

「でも、少し弱かったです」

「それと、怖い時に小さい文字を探すのは難しいと思います」


「符号表は大きく」

「実物と同じ左右配置」

「種類と緊急度の区切りをはっきり」

「記録した」


 良樹は、カレンを見る。


「カレン」


「はい」


「今日の確認は大きい」

「怖い時に読めるかは、怖い奴にしか分からねえ」


 カレンの指が、符号表を握ったまま少し強くなる。


「……はい」

「怖い時でも、見ます」


「ああ」

「頼む」


 リシアが少し目を細めた。


 クラリスは静かに微笑む。


 ただ、その視線は一度、自分の指先へ落ちた。


 良樹の手首に触れた時の感覚が、まだ残っている。


 奥へ通った。


 声を運ぶ線より、少し深いところへ。


 それが何なのかは、まだ分からない。


「それで」


 リシアが言った。


「さっきのは?」


 良樹は紙を見る。


 原因不明。

 接続者の位置、足場、姿勢の一部を一瞬取得。


「別日に分ける」


「今は?」


「結論を出さない」


 クラリスも、静かに頷いた。


「私も、まだ分かりません」

「ただ、少し奥へ通った感覚だけはありました」


「それも記録した」

「今日は追わない」


 リシアは少し不満そうだったが、反論はしなかった。


 良樹が本気で追いたがっていることは、分かっていた。

 その良樹が止めたのなら、今は止める理由がある。


 カレンも、少し不安そうにしながら頷いた。


「試験項目を増やすと、分からなくなるんですよね」


「ああ」


 良樹は頷いた。


「何で成功したか」

「何で失敗したか」

「それが混ざる」

「混ざった試験は使えねえ」


「本当に、良樹らしいわね」


 リシアが息を吐く。


「何がだ」


「気になることを我慢して、段取りを優先するところ」


「我慢じゃねえ」


「はいはい。段取りね」


   ◇


 良樹は地図を広げた。


 旧街道。

 見張り台。

 第一中継候補地の高台。


 昨日、ガレスへ報告した場所。


 見通しはいい。

 魔力流路も悪くない。

 だが、足場が悪い。

 端に人を立たせる運用は危険。


 だから、信号器がいる。


 良樹は、その高台へ印を付けた。


「次は、中継点だ」


 リシアが地図を覗き込む。


「また、あの高台ね」


「ああ」


 良樹は頷いた。


「でも今度は、端に立たない」

「そのための信号器だ」


 カレンが、小さく息を吸う。


「使う場所で、読めるか」


「そうだ」


 クラリスが続けた。


「そして、良樹くんに無理をさせずに扱えるか」


「そこも見る」


 良樹は、四つの魔石を箱へ戻した。


 光った。

 届いた。

 読めた。

 消せた。


 だが、それで終わりではない。


 原っぱで届くことと。

 高台で使えることは、違う。


 四つの魔石は、遠く離れても光った。


 だが、光っただけでは足りない。


 届いて。

 読めて。

 消せて。

 その上で、使う場所で安全に扱えなければ意味がない。


 良樹は、地図の上にある第一中継候補地へ、もう一度印を付けた。


 次は、机の上でも、原っぱでもない。


 あの高台で。


 端に立たずに、届くかを試す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ