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第16話 四人で撃つ(挿絵有)

 夜。


 リシアは、自分の部屋で一人、寝台の端に腰を下ろしていた。


 窓の外は暗い。

 町の灯りは少なく、遠くで誰かが扉を閉める音がした。

 宿の廊下も、昼間の騒がしさが嘘のように静かだった。


 けれど、リシアの胸の中だけは、まだ昼の岩場にいた。


 岩に空いた、小さな穴。


 砕けたのではない。

 吹き飛んだのでもない。

 貫いた。


 良樹が作ろうとしていたもの。

 良樹が悩んでいたもの。

 水蒸気爆発では届かなかった、面ではなく点で穿つ出力。


 それが、自分には分かった。


 良樹が何をしたかったのか。

 あの人が、どんな形を求めていたのか。

 それが、自分には理解できた。


 そして。


 自分の魔法で、形にできた。


「……私に、できたんだ」


 小さく呟く。


 誰に聞かせるためでもない。

 ただ、自分の胸の中で何度も確かめるための言葉だった。


 風で筒を作った。

 土で弾を作った。

 火と水で圧を生み、風で向きを整えた。

 良樹の言葉を、良樹の考えていたものを、自分の魔法に翻訳した。


 それは、リシアにとって宝物になった。


 良樹が褒めてくれたから、だけではない。


 いや、もちろん嬉しかった。

 嬉しかったに決まっている。


 お前は、俺の理想だ。


 その言葉を思い出した瞬間、リシアの顔が熱くなる。


「……魔法の話、なのよね」


 分かっている。

 良樹が見ていたのは、自分そのものではない。

 風の筒。

 土の弾。

 火と水の圧。

 反動。

 貫通した岩。

 そして、その構造。


 クラリスが翻訳してくれた通りだ。

 良樹が言いたかったのは、リシア本人が理想だという意味ではなく、リシアの魔法が良樹の考えていた理想形に近いということ。


 分かっている。


 分かっているけれど。


「最初は、お前は、って言ったもの」


 リシアは、膝の上で指を組んだ。


 分かっている。

 技術の話だ。

 魔法の話だ。

 良樹はそういう人だ。


 でも、最初に聞いた言葉は消えない。


 あれは、リシアの記憶になった。


 誰にも渡したくない、自分だけの記憶だった。


 ふと、リシアは良樹と初めて森へ行った日のことを思い出した。


 あの時、良樹は言った。


 言うほど器用貧乏か?


 その言葉は、最初、腹が立った。


 器用貧乏。


 ずっと、自分の中に刺さっていた言葉だった。


 火なら火の専門家に勝てない。

 水なら水の専門家に勝てない。

 回復なら僧侶に勝てない。

 剣なら剣士に勝てない。


 何でもできる。

 けれど、どこでも一番にはなれない。


 だから自分は、器用貧乏なのだと思っていた。


 そこに、良樹があっさり踏み込んできた。


 言うほど器用貧乏か。


 その時は思った。


 私のことを知りもしないくせに。


 何を勝手なことを言っているのだと。

 私がどれだけその言葉を飲み込んできたかも知らないくせに、と。


 けれど。


 それは、間違いだった。


 良樹は、きっとあの時から見ていた。


 火が使えるかどうかではなく。

 水が使えるかどうかでもなく。

 属性の数でも、出力の大きさでもなく。


 自分が、どう切り替えているのか。

 どう繋いでいるのか。

 どう整えているのか。


 リシア自身ですら、欠点だと思っていたものを。

 良樹は、使い方次第で武器になるものとして見ていた。


「……私より、私のことを見てたのかもしれない」


 口にしてから、胸がきゅっと縮んだ。


 ずるい。


 そう思った。


 見ていないようで、見ている。

 恋愛には鈍いくせに、人の中に刺さったものには変なところで手が届く。

 勝手に入ってきて、勝手に言葉を置いていく。


 その言葉が、後になってから効いてくる。


 ひどい人だ。


 でも、嬉しい。


 今日、気づいてしまった。


 あの人は、自分のことをちゃんと見てくれていた。


 最初から。

 たぶん、リシア本人よりもずっと正確に。


 良樹が、三人の前で好きだと言った日から。


 日を追うごとに、リシアは良樹のことがもっと好きになっていく。


 困るくらいに。

 腹が立つくらいに。

 どうしようもないくらいに。


 そして今日、また増えた。


 良樹の理想に、自分の魔法が届いた。

 良樹が欲しかった形を、自分が作れた。


 それは、リシアにとって何より強い証明だった。


 リシアは、ふと自分の膝元へ視線を落とした。


 今日の訓練用スカート。

 その下に選んだもの。


 白。


 クラリスに対抗して、かなり頑張って考えた白。


「……頑張って考えたんだけどな」


 小さく呟いてから、リシアは両手で顔を覆った。


「って、私、なんで色仕掛けする前提なの……?」


 自分で言って、自分で恥ずかしくなる。


 けれど、顔を覆ったまま、少しだけ考えた。


 色仕掛け。


 そんな言葉は、自分には似合わないと思っていた。


 けれど。


「……でも、色仕掛けで何が悪いの?」


 顔を覆った手の隙間から、小さな声が漏れた。


 クラリスは美人だ。

 清楚で、落ち着いていて、圧が強い。

 黙って微笑んでいるだけで、男の人の視線を奪えるような人だ。


 カレンは可愛い。

 怖がりで、おどおどしていて、でも勇気を出す瞬間がどうしようもなく真っ直ぐだ。

 しかも天然だ。

 天然は強い。

 あれはずるい。


 では、自分は。


 良樹の最初を知っている。

 良樹の隣で魔法を見てきた。

 良樹の変な説明に、一番早く突っ込める。

 良樹が何をしようとしているのか、今日、自分だけが理解できた。


 それでも。


 それだけで見てもらえるのだろうか。


 良樹は見てくれている。

 それは分かった。

 分かっている。


 でも、もっと見てほしい。


 魔法だけではなく。

 便利な共同運用者としてだけではなく。

 良樹の理想形を作れる魔法使いとしてだけでもなく。


 女の子として。


 リシアとして。


 見てほしい。


 そう思った瞬間、胸の奥にあった恥ずかしさが、少しだけ形を変えた。


 見られたい。

 振り向いてほしい。

 良樹に、自分を女の子として意識してほしい。


 それの何が悪いのか。


 クラリスはクラリスのやり方で近づいている。

 カレンはカレンの勇気で踏み込んでいる。


 なら、自分だって。


 自分のままで。


 リシアのままで。


 色仕掛けでも、魔法でも、意地でも、何でも使って。


 良樹に振り向いてほしい。


 良樹なら、きっとこう言う。


 正しいと思ったからやった。


 怖くても、恥ずかしくても。

 後で後悔するくらいなら、正しいと思う方へ進む。


 だったら。


 私も、そうする。


 私が正しいと思う方法で。

 私が、後悔しない方法で。


 良樹に振り向いてもらう。


 リシアは、窓の外を見た。


 夜の向こうに、良樹の顔が浮かぶ。


 変なことばかり考えて。

 止め方ばかり気にして。

 人のことは見ているくせに、自分が見られていることには鈍い。


 腹が立つ。

 でも、好きだ。


 好きになってしまった。


 もう、なかったことにはできない。


 リシアは、小さく息を吸った。


「決めた」


 声は小さい。


 けれど、迷いはなかった。


「覚悟してね」


 誰もいない部屋で、リシアは笑った。


「良樹」


   ◇


 翌朝。


 リシアは、衣装箱の前でしばらく固まっていた。


 いつもの魔法衣ではない。


 白い上衣。

 青黒い短めのスカート。

 腰回りには金の細い飾り紐。

 その上から、星模様の刺繍が入った薄い外套を羽織る。


 魔法使いとして見れば、別におかしくはない。

 装飾も術式補助の意味がある。

 外套は魔力の流れを整えやすい。

 足元は動きやすいブーツにした。


 だから、これは実用だ。


 実用、のはずだった。


 ただ。


 鏡の中の自分は、いつもよりずっと脚が見えていた。


「……短すぎ、ではないわよね」


 誰もいない部屋で、リシアは小さく呟いた。


 膝上。

 けれど、露骨に短すぎるほどではない。

 外套の裾が揺れれば、むしろ魔法使いらしい雰囲気は残る。

 胸元も開いていない。

 肌を見せているのは、ほとんど脚だけだ。


 だから、大丈夫。


 大丈夫、のはず。


 リシアは鏡の前で、ほんの少しだけ身体を横に向けた。


 スカートの裾が揺れる。

 外套の薄い布が遅れて流れる。

 足元のブーツに付いた金具が、小さく鳴った。


 いつもの自分より、少しだけ女の子に見える。


 そう思った瞬間、顔が熱くなった。


「……何よ。少しくらい、いいじゃない」


 昨日、決めたのだ。


 良樹に振り向いてもらう。

 自分の正しいと思う方法で。


 なら、これくらいで逃げてどうする。


 リシアは胸元の飾り紐を直し、深く息を吸った。


「覚悟してね、良樹」


 そう言ってから、部屋を出た。


   ◇


 宿の食堂は、朝から騒がしかった。


 焼いたパンの匂い。

 薄いスープの湯気。

 皿を置く音。

 冒険者たちの笑い声。

 椅子を引く音。


 良樹はいつもの卓で、木の匙を持ったまま魔導盤の構成を考えていた。


 昨日の斥候盤。

 昨日の攻撃盤。

 そして、リシアの四魔素穿弾。


 面で叩く出力。

 点で穿つ出力。

 出せること。

 撃っていいこと。


 それらを頭の中で並べていた時、向かいのカレンがふと顔を上げた。


「あ……」


 小さな声だった。


 隣のクラリスも、静かに目を向ける。


 その二人の視線につられて、良樹も顔を上げた。


 リシアが、食堂の入り口に立っていた。


 挿絵(By みてみん)


 良樹の手が止まる。


 匙を持ったまま、止まった。


 リシアは、それを見逃さなかった。


 白と青黒の魔法衣。

 金の装飾。

 星模様の外套。

 けれど、いつもよりずっと短いスカート。


 良樹の視線が、一瞬だけ下へ落ちた。


 すぐ戻る。


 戻るのが早すぎる。


「……何よ」


 リシアは、できるだけいつもの声で言った。


 できるだけ、だ。


「いや」


 良樹は一度視線を逸らし、もう一度戻した。


「服、変えたのか」


「ええ」

「何か問題ある?」


「問題はない」


「なら、どう?」


「どうって何だ」


「似合うかどうかくらい、言えるでしょ」


 良樹は、明らかに困った顔をした。


 リシアは逃がさなかった。


 昨日、自分は決めたのだ。


 良樹なら、正しいと思ったからやったと言う。

 なら、自分も正しいと思ったことをする。


 見てほしい。

 なら、聞く。


 良樹は少しだけ黙った。


 そして、短く言った。


「……似合ってる」


 その一言が、リシアの胸の奥へ落ちた。


 似合ってる。


 良樹が見た。

 気づいた。

 そして、言ってくれた。


 リシアは、一瞬だけ息を止めた。


 嬉しい。


 思っていたより、ずっと。


 けれど、そこで俯くつもりはなかった。


 リシアは顔を上げた。


 そして、カレンとクラリスへ視線を向ける。


 カレンは、目を丸くしていた。

 クラリスは、清楚な微笑みのまま、ほんの少しだけ目を細めていた。


 リシアは、二人を見たまま、満面の笑顔で言った。


「……でしょ!」


 それは、良樹への返事で。


 同時に、二人への宣言だった。


 見てもらった。


 言わせた。


 私だって、ちゃんと良樹に可愛いと思ってもらえる。


 そう言っているような笑顔だった。


 カレンが、小さく息を呑む。


「リ、リシアさん……強いです……」


 クラリスは口元に手を添えた。


「はい。とても」


「何がだ?」


 良樹だけが、分かっていない顔をしていた。


 リシアは、もう一度だけ笑った。


「こっちの話よ」


 良樹は首を傾げた。


 その瞬間、食堂の入り口から低い声が飛んできた。


「朝から囲まれてんな、お前」


 ガレスだった。


 良樹は顔をしかめた。


「うるせえ」


 ガレスは笑った。


「元気そうで何よりだ」

「ちょうどいい。お前ら、今日、町外れの運搬護衛に出る気はあるか」


 良樹の目が変わった。


「運搬護衛?」


「ああ」

「街道沿いの作業場まで、木材と魔石箱を運ぶ荷馬車がある」

「最近、その辺りでゴブリンの足跡が見つかってる」

「それと、少し大きい足跡もな」


 カレンの表情が、わずかに強ばった。


「大きい足跡……」


「トロルほどじゃねえ」

「だが、オークが混じってるなら、荷馬車だけじゃ逃げられん」


 良樹は卓に置いた手を見た。


 斥候盤。

 攻撃盤。

 切替には約一分。

 出す前に決める必要がある。


「実戦テストか」


「実戦ってほど軽くもねえな」

「ただ、森の奥に入るわけじゃない」

「街道沿いだ。逃げ道もある」

「だが、現場で使えるかどうかは現場でしか分からん」


「嫌な正論だな」


「現場屋が現場を嫌がるな」


 良樹は少しだけ黙った。


 それから、リシアたちを見る。


 リシアは頷いた。

 カレンは胸元で両手を握り、少しだけ青い顔で、それでも目を逸らさなかった。

 クラリスは静かに微笑み、すでに誰の身体を見るか決めているような顔をしていた。


「分かった」


 良樹は言った。


「受ける」


   ◇


 町外れへ続く街道は、朝の光で薄く白んでいた。


 荷馬車は一台。

 荷台には補修用の木材と、箱詰めにされた小さな魔石が載っている。


 道の右手には低い草地。

 左手にはまばらな木立。

 森というほど深くはない。

 だが、隠れる場所は十分にある。


 良樹は荷馬車の少し前を歩いていた。


 胸の前に展開したのは、斥候盤。


 半透明の盤。

 回転する魔導レーザー。

 味方反応。

 不明反応。

 警告方向。

 接近速度。


 訓練場ではない。

 ギルド集会所でもない。


 現場だった。


 馬。

 荷物。

 木材。

 魔石箱。

 草むらを走る小動物。

 鳥。

 揺れる枝。

 歩く自分たち。


 入力が汚い。


「……やっぱり、きれいには見えねえな」


 良樹が呟く。


 リシアが隣で盤を覗き込んだ。


「何が引っかかってるの?」


「魔石箱が弱く出る」

「荷馬車そのものは生き物じゃないから拾わない」

「だが、魔石が固定ノイズになる」

「それと、馬の反応がでかい」


「馬は味方じゃないの?」


「味方として登録してねえ」

「だから今は、安全側で不明寄りにしてる」


「面倒ね」


「面倒じゃない安全は信用できねえ」


 リシアは少しだけ笑った。


「良樹らしいわね」


 カレンは少し前を歩いていた。

 木剣ではなく、今日は本来の剣を腰に下げている。

 足取りは慎重だった。


 怖い。


 けれど、目を逸らしていない。


 クラリスは荷馬車側に近い位置を歩いている。

 御者と荷物と、良樹の呼吸と、リシアの肩の動きと、カレンの足運びを、何も見ていないような顔で見ていた。


 しばらく進んだ時だった。


 斥候盤の回転が、わずかに鈍った。


 良樹の目が細くなる。


「止まれ」


 全員が止まった。


 御者も、慌てて手綱を引く。


「どうしました?」


 クラリスが静かに聞く。


 良樹は盤を見た。


「右前方、複数」

「小さいのが……六、いや七」

「奥に大きいのが二つ」


 カレンの顔がこわばる。


「あそこ、怖いです」


 声は小さい。

 けれど、はっきりしていた。


「小さいのが先に動いて、大きいのが後ろにいます」

「小さいのは、こちらを見ている気がします」

「でも、大きいのは、まだ出てきません」


 良樹は斥候盤の反応と、カレンの視線の向きを照合した。


 小さい反応。

 ばらけている。

 だが、逃げていない。

 奥の二つは大きい。

 動きが遅い。

 待っている。


「ゴブリンだけじゃねえ」

「奥に重いのがいる」


 リシアの表情が引き締まる。


「オーク?」


「たぶんな」


 良樹は距離を見る。


 まだある。

 こちらに気づいているかもしれない。

 だが、向こうはまだ仕掛けてきていない。


 今なら、替えられる。


「ここで斥候盤を畳む」


 カレンが息を呑んだ。


「攻撃盤ですか?」


「ああ」

「接敵してからじゃ、一分は長すぎる」

「今なら替えられる」


 良樹は盤に手を置いた。


「見つけたから替えられる」

「見つけるのが遅かったら、この選択はなかった」


 斥候盤が畳まれる。


 代わって、攻撃盤が立ち上がる。


 半透明の盤の構成が変わった。

 水。

 火。

 圧。

 タイマー。

 PID。

 弾頭。

 短い金属筒。


 蒸気ランチャー。


 その横で、リシアが一歩前へ出た。


「風遮膜、展開するわ」


 声が落ち着いていた。


「後ろへ逃げる圧を散らす」

「横には裂かせない」


 良樹は頷いた。


「助かる」

「初弾、ゴブリンの中央。散らすぞ」


「分かった」


 カレンが剣に手を置く。

 クラリスが杖を持ち直す。


 誰も、派手に声を上げなかった。


 静かに、配置が決まっていく。


 敵より先に見つけた。

 敵より先に替えた。

 敵より先に撃つ。


 それは奇襲だった。


   ◇


 草むらの奥で、ゴブリンが顔を出した。


 一体。

 二体。

 三体。


 小さな影が、荷馬車を見て笑うように歯を剥いた。


 その中央へ、良樹は金属筒の先を向けた。


「撃つ」


 短い宣言。


 リシアの風遮膜が、良樹の後方で薄く震える。


 火。

 水。

 圧。


 短い金属筒の中で、圧が跳ねた。


 蒸気ランチャーが吼える。


 弾頭が草地へ走り、ゴブリンの群れの中央付近で爆ぜた。


 土が抉れた。

 草が吹き飛んだ。

 ゴブリンの悲鳴が上がる。


 二体が直撃で転がる。

 三体が衝撃に足を取られ、草むらの中へ投げ出された。

 残りが混乱して散る。


「直撃は二、転倒三」

「残りが散った」


 良樹が言うより早く、カレンが動いていた。


「行きます」

「怖いです。でも、今なら戻れます」


 カレンは左後ろへ逃げる道を一瞬だけ確認する。


 良樹もそれを見た。


「見えてるなら、頼む」


「はい!」


 カレンが前へ出た。


 速い。

 だが、突っ込みすぎない。


 転がったゴブリンの脇を抜け、起き上がろうとした一体を斬り伏せる。

 別の一体が横から飛びかかる。

 カレンは半歩下がり、剣を返した。


 戻る道を残している。


 一方で、クラリスは静かに歩いていた。


 清楚な微笑み。

 白い法衣。

 そして、手にした杖。


 ゴブリンが一体、横から荷馬車へ走る。


「そちらは駄目です」


 クラリスの杖が、淡々と振られた。


 打つ。

 払う。

 膝を崩す。


 その時点で、良樹は次弾準備に意識を戻していた。


 クラリスはもう止めている。

 なら、今見るべきは盤だ。


 次弾。

 水量。

 火力。

 圧。

 金属筒の負荷。

 エアカーテンの補助。


 弾を込めるような感覚で、盤の中の条件を揃えていく。


 その時、奥の草むらが大きく揺れた。


 オークが出てきた。


 二体。


 一体は錆びた棍棒を持っている。

 もう一体は、厚い木板を盾のように構えていた。


 ゴブリンとは圧が違う。


 地面を踏むだけで、草が潰れる。

 肩幅が広い。

 腕が太い。

 目が濁っている。


 良樹はまだ撃てない。


 だが、リシアはもう動いていた。


氷閃槍アイシクルランス!」


 氷の槍が、空気を裂いて走った。


 一本目が、棍棒を持ったオークの足元へ突き刺さる。

 踏み込みかけた足が止まる。


 二本目は、盾持ちの木板に突き刺さった。

 盾は砕けない。

 だが、衝撃でオークの肩が揺れる。

 速度が落ちる。


「助かった」

「次弾、あと少し」


「早くしなさいよ!」


「やってる!」


 良樹は盤の中で圧を整える。


 蒸気ランチャーは強い。

 だが、荒い。


 水蒸気爆発は、爆発だ。

 どれだけ絞っても、一定以下にはできない。

 弱くしたつもりでも、近くの草は吹き飛ぶ。

 土は抉れる。

 味方が近ければ、それだけで危ない。


 だから、撃つなら射線がいる。

 距離がいる。

 逃がす風がいる。


 カレンが、こちらを見ずに右へ抜けた。


 オークの踏み込みを誘い、剣を合わせずに角度を変える。

 そのまま右後方へ流れる。


「右、空けます!」


 クラリスは、荷馬車側へ走ろうとしたゴブリンを杖で払ったあと、杖を手放した。


 杖が地面に落ちる。


 次の瞬間、クラリスの足が前へ滑った。


「シッ」


 短い呼吸音。


 拳が入る。

 一発目は鎖骨下。

 二発目は鳩尾。

 三発目は肋骨の隙間。


 ゴブリンの身体が縮んだ。


 クラリスはさらに一歩踏み込み、脇腹へミドルキックを叩き込む。


 ゴブリンは横へ折れるように吹き飛び、そのまま動かなくなった。


 クラリスは蹴った足を静かに戻し、落とした杖を拾う。

 そして、何事もなかったように左へ流れた。


「左、空けました」


 良樹は一瞬だけ見た。


 僧侶。


 今のは僧侶か。


 だが、今はそこを突っ込む場面ではない。


 カレンは右。

 クラリスは左。

 リシアは後方で風を張っている。

 荷馬車は射線外。

 後方、巻き込みなし。


「……射線、空いた」

「後方、荷馬車なし」


 良樹は筒を向ける。


「リシア、風」


「もう張ってる!」


「助かる」


 二発目。


 蒸気ランチャーが吼える。


 弾頭は、棍棒を持ったオークの肩口へ入った。


 金具がひしゃげる。

 肉が抉れる。

 巨体が横へ流れる。


 だが、止まらない。


 オークは吠えた。

 片腕をだらりと下げながら、それでも前へ出ようとする。


「効いた」

「だが、芯まで抜けてねえ」


 良樹は奥歯を噛んだ。


 俺のは荒い。


 どれだけ絞っても、最低火力が高い。

 吹き飛ばす。

 崩す。

 散らす。


 だが、狙った一点だけを細く抜くのは苦手だ。


 その横で、リシアが息を吸った。


「もう一体、来るわ」


 盾持ちのオークが、砕けかけた木板を捨てて走り出した。


 カレンは右へ抜けている。

 クラリスも左で射線外。

 荷馬車は後ろ。

 貫通先は、街道脇の岩。


 良樹は盤と視界を合わせる。


「貫通先、岩」

「荷馬車なし」

「カレン、クラリス、射線外」

「リシア、肩口だ。胴は狙うな」


「分かった」


 リシアの声は静かだった。


 彼女の前に、透明な風の筒が生まれる。


 その中心に、土の弾が浮かぶ。


 火と水。

 圧。

 風の整流。

 回転。


 だが、昨日の岩を抜いた時ほど大きくない。


 良樹は気づいた。


 絞っている。


 リシアは、あの出力を小さくしている。

 肩口だけを抜くために。

 必要な分だけで止めるために。


 次の瞬間、風の筒の中で圧が弾けた。


 音は爆発というより、鋭い破裂音だった。


 土の弾が、線になった。


 オークの肩口を貫く。


 肉を裂き、骨の近くを抜け、背後の岩に小さな穴を穿った。


 棍棒が落ちる。


 オークの咆哮が、悲鳴に変わった。


「貫通しました」

「ですが、反動も来ています」


 クラリスの声が飛ぶ。


 リシアの肩が、わずかに落ちていた。

 右手首にも、少し力が残っていない。


「少しだけよ」


「少しだけで済ませるな」

「あとで見る」


 良樹が即座に言う。


 リシアは口を尖らせたが、反論はしなかった。


 その間に、カレンが動いた。


 蒸気ランチャーで肩を崩されたオークへ。


「良樹さん」


 カレンは剣を握り直した。


「右後ろ、戻れます」

「行けます」


 良樹は一瞬だけカレンを見た。


 命令はしなかった。


「ああ」


 短く頷く。


「頼む」


「はい」


 カレンは前へ出た。


 オークは大きい。

 腕が太い。

 倒し損ねれば、あの棍棒が自分を潰す。


 怖い。


 でも、戻れる道はある。

 良樹が見ている。

 リシアがもう一体を止めた。

 クラリスが左を見ている。


 今なら、前に出られる。


 カレンは踏み込んだ。


 痛めていた足ではなく、反対の足で間合いを作る。

 肩を崩されたオークの死角へ入り、膝裏を斬る。

 巨体が落ちる。

 もう一歩。

 戻る足を残したまま、首ではなく脇の急所へ剣を通す。


 オークが倒れた。


 もう一体へは、クラリスが向かっていた。


 肩口を抜かれたオークは、まだ暴れようとしていた。

 腕は使えない。

 だが、体重だけでも脅威だ。


 クラリスは、清楚な顔のまま間合いへ入った。


「暴れないでくださいね」

「痛いですから」


 杖が膝を払う。

 オークの重心が落ちる。


 クラリスはそこで杖を離した。


 両手が空く。


「シッ」


 短い呼吸音。


 一発。

 鎖骨下。


 二発。

 鳩尾。


 三発。

 肋骨の隙間。


 巨体が縮む。


 クラリスは半歩沈み、腰を回した。


 脇腹へ、ミドルキック。


 鈍い音がした。


 オークの巨体が横へ崩れ、地面に沈む。


 良樹は思わず呟いた。


「……僧侶?」


 クラリスは杖を拾い直し、にこりと微笑んだ。


「護身術です」


「護身の出力じゃねえ」


「そうでしょうか」


「そうだよ」


 最後のゴブリンが逃げようとする。


 カレンがそちらを見る。

 良樹は攻撃盤を見た。


 撃つ必要はない。


「追わない」

「荷馬車が優先だ」


 カレンは剣を下ろした。


「はい」


 戦闘は、終わった。


   ◇


 勝った。


 だが、良樹は自分が勝ったとは思わなかった。


 斥候盤が敵を見つけた。

 カレンが怖い方向を拾った。

 事前発見できたから、攻撃盤に換装できた。

 リシアの風遮膜があったから、蒸気ランチャーを撃てた。

 カレンとクラリスが混乱した敵を刈った。

 リシアが次弾準備中の間を稼いだ。

 カレンとクラリスが、自分で射線を空けた。

 蒸気ランチャーはオークを崩した。

 四魔素穿弾は、もう一体の肩口を抜いた。

 最後に、前衛二人が落とした。


 誰か一人の勝利ではない。


 四人で勝った。


 良樹は蒸気ランチャーで抉れた地面と、四魔素穿弾が岩に穿った小さな穴を見比べた。


 違う。


 明らかに違う。


 自分の出力は荒い。

 リシアの制御は、細い。


 だが、今ここで考え込む場面ではない。


「荷馬車を確認する」

「負傷確認」

「残りの反応も見る」


 良樹が言うと、三人はすでに動いていた。


 カレンは御者の周囲を見ている。

 クラリスは御者と馬、そしてリシアの右手首を見る。

 リシアは肩を回しながら、何でもない顔をしようとしている。


「何でもない顔をするな」


「まだ何も言ってないでしょ」


「顔で言ってる」


「顔って何よ」


 クラリスが静かに近づいた。


「リシアさん。右手首を見せてください」


「少しだけよ」


「その少しを見ます」


 リシアは諦めたように右手を出した。


 クラリスは、手首、肩、肘を順に確認する。


「大きな損傷はありません」

「ただ、反動を逃がしきれていませんね」

「今日中は、同じ出力では撃たない方がいいです」


「分かったわ」


 良樹は頷いた。


「なら、今日は撃たない」

「依頼は荷を届けるまでだ」

「帰るぞ」


   ◇


 荷馬車は、予定通り街道沿いの作業場へ着いた。


 荷主と御者は、何度も礼を言った。


 荷は無事。

 馬も無事。

 御者も無傷。

 積んでいた魔石箱も壊れていない。


 ゴブリン数体。

 オーク二体。


 それを、荷を守ったまま退けた。


 良樹にとっては、条件が噛み合った戦闘だった。


 先に見つけたから替えられた。

 替えられたから撃てた。

 リシアが風を張ったから撃てた。

 カレンとクラリスが動いたから射線ができた。


 そういう、いくつもの条件の結果だ。


 だが、御者や荷主から見れば違う。


 四人は、荷を守った。

 魔物を倒した。

 無事に届けた。


 それが事実だった。


   ◇


 ギルドへ戻ると、ガレスは報告を聞いて、少しだけ眉を動かした。


「……オーク二体か」


「ああ」


 良樹は頷いた。


「ただ、条件が良かった」

「先に見つけられた」

「距離があった」

「攻撃盤に替える時間も作れた」

「荷馬車の位置も悪くなかった」


 ガレスは、じっと良樹を見た。


「お前はいつも、勝った理由より先に危なかった理由を並べるな」


「そっちの方が次に使える」


「まあ、それは正しい」


 ガレスは腕を組んだ。


「だがな、良樹」

「荷を守ったまま、ゴブリンの群れとオーク二体を落とした」

「それはもう、軽い依頼じゃねえ」


「いや、今回は斥候盤が先に拾えたからだ」

「見つけるのが遅れてたら、攻撃盤には替えられなかった」

「接敵してから一分は長すぎる」

「それに、リシアの風がなかったら初弾は危なかった」

「カレンとクラリスが射線を空けなかったら二発目も撃てない」

「四魔素穿弾も貫通先が岩だったから撃てた」

「だから――」


「だから、勝ったんだろ」


 ガレスが遮った。


 良樹は口を閉じた。


「強い奴ってのはな」

「ただ腕っぷしが強い奴じゃねえ」


 ガレスは、四人を順に見た。


「先に見つける」

「撃つ前に場所を見る」

「味方を巻き込まねえ」

「荷を壊さねえ」

「逃げる相手を追いすぎねえ」

「帰って報告する」


 ガレスは低く笑った。


「それができる奴は、ギルドじゃ重宝される」


「地味だな」


「地味な奴が生き残る」

「派手な奴は、たまに英雄になる」

「地味で派手なことができる奴は――」


 そこで、ガレスは一拍置いた。


「厄介だ」


 良樹は顔をしかめた。


「厄介って褒め言葉なのか?」


「半分はな」


「残り半分は?」


「面倒ごとを任せたくなる」


「最悪じゃねえか」


 ガレスは笑った。


 それから、リシアを見る。


「リシア」

「オークの肩口を抜いたって話だが、全力か?」


「違うわ」

「貫けば十分だったから、落とした」


 ガレスの眉が少し上がる。


「……器用なもんだ」


 リシアは少しだけ胸を張った。


「器用だからね」


 その声音に、良樹は少しだけ笑いそうになった。


 ガレスは次にカレンを見る。


「カレン」

「前へ出て、戻ったな」


「は、はい」

「怖かったです」


「怖いまま戻れたなら十分だ」


 カレンは、胸元で手を握った。


「はい」


 最後に、ガレスはクラリスを見た。


「クラリス」

「お前は……まあ、相変わらずだな」


「護身術です」


「護身の意味を辞書で引き直してこい」


 良樹は小さく頷いた。


「それは俺も思った」


「良樹くんまで」


 クラリスは少しだけ不満そうに微笑んだ。


 ガレスは表情を戻す。


「ただし、勘違いするな」

「今日うまくいったのは、先に見つけたからだ」

「街中、森の奥、洞窟、荷が多い場所」

「そういう所じゃ、同じ撃ち方はできねえ」


「ああ」

「貫通先が見えなきゃ、四魔素穿弾は撃たない」

「味方が近けりゃ、蒸気ランチャーも撃てない」

「そもそも攻撃盤に替える時間がないなら、別の手が要る」


「分かってるならいい」

「分かってて勝ったなら、なおさらいい」


 ガレスは報酬の手続きを終えると、最後にもう一度言った。


「荷を守って、死人を出さず、オーク二体を落として帰ってきた」

「それを軽い依頼の顔で報告するな」

「お前らはもう、少しずつ面倒な依頼を任される側に入ってきてる」


 良樹は嫌そうな顔をした。


「やめろ」

「責任が重くなる言い方をするな」


「重くなるんじゃねえ」

「もう重いんだよ」


 良樹は何も言い返せなかった。


   ◇


 報告を終えたあと、四人はギルド裏の小さな訓練場へ移動した。


 戦闘直後ではない。

 依頼を終え、報告を済ませ、荷も守った。


 だから、ここからは確認だ。


 良樹は、蒸気ランチャーで抉れた地面を思い出していた。

 それから、リシアの四魔素穿弾が岩に穿った小さな穴を。


「……違うな」


 リシアがこちらを見る。


「何が?」


「俺のは、どれだけ絞っても荒い」

「最低火力が高すぎる」

「小さく撃ちたいのに、どうしても爆ぜる」


 良樹は、自分の攻撃盤を見た。


「ゴブリンの群れを散らすにはいい」

「オークにも効いた」

「だが、肩だけ抜く、足だけ止める、武器だけ落とす」

「そういう使い方には向いてねえ」


 そして、リシアを見る。


「でも、お前のは違う」

「小さく撃てる」

「細く撃てる」

「必要なだけで止められる」

「そこが、俺よりずっと上だ」


 リシアは、一瞬だけ目を見開いた。


「……器用だからね」


 その声には、少しだけ得意げな響きがあった。


 良樹は頷いた。


「ああ」

「器用だ」

「器用貧乏じゃねえ」

「必要な出力を選べる魔法使いだ」


 リシアは何も言わなかった。


 けれど、その言葉は胸の中へ落ちた。


 言うほど器用貧乏か。


 あの日の言葉が、また少し違う意味を持つ。


 良樹は、続けた。


「リシア」

「さっきの四魔素穿弾、もう一回読み出させてくれ」


 リシアは、少しだけ息を止めた。


「……私の魔法が、要るの?」


「ああ」

「俺の蒸気ランチャーじゃ足りねえ」

「出力は出せる」

「でも、制御が粗い」

「お前の風の筒と、弾を通す感覚が要る」


 リシアは、少しだけ頬を赤くした。


「……いいわ」

「ただし、変なところまで読まないでよ」


「変なところって何だ」


「こっちの話よ」


 良樹は、リシアの魔力の流れへ意識を伸ばした。


 見える。


 風の筒。

 土弾。

 火と水の圧。

 回転補助。

 出力調整。

 反動逃がし。


 だが、分かることと、できることは違う。


 良樹は盤の中に、それを置こうとした。


 風の筒が揺れる。

 弾が回りすぎる。

 圧の逃げが遅れる。

 細く通すはずの力が、途中で暴れる。


「……駄目だ」


「駄目?」


「ああ」

「俺が盤に置くと、筒が揺れる」

「弾が回りすぎる」

「圧の逃げが遅れる」

「お前みたいに、細かく整えられねえ」


 リシアは、良樹を見た。


「良樹が、私の方が上って言うの?」


「ああ」


 良樹は即答した。


「制御精度はお前の方が上だ」

「俺は出力を作る」

「お前は、それを通す」

「その方が強い」


 リシアの胸の奥で、何かが小さく震えた。


 似合ってる。


 お前は、俺の理想だ。


 制御精度はお前の方が上だ。


 今日は、宝物が多すぎる。


「……二人で?」


 思わず、そんな言葉が漏れた。


 良樹は技術の話として頷く。


「ああ」

「今はまだ無理だ」

「携行盤じゃ、出力も安全回路も足りねえ」

「でも、盤がもう一段育てば」

「俺が出力を作る」

「お前が制御する」

「そうすれば、俺の荒い一発を、お前が細く通せる」


 リシアは顔を逸らした。


「……そう」


「何だ?」


「何でもないわよ」


 良樹は少し首を傾げたが、それ以上は聞かなかった。


 代わりに、カレンとクラリスを見る。


 カレンはまだ、今日の戦闘を反芻しているようだった。

 クラリスは、リシアの手首と良樹の呼吸を交互に見ている。


「ただ、それでも二人じゃ足りねえな」


 良樹は言った。


「俺とリシアで弾を作れても」

「撃てる場所を作る奴が要る」

「射線を空ける奴が要る」

「抜けてきた敵を止める奴が要る」

「撃った後、誰が壊れたか見る奴が要る」


 クラリスが穏やかに頷いた。


「身体を見る役は、私ですね」


 カレンが小さく手を握る。


「前に立って、射線を空けるのは……私です」


 良樹は頷いた。


「そうだ」


 少しだけ、間が空いた。


 風が吹き、リシアの短いスカートと外套の裾が揺れた。


 良樹は、攻撃盤を見た。


 まだ小さい。

 まだ荒い。

 まだ足りない。


 だが、見えた。


 自分の出力。

 リシアの制御。

 カレンの前。

 クラリスの目。


 四人で撃つ形。


「……四人で撃つ、か」


 良樹は小さく呟いた。


 リシアが聞き返す。


「何か言った?」


「いや」


 良樹は攻撃盤を畳んだ。


「次の盤の話だ」


 良樹の魔導盤は、また一つ強くなろうとしていた。


 だがそれは、良樹一人が強くなるという意味ではない。


 四人で撃つための現場が、少しずつ形になり始めているということだった。

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