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真贋戦隊コクインジャー ~一番になれなくていい。一点物になれ~  作者: 智珠
第二巻 艶

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17/25

第二巻 扉と目録

   土は嘘つく 練れば練るほど

   嘘が澄んでく 手のひらで


             ── 土練りの唄 一節


     一番になれなくていい。一点物になれ。



> 【鑑定 目録 第二号】

> 押印累計 ── 六十五。

> 依頼者 ── 未定。

> 物件 ── 銘洲市めいしゅうし。および、そこに在る物と、人。

> 所見 ── 前巻より継続。押印六十五、いずれも記録済み。

>     当巻の物件は、まだ持ち込まれておりません。


◆ つや


 新しく作った物は、たいてい光る。

 使うと光が薄くなって、手の跡が残る。残った跡を、この話ではめいと呼ぶ。


 六人の装いに艶は無い。光を吸う布と、厚みのある黒漆で出来ている。

 縁だけが真鍮で、足元は地下足袋。新品の光りかたを一つもしていない。


 向こう側の装いには艶がある。継ぎ目が無く、傷も無く、埃も乗っていない。


 この巻は、艶のある物が増えていく巻になる。


◆ ここまでのこと(読み飛ばして差し支えありません)


 完璧な複製が、街の物と人を置き換えている。

 殺さない。壊さない。より良いものに置き換えるだけになる。

 置き換えられた側の暮らしは良くなる。だから、誰も戻したがらない。


 五人の職人が、自分の欠点を燃料にして戦っている。

 燃料の名はしゅで、減った分は戻らない。


 春に始まって、夏に入った。置き換えは、街の外へ出はじめている。


◆ 言葉


めい

 繰り返した手つきが物に残り、それを誰かが見分けた時に、そこにある。

 残すだけでは宿らない。見分けるだけでも宿らない。


がん

 完全な複製。必ず本物より上手い。だから誰も、元に戻したがらない。


しゅ

 変身の燃料。自分の銘を燃やして作る。

 識が毎回、残りを読み上げる。数は減るだけになる。


銘印めいいん

 他人の銘を借りて、重ねて押す道具。

 これを使うと朱が減らない。減らないので、使う理由が要らなくなる。


素焼すやきしん

 工房機の二つの状態。号令は「火入れッ!」で、通ると識が「真、通りました」と言う。

 素焼のままでは合体出来ない。


手癖てくせ

 その人だけの欠点。下手さ、遅さ、震え、詰めの甘さ。

 複製出来ない。だから、力になる。


◆ 五人


 名乗りは、自分の欠点を名乗る。それが手癖の名前だからである。


火村ひむら あかり 緋 印は円

 前腕に古い火傷の跡。頬に煤。仕事に入ると、親指で人差し指の腹を擦る。

 打ち急ぐ。焦って早く振る。だから、同じ一撃が二度と出ない。

 字が下手。怒鳴った十秒後に、小さく「悪い」と言う。謝るのが遅い。


陶山すやま そう 藍 印は角

 爪の内側に藍と緑の釉薬が入っている。洗っても落ちない。

 読みすぎて一手遅れる。口癖は「三秒くれ」。

 技術は五人で一番高い。だから、一番自分を許さない。


綾織あやおり つむぎ 山吹 印は杼形ひがた

 手首に組紐の輪が幾つも。袖から糸が出ている。

 糸を必ず余らせる。「誰かが要るかも知れないから」。

 五つの工房のうち、この土地に元からいるのは、この一家だけになる。


楠木くすのき いわお 深緑 印は縦長方形

 百八十八センチ。耳に鉛筆を挟んでいる。

 遅い。早く建てた家は早く傾く、と言う。返事は「ん」。

 見る前に、必ず触る。


硝子井がらすい れい 桜 印は六角

 指に絆創膏が並んでいる。首から保護眼鏡を下げたまま歩く。

 手が震える。同じ線が二度と引けない。

 その細かなブレが、複製の完璧さを暴く。


 名乗りの紙は、まだ満ちていない。


◆ 五人を呼ぶ声


シキ

 真贋しんがん鑑定機関体〈識〉

 戦わない。見分けて、記録する。

 丁寧語。学習元が古く、たまに妙な語彙が出る。

 姿は、見る者によって違う。誰も確かめない。


◆ 立ち上がるもの


 五つの工房には、それぞれ機械がある。

 戦うための機械ではない。作るための機械が、守るために立つ。


 タタラ(燈)、ノボリガマ(蒼)、ハタオリ(紬)、ヤグラ(巌)、キリコ(玲)。

 火が通って真になり、継手が噛んで、コクインオーになる。

 溶接でもボルトでもない。木を組む時と同じ音が、四十メートルの高さで鳴る。


 必殺は「刻印 ── 銘刻斬めいこくざん」。

 敵の額に銘を刻んで倒す。壊すのではない。これは偽物だと証明して、消す。


◆ 街の人


 佐久間(豆腐屋) 毎朝、豆腐を置いていく。「余ったからな。置いてくぞ」

 戸島(鍵屋) 口が悪い。だが誰よりも早く現場に来ている。

 平尾(看板屋) 商店街の看板を書き直している。自分の看板だけ書き直さない。

 宮下(印刷屋) インクの匂いがする。娘がいる。


◆ 向こう側


・無銘機関〈ムメイ〉

 全てを複製可能にして、何も失われない世界を作ろうとする組織。


型取カタドリ

 複製技師。几帳面で、仕事の後に道具を一本ずつ拭く。

 「もっと良いものに、してさしあげただけです」


・ノッペリ兵

 全身が灰白色。顔が完全に平ら。表面に継ぎ目が一つもない。

 倒される瞬間だけ、全員が一斉に言う。「ありがとうございました」


贋作体がんさくたい

 実在する何かの、完全な上位互換。左右が寸分違わず対称。

 倒すと本物が残る。たいてい、本物の方が下手である。


量産りょうさん

 敵は大きくならない。同じ個体を数千体そろえて、積み上げる。


 幹部は、他にもいる。まだ出ていない。


◆ 鑑定書のこと


 頭と終わりに、識の鑑定書が入る。

 頭には押印累計を印字する。数は増えるだけで、減らない。


 終わりの一行は、句点で閉じない。

 「ただし、」で切れて、次の一行目が、その続きになる。


> 以上、目録。

> 判定は、次の頁から始まる。

>

> 前巻をお読みでない方も、差し支えありません。

> 必要なものは、その都度、本機が申し上げます。

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