FILE.40 高堂はダイイングメッセージを解き明かす〔解決編1/2〕
*事件関係者*
・水澤佳代子(26)
北次学園社会化講師で歴史部の顧問。青野に脅迫状の件について依頼した。
・近藤久夫(47)
歴史研究家。東照宮会の会長を務める、恰幅のよいおじさん。
何かに怯えるような素振りを見せていたが、第二の事件の被害者として発見される。
・新畑実和(42)
近藤と仲のよい小柄な女性。
第二の事件の後、行方不明になるのだが……。その後、諏訪湖の近くの公園で、溺死体として発見された。
・山野繁頼(43)
大手塾講師。会員のなかでも創設当初からいた人物。
・滝山隆造(32)
IT企業の社員。カツオ君みたいな頭をしている。最近スマホゲームに夢中。
・宇須啓海(26)
雑誌編集者。遅刻癖が抜けない。高そうなカメラで写真を撮りまくっている。
・小川静香(39)
デザイナー。古参メンバーの一人。旅行を急遽休むことになったのだが……。
皇居で遺体となって発見された。
シリーズ解決編です。問題編を読んでいない方は、ご注意ください。
ホテルの部屋の中で、水澤佳代子はある写真を見つめていた。
先ほどまで、青野たち生徒と一緒にいたが、彼ら(特に青野と高堂)はひそひそと話をした後、真剣そうな顔つきで立ち去って行った。そのため、水澤は一人で部屋に戻る羽目になったのである。
(青野君たちが、事件の真相を掴んだって言っていたわよね……。やっぱり、会員の中に犯人はいるってことなのかしら……)
彼女は一旦顔を上げて天井を仰いだが、すぐに写真へと視線を戻した。
(お姉ちゃん……)
もし彼がいたら、姉の死の真実も教えてくれたのかもしれない。あのお姉ちゃんが、自殺なんて……。
そこまで考えてから、彼女はぶんぶんと頭を振ると、写真をトランクの中にそっと隠した。もう三年も前の事なのに、つい最近のように感じられて仕方がなかった。
気分を変えるために、水でも買いに行こうかと彼女は立ち上がる。と、ジーパンのポケットに入れていた携帯電話が規則的な振動を起こした。
「うん? これは……」
*
「一斉メール、でしょうか」
山野繁頼は、掠れた声を微かに絞り出した。日光のホテルで、水澤雪江の写真を見せられてから、彼の頭の中は苦悩でいっぱいだった。
怪我のせいで、彼女の葬式に参列できなかったこと。そのことが、彼の心の中に残り続けてきた。そもそも、彼女が自殺するほど思いつめていたというのに、話を聞くことが出来なかった過去の自分は何をやっていたのだろうか。
彼は、薄暗い部屋の真ん中で、細い目を開いて頭を抱えていた。
*
「差出人はあの高校生たち……。何考えてんだか」
メールを見た滝山隆造は、そう漏らした。つい先ほどまで、彼は部屋のベッドに寝そべり、今は亡き水澤雪江のことを考えていた。
高校のバンドで一緒だった彼女。結成の時、初披露の時、それから、文化祭で演奏した時――――。あのすべての思い出の中にいる彼女に、今はもう会うことが出来ないのだ。
彼は写真の中で満面の笑みを浮かべている彼女のことを見ながら、きつく唇を噛みしめた。
*
「準備が整ったからホテルの112号室に来てくださいって……。どういうことなのかしら」
ホテルのロビーにあるふかふかのソファに腰掛け、宇須啓海はカメラのプレビュー機能で写真を見ていた。ただし、日付は最近の物ではなく、三年前のものだ。被写体は水澤雪江――。姉のように慕っていた彼女がこの世から消える数週間前に、宇須が撮った写真だった。
彼女は立ち上がると、指定された部屋へと向かう。その心の内に、僅かな哀愁を秘めて――。
◇
そして――――。
「お集まりいただき、誠にありがとうございます。それでは、一連の殺人事件の真相を、白日の下にさらしてみせましょう」
彼らを呼んだ張本人が、ホテルの112号室の窓に寄り掛かるようにして立っていた。
「どういうことなのかね? 急に呼び出したりして」
「それはもちろん、犯人が分かったからですよ」
ふっと笑う青野。彼の反応に、山野は納得しているのかしていないのか分からない表情を浮かべる。
「い、いったい誰なの? 近藤さんたちを殺した真犯人は!」
「そうだ。我々警察まで呼んで……。間違いでもあったら、ただでは済まされんぞ」
『まあまあ、青野くんの腕は確かですから、安心してください!』
青野に呼ばれた長野県警の松本警部と、電話で話を聞く栃木県警の小山。
「ま、慌てないでください。先ずは、近藤さんの部屋の目貼りトリックからお話しますよ」
そう言って、青野は部屋の机の上に乗っていたガムテープを手に取ると、テープをピッという音を立てて少し出した。
「使うのは、このガムテープと細い糸の2つです。このトリックの用意のために、まず、片側の窓のレールの部分に、少し深めに傷を等間隔につけます。
それから、窓の半分にしっかりと目貼りをします」
青野はペタペタとガムテープを貼っていく。
「次に、ガムテープを粘着面を外側にして半分に折り、窓枠に貼り付けます。で、先程の溝に糸を通し、ガムテープにくっつける」
話しながらその作業をしていく青野。みんなは近づいて、彼の手先をじっと見ていた。
「時間の都合上、1ヶ所で止めておきますが、これを3方向全てで行えば、準備はオーケーです。あとは、ガムテープに触れないように窓から外に出て、窓を閉め、糸をまとめて勢いよく引けば……!」
窓から外に出た青野は、話のように窓を閉めて糸を引いた。
「糸にテープが吸い寄せられて……窓についたぞ!」
滝山が驚きに近い声を発する。
「さらに強く引っ張れば、糸はテープから離れて、回収されるという寸法です」
青野は糸を引いて回収する。それから、窓を勢いよく開けると、部屋の中に戻ってきた。
「で、でも、ちょっと待ってよ」
皆が得心顔をする中で、宇須が疑問の声をあげる。
「今のでガムテープを止めることが出来たとしても、かなり緩く止められてない? こんなの、近くでよくみればバレバレじゃない」
「い、言われてみれば……」
水澤が頷きかける。
「その心配はありませんよ。部屋の中で一酸化炭素が焚かれている状況でまずすべきことは、部屋の窓とドアを開け放して空気の入れ換えをすることです。そのためには、当然目貼りを剥がす必要があります。1度剥がされてしまえば、どのように貼られていたかなんてわかりっこないですよ。
それに、現場の窓の外側にも粘着物が付着した跡が残っていました。これって、内側の目貼りが不十分だから、外からきつくし直した、ということですよね」
『なるほど……。現場を見たあのときにそこまで考えていたとは、流石です!』
小山は感心(崇拝に近いかもしれない)した声を出す。青野はそれを無視すると、思い出したように言う。
「あ、恐らく糸は赤色のものを使ったんでしょう。カーペットの色と似たようなものを使うことで、回収する過程で切れてしまったものを、剥がしたときについたんだと誤魔化すことができますから……」
「なるほど。目貼りについてはよくわかった。で、肝心の犯人は誰なんだ?」
「焦らないでください、松本警部。それについては、高堂くんからお話してもらいますから」
「高堂くんが?」
水澤が彼のことを見る。高堂は、緊張した面持ちで頷くと、青野に代わって前に進み出た。
「えー、この事件の犯人を暴く際に必要になってくるのが、このダイイングメッセージです」
高堂は1枚の写真を取り出す。それは、被害者のポケットに入っていた、パンフレットを切り抜いて作られたダイイングメッセージだった。
「日光道、東照宮……。これが、何を意味しているっていうの?」
美月が彼に問う。
「このままだと意味がわからないので、言葉を変えて考えていきます」
「言葉を変える? どういうことだね」
丁寧な口調で話を進める高堂。彼は、山野の質問に静かに答える。
「変えるのは、最初の『日光道』という部分。これは、日光道中という単語を切り取られて作られたものなのですが、皆さんは日光という単語を聞いて真っ先に思い付くことはなんですか? あ、東照宮関連は抜きで」
「じゃあ、太陽とか、そっち系統ってことか?」
「正解です、滝山さん。日光道を太陽の道という言葉に置き換えれば、このダイイングメッセージは解けたも同然なんですよ!」
高堂は一気に捲し立てる。周りの人は、若干そのペースについていけていないようだ。
「え、太陽の道ってどういう意味?」
表情を固めたまま、美月が尋ねる。高堂は、「あ、ごめんなさい」と恥ずかしそうに謝ってから解説を始めた。
「太陽の道というのは、静岡県の久能山東照宮から京都にある秀吉の墓に至るまでの直線のことです。面白いことに、この直線上に2つ、東照宮が並んでいるんですよ」
彼は人差し指と中指を立てる。
「ひとつ目は、鳳来山東照宮。これは、日光東照宮、久能山東照宮と並んで三大東照宮と言われることもある東照宮です。ここは慶安元年に3代将軍徳川家光によって……」
「こほん!」
青野がわざとらしく咳払いをする。それを聞いた高堂は、慌てたように話を切った。
「と、とにかく、そういうところがあるんですよ。で、もうひとつの東照宮が……これです」
彼はスマートフォンをつけて、画面を此方に向けた。そこに写っていたのは――――
「滝山東照宮。鳳来山東照宮に代わって三大東照宮に数えられることもある東照宮です。これこそが、近藤さんが示したかったことなんですよ」
皆の視線は、一人の人物の方を向いていた。
「そうでしょう? この東照宮と全く同じ漢字を名前に冠する、滝山隆造さん。あなたこそが、この一連の殺人事件を仕掛けた真犯人ですよ!」
滝山は顔を伏せ、静かに高堂を睨み付けていた。
「そんな、滝山さんが……」
「嘘でしょ……」
「ありえない……」
口々に溢す3人。そんな彼らに、滝山は慌てたように顔を歪めると、
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。そんな紙切れで俺を犯人扱い? 冗談じゃねえ!」
と叫んだ。
「そ、それに、第一の事件が起きたときに送られてきたメールはどう説明するの? あのとき、確かに彼は携帯電話を手にしていたけど、あれは彼自身のもの。小川さんのアドレスでメールを送ることなんてできないわよ」
「ああ。それなら、携帯電話のカバーを付け替えれば済む話ですよ。彼の持っているスマートフォンのカバーの色は青色。予め奪っておいた小川さんのスマートフォンに同じ色のカバーをつけてしまえば、中を覗かれない限り、ばれる心配はありませんからね」
宇須の反論に、的確に返答する青野。そんな彼を見ながら、滝山はフッと笑みを浮かべる。
「おもしれぇ……。確かにそのトリックなら、俺にもメールを送ることは可能みたいだな。だが、第三の事件はどうする? 犯行が起こったと思われる時間、俺はお前らとずっと一緒にいたんだ。それに、殺された時間からして、日光で犯行が行われたのは間違いない。それなら、俺はどうやって諏訪まで遺体を運んだってんだ? 俺のトランクにそんな痕跡はなかった。そうだよな、警部さん?」
「あ、ああ。その通りだ」
「ほら見ろ。お前が何を言おうと、俺に犯行は不可能なんだよ!」
彼は勝ち誇った表情を湛え、青野に挑発じみた言葉を投げつける。
「青野くん……」
美月が心配そうに青野の方を見る。が、彼は不敵な笑みで返す。それから、周りに聞こえるようにか、わざと大きな声を出して言った。
「大丈夫だよ、美月。彼の使ったトリックならもう解けてるし、証拠もバッチリだ。もう言い逃れなんてできっこないよ」
「なん、だと……!」
自信たっぷりの顔で返された滝山は、頬を引き攣らせる。青野はしっかりと彼のことを見据えて、口を開いた。
「さあ、謎解きのラストスパートといきましょうか」
次回完結!
一見不可能なアリバイトリックの真相。
そして、真犯人、滝山が犯行に手を染めた理由とは!?
FILE.41 姉の死の真実
Next hint
・トランク
*作者から*
すみません、解決編第二話は後日投稿させていただきます。楽しみにしていただいた方、本当に申し訳ありませんでした。




