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真贋戦隊コクインジャー ~一番になれなくていい。一点物になれ~  作者: 智珠
第三巻 写し

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33/39

第三巻 扉と目録

   行って戻って また行き戻る

   糸は行き先 知らぬまま


             ── 機の唄 一節


     一番になれなくていい。一点物になれ。



> 【鑑定 目録 第三号】

> 押印累計 ── 百三十五。

> 依頼者 ── 未定。

> 物件 ── 銘洲市めいしゅうし。および、そこに在る物と、人。

>     ならびに、市外。

> 所見 ── 前巻より継続。押印百三十五、いずれも記録済み。

>     当巻の物件は、まだ持ち込まれておりません。


◆ 写し(うつし)


 同じ形に作ったものを、写しと言う。

 写しは贋ではない。写して伝えた技の方が、絶えずに残ることもある。


 五つの工房のうち一つは、一度絶えて、写して復した。

 誰もそれを恥じていない。恥じる理由が無いからである。


 この巻で、六人は他人の手を借りて回る。借りた手で押した印は、自分の印ではない。

 それでも敵は倒れる。


◆ ここまでのこと(読み飛ばして差し支えありません)


 完璧な複製が、街の物と人を置き換えている。

 殺さない。壊さない。より良いものに置き換えるだけになる。

 置き換えられた側の暮らしは良くなる。だから、誰も戻したがらない。


 五人の職人が、自分の欠点を燃料にして戦っている。

 燃料の名はしゅで、減った分は戻らない。


 春に始まって、夏を越えて、秋になった。

 置き換えられるものは、物から、身体へ、記録へ、拍へと移ってきた。

 一度だけ、取り返した。取り返したものは、使われていない。


◆ 言葉


めい

 繰り返した手つきが物に残り、それを誰かが見分けた時に、そこにある。

 残すだけでは宿らない。見分けるだけでも宿らない。


がん

 完全な複製。必ず本物より上手い。だから誰も、元に戻したがらない。


しゅ

 変身の燃料。自分の銘を燃やして作る。

 識が毎回、残りを読み上げる。数は減るだけになる。

 減らない日が、これまでに二度あった。


銘印めいいん

 他人の銘を借りて、重ねて押す道具。

 これを使うと朱が減らない。減らないので、使う理由が要らなくなる。


素焼すやきしん

 工房機の二つの状態。号令は「火入れッ!」で、通ると識が「真、通りました」と言う。

 素焼のままでは合体出来ない。


手癖てくせ

 その人だけの欠点。下手さ、遅さ、震え、詰めの甘さ。

 複製出来ない。だから、力になる。


◆ 五人


 名乗りは、自分の欠点を名乗る。それが手癖の名前だからである。


火村ひむら あかり 緋 印は円

 前腕に古い火傷の跡。頬に煤。仕事に入ると、親指で人差し指の腹を擦る。

 打ち急ぐ。焦って早く振る。だから、同じ一撃が二度と出ない。

 字が下手。怒鳴った十秒後に、小さく「悪い」と言う。謝るのが遅い。

 黒い帳面を一冊持っている。誰にも読めない。


陶山すやま そう 藍 印は角

 爪の内側に藍と緑の釉薬が入っている。洗っても落ちない。

 読みすぎて一手遅れる。口癖は「三秒くれ」。

 技術は五人で一番高い。だから、一番自分を許さない。


綾織あやおり つむぎ 山吹 印は杼形ひがた

 手首に組紐の輪が幾つも。袖から糸が出ている。

 糸を必ず余らせる。「誰かが要るかも知れないから」。

 五つの工房のうち、この土地に元からいるのは、この一家だけになる。

 まだ一度も、敵を倒していない。


楠木くすのき いわお 深緑 印は縦長方形

 百八十八センチ。耳に鉛筆を挟んでいる。

 遅い。早く建てた家は早く傾く、と言う。返事は「ん」。

 見る前に、必ず触る。


硝子井がらすい れい 桜 印は六角

 指に絆創膏が並んでいる。首から保護眼鏡を下げたまま歩く。

 手が震える。同じ線が二度と引けない。

 その細かなブレが、複製の完璧さを暴く。


 名乗りの紙は、まだ満ちていない。


◆ 五人を呼ぶ声


シキ

 真贋しんがん鑑定機関体〈識〉

 戦わない。見分けて、記録する。

 丁寧語。学習元が古く、たまに妙な語彙が出る。

 姿は、見る者によって違う。誰も確かめない。

 知らないことがある。前の巻で一度だけ、そう言った。


◆ 道具


 六人が共通で持つのは、曲尺かねじゃくの形をしたものになる。

 直角の部分が動いて、刀身にも、銃身にも、平たい形にもなる。


 平たくした時は、測る道具になる。

 目盛りが光るのは、差のあるところだけである。

 同じところでは、何も光らない。


◆ 立ち上がるもの


 五つの工房には、それぞれ機械がある。

 戦うための機械ではない。作るための機械が、守るために立つ。


 タタラ(燈)、ノボリガマ(蒼)、ハタオリ(紬)、ヤグラ(巌)、キリコ(玲)。

 火が通って真になり、継手が噛んで、コクインオーになる。

 溶接でもボルトでもない。木を組む時と同じ音が、四十メートルの高さで鳴る。


 必殺は「刻印 ── 銘刻斬めいこくざん」。

 敵の額に銘を刻んで倒す。壊すのではない。これは偽物だと証明して、消す。


 街の子どもが、この機械に名前を付けている。三つある。三つとも違う。

 誰が付けたのかは分かっていない。


◆ 街の人


 佐久間(豆腐屋) 毎朝、豆腐を置いていく。「余ったからな。置いてくぞ」

 戸島(鍵屋) 口が悪い。錠の内側に自分の字を切る。客は一生見ない。

 平尾(看板屋) 商店街の看板を書き直している。自分の看板だけ書き直さない。

 宮下(印刷屋) インクの匂いがする。娘がいる。

 湯浅(銭湯) 目が見えない。床の音で客を見分けていた。

 島村(履物屋) 抜いた歯を捨てない。前のを見て、次の高さを決める。


◆ 向こう側


・無銘機関〈ムメイ〉

 全てを複製可能にして、何も失われない世界を作ろうとする組織。


型取カタドリ

 複製技師。几帳面で、仕事の後に道具を一本ずつ拭く。

 「もっと良いものに、してさしあげただけです」


上塗ウワヌリ

 塗る者。喋る。同じことを二度言う。刷毛が乾いている。

 「上を塗ると、下は見えなくなります。無くなったわけではございません」


ガン

 剣士。左の袖が長い。まだ一度も声を出していない。


・ノッペリ兵

 全身が灰白色。顔が完全に平ら。表面に継ぎ目が一つもない。

 倒される瞬間だけ、全員が一斉に言う。「ありがとうございました」


贋作体がんさくたい

 実在する何かの、完全な上位互換。左右が寸分違わず対称。

 倒すと本物が残る。たいてい、本物の方が下手である。


量産りょうさん

 敵は大きくならない。同じ個体を数千体そろえて、積み上げる。


 幹部は、他にもいる。まだ出ていない。


◆ 鑑定書のこと


 頭と終わりに、識の鑑定書が入る。

 頭には押印累計を印字する。数は増えるだけで、減らない。


 終わりの一行は、句点で閉じない。

 「ただし、」で切れて、次の一行目が、その続きになる。


> 以上、目録。

> 判定は、次の頁から始まる。

>

> 前巻をお読みでない方も、差し支えありません。

> 必要なものは、その都度、本機が申し上げます。

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