第006話 組み継ぎ
> 【鑑定 第六号】
> 押印累計 ── 二十。
> 依頼者 ── 火村燈。
> 物件 ── 組み継ぎ、一箇所。
> 所見 ── 二つの材を、釘も膠も使わずに繋ぐ手立て。
> 互いの木に凹と凸を刻み、噛ませる。
> 片方だけを削っても継がらない。両方が削られて、初めて繋がる。
> 当該箇所、寸法の狂いなし。隙間、一分。
> ……判定を、開始します。
── その朝、楠木巌は五つの木片を土間に並べていた。
火村鍛冶の土間である。炉の火は落ちている。巌は昨日からそこにいて、昨日と同じ場所に座っていた。
木片は一つが掌ほどの大きさで、五つとも形が違った。端に刻みが入っている。刻みの形が一つずつ違って、どれも途中だった。
巌は鑿を当てて、木槌で二度叩いた。二度で止めて、指の腹で削った面を撫でる。撫でて、また二度叩いた。
二日目である。一日目に何をしていたかは、燈が見ている。同じことをしていた。
「まだ終わらねぇのか」と燈が訊いた。
「終わらん」
「昨日から五つだぞ」
「五つだ」
燈は土間の隅で膝を抱えた。抱えて、すぐ立った。座っていられない。
急ぐな待てよ 木は千年で。
巌が低く鳴らした。木槌の音の間に入って、それきり続かない。燈は続きを知らなかった。
外ではアーケードの片付けが五日目に入っていた。鉄の骨を切って運び出す音が、間を置いて聞こえてくる。八軒の店先が塞がったまま、四日が過ぎている。
「四十日って言ったよな」
「言った」
「五日たった」
「ん」
巌の手は速くならなかった。速くならないまま、木片の刻みが少しずつ形になっていく。
昼前に玲が来た。制服の上に前掛けを掛けている。土間を横切って、炉の脇の棚に手を伸ばした。
桐箱が出てきた。棚の一番奥で、藁の下に埋めてあった。
「陶山さんの」と玲が言った。
「開けるなよ」
玲は開けた。饅頭が四つ入っていた。
蒼が引き戸を開けたのは、玲が三つ目を食べているところだった。間に合っていない。
「なんで分かるんだよ」と蒼が言った。
「匂い」
「桐箱に入れてるんだぞ」
「桐箱の匂いがした」
蒼は残った一つを取って、それを半分に割って、半分を玲に渡した。渡してから眼鏡を上げて、また下げた。紬が笑って、巌は手を止めなかった。
佐久間が豆腐を五丁置いていったのは、その少しあとだった。前掛けが濡れている。
「余ったからな。置いてくぞ」
「五丁だな」と燈が言った。
「余ったんだ」
燈は一丁を鉢に移して、水を張った。水が冷たい。四月でも、朝の水はまだ冬の温度をしている。
「戸島さんとこ、持ってく」
「肘は?」と紬が訊いた。
「吊ってる。煩いのは治ってねぇ」
紬が燈の襟のほつれを見つけて、袖を引いた。見つけるのが早い。
「はいはいはいはい」
四回だった。紬は針も通さずに糸を撚って押し込んで、それから燈の手の鉢を見た。
「わたしも行く」
「なんで」
「戸島さん、片手じゃ豆腐切れないよ」
*
翌朝、商店街が明るかった。
燈は道の真ん中で足を止めた。止めて、上を見た。
アーケードがあった。
落ちた三十メートルが、屋根になって架かっている。骨が細い。細いのに、前より高い。硝子の波板ではなく、白く透ける板が張ってあって、光が均していた。柱の足元に水が溜まっていない。溝が切ってあった。
雨が入らない。前は雨の日、三軒目の前だけ必ず濡れていた。
「昨日まで無かったぞ」と燈が言った。返事は無い。
誰も驚いていなかった。宮下が軍手を返しに来て、佐久間が湯を運ぶのを止めていた。八軒の店先が開いている。四日ぶりだった。
戸島が肘を吊ったまま出てきて、屋根を見上げた。首を後ろへ倒すのに時間が掛かった。
「明るいな」
「戸島さん、これ」
「分かってる」
戸島は口が悪い。悪いまま、暫く上を見ていた。
「分かってるが、明るいだろ」
巌は道の端に立っていた。落ちた柱が置いてあった場所である。何も無くなっていた。切って運ぶ手間まで消えていた。
巌は道具箱を開けた。開けて、そのまま閉めた。
「四十日ぶん、空いた」
それだけ言って、巌は道の端から動かなかった。四十日分の材は、水路沿いの木場に積んである。
*
識が火から立ち上がったのは、その道の上である。燈が印籠を開けた場所に、火だけが残った。
> 鑑定を、開始します。
燈の目には、いつもの子どもが見えた。子どもは道の真ん中で屋根を見上げて、それから首を下げた。
> 物件 ── 商店街アーケード、延長三十メートル。
> 柱十二本、母屋六本、波板は樹脂。排水の溝、新設。
> 継ぎ目に、切り直した跡がありません。
> 判定 ── 贋。
「撤去は出来るのか」と燈が訊いた。
> 撤去は、所有者の申し出により行います。
燈は道を見た。八軒の店先が開いている。宮下が娘を店の前に出して、屋根を指して何か教えていた。娘が屋根を指して笑った。
誰も申し出なかった。
燈は言葉を探した。探しているうちに、佐久間が湯の桶を持って通り過ぎていった。
「燈坊」
「何だよ」
「うちの看板は、まだ割れたままだからな」
佐久間はそれだけ言って、店へ入っていった。割れた看板は、縦に二つになったまま店先に立て掛けてある。先月割れて、直して、五日前に同じ線でまた割れたものである。
巌は道具箱の前に戻っていた。箱を開けて、中を見て、それから燈を呼んだ。
「一つ無い」
「何が」
「鉋だ。新しい方が無い」
箱の底に布があった。布は畳んだままで、中身だけが抜けていた。
燈は思い出した。神社の夜、巌はその鉋を布で包んで箱の底へ入れた。捨てなかった。使わないと言い、悪くないと言った。
「持っていかれたのか」
「持っていかれた」
「なんで新しい方なんだ」
「ん」
巌は土間へ戻って、五つの木片を並べ直した。並べ終わってから、燈の方を見た。
「火の話をする」
「今か」
「今だ」
巌は木片を二組、脇に出した。どちらも同じ二枚組で、刻みも同じだった。
「こっちは、組んでから乾かした」
巌は一組を持ち上げて、継ぎ目を上に向けた。継ぎ目が見えない。爪を入れても入らない。
「こっちは、乾かしてから組んだ」
もう一組を持ち上げて、同じように向けた。指で押すと、動いた。継ぎ目に細い影が走っている。
「緩む」
「なんで緩むんだ」
「木は乾くと縮む。組んでから縮めば、締まる。縮んでから組めば、隙が残る」
燈は二組を交互に見た。同じ形の木が、順番だけで違うものになっている。
「火入れが通らねぇのも、それか」
「多分な」
巌は五つの木片を一つずつ噛ませていった。五つが繋がって、輪になった。
「素焼のまま継げるのは、もう分かってる」
「連結だ」と燈が言った。「合体じゃなかった」
「継いだあとに火を入れたことが、一度も無い」
燈は輪を受け取った。継ぎ目に爪を立てても、どこが継ぎ目か分からなかった。
蒼が土間に入ってきて、その輪を見た。見てから、輪を回した。継ぎ目を探していた。
「三秒くれ」と蒼が言った。三秒より長く掛かった。
「焼き物と同じだ。窯に入れる前に、継ぐところは継いでおく。あとから足したものは、必ず縁で切れる」
「じゃあ、順が逆だったのか」
「逆だった」
巌は木槌を置いた。置いた場所が、二日前から変わっていない。
> 本日の押印で、六つ減ります。
> 変身に一。搭乗に三。刻印に二。合わせて六であります。
「刻印?」と燈が言った。
> まだ撃っておられません。撃つ場合の内訳を、先に申し上げました。
道の外で、砂が鳴った。
灰白色が来た。数える前に三十を超えた。アーケードの下から出てきて、新しい柱を一本も傷付けずに並んだ。並び方が揃っている。
その先に男が立っていた。革の前掛けを掛けて、作業着に汚れが一つも無い。
男は右手に鉋を持っていた。布に包んでいない。
「お返しに参りました」と型取が言った。
「返す気は無いだろ」と燈が言った。
「もっと良いものに、してさしあげただけです」
男は鉋を道に置いた。置いた鉋が、置いた場所から膨らんだ。
木の胴が伸びて、刃が横に広がる。三メートルほどになったところで止まった。左右が寸分違わず対称だった。台の底が鏡のように平らで、そこに道の砂が映っていた。
> 贋作体であります。原物、楠木巌の鉋。
> 削り面、上下左右いずれも狂いなし。刃こぼれ、ありません。
> 判定 ── 贋。
贋作体が動いた。動いた先に、片付け途中の梁が転がっている。贋作体は梁の上を通った。
しゅう、と鳴った。
梁の面が消えた。継ぎ目が消えた。巌が五日前に組んで、落ちた足場の材である。凹凸のあったところが、全部平らになっていた。
巌が梁の上に乗った。梁の幅は、靴一つぶんしかない。
「降りろ!」と燈が叫んだ。
巌は降りなかった。梁の上に立って、鋸を出した。
「ツギテノコ!」
歯が梁に噛んで、凹凸が出来る。作った傍から、贋作体が通って削いでいく。巌は削がれた先へ移って、また継ぎ目を作った。作って、削がれる。作って、削がれる。それでも降りなかった。
「押印!」
燈が先に押した。四人が続いた。
> 銘 ── 確認。〈火村燈〉
> 銘 ── 確認。〈陶山蒼〉
> 銘 ── 確認。〈綾織紬〉
> 銘 ── 確認。〈楠木巌〉
> 銘 ── 確認。〈硝子井玲〉
五つの胸から朱が広がった。円、角、杼形、縦長方形、六角。麻の葉と、亀甲と、格子と、魚子の縫い目が、五人ぶん同時に走った。黒漆が乗って、焼けて、五色が残る。
艶は何処にも無い。五人とも、光を吸って返さない肌をしている。
背後に、白い紙が広がった。五枚ではない。一枚である。
> 急いで鳴らす、鉄の刻 ─── コクインレッド!
> 読んで遅れる、静の刻 ─── コクインブルー!
> 余して結ぶ、糸の刻 ─── コクインイエロー!
> ゆっくり組んで、梁の刻 ─── コクイングリーン!
> 震えて裂いて、砂の刻 ─── コクインピンク!
五つの印が、順に押されていく。円、角、杼形、縦長方形、六角。押した印は消えない。
> 一点物が、ここに参上!
声が五つ揃った。揃ったのは初めてだった。
> ── 以上、五点。全て、一点物。
> ならびに、空欄、一つ。
紙の右下に、印の入っていない場所が一つある。識はそれを数に入れた。
誰も何も言わなかった。玲だけが、一度そこを見た。
贋作体が来た。
巌が梁の端に凹凸を作って、そこへ紬が鞭を掛けた。掛けた場所は、凹凸の内側だった。
「タテヌキムチ!」
紬は引かなかった。引かずに、梁の反対の端を持ち上げた。梁が傾く。贋作体の台が面から浮いた。
「玲!」
「うん」
玲の右手が動いた。何を握っているのかは見えない。梁の真ん中に線が入って、そこから上と下が離れた。
贋作体の台が、乗るところを失った。平らな面が無ければ、鉋は進まない。
蒼は三歩待った。三歩目で輪を投げる。輪は贋作体の刃の下に入って、そこで止まった。刃が砂を噛んで、前に進めなくなった。
「燈」
「見えてる」
燈は走った。走って、刃の前で足を止めた。
鍛冶が刃を打つ。刃は打たれるためにあるのではない。それでも、打てば分かる場所が一つある。
燈は槌を高く上げなかった。上げずに、腰の高さから短く振った。
「ホムラヅチ!」
かん、と鳴った。
高い音だった。刃の真ん中が欠けた。
贋作体は前に倒れて、そのまま形を失っていく。木の胴が縮んで、刃が縮んで、道に一つだけ残った。
鉋だった。
台が黒くて、握りの部分が握った形に減っている。刃を見ると、真ん中が欠けていた。
巌は梁から降りて、それを拾った。二つの欠けを並べて、暫く見ていた。片方は今欠けたものである。もう片方は、三十年で欠けたものだった。
「ん」
灰白色が動いた。最後の一体が膝を突いた時、道にいた全部が一斉に口を開いた。顔が平らで、口は無い。それでも声だけが揃った。
「……ありがとうございました」
消えた。新しいアーケードの柱に、傷が一つも付いていなかった。
*
巌は欠けた鉋を腰に差した。墨壺の隣になった。
「使うのか」と燈が訊いた。
「使う」
「欠けてるぞ」
「研ぐ」
巌は道の端の、柱が落ちていた場所へ戻った。そこに立って、上の屋根を見た。前より高い屋根である。
「順を、逆にする」
「今からか」
「今からだ」
燈は巌の横に立った。立ってから、自分の家の炉の方を見た。火は落ちている。落ちているが、火を入れれば上がる。
「五回外した」と燈が言った。
「聞いてた」
「六回目だ」
「ん」
*
道の向こうで、男の声がした。
「── 量産」
灰白色が地面から生えた。新しいアーケードの柱の根元から、水路の水面から、割れた看板の裏から。同じ顔で、同じ背丈で、同じ間隔で。一つが別の一つの肩に乗る。その上にまた乗った。五十が五百になって、その先は数えられなかった。
塊がアーケードの新しい屋根を越えた。越えても、屋根は割れなかった。
水路が持ち上がって、黒い炉が立つ。向かいの岸で長い窯が伸びた。裏の林から櫓が起き上がる。織り場の屋根から機が出た。硝子井の裏の砂の山から台が立った。
五つが並んだ。素焼のままである。煉瓦と土と生糸と白木と珪砂の色をしている。
商店街の人が道に出てきた。新しい屋根の下から出てきて、そのまま道の真ん中まで来た。
「動くな!」と燈が上から言った。誰も戻らなかった。
「巌さん、頼む」
「ん」
巌の櫓が動いた。遅い。誰よりも遅く動いて、炉の肩に鋸を当てた。歯が噛んで、凹凸が出来る。窯の側面にも同じ凹凸を作って、噛ませた。
低い音が鳴った。木を組む時の音である。
機の肩、台の腰。四箇所を継いだ。五機が繋がった。
> 連結を確認。
> 合体には、至っておりません。
「まだだ」と燈が言った。「まだ火を入れてねぇ」
地上で、誰かが声を上げた。
「炉だ!」
戸島だった。肘を吊ったまま、道の真ん中で炉を指している。
「窯だな」と佐久間が言った。
田中の老婆が、家の前の椅子から見上げていた。椅子の脚が土に沈んでいる。
「あれは、機だ」
宮下の娘が父親の腕の中で手を伸ばした。届く高さではない。
「はた!」
平尾は割れた看板の横に立っていた。上を見て、それから言った。
「あれは火村さんの炉だ」
燈には聞こえていない。四十メートルの上である。
燈は炉の口に立って、両手を口の前に当てた。六回目である。
「火入れッ!」
炉の底が鳴った。
鳴ってから、赤が上がった。砂鉄と炭の色が消えて、黒い煉瓦の面から鋼の面が出てくる。継ぎ目を通って、赤が窯へ渡った。土が磁器になる。生糸が金襴になった。白木が焼杉に変わって、珪砂が硝子になる。
五つが、継ぎ目のところから順に変わっていった。継いだところから先へ、火が渡る。
> 真、通りました。
燈は返事をしなかった。返事の代わりに、次を叫んだ。
「組み継ぎ、合体!」
継手が噛んだ。
溶接でもボルトでもない。四十メートルの高さで、木を組む時と同じ音が鳴った。低くて、短くて、一度きりだった。
地上から見上げていた者には、順に見えた。一度に立ち上がったのではない。
まず、緋の胴が水路の上に立った。右の肩に藍が入って、左の肩に山吹が入る。腰から下が二本に分かれて、深緑と桜がそれぞれ地面を踏んだ。踏んだ足元で、水路の水が両側へ逃げた。
頭が乗った。兜の眼が透き通っている。硝子だった。最年少の色である。
継ぎ目だけが黒漆で、縁だけが真鍮だった。艶は何処にも無い。四十メートルの高さで、手で作った物の顔をしていた。
戸島が首を後ろへ倒したまま言った。
「でかいな」
「でかいな」と佐久間が言った。
塊が腕を振った。腕が胴に当たって、緋の面に凹みが付いた。凹んだが、割れなかった。
燈は胸の中で、五人分の手の位置を感じた。誰の手が何処にあるか分かる。分かる形に組まれている。
「刻印!」
右の拳が前へ出た。左の掌が、その甲を上から押した。四十メートルの高さで、三歳でも出来る形になった。
「銘刻斬ッ!」
声が五つ揃った。
拳が塊の面へ入った。入った場所に朱が走って、線が字の形になっていく。彫っているのではない。押しているのでもない。銘が刻まれていた。
塊が止まった。
止まって、それから崩れた。同じ顔が路地の奥へ流れて、水路の水面が元の高さへ戻る。今度は舟が出なかった。
残ったのは、鋼と磁器と金襴と焼杉と硝子だった。五つとも、朝までその色でいた。
誰も逃げていなかった。商店街の全員が道の真ん中に立って、上を見ていた。
*
夜が明けた。
水路の傍に、五機が並んで立っている。火が抜けて、また素焼に戻っていた。煉瓦と土と生糸と白木と珪砂の色である。
燈はその足元に座っていた。座ったまま、動く気がなかった。
新しいアーケードは、朝の光を均していた。三軒目の前が濡れていない。八軒の店先が開いて、通る人が前より多い。
誰も撤去を申し出なかった。
「巌さん」
「ん」
「あれ、贋だぞ」
「贋だ」
「直せねぇのか」
「直すものが無い」
巌は腰の鉋を抜いて、砥石の上に置いた。欠けた刃を、水を掛けながら押しはじめる。押す音が低い。
「四十日、どうするんだ」
「別のを直す」
巌は顎で佐久間豆腐店の方を指した。割れた看板が、まだ二つになって立て掛けてある。
「あれは、二日だ」
> 銘量 ── 火村燈 八百五十七。陶山蒼 八百九十八。綾織紬 七百四十六。
> 楠木巌 九百六十二。硝子井玲 八百四十。
> 六つ、減っております。搭乗と刻印を含みます。
「六か」
> 六であります。
燈は自分の掌を見た。それから炉の方を見た。三年、刀が一本も出来ていない炉である。
昨日、その炉が四十メートルになって立った。
「巌さん」
「ん」
「継いでから焼くってのは、刀でもやるのか」
「知らん」
「知らねぇのか」
「俺は木しか知らん」
巌は砥石を押し続けた。燈は立ち上がって、炉に火を入れた。
鉄を打つ音が鳴りはじめた。音が鳴るのは、いつも後である。
> 【鑑定 第六号】
> 押印累計 ── 二十。
> 物件 ── 組み継ぎ、一箇所。
> 追記 ── 本日、押印五。使用者、五名。搭乗五、刻印一。銘量の減少を確認。
> 所見 ── 工房機五機、連結の後に火入れ。真、通る。順序の誤りを訂正した。
> 合体成立。所要、木を組む音一度ぶん。
> 贋作体一体、消失。原物、楠木巌の鉋。刃こぼれ一箇所。使用者が回収。
> 商店街アーケード、代替物のまま。撤去の申し出、なし。
> 佐久間豆腐店の看板、割れたまま。修理の予定、二日。
> 本件、真贋判定 ── 〈真〉。
> ただし、




