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第2話 俺を切った勇者パーティ、素材収入ゼロで借金まみれになり始める

「金貨八枚だと!?」


翌朝、素材ギルドの表で、ジークの怒鳴り声が響いた。


俺は、奥の作業場にいた。セルカが話を通してくれて、持ち込みの解体は、ここでやれることになっていた。狭いが、水場も、明かりも、よく切れる作業台もある。悪くない場所だ。昨日のうちから、持ち込みの小物を、いくつか解体していた。大した額じゃないが、手は止めていない。


聞き覚えのある声に、手を止めた。戸の隙間から、表を見る。


カウンターの前に、勇者パーティがいた。机の上には、魔石が二つと、ひび割れた牙。それだけ。昨日まで俺がいたパーティの、丸一日ぶんの稼ぎが、それだった。


見た瞬間に、分かった。


《魔石:内部亀裂/結晶ほぼ散逸》

《牙:根元損傷/切断面・荒い》

《推定査定額:金貨百枚 → 金貨八枚》


高額な素材を扱える窓口は、この街ではここしかない。冒険者ギルドで値がつかなかった素材は、最後に、ここへ回される。皮肉なものだ。俺を切ったその足で、あいつらは、よりによって俺のいる場所へ、素材を持ってきた。もちろん、俺がここにいることなんて、知りはしない。


「この魔石、内側に亀裂が入っています」セルカが、困った顔で、相場表を閉じた。「討伐の衝撃で、中の結晶が、ほとんど散ってしまっていて。もう、灯り用の屑石にしかなりません。牙も、根元から折れていて、加工に使えません。——全部で、金貨八枚です」


「八枚!? これはAランクの大蜥蜴だぞ!」ジークが、カウンターを叩いた。木の天板が鳴る。「いつもは、これ一頭で金貨百枚を超えてた! 討伐は、成功しているんだ。なのに、なぜ——なぜ、金が残らない!」


横で、新しい鑑定士が、青い顔をしていた。ジークに小突かれ、彼は、震える声で言った。


「……価値は、見えました」絞り出すように。「等級も、討伐証明も、ちゃんと出ました。でも——取り出せませんでした。魔石嚢を、傷つけずに抜く技術が、僕には、なくて。叩き割ったら、中の結晶が、全部……」


それが、全部だった。


鑑定の仕事は、価値を見ることだ。だが、見えた価値を、傷つけずに取り出すのは、まったく別の仕事だった。等級を読むのと、刃を入れるのは、違う。あいつらは、それを四年間、俺にやらせていた。そして、俺がやっていたことの中身を、ただの一度も、見ていなかった。


「明日の遠征、どうする」ノクスが、声を荒げた。「馬車代も、宿代も、足りない。次の依頼の前金は、素材が金になるのを当てにして、もう使った。修理代も、まだ払えてない」


「さっき、ポーション屋で、次は現金で頼むと言われた」ボズが、低く言う。「掛けは、もう渋られる。……俺たちが、だぞ。この街で一番だった、俺たちが」


カウンターの隅で、冒険者たちが、こそこそと囁き合っているのが見えた。


「八枚……Aランクで?」

「昨日まで、あのパーティ、羽振りよかったよな」

「解体係を切ったって噂、本当だったのか」


笑いを噛み殺す声が、ひとつ、ふたつ。あの勇者パーティの素材が、まるで金にならないという話は、もう、その場に広がっていた。


ジークの顔が、赤くなり、それから、青くなった。だが、何も言い返せない。倒す力は、あるのだ。なのに、財布の中身だけが、説明のつかないまま、減っていく。


誰も、答えなかった。結局、屑同然の魔石は、二束三文で売られていった。三人が出ていくと、表は、急に静かになった。


——言ったはずだ。魔石は、嚢を潰すな、と。


ざまぁ見ろ、とまでは思わない。ただ、これが答えだ。倒す力は、本物。Aランクを狩れる連中なんて、そう多くない。だが、倒した後を、丸ごと捨てている。だから、強いのに、稼げない。——そして、その“後”を全部拾っていくのが、これからの、俺の仕事だ。


セルカが、作業場に戻ってきた。少し、ばつの悪そうな顔で、俺の手元を覗く。


「……今の、聞こえてましたよね」


「ああ」


彼女は、抱えていた相場表を、ぎゅっと胸に押し当てた。


「私、まだ見習い扱いなんです。でも、相場表だけは全部覚えてます。だから、安く買い叩く査定だけは、したくない。正しい値を、正しくつけたいんです」


少し頬を赤くして、彼女は続けた。


「だから昨日、あなたの素材を見たとき、嬉しかった。あんなにきれいな解体、教本でしか見たことなかったから」


「そうか」


「そうか、って」セルカは頬をふくらませた。「もう少し、何か、ないんですか」


そのとき、奥の扉が開いて、モーガンが出てきた。手に、ずしりと重そうな革袋を提げている。


「ダグ」


その袋を、作業台の上に置いた。ごとり、と硬い音がした。中身が動く、金貨の音だ。


「成功報酬で、千枚出す」モーガンは言った。「竜種を、切れるか」


俺は、革袋には手を伸ばさなかった。千枚は、竜膜を無傷で抜いてからの話だ。手元の銀貨が金貨に変わったのは、昨日からの小物解体で稼いだ、ほんの二十枚ぶん。——だが、それも、ここからだ。


《所持金:金貨百二十枚 → 金貨百四十枚》

《解体依頼:竜種一件/契約金 金貨千枚(成功時)》

《元勇者パーティ:素材買取 金貨八枚/純利益 ゼロ》


「倒した後が、仕事なんだがな」


俺はそう言って、刃を取った。

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