第14話 組合が俺を王都から締め出した翌日、王都中の薬がまた止まりはじめた
組合が俺を王都から締め出した翌日、王都中の薬が、また、止まりはじめた。
バルドの手は、単純で、強力だった。「無資格者が解体した素材は、規格外。王都の市場での流通を、認めない」——貴族の後ろ盾で、そういう通達を、無理やり通したのだ。
俺の抜いた核も、薬素材も、王都の正規の市場では、売れなくなった。工房は元から借りられない。今度は、売り場まで、塞がれた。
「やってくれますね」セルカが、めずらしく、声を硬くした。「正しい解体を、規格外って。逆でしょう」
「逆だな」俺は、頷いた。「だが、紙の上では、向こうが正しいことになってる」
確かに、追い込まれた。一時は、抜いた素材が、行き場をなくして、工房の棚に積み上がった。
——だが、こういうのは、待っていれば、向こうが勝手に転ぶ。俺を締め出すということは、王都の素材供給が、また組合の独占に戻るということだ。高くて、質が悪くて、量が取れない、あの供給に。それだけのことだ。
三日もしないうちに、王都中の薬が、また滞りはじめた。
組合経由の心臓核は、相変わらず欠けていて、薬の効きが悪い。量が足りず、値が跳ね上がる。風邪薬一本が、銀貨数枚から、金貨に届く。子どもの熱が下がらない。怪我をした冒険者が、迷宮に潜れない。——地方の街で、一度見た光景だった。同じことが、規模を変えて、王都で起きた。
だが、王都の規模は、地方の比ではなかった。
騎士団の荷馬車が、薬師ギルドの前で、立ち往生していた。迷宮帰りの兵が、腕を吊ったまま、順番を待っている。竜核を使った止血薬が、組合経由では、まるで足りない。薬が止まれば、人だけでなく、迷宮の攻略も、辺境の討伐も、王都の機能そのものが、止まる。
「……ひどい」セルカが、列の最後尾を見て、初めて、声を震わせて怒った。「規格だの資格だの言ってる間に、ここまで。これが、あの人たちの守る『秩序』ですか」
「秩序の中身が、これだ」俺は言った。「倒した後を、拾える者がいない。それだけで、街は、ここまで詰まる」
倒した魔物を、ちゃんと金に変えられる者がいないと、こうなる。倒す者は、いくらでもいる。だが、倒した後を、拾える者が、いない。
突き上げたのは、市民と、薬師と、騎士団だった。
「ダグの素材を、流させろ!」
「規格より、子どもの命だ!」
「騎士団の負傷者が、薬を待っている!」
声は、貴族の通達より、ずっと大きかった。国が、動かざるを得なくなった。
「御用解体師組合の、流通権限を、一部停止する」
王の名で、そう布告が出た。バルドの「規格」の盾は、王都の薬を止めた元凶として、逆に、組合自身の首を絞めた。ダグには、特例の解体・流通許可。
俺は、棚に積み上がった素材を、淡々と、適正価格で、市場に戻した。
恩を売る気は、なかった。困っている連中に、安く、質のいい薬素材を流す。それで、金になる。結果として、子どもの熱が下がり、冒険者が迷宮に戻り、騎士団の負傷者が癒える。それは、ついでだ。
「助けた、んですよね」セルカが、棚を片付けながら、言った。「王都の薬を」
「握ったんだ」俺は、訂正した。「王都の薬の流れを、まるごと。助けたかどうかは、結果の話だ」
セルカは、少し呆れて、それから、小さく笑った。「……あなたは、本当に、ぶれませんね」
バルドは、もう、乗り込んでこなかった。乗り込む顔が、なかったのだろう。
その日の騒ぎの中で、レンが、はっきりと、こう報告した。
「例の勇者くずれ。王都の下町で、討伐の仕事に、完全にあぶれている。借金も、限界らしい。……近いうち、あんたを訪ねてくるかもしれん」
「だろうな」
王都の素材流通を、まるごと握った、その夜。
工房の戸を、叩く者がいた。
戸を開けると、そこに立っていたのは——四年前、俺を「取り分の無駄」と言って切り捨てた、あの男だった。
《所持金:金貨三万枚》
《御用解体師組合:流通権限、一部停止》
《ダグ:王都の薬流通も、握る》




