第6話 俺を追放した勇者パーティ、装備修理代も払えず迷宮に入れなくなる
勇者パーティが、迷宮の門で、止められた。
「保証金が、足りません」
受付の声は、門前に並ぶ冒険者たちにも、よく聞こえた。
「俺たちは、勇者パーティだぞ」ジークの声が、跳ね上がる。
「規定です」
その一言で、列の後ろが、ざわついた。くすくすと、笑いを噛み殺す声まで、混じっていたという。
噂が作業場に届いたのは、昼前だった。セルカが、めずらしく笑いも困りもせず、ただ事実だけを伝えに来た。
「ダグさん。ジークさんたち、迷宮に入れなかったそうです」
「ほう」
俺は、手の中の腱を、ゆっくり巻き取りながら聞いた。岩猿の腱。弓弦になる、上等なやつだ。手は止めない。話くらいは、聞ける。
迷宮に入るには、保証金がいる。中で死ねば遺体の回収費、暴れて壊せば設備の弁償。信用のあるパーティは安く、信用を失った連中は高くなる。——昨日、ジークたちは、その信用を、失った。
「理由、聞きました」セルカが、相場表を抱えたまま、指を折った。「素材収入が、ほとんどゼロになったでしょう。修理代も、何件か未払いのまま。討伐はできても、納める素材がぼろぼろで、買い取りを何度も断られた分もあって——納品の信用が、がたがたなんです」
「全部、繋がってるな」
「はい。それで、受付の人が、こう言ったそうです」
セルカは、少し声を落とした。
「『ダグさんがいた頃の素材納品の実績は、パーティ評価に、ちゃんと含まれていました』って」
俺は、手を止めなかった。だが、内心で、なるほど、と思った。
あいつらは、俺の取り分を「一番の無駄」だと言った。だが、評価ってやつは、討伐数だけでつくものじゃない。きちんと素材を納め、きちんと金に変え、きちんと払う。その積み重ねが、信用になる。倒すだけの連中には、見えない部分だ。
そして、その積み重ねを、四年ぶん、ひとりで担いでいたのは、俺だった。
——いなくなって、初めて、その穴の大きさが分かる。
門前で、ジークは受付に食ってかかったらしい。だが、勇者の肩書きでは、保証金は下がらない。下がるのは、信用だけだ。倒す力は、何ひとつ、落ちていないのに。
「机を叩いたジークさんを、後ろで、ノクスさんが止めたそうです」セルカが、声を落とした。「『やめろ。ここで暴れたら、もっと評価が下がる』って。……ノクスさん、もう、分かってるんだと思います。何が起きてるのか」
数字を見る男だ。魔術師は、火力だけじゃなく、計算もできる。だから、ノクスは、一番早く、現実に追いついたんだろう。素材収入の欄が、ある日からゼロになり、未払いの欄だけが、増えていく。その意味を、嫌でも、読み取ってしまう。
ボズは、まだ途中のはずだ。剣士は、頭より先に、現場で思い知る。遠征のたびに、稼ぎが残らない。宿が取れない。そういう積み重ねで、じき、肌で分かる。
ジークは——たぶん、最後まで認めない。勇者の誇りが、先に立つ。
同じ船に乗って、同じだけ沈んでいるのに、足元の水に気づく早さが、三人とも、違う。見ていて、少し、面白かった。
「魔石が二つ、まだ売れずに残ってるそうです」とセルカ。「でも、あの状態じゃ、ここでも、たいした値はつきません」
「だろうな」
俺は、抜き終えた腱を、布に並べた。白く、つやのある一本。これひとつで、駆け出しの一週間ぶん。あいつらが「ゴミ」と呼んで捨ててきたものだ。
ジークは、今ごろ、初めて考えているはずだ。
——あの解体係は、いったい、いくら稼いでいたんだ、と。
遅い。気づくのが、四年、遅い。
その日の夕方。素材ギルドに、見慣れない身なりの男が、一人、訪ねてきた。上等な外套に、剣ではなく、書類鞄を提げている。冒険者でも、商人でもない。
モーガンが、奥から出てきて、その男と、低い声で何か話していた。話が済むと、モーガンは俺のところへ来て、こう言った。
「ダグ。あんたの噂が、街の外まで、出はじめた」
「外?」
「騎士団だ」モーガンは、わずかに目を細めた。「竜種を無傷で解いた解体屋がいると、聞きつけたらしい。——近いうち、面倒な仕事が来るかもしれん」
俺は、笑った。面倒な仕事ほど、金になる。
《所持金:金貨二千枚》
《解体予約:十二件(消化中)》
《元勇者パーティ:迷宮入場停止》
《 原因:素材収入ゼロ/納品信用 失墜》
《 未払い:装備修理代・薬代・宿代》
倒した後が、仕事だ。そして、その仕事の値段を、いまや、街の外が決めはじめている。




