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真贋戦隊コクインジャー ~一番になれなくていい。一点物になれ~  作者: 智珠
第二巻 艶

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第023話 ぴったり合う鍵

> 【鑑定 第二十三号】

> 押印累計 ── 百五。

> 依頼者 ── 戸島鍵店。

> 物件 ── 錠、十一。

> 所見 ── 真鍮。鋳の錠であります。

>     鍵の噛み合い ── 良好。

>     持ち主以外の手でも回ります。

>     内側の刻字 ── ありません。

> ……判定を、開始します。


 ── 戸島は、朝一番に、店の錠を全部一度ずつ閉めてから開ける。


 戸島鍵店の店先である。台の上に錠が十一並んでいて、大きさが揃っていない。戸島は右の端から順に鍵を差して、回して、閉めて、それから開けた。十一やって、七分掛かった。


 三十四年やっている。閉めるだけでは足りないからになる。閉めた錠が開くかどうかを見ないと、預かった物を返せない。


 台の下に預かり札が束で下がっている。札には日付と、屋号と、錠の番号が書いてある。返した札は外して、竹の筒へ入れる。筒が二本埋まって、三本目が半分になっている。


 台の奥に鑢が三本立っている。合鍵を削る時に使う。戸島は削る前に、必ず元の鍵を指で撫でる。撫でて、山の高さを覚えて、それから削り始める。


 鍵の山は錠ごとに数が違う。戸島は目で見ないで、指の腹で読む。店先の日除けの下が暗いからになる。三十四年、電球を替えていない。


 燈は台の横に立っていた。夏の朝で、七時前でもう暑い。前腕の火傷の跡に汗が溜まって、それが落ちるのを袖で拭った。


「燈坊、そこに立つな。影になる」


 燈は半歩下がった。下がってから、鑢の音を聞いていた。


 削る音が短い。一回ごとに切れて、次までに間が空く。鎚とは逆になる。鎚は続けて落とすものだった。


「音、短いですね」

「短く削るんだ。長く削ると、合いすぎる」

「合いすぎると、どうなるんですか」

「回る。誰の手でも」


 戸島は削りかけの鍵を台に置いた。置いてから、水に浸けた布で真鍮の粉を拭った。


 平尾が来た。看板屋の道具箱を提げて、脚立を担いでいる。


「戸島さん、看板の『鍵』の字、下が擦れてますよ」

「そうか」

「直しときましょうか」

「触るな」


 平尾は脚立を担ぎ直して、それで行った。行き際に一度だけ看板を見上げた。


 燈はその背中を見ていた。見て、何も言わなかった。


 平尾の看板の字は上手い。先月より上手い。戸島の店の「鍵」の下が擦れているのも本当だった。擦れたのは十年前からで、戸島はそれを直していない。


 佐久間が桶を提げて入ってきた。白い桶で、水が減っていない。


「余ったからな。置いてくぞ」

「六丁ですね」

「余ったんだ」


 台の端に置かれた。錠の並びの隣になる。


 佐久間はそのまま出ていかずに、店の錠を一度見た。見てから言った。


「うち、夜んなっても閉めなくなった」

「閉めろ」

「閉めてるつもりなんだ。朝には開いてる」


 佐久間は桶を持ち直して、それで出ていった。戸島は返事の続きを言わなかった。


 宮下が来たのは九時過ぎである。印刷屋の前掛けを着けたままだった。


「戸島さん、うちの錠、今月まだ一度も開かなくなってないんだ」

「そりゃ結構だな」

「四回だぞ、去年。四回とも締め出された」


 宮下は年に四回、鍵を機械の下へ落として締め出される。落とすのが同じ場所で、気付くのが夜になる。それで戸島が呼ばれる。


「今年は零だ」と宮下が言った。「気持ちが悪いくらいだ」

「錠を替えたか」

「替えてない」


 戸島は台から鍵の束を取った。取って、宮下の後について出ていった。燈も出た。


 宮下の印刷屋の錠に、戸島が自分の鍵を差した。差して、回した。


 回った。


 戸島の鍵は、宮下の店の錠には合わない。三十四年、合ったことがない。


 もう一度抜いて、また差して、回した。回る。抜いて、逆に持って差した。それでも回った。


「宮下」

「何だ」

「お前んとこの錠、俺が作ったやつじゃない」


 宮下は自分の店の錠を見た。見て、首を傾げた。


「同じに見えるがな」

「同じだ。見えるところは」


 戸島は錠を蝶番から外そうとした。工具を当てて、二度力を入れて、それで止めた。手を離して、それから燈を見た。


「燈坊、これは中を見る」

「見ましょう」

「触るなよ。俺が見る」


 水路の向こうから錠の鳴る音が続けて聞こえた。近所の家が締めている音である。締める音がどれも同じ高さだった。


 商店街の錠は同じ職人が作った。だから音が近い。近いが、同じではない。真鍮の厚みが一つずつ違うからになる。


 厚みが揃わないのは、戸島が揃えようとしていないせいである。揃えると音が同じになる。音が同じだと、暗いところで区別が付かない。


 今朝の音は、十一戸ぶんが同じ高さだった。



 識が来た。丸い胴を石畳の上で二寸だけ浮かせて、正面の板が明るくなっている。


> 鑑定を、開始します。

> 物件 ── 錠、十一。

> 真鍮。鋳の錠であります。

> 鍵の噛み合い ── 良好。

> 持ち主以外の手でも回ります。


「回るのが良好か」と戸島が言った。

「噛み合いは良好であります」

「良好で困ってるんだ」


 識は答えずに、次の行を読んだ。


> 内側の刻字 ── ありません。


 戸島の手が止まった。


 止まって、それから工具を持ち直した。持ち直して、錠の底の板を外した。外れた板を石畳へ置いて、中を覗いた。


 覗いて、三秒ほど動かなかった。


「無い」


 蒼が横から覗いた。覗いて、口を開ける前に手を出した。


「三秒くれ」


 三秒より長く掛かった。掛かってから、蒼は帳面を出して、錠の内側の形を写した。線を三本引いて、その脇に何も書かなかった。


「戸島さん、ここに何かあるはずなんですか」

「字がある」

「字」

「俺の字だ。三十四年、全部に入れてる」


 戸島は自分の店の錠を一つ取って、底の板を外した。外して、傾けて、光を入れた。


 中に字があった。細い線で「戸」と切ってある。真鍮の地に沈んでいて、指で撫でると引っ掛かる。


 「戸」の一字だけである。姓の下は切らない。切ると場所を取って、噛み合いに触るからになる。


 切る場所は錠ごとに違う。底の板の内側の、右の隅か左の隅になる。どちらにするかは、その日で決めていた。


「見えるところに名前を書くのは看板屋の仕事だ」と戸島が言った。「俺のは中だ」


 紬が屈んで、その字を見た。見てから、戸島の作業着の袖を見た。糸が一本出ている。指で拾って、二度巻いて、引いて、切らなかった。


「客は、見ないんですか」と紬が訊いた。

「一生見ない」

「じゃあ、何のために」

「俺が知ってりゃいい」


 燈は錠を一つ持った。持って、底の板を探した。探して、外し方が分からなかった。


「開け方は教えん。売り物だ」

「見たいんですけど」

「見せん」


 燈は錠を台へ戻した。戻して、掌に付いた真鍮の粉を見た。


 識が石畳の上を移動して、次の錠の前で止まる。


> 施錠の状態を確認いたします。かんぬきを、お下ろしください。


「かんぬき?」と燈が訊いた。

「うちの店に閂は無い」と戸島が言った。

「では、かすがいを」

「無い」

こりの縄では」

「戸島さん、こいつ止めてください」


 玲が笑った。笑って、それで台の下から豆腐の桶を引いた。二丁取って、上がり框に座って食べた。汗が首を伝って、塩が浮いている。夏の炉場から出てきたままの顔だった。


 十一戸を回った。


 佐久間豆腐店、宮下印刷、沼田理髪店、水路沿いの空き店舗が二つ、川向こうへ抜ける路地の三戸。それから看板屋の平尾の店である。


 平尾の店の錠も、戸島の鍵で回った。底の板を外すと、中に字が無い。


 平尾は脚立を降りてきて、それを覗いた。覗いて、首を傾げた。


「前からこうでしたよね」

「違う」

「そうですか」


 平尾は脚立を担ぎ直した。担いで、次の現場へ行った。


 燈はその背中を見ていた。今度も何も言わなかった。


 昼までに七戸、日が傾いてから四戸である。どの錠も、戸島の鍵で回った。回って、底の板を外すと、中に字が無い。


 十一戸のうち十一戸だった。


 戸島は最後の一戸の前で立ち上がって、腰を伸ばした。伸ばして、そのまま水路を見た。


「三十四年ぶんが、一晩で無くなった」


 燈は何も言えなかった。言えないまま、隣に立っていた。


 巌が材を引いてきた。宮下の店の軒が下がっていたので、支えの木を持ってきたのである。長い材を一人で引いて、石畳を擦らせないように肩へ乗せている。


 引きながら、低く息を吐くように歌った。


 急ぐな待てよ 木は千年で


 一行だけである。歌い終わらずに、材を降ろす音でそれが切れた。


「巌さん」

「ん」

「三十四年って、長いですよね」

「短い」


 巌は材の端を軒に当てた。当てて、位置を二度直した。


 軒が上がった。上がって、二寸だけ隙間が出来た。巌はその隙間を指で測って、それでいいことにした。


 夏の材は重い。水を含んでいるからになる。巌の法被の背が汗で色を変えていて、袖の縁だけが白く乾いていた。



 夕方に、砂が鳴った。


 乾いた音である。水路の石垣で二度返って、それから消えた。


 道に灰白色が並んだ。数える前に百を超える。戸島鍵店の台の前に一列で並んで、台には触れていない。


 燈が印籠を出した。


「押印!」


 五つの胸から朱が広がった。円、角、杼形、縦長方形、六角。五色が残る。艶は何処にも無い。


 背後に紙が広がって、五つの印が並んだ。右下だけが白い。


 灰白色の列の後ろで、何かが石畳に落ちた。落ちて、膨らんだ。


 錠の形だった。


 真鍮の色で、三メートル近くまで立つ。鍵の穴が正面にあって、そこが上下に開いたり閉じたりしている。開く方が速い。


> 贋作体であります。原物、商店街の錠十一。

> 内側の刻字 ── ありません。

> 判定 ── 贋。


 蒼が輪を投げた。玉虫色が回って、錠の胴に巻いた。


 巻いて、外れた。


 輪は錠の腹を一周する前に緩んで、そのまま石畳へ落ちた。落ちた場所で二度跳ねて、水路の縁で止まった。


 蒼は拾わなかった。拾わずに、次の輪を抜いた。


 紬の鞭が飛んだ。錠の下の部分に巻いて、結び目を作って、そこで引く。


 結び目がほどけた。


 紬が鞭を引き戻した。戻して、指で結びの跡を確かめた。締めた強さは変わっていない。ほどけたのは締め方のせいではなかった。


 紬は結び目を三つ変えた。三つとも解けた。解ける速さが同じである。締めた強さを変えても、同じ速さで解けた。


「ほどける」と紬が言った。

「ん」


 巌が前へ出た。大鋸を横に構えて、錠の腹へ歯を入れた。切ってはいない。切らずに、継ぎ目を作った。


 継ぎ目が入った。入って、そこが開いた。


 開いて、そのままだった。閉じない。


 巌が半歩下がった。下がって、大鋸を持ち直した。


 錠が動いた。開いた継ぎ目のところから、こちら側の物を順に開けていく。玲の切子の刃の柄が緩んだ。緩んで、玲が握り直した。


 玲は柄の楔を押し込んだ。押し込んで、指で叩いて、鳴りを確かめた。鳴りが低い。低いままだった。


 真鍮の熱が近い。錠の腹に手を寄せると、夏の炉場の壁と同じ温度がある。


「触られると開くんだ」と玲が言った。

「触らせるな」と燈が言った。


 燈は前へ出た。出て、石畳の上で足を止めた。


 止めた場所が、錠の正面である。鍵の穴が真っ直ぐ燈を向いていた。


 戸島が台の陰から出てきた。出て、燈の横へ来た。


「戸島さん、下がってください」

「下がらん」

「危ないです」

「俺の錠の話だ」


 戸島は錠を見上げた。見上げて、それから言った。


「錠は開けるもんじゃない。閉めるもんだ」


 燈が振り向いた。


「順番があるんですか」

「ある。開いた順の逆だ」


 燈は鎚を持ち替えた。持ち替えて、走った。


 走って、錠の腹へ鎚を入れた。腹の下、開いている継ぎ目の縁である。


 当たった場所で真鍮が鳴った。鳴って、開いていた継ぎ目が、そこで止まった。


 止まっただけになる。閉じてはいない。


 燈は鎚を引かなかった。引かずに、当てた場所へ体重を乗せた。真鍮が肩へ返してきて、腕が痺れた。痺れても離さない。


 だが動く場所が減った。


「巌さん、継ぎ目!」

「ん」


 巌が三つ作った。腹に一つ、肩に一つ、底に一つである。作った順に、そこが開いた。


 開いた順が残った。


 巌は大鋸を返して、底から詰めた。底、肩、腹の順である。開いた順の逆になる。


 歯が継ぎ目に噛んだ。噛んで、そこを寄せた。


「ツギテノコ!」


 底が閉じた。閉じた音が短い。戸島の鑢と同じ長さだった。


 肩が閉じた。腹が閉じた。


 閉じ終わった場所に、隙間が一つも無い。


 巌は閉じた三つを順に触った。底、肩、腹である。触って、それから手を離した。


 見る前に触るのが巌の癖になる。閉じたあとにも触った。


 錠が動かなくなった。


 動かないまま、鍵の穴が閉じた。閉じて、それから真鍮の色が抜けた。


「回らん錠は、錠じゃない」と戸島が言った。


 錠が崩れた。崩れた場所に、真鍮の錠が一つだけ残った。


 小さい。掌に乗る大きさである。戸島が拾って、底の板を外して、傾けて光を入れた。


 中に字が無い。


 戸島は板を戻した。戻して、上着の内側へ入れた。


 持ち帰るためではない。戸島はその後で店の台へそれを置いて、預かり札を一枚下げた。日付を書いて、屋号の欄を空けたままにした。


 灰白色が動いた。最後の一体が膝を突いた時、道にいた全部が一斉に口を開いた。声だけが揃った。


「……ありがとうございました」


 消えた。石畳に足跡が一つも無い。



 水路の向こうで、錠の鳴る音がした。


 一つではない。十一戸ぶんが同じ高さで、続けて鳴った。


 閉める音である。誰かが順に閉めていた。


 戸島は聞いていた。聞いて、数えた。数え終わって、また水路を見た。


「十一だ」

「合ってますか」

「合ってる。音が全部同じだ」


 燈はその横で、自分の掌を開いた。真鍮の粉が皺に入っている。擦っても取れない。


「戸島さん」

「何だ」

「中に名前を書くの、俺もやります」

「刀の中に書けるか」

「書けません」

「だろ」


 戸島は台へ戻って、削りかけの鍵を持った。持って、鑢を当てて、短く削った。


 削る音が一回して、それで切れた。



 夜になって、外が暗くなった。


 暗くなる前に音が来た。水路の水面が波打って、それから橋の欄干が震えた。


「── 量産」


 低い声である。昼の道には誰もいなかった。


 地面から何かが生える音がした。同じ間隔で、同じ数だけ、続けて鳴った。


> 銘量 ── 火村燈 七百五十五。陶山蒼 七百九十六。綾織紬 六百四十四。

> 楠木巌 八百六十。硝子井玲 七百三十八。

> 六つ、減っております。


「六つか」と戸島が訊いた。

「毎日六つです」と燈が言った。

「毎日減るのか」

「減ります」


 戸島は上を見なかった。見ずに、水路の水面を見た。映った方が大きさが分かると言っていた。


> 連結を確認。


「火入れッ!」


 炉の底が鳴った。赤が上がって、継ぎ目を通って渡っていく。


> 真、通りました。


「組み継ぎ、合体!」


 継手が噛んだ。木を組む時と同じ音が、四十メートルの高さで鳴る。


 商店街の人が出てきて、上を見た。宮下は自分の店の前に立って、首を反らしている。平尾は脚立を担いだままで、担いだ物を降ろすのを忘れていた。


 佐久間は桶を提げたまま出てきて、桶を石畳へ置いてから見上げた。置いた桶の水が揺れて、豆腐の角が一つ崩れた。


 水路の水が上がって、日除けの裾が濡れた。戸島鍵店の日除けである。裾の縫い目が切れて、そこから水が垂れた。


 戸島だけが水面を見ていた。


 塊が腕を振った。振った先が橋の欄干を掠って、真鍮の飾りが二つ落ちた。落ちて、水路へ入って、沈んだ。


 欄干の飾りは戸島が三十年前に付けたものである。誰も言わなかった。


「刻印!」


 右の拳が前へ出た。左の掌が、その甲を上から押す。


「銘刻斬ッ!」


 声が五つ揃った。


 拳が塊の胴へ入った。入ったところで止まって、そこに朱が走る。線が字の形になっていって、銘が刻まれていた。


 崩れた。石畳に落ちた物が、真鍮の粉になって水路へ流れた。


 水面に浮かんだ粉が、橋の下で一度渦になった。



 朝になった。


 戸島は店先で、錠を十一並べた。並べて、右の端から順に鍵を差して、回して、閉めて、それから開けた。


 十一やって、九分掛かった。


 二分増えている。十一のうち十一が、戸島の作った錠ではないからになる。合いすぎるものは、指の感じで分かる。分かるが、確かめるのに時間が掛かった。


 九分のうち二分は、指で読む時間である。読んでも、どれも同じ高さで鳴った。


 戸島は十一のうち一つだけ、台から下ろして横へ置いた。置いた錠に印は付けなかった。どれを置いたかは、戸島だけが覚えている。


 燈は昨夜のうちに火村鍛冶へ帰っていた。帰って、棚の板を外した。


 板の裏に、自分の名を書いた。


 墨で、火村燈と三字である。字は下手だった。「燈」の火の払いが右へ伸びすぎて、下の点が板の端まで行った。


 書いてから、板を戻した。戻したので、見えなくなった。


 瓦の破片と面と、颯太の刻印は、その板の上に載っている。載せ直して、位置を二度直した。


 壁に紙が三枚。数は変わっていない。板の裏の三字だけが増えた。


 直して、それから土間へ降りた。


 鎚を持って、火を入れる前に一度だけ、板の方を見た。


> 【鑑定 第二十三号】

> 押印累計 ── 百五。

> 物件 ── 錠、十一。

> 追記 ── 本日、押印五。搭乗五、刻印一。銘量の減少を確認。

> 所見 ── 代替物(錠、十一)、各戸に接続済み。

>     取り外しの痕跡 ── ありません。

>     噛み合い ── 向上。持ち主以外の手による解錠 ── 可能。

>     締め出しの発生 ── 本年、零件。

>     閂の使用 ── ありません。鎹の使用 ── ありません。

>     依頼者の合鍵の受注 ── 本月、零件。廃業の届 ── ありません。

>     内側の刻字 ── 十一戸のうち十一戸、ありません。

>     原物(錠、十一)── 所在の照会、出来ません。

>     贋作体一体、消失。開いた順の逆に閉じたことによる。閉じたのは楠木巌。

>     打撃により開口を停止させたのは火村燈であります。

>     依頼者の申し立て ── 錠は開けるもんじゃない。閉めるもんだ。

>     市の被害 ── 橋の欄干、真鍮の飾り二つ。水路へ落下。回収不能。

>     依頼者の氏名 ── 記録がございます。ただし物件には、ありません。

> 本件、真贋判定 ── 〈贋〉。

> ただし、

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