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探偵青野優紀の事件簿  作者: 南後りむ
CASE2 告白のち殺人?
7/62

FILE.6 足された言葉〔解決編〕

*事件関係者*

・鏨凱人(たがね-がいと)

今回の事件の被害者。16歳。美月に告白の手紙を出したあとに殺害されたが……。


・難波雄志(なんば-たけし)

17歳。口が悪い。意外なことに生徒会の役員である。


・竹中靖樹(たけなか-やすき)

16歳。主に難波の暴走(?)に歯止めをかける役目。


・遠木克巳(とおき-かつみ)

16歳。竹中と同じく、難波の暴走を止める役。生徒会所属。


シリーズ解決編です。まだ問題編を見ていない方はご注意ください。

「事件の犯人がわかっただと!?」

権田は、つい周りに聞こえるくらい大きな声で言ってしまった。

「青野、それは本当か?」

権田は声を急に潜めて言う。小西は権田の反応を見て、なんだかんだで警部も青野さんを頼りにしているんだな、と実感した。

「ええ。ダイイングメッセージの謎もすべて解けましたよ。犯人はあの3人の中にいます」

権田は内密に教えてほしいと思ったのだが、先ほど自分が出した声のせいで周りにいる人たちもこちらを見てきているため、渋々青野に委ねることにした。

「ったく、ほんとかよ」

権田と青野のやり取りを見ていた難波雄志なんばたけしは馬鹿にするような口調で言う。

「もちろん。今から鏨凱人たがねがいとさんを殺害した犯人をこの手で突き止めて差し上げましょう」

青野の無駄に丁寧な口調に、難波は少しむっとしたような顔になった。ほかの2人――竹中靖樹たけなかやすき遠木克巳とおきかつみ――は青野のことを神妙な表情でみていた。

青野は部屋の真ん中へと進み出ると、自分のポケットの中から一枚の紙を出した。

「さて、警察の方々には見せていませんが、僕と美月がここ――鏨さんの家に来たのはこの手紙の為なんです」

青野は権田たちに見せる。

「おい、そういうものは先に見せろよ」

権田はやや怒りの混じった声で言った。

「あ、すみませんね。いろいろ事情がありまして、なかなかお見せできずにいたんです」

「事情って、なんだ」

権田は不機嫌そうに眉を寄せる。青野はちらと美月の方を伺いながら、言うべきかどうか迷っているようだった。

「そのですね……。被害者の鏨さんが美月に宛てた……その、恋文というかなんというか」

権田と小西は口をぽかんとあけて美月の方を見た。美月は顔を赤く染めて下を向いている。容疑者三人――難波、竹中、遠木――は苦い笑いを顔に浮かべていた。

青野は視線を美月から難波たちの方へと移し、コホンと咳払いをする。

「ところが、この手紙にはがあったんです」

「妙な点? ちょっと見せてくれないかい」

小西が青野から手紙を受け取った。

「ええっと……なになに?


『私は貴女のことが恋しくてたまりません。付き合ってください

 鏨凱人』


特に文におかしなところはないみたいだけど……」

「問題は文の内容ではないんです。それが――“ワープロで書かれていること”」

「あ、確かに!」

小西は声を上げる。権田も問題の手紙を覗き込んだ。

「ふつう、こういうものは手書きで送りますもんね! それがワープロで書かれているということは――」

『手紙が偽装されていた・・・・・・・

小西と青野の声が被った。

「犯人はおそらく、被害者が残したダイイングメッセージを見てから、咄嗟に『ラブレターを送って小林美月を呼び出す』ということを思いついたのでしょう。美月はつい最近、全校生徒の前で表彰されたといっていました。犯人は急いでダイイングメッセージを書き換え、手紙を作った。美月に動機がないと不自然ですからね。僕らが初めて会ったときに難波さんが言っていたように、被害者に襲われて衝動的に殺してしまったというシナリオを作っていたんでしょう。まあ、僕がここに来たことで計画は全て崩れてしまったようですが」

青野はそこまで言い切るとぐるりと3人を見やった。3人とも、ごくりとつばを飲み込んで青野の話を聞いている。

「それでですね、時間のなかった犯人は、取りあえず被害者が倒れている隣で手紙を作ったと思います。外で作るのは危険ですからね。誰に見られるかもわからない」

「そうだな」

彼の話を黙って聞いていた権田が肯く。

「おそらく、殺害するときには手袋でもしていたのでしょう。妙なところに指紋が付いたら困ります。しかし、犯人は替えの手袋を持ってこなかった――これが、この事件で犯した失策でしょう」

「どういうことだい?」

小西が手帳を片手に尋ねる。彼の手帳には青野が話していたことがびっしりと書き込まれていた。

「つまり――犯人はパソコンで手紙を書こうと思った時に、自分の手袋にまだ乾いていない血液が付いていたことに気づいたんだと思います。そこで、手袋をはずして手紙を書いた」

「どうして、そんなことがいえるんだ?」

遠木が質問する。青野は待ってましたとばかりに嬉しそうな顔をすると、コホンと咳払いをして答えた。

「被害者の所持していパソコンからルミノール反応が出なかったからですよ。被害者がダイイングメッセージをかけるほど血が出ていたと言うことは、犯人にもそれなりに血を受けたはずです。特に、手元にべったりとね。だから、ルミノール反応が出ないと言うことは、犯人が手袋を外して打ち込んだ、と言うことになります」

「その犯人は、いったい……」

竹中が怪訝な顔をして隣にいる2人を見た。

「先ほどの推理なら、犯人は手袋を外して打ち込んだはずです。それなら、パソコンのキーボードには……」

「犯人の指紋がべったりとくっついてるってことだろ! さっさと調べろよ!」

難波が怒鳴った。青野が軽くうなずいて、「今鑑識さんが調べています」と言おうとしたとき、部屋の扉が開いた。そこには、先ほどの鑑識が立っている。彼は青野の様子を少し伺った後、手元の資料を見ながら口を開いた。

「鏨さんのパソコンのキーボードの部分から、竹中靖樹さんの指紋が検出されました」

一瞬、竹中の表情は強張る。そんな彼に追い打ちをかけるように、青野が言い放った。

「そう、鏨凱人さんを殺害した真犯人は、竹中さん、あなたですよね?」

「ちが……ち、違う! そんなの……そうだ、この前使った時に着いたものですよ! 友人にパソコンを借りて何が悪いんです!?」

竹中は先ほどよりも大きな声で訴えた。しかし、青野は少しも動じない。

「まあ、だいたいそのようなことを言ってくるとは思ってましたがね。あなたが犯人であると言う証拠はほかにもありますよ」

「なっ、な、なんだよ!」

「あなたは、初めて僕たちに会った時に、不自然すぎる発言をしたんです」

「はあ?」

竹中は不意を突かれてやや間の抜けた声を出した。さすがにそんなに前のことを指摘されるとは思っていなかった、という顔をしている。

青野は、そんな彼の動向を無視して話を続けた。

「『どうしますか? 小林さん』

あなたは、初対面の美月に向かってこういいましたよね?」

「確かに、確かに言いましたけど……」

彼の口調はいつの間にか丁寧な口調に戻っていた。

「しかし、この発言はどう考えても不自然なんですよ」

「ど、どこがですか!」

「あなたは初対面の美月のことを“小林さん”と上の名前で呼んだ」

「それのどこがおかしいっていうんだよ! 彼女はおれたちに向かって自己紹介してたじゃないかよ!」

彼の口調はまたも乱暴なものになる。と、難波が眉をしかめて口を開いた。

「そうだっけか?」

「はあ?」

竹中は上ずった声を出す。

「いやさ、あの時ここにいる小林ってやつは、自分のことを美月としか言ってなかったよな。下の名前で自己紹介するやつ、めずらしいなーって思ったから覚えてるぜ」

「確かに、そうだったよな」

難波の発言に遠木も同調した。そんな彼らのやり取りを口をぽかんと開けて竹中が見ている。彼の顔からは、少しずつ血の気が引いてきていた。

「そのとおり。あなたは、初対面であるはずの美月の名前を最初から知っていた。それは、ダイイングメッセージを作る上で重要なのが“こばやし”という名字の部分だったからですよね?」

「ちがううっ! 僕はただ……そうだ、僕は、あの表彰式のことを覚えていたんですよ! だから彼女のフルネームを知っていた! どこかおかしい所はありますか!?」

「でもあなたは、小西刑事に美月のことは今日下駄箱で初めて見た、と言いました。この発言は、今のあなたの話していることと矛盾しているように思えるのですが」

「そっ、そんなのも、決定的な証拠にはならないじゃないですか! ……そうだ、あのダイイングメッセージは解けたんですか!? 鏨が残した謎のメッセージの正体は!」

「もちろん」

青野は平然とした様子で頷くと、竹中を鋭い目つきで見た。

「あのメッセージは、被害者が死の間際に掴んだと思われるカメラとセットになっているのではないかと私は考えました」

「でも、カメラが『かっこぶんし』っていうやつとどんな関係があるっていうの?」

美月が疑問点を呈する。

「鏨さんは僕たちに自分が残したメッセージの意味を気づかせるためにカメラを掴んだんだと思うよ」

「じゃあ、そのメッセージの意味ってなんなの?」

「うん、そこが一番の問題だね。でも、さっき難波さんたちが話していたことでようやく意味が分かったよ」

「俺たちが、話してたこと?」

難波が自分のことを指さす。

「ええ、そうです。先ほど話していた、あなた方のあだ名の話が、このダイイングメッセージを解く大事な鍵になるんです」

竹中は不信そうな顔をした。

「そんなことをして……解ける訳……」

「とりあえず、あなた方が鏨さんにつけられた“あだ名”を教えていただけませんか?」

青野は3人に向かってまたも丁寧にお願いをする。

「俺は、げんちゃんって呼ばれてたぞ」

「僕は“コケ”だったな」

「俺は子分だって……。なあ、こんなことして何になるんだよ!」

竹中は怒りを孕んだ口調で怒鳴る。

「では、彼らの名前“共通点”とはなんでしょう?」

「ううん……。げん、コケ、子分、げん、コケ、子分、げん……。あああ、わかんないよぉ!」

「青野……。失礼だが、君は何を考えているんだね? 私にはさっぱりわからんのだが」

「ほらほら、刑事さんだってああいうふうに言ってるじゃないか!」

「はあ……。ここまでヒントが出ているのにどうしてわからないんですか?」

青野は竹中の言葉を無視して続ける。

「ヒントねえ……」

美月は相当頭を悩ましているようだ。遠木も難波も、青野の思考回路はどうなっているのかといった顔をしている。

「あなたたちは日頃から接している筈ですが……。まあ、わからないのならしょうがない。答え合わせをしましょう。ずばり、被害者が残したメッセージは、英語の活用形なのです」

「えっ!?」

美月は驚きと納得が混じった顔をした。

「そしてカメラを持っていたのは……言わずもがな、『写真を撮る』の意味でつかわれる動詞、“take”を活用しなさいという意味。ここまでくれば、ダイイングメッセージの本当の意味は分かりますよね? 『かっこぶんし』から小さい“つ”を抜いた『かこぶんし』こそが、鏨さんが残そうとした本当のダイイングメッセージだったんですよ」

「そ、それがっ、ど、どうしたと、いうんですか!?」

竹中は完璧に追い詰められ、言葉に詰まった。額に冷や汗が滲む。

「あなた方の名前をローマ字にすると“take”の活用形が紛れ込んでいるんです。難波さんは下の名前のTakeshiで現在形のtake、遠木さんはtookiで過去形のtook、そして竹中さん、あなたはtakenakaで過去分詞形のtaken。あなたたちのグループは鏨さんが中心になって集めたと言っていましたから、彼は最初からこの法則に気が付いていたんでしょう。まあ、ダイイングメッセージに使えるだなんて考えてもいなかったでしょうから、単に面白半分でやった、というところだったのでしょうか」


「はははは、過去分詞か……。気付きもしなかったよ……。あの時は、ただただ隠すのに必死だったからな……」

竹中は力なく笑い出した。

「あいつがここ最近、成績を上げてきたんだ。今まで馬鹿にしてきたのに、今度は俺が馬鹿にされるんじゃないかと思って、それで、見返されるのが怖かったんだ。だから、気付いたら……」

彼はそのままため息をついた。

「今考えると、なんでこんなことをしたのかな……。ほんと、馬鹿みたいだよ……」

完全に脱力した彼は、そのまま警察に連れて行かれた。後に残った2人は、ただ、変わり果てた友人を見つめることしかできなかった。



  ◇



「あああ! また部室が汚れてる!」

美月は部屋に入ると、大きな声でそう言った。

「もう……。掃除してから一週間も経ってないのに……」

「いいじゃん、また掃除すれば?」

「は!?」

後で覚えてろよ――彼女は寝そべって本を読んでいる青野のことを思いっきり睨みつけてやるのだった。

次回

美月の旧友登場のお嬢様事件

FILE.7 お嬢様と祝宴




Next hint

・ラジコンカー

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