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探偵青野優紀の事件簿  作者: 南後りむ
CASE16 調理室の不可能犯罪!?
59/62

FILE.58 高堂、鬼の居ぬ間に洗濯す

作中の「風邪で一日寝込んで……」のくだりは、だいぶ前に活動報告にのっけたSS(なのかな?)の設定を引き継いでおります。気になる方は8月の中頃くらいの活報を見てくだされ。

 良く晴れた夏のある日。絶え間なく流れる蝉の合唱を聞きながら、高堂は自転車を漕ぎ進めていた。パリッとしたTシャツと黒いズボンをはいているところからみるに、どうやら学校へと向かっているようだ。そんな彼のシャツに、頭から滴った汗が浸み込む。体格もあまり良くなく、体力がなさそうな彼にとっては、たった五分間猛暑の中を自転車で走るだけでもかなり堪えるのだろうか。

 かなり疲れた様子の彼だったが、大きな交差点との信号に差し掛かり、ようやく自転車を止めて一息つくことができた。彼はハアと大きく息を吐くと、カバンの小ポケットから携帯電話を取りだし、慣れた手つきで画面を覗く。

「あーあ、風邪で一日寝込んでようやく復活したというのに、すぐに部活かぁ。先輩達、もう帰ってきてるんだろうな……」

 誰に言うわけでもなく、独りぼそりと呟いた彼は、ふと携帯電話の画面の上端にメール受信を知らせるマークがついていることに気が付いた。彼は画面を下にスワイプすると、そのアイコンをタップする。

「えーと……昨日の夜に青野先輩からか……。ふむふむ、殺人事件の聴取があるから帰るの一日遅れる……って、マジか!? てことは、今日は僕一人ってことじゃん! やったあ!!!!」

 何故か歓喜し始めた高堂は、いつの間にか青になっていた信号をキッと見つめると、力強くペダルを漕ぎ出した。その様は、先ほどとは打って変わり、希望に突き進んでいくように――――は流石に見えないか。傍から見れば、背の低い男子中学生がいきなり気味の悪い態度で自転車を飛ばしているようにしか映らなかったのである。



 ◇



「ふっふ~ん。きょ~うはせ~んぱ~いがいな~い」

 所定の駐輪所にきちんと自転車を止めた高堂は、そこからスキップをしながら職員室へと行き、ギョッとした表情でこちらを見てきた東谷から部室の鍵をもらうと、再びスキップをしながら部室へと向かった。

「いつもは青野先輩が寝そべってたけど、今日限りは僕がゴロゴロしながら本を読める~」

 彼は鼻歌を歌いながら、鍵を穴に差し込み、ドアを開くと、軽やかな足取りで部室の中へと入った。そのまま荷物を肩から床へストンと落とすと、すぐに本棚へと寄る。

「さあて、な・に・を・よ・も・う・か・なぁ」

 ずらりと並んだ本の背表紙を一つずつ指でなぞる。そして、お目当ての本を見つけると(恐らく選考基準は適当だろう)、それをスッと抜き取り、その勢いで寝そべった。

「あ~。やっぱ本は寝ながら読むに限るよねぇ」

 それから、しばしの静寂。高堂は先輩――特に柚希からのツッコミを待っていたが、ようやく今日はいないことを思い出して、つまらなさそうに本をパラパラと捲った。

 それから十分後。いつになく静かな部室の中で、高堂は死んだ魚のような目で黒い文字を追っていた。

「……やばい、退屈すぎる」

 これまた死んだように掠れた声を絞り出した彼は、それから発狂したように足をじたばたさせた。

「あああああああ!!!!!!! 一人ってマジ退屈すぎるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!! 話し相手がいないし、何の音もしないし、外は暑いし、部室も暑いし、おまけに結構臭いもキツイっ!!!!!!」

 彼はひとしきり叫び終えると、むくっと起き上がり、本を丁寧に床に置いた。そして、床に投げ出された部室の鍵を手に取ると、逃げ出すように(といっても、逃げ出す相手などどこにも居はしないのだが)部屋を飛び出した。

 部室棟を後にした彼は、そのまま何気なしに灰色のアスファルトの上を歩き進め、いつの間にか四号館の前へとたどり着いていた。四号館は家庭科室、理科室、技術室などが集まった建物で、南側はグラウンドと接している。

 さて、そんな小説部とは何の関係もない建物のもとへと来た高堂だが、少し開かれた大きな扉からひんやりとした空気が流れ出てきていたからか、迷うことなく中へと入って行った。

「あ~、やっぱり涼しいねぇ。うちの部室にもクーラー導入してほしいわぁ」

 歩いてくるほんの少しの間にもかいた汗を拭いながら、彼はぼそりと呟く。それから、高堂は「うん?」と首を傾げた。

「なんだ、この匂い……」

 そう言って鼻をひくひくとさせる。小説部の部員がこのような発言をしたときは、大体原因が腐臭だったりするのだが、今回は違うようだ。

「なんか……甘い匂い! クッキーだな!!」

 彼は匂いに導かれるようにして、テクテクと歩いて行く。それが一層強くなったところではっと顔を上げると、そこには「調理室」と書かれた札がぶら下がっていた。

「なるほど……料理研究部かなんかがクッキーを作ってたのか……」

 高堂は耐え切れなくなったのか、ゴクリとつばを飲み込む。

「食べたい……。でも勝手に入ったら迷惑だよなぁ。てか、全員知らない人かもしれないし、そんなところに乱入する勇気もなかなかない……。でも食べたい……あー、どうしよう!!」

「いっぱいあるので、食べていいですよ? ……ってか、高堂君じゃん!」

 頭を抱えた高堂に、開け放たれていた扉からひょっこりと顔を出した女子生徒が声を掛けた。それから、目の前にいる男が顔見知りだと知った彼女は驚きを露わにする。

「え……。あ! 栗見さんじゃん! 食べていいの!?」

「うん。外で食べたそーな声色でブツブツと呟いてたから……」

「あ、丸聞こえだったのね」

 自分では静かにしていたつもりだったが、意外と声は響いていたらしい。

「ささ、中に入って。せんぱ~い、さっきの妖怪の声、うちのクラスメイトでしたよ!」

「よ、妖怪の声って……」

 自分の声をそのように評されて、何とも言えない気分になる高堂。そんな彼に、調理室の奥の方でオーブントースター――おそらく、そこでは香ばしく甘い香りの元であろうクッキーが焼かれているのだろう――に顔を近づけていた女子生徒二人が視線を向ける。その視線に少し居た堪れない感覚を覚えた高堂は、ちょっぴりの恥ずかしさから肩をすくめて足を進めた。そして――注意力が散漫になっていたからか、扉の左脇にある何かに思いっきり足をぶつけた。

「いっだあ゛ッ!!」

「ちょ、何やってるの!? 大丈夫!?」

 左足のつま先をおさえて必死にけんけんをしている高堂に、瑠花――――栗見瑠花くりみるかが心配そうな声を掛ける。

「う、うん、まあね。だけどさぁ。なんでこんなところにビール瓶のケースが置かれてるわけ!? まさか酒でも使ってるの!?」

「あ、いや……。それ、ビールじゃなくて牛乳瓶が入ってるのよ。何本か使ったから、洗って乾かしてるんだ。クッキーのほかにも、小麦粉とか卵使ってホットケーキも量産したから。フツーに飲んだのもあるし……」

「ホットケーキも作ったのか。なるほどね……よくよく見れば、小学校で毎日出てきた牛乳の瓶と同じ感じのが4、5本入ってるみたいだ。……おお、痛い」

 赤いビールケースの中を覗いた彼は、つま先をさすりながら呟いた。涙目になっているのは多分気のせいだろう。

 それから、ケースの中から目の前へと視線をずらした高堂は、中にいる女子二人の視線が自分へ注がれているのを知ると、恥ずかしそうに、

「お、お騒がせしております……」

 と空いている方の手で頭をかいた。それから、やや足を引きずるようにして、調理室の奥――オーブントースターがある方へと向かう。

 女子生徒二人はどちらも可愛らしいエプロンを着けており、身長の低い方が水色、高い方が山吹色だった。水色エプロンの方は、調理中だからか、黒い髪の毛をお団子にしてまとめている。

 彼女は近づいてきた高堂に対し、ちょっと冷たい口調で、

「ふーん。君、名前は?」

「高堂達志です。中学1年です。あなたは?」

「あたしは小村木心春こむらぎこはる、中3よ」

 高堂と同じくらいの身長である心春は、口元を若干緩め、少し胸を張って答える。そんな彼女の横に、今度は山吹エプロンを身につけている、黒髪ロングの女子生徒が立った。心春より高い身長と、その佇まいから、どこか高校生なオーラが漂っているように高堂は感じた。調理中だからか、こちらは頭に白い頭巾をしている。

「私は大里海奈おおさとうみな。高校2年生で、料理研の部長をしているわ。よろしくね」

 その言葉と共に差し出された白い手に、高堂は思わずドキリとしてしまう。

「よ、よろしくお願いします」

「ちょっと、何照れてんのよ」

 顔を若干紅潮させる高堂に、瑠花がひじ打ちを喰らわせた。喰らった彼はグフッという呻き声をあげて崩れ落ちる。起き上がった高堂は、わき腹をさすりながら、

「イテテ……。全く、こんなに本気マジになってやらなくてもいいのに……」

「先輩には好きな人がいるから、惚れちゃう前に釘を刺しといたのよ」

「だからってこんなに強くやりますかねぇ普通!」

 彼はむっとした顔でいきり立った。

「まあまあ。でさ、君、何部に入ってんの?」

 心春が宥めるように言ってから、興味津々といった目つきで尋ねる。

「えーっと、小説部ですけど」

「ホント!? あたしも小説――とりわけ推理小説が大好きなのよ! 特に松本清張とか東野圭吾とか、ああ、綾辻行人もいいし、島田荘司とか、あ、江戸川乱歩も外せないわね……」

「ハ、ハイ」

 心春に捲し立てられて、目を点にする高堂。心春はそんな彼の様子に気が付くと、ポンと自分の頭を軽くたたいて、

「ごめーん、小説全てが推理小説ってわけじゃないものね。SFとか恋愛とか、ジャンルもいろいろあるし……」

「あ、でも、うちの部活は割かし推理小説部と名乗ってもいいレベルの推理小説がありますけど……」

「えー、まじで!? じゃあさ、法月綸太郎の……」

「あ、その話は後でしません……?」

 曖昧な笑みを浮かべて言いながら、「されてもあんまりわからないし……」と高堂は思う。そんな彼に、海奈が苦笑い見せて、

「春ちゃんって根っからの推理オタクでさ。ミステリのこととなると盲目になっちゃうのよね……」

「そうなんですか……」

 海奈の言葉に高堂が応じたその時、入り口から男子生徒がひょっこりと顔を出した。

「何だ? この匂い。なんか甘くて香ばしい……」

 彼はクンクンとしながら中の方へ歩いてくる。

「クッキーよ」男子生徒に見とれるようにして、海奈が答えた。その彼女の頬は心なしか赤く染まっているように見える。

(あ、好きな人ってこの男の人なんだ……。確かに運動部っぽい角刈りでカッコいいかも……)

「彼は玉田真吾たまだしんご先輩。高2で科学部なのよ」

 瑠花に説明された高堂は、思わず「科学部なんかい!」とツッコミを入れた。どちらかというと、科学より体育の方が好きそうな見た目である。

「んー、まぁこんな見た目だからなぁ。この前唇切っちゃったから絆創膏貼ってたら、ヤンキーに間違えられて逃げられたこともあったよ」

 そう言って恥ずかしそうに目を細め、頭をかく様からは、確かに運動ができそうなオーラは感じられない。

 そんな彼は、テーブルの上に置いてあるクリーム色と茶色の物体へ目をやると、

「お、クッキーあんじゃん。もーらい!」

 と言って手でつまみ上げた。

「あ、ちょっと。それまだ焼いてないんだけど。ホットケーキならこっちにいっぱいあるわよ」

「あ、そーなの。ホットケーキはちょっと重いな。ちょこっとつまみたいだけだったから」

 真吾はクッキーを戻すと、その手の親指と人差し指で空気をつまむようにして“ちょこっと”を表現する。それを見ながら、いくらなんでも生と焼いてあるクッキーの見た目ぐらい見れば区別つくだろうにと高堂は思った。

「玉田先輩ってちょっとお茶目っていうか、天然なところがあるのよね……。頭はめちゃくちゃイイらしいんだけどさ」

 心春の説明に納得――はしていないが、高堂はとりあえず頷いておいた。

「んじゃ、科学室の方に戻るか……。ん?」

 真吾は部屋を出ようとしてくるりと回ると、その視線の先にあるものに反応した。そこには、家庭科の授業の時に先生が使う大きめの机があり、その上には白い殻の卵がパックに入ってたくさん置いてあった。彼はその一つに触れると、

「生卵か……。そーだ、一個貰ってくぞ」

「え、ええ。どうせ家に持って帰るやつだし、別にいいけど……。何にするの?」

「昼飯に食うんだよ。実はお弁当のおかず忘れちゃってさ……。これで卵かけごはんにしようと思うんだ」

(忘れるかよ、フツー)

 呆れ顔の高堂の横で瑠花や心春が「相変わらずおっちょこちょいね……」と呟いているところを見るに、これは日常茶飯事らしい。

「ま、また十分後くらいに来るから、それまでに用意しといてくれよ」

 玉田はそういうと、卵を一つ手に取ってから、もう片方の手をポケットに突っ込んで去って行った。

「えーっと、科学部って今日も活動してるんでしょうかね?」

 玉田がいなくなって少ししてから、高堂が3人に尋ねる。

「ええ。といっても、さすがに夏休み毎日はきついらしいから、他の部員はあんまりこなくて、だいたい一人で活動してるみたいだけどね」

「ほら、この時期って家族旅行とかもあるじゃない」

 海奈と瑠花に言われて、高堂はなるほどと頷いた。

「そういえば、料理研も人数少ないですよね。もっといると思ったんですが……」

「家族旅行に行ってる人が何人かと、それから手芸部で活動してるから来られないって人もいるわね。あたしは料理一筋なんだけど、この部活にいる人って大体裁縫とか手芸も好きだったりするから」

 それに、と心春は続ける。

「海奈先輩、今日作ったクッキーを玉田先輩にあげるつもりらしいから。あんまり冷やかされたくなくて、そんなに人を呼んでいないのもあるんじゃないかしら」

「ちょっと心春ちゃん! あんまり外の人にそういう事言わないでよ!」

 顔を赤らめて抗議する海奈を見て、思わずジト目を浮かべる高堂。そんな彼の隣で、瑠花が、

「爆発しちゃえって思ったでしょ」

 とこれまた白い目をして言った。

 高堂は「まっさかぁ」と言葉では否定するが、顔に「爆ぜろ!」という字が思いっきり出ていた。

「ささ、先輩方、片付けをしちゃいましょ! 生卵を放置しっぱなしってのもアレですし、流しにたまってるまな板とかボウルとかも、さっさと洗っちゃわないといけませんしね」

「まあ、確かにそうね。心春ちゃん、やりましょ!」

「ええ。あ、あたしはクッキーの方見ておきますね。すぐ焼き上がっちゃうんで……って、やばっ、焦げる!」

 無駄話をしている間にきつね色の見た目のクッキーが危うくチョコクッキーになるところだったらしく、心春が慌てたようにトースターの扉を開く。海奈や瑠花も洗い物やごみの片付けに勤しんでおり、今までのほんわかでふわふわとした空気から一転、やる気満々な雰囲気になった。

「おお、頑張ってくださいねぇ」

 彼女たちを見ながら、家庭科室の木の椅子に腰かけてのんびりとくつろぐ高堂。と、彼の手を瑠花がパシッと掴んだ。

「何言ってんのよ。高堂君もやりなさい!」

「え、まじですか」

「ええ。働かざる者食うべからず、よ!」

 彼女はそう言って高堂を引き上げる。そのまま高堂は、お片付けに従事させられたのであった。



  ◇



「ふう……。やっと終わった……」

 高堂はようやく腰を下ろすと、額を手の甲で拭った。汗だくになっているわけではないので、これは疲れたことを誇張しようとしているだけだろう。

「まぁ、一生懸命働いた後の飯はうまいって言うしね」

「飯っていうか、クッキーですけどね……」

 海奈の言葉に高堂はどうでもいいツッコミを入れた。

「ほれ、全部焼き上がったよ。高堂君――だっけ? 君が来てくれて助かったよ。あたしたちだけじゃとてもじゃないけど食べきれないから……」

「いえいえ。その代り、たっぷり食べますよ! 働いた分は食べないと、ですからね!!」

 高堂がじゅるり、と涎をすすると、瑠花が「汚い……」と言って軽く睨みつけた。それに気まずそうな顔をして肩をすくめた高堂は、銀のお盆の上にずらりと並べられたクッキーを見て、

「うーんと、もう食べていいですかね? こんなにありますし……」

「そうね。そろそろ真吾君も来るだろうし……」

「じゃ、遠慮なくいっただっきまーす!」

 彼は元気よく言うと、クッキーへと手を伸ばした。

「むむ! ほのかなバターの香りに、サクサクな食感……これぞまさしくクッキーって感じですね!! それからこっちの茶色い方は……もぐもぐ、ココア味ですか。こっちもおいしいです!」

「食レポしろだなんて言ってないんだけどさ……」

 瑠花が、興奮してクッキーを口に運ぶ高堂を見て、呆れた顔で呟いた。

「まあまあ、おいしそうに食べてくれると、作ったあたしたちも嬉しいしね。――――あ、玉田先輩!」

 こちらへ笑顔を見せた心春は、入口から真吾が入ってくるのを見て立ち上がる。

「おーっす、もう焼き上がってるみてーだな。チビ助ももりもり食ってるじゃねーか」

「ち、チビ助!? むひゃむひゃ、僕はこれから大きくなる予定なんです!! ゴクン、それに、全然小さくなんてありませんから! 中3の小村木先輩と同じくらいじゃないですか!!!!」

 慌ててクッキーを飲み込んだ高堂は、片手で口元をおさえながら、もう片方の手で心春のことを指差す。心春はそれにムッとしたように眉を寄せると、

「あたしは女子だっつーの!!!! てか、あたしの方が2㎝くらい上ですから!!!!」

「まあまあ二人とも。それよりほら、みんなで食べましょ!」

 バチバチと火花を散らす身長小さい子組(ちなみに瑠花も同じくらいの身長だが、なぜか彼らの視界には入っていないようだ)を宥めながら、海奈はきつね色のこんがり焼き上がったクッキーを一枚手に取った。

「うん、よくできてるわね……」

「それじゃ私もいただきま~す」

「俺も貰うぞ」

 瑠花と真吾がそれぞれプレーンとココア味を手に取って口に運ぶ。それから、ぱっと目を見開くと、「「おいしい!」」と声をそろえて言った。

 それから5分後。テーブルの上には紅茶も出され、一同は仲良く談笑しながら、ほのぼのとしたお茶会を開いていた(約二名を除く)。彼らによって次々とクッキーが減らされていく。それを見て、「なんかあんなに量があったのにすぐに無くなっちゃいそうです……。あ、そーだ、ホットケーキもあるんでしたよね。それ、僕にくれません?」と高堂が言った。

「いいけど……もう冷めてると思うわよ」と海奈が応える。

「じゃあ、レンジかなんかで温めていただければ……」

「先輩、そんな必要はありませんよ。さ、どーぞ!」

 笑顔でラップのかかった皿を差し出す心春。

「な、なんでこんな子供っぽい意地悪を……。やはり身長だけでなく中身までお子ちゃまなんですね」

「うるさいわね。大人なら黙って食べるものよ。ま、お子ちゃまなチミ・・には無理だろうけどね~」

「キーッ!!」

「お前ら見苦しいぞ……」

 再び火花を散らし始めた高堂と心春に、真吾は呆れかえってため息を吐いた。

「まったく……。高堂君も高堂君だし、小村木先輩も年上なんだからしっかりしてくださいよ……」

 瑠花は疲れた表情でぼやく。彼女の言葉を受けてかどうかはわからないが、それきり2人は黙ってそっぽを向きあった。

 それから10数秒が経ったのち、高堂が海奈の方を――おそらく意図的に心春の方を向かないようにしているのだろうが――向いて、

「あー、牛乳ってまだ余ってますか? この冷めた・・・ホットケーキに合わせて飲みたいんで」

 あえて「冷めた」を強調して嫌味ったらしく言った。

「はぁ……。はい、これ以上うるさくなるのも嫌だから、一本あげるわ。ただし、飲み終わったら牛乳瓶をちゃんと洗って、あそこのケースに乾しておくこと。いいわね?」

「はい、もっちろん!!」

 高堂は元気よく言うと、冷蔵庫から牛乳瓶を一本取りだしてきた海奈からそれを受け取った。そして、ふたの周りに付いているラベルを剥がすと、ふたを開け、腰に手を当てて一気に飲み干した。

「ぷはー、牛乳ってやっぱおいしいですよね!」

「い、一気飲み……。ホットケーキに合わせるとか言ってたのはどうなったのよ……」

 同じ同級生として恥ずかしく思ったのか、瑠花が頭を抱えた。高堂は少し気まずそうにして、

「ラベル剥がしたら無性にやりたくなっちゃってさ……。もう半年くらい、瓶の牛乳なんて飲んでないから……」

「ま、たくさんカルシウム摂れば背が伸びるっていうし、いいんじゃないの? 当分はちっこいままだろうけどね」

「クーッ!! なんという屈辱!!」

「だから張り合うなって……。おいチビ助、そんなにいがみ合ってる暇があったら、さっさと牛乳瓶を片付けとけよ」

 真吾から“チビ助”と呼ばれて若干むっとした表情になるも、特に口答えせず、高堂は瓶を洗いに流しへと行った。洗い終わると、軽く水を切って、赤いビールケースもどきのところへと向かう。丁寧に瓶を片付けた彼は、そこである物に気が付いた。

「な、なんだこりゃ……」

 驚きのあまりか、ポツリとつぶやく高堂。

「どうしたの?」

 彼の反応に少しの不安を覚えたのか、瑠花がやってくる。他の三人も彼女の後ろから歩いてくると、一緒にビールケースの中を覗きこんだ。

「な、なんなの、これ……」海奈が声を漏らす。

 やがて、高堂は意を決したようにして手を伸ばすと、それをびくびくしながら持ち上げた。皆の視線も、それにつれて上へと移動する。

「やっぱり……」横からしっかりとそれを見据えて、高堂はつぶやいた。

「牛乳瓶の中に、ゆで卵がすっぽり入ってる……」

 それだけかと言われればそれだけなのだが、牛乳瓶とゆで卵という滅多にない組み合わせがその場の異質さを掻き立てていた。空の瓶の中に一つだけすっぽりと納まったゆで卵には、傷一つない。そのためか、艶のあるその表面は、彼らの目にはひどく不気味に映ったのだった。

 そして、腕を組んだ心春がキッと眉を寄せ、先ほどとはまったく異なる表情で、その卵を黙って睨みつけていた。

次回手がかり編!

青野不在の状況で悩む高堂。事件は解決するのか?

FILE.59 あたしの推理



Next hint

・ゆで卵



*改稿の記録*

2017/10/29 問題の瓶の中に卵しか入っていない旨を追記

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