第13話 組合が金貨千枚で売っていた素材を、俺は無傷で二倍の量、抜いた
組合が金貨千枚で売っていた素材を、俺は、無傷で、二倍の量、抜いてみせた。
きっかけは、王都の薬師ギルドからの、控えめな相談だった。
「組合に頼むと、竜種の心臓核が、一個 金貨千枚です。それも、半分は欠けています。……御用解体師の腕では、無傷では抜けないと」
薬師は、言いにくそうにしていた。組合に逆らえば、王都で商売ができなくなる。それでも、背に腹は代えられないらしい。薬の材料が、高くて、質が悪い。困っているのは、いつも、現場だ。
「持ってこい」俺は言った。「同じ竜種で、やってみせる」
竜種を一頭。組合の解体師が、いつものやり方で、雑に抜く。心臓核が一個。表面に、細かい亀裂。金貨千枚。
その隣で、俺が、自作の刃で抜く。
価値線をたどる。心臓核の周りには、無数の細い管が、宝石をくるむ綿のように張りついている。組合の連中は、ここを、力任せに引きちぎる。だから核が欠ける。俺は、管の一本ずつに、刃を沿わせて、外していく。
核が、二個、無傷で出た。一頭から、二個。組合は、いつも一個しか取れていなかった。残りの一個を、潰して捨てていたのだ。気づきもせずに。
「……二個」薬師が、呆然と呟いた。「一頭から、二個、無傷で……」
「ついでに、これも」
俺は、組合が「使い道がない」と捨てていた竜の眼球から、薬になる液を抜き、肝から、解熱の素を取り出した。倒した後を、ちゃんと見れば、金になる部位は、まだいくらでもある。
無傷の核、二個。副産物の薬素材。それを、適正価格で、市場に出した。一個 金貨四百枚。組合の半額以下で、質は倍。
「安くしたのに……儲けは、減ってないんですね」セルカが、台帳を弾いて、目を丸くした。組合は一頭から一個、千枚。俺は一頭から二個で八百枚、それに副産物。客は半額で買えて、俺の総取りは、組合と変わらない。
「捨ててた分を、拾ってるからな」俺は言った。倒した後を、ちゃんと見れば、こうなる。
王都の薬師が、商人が、堰を切ったように、俺のところへ流れてきた。
最初は、一人だった。組合に睨まれるのを承知で、こっそり来た老薬師。それが、二人になり、五人になり、気づけば、王都支店の前に、列ができていた。地方の街で見たのと、同じ光景だ。違うのは、列の長さだけ。王都は、人の数が、桁違いだった。
組合の独占価格は、その日、崩壊した。
「組合に頼む理由が、ない」——誰もが、そう気づいてしまった。高くて、質が悪くて、量も取れない。それでも組合に頼んでいたのは、ほかに選択肢がなかったからだ。選択肢が、できてしまった。
バルドが、血相を変えて、王都支店に乗り込んできた。
「貴様、市場を、めちゃくちゃにする気か! 価格には、秩序というものが——」
「秩序?」俺は、手を止めずに言った。「客が、安くて質のいい方を選ぶ。それが秩序だろう。あんたらは、その秩序を、資格で捻じ曲げてただけだ」
バルドの顔に、初めて、焦りが浮かんだ。侮りでも、怒りでもない。足元が崩れる音を、聞いた者の顔だった。
その頃、王都には、もう一つの噂が流れていた。
「あの解体屋、昔は、勇者パーティの下働きだったらしいぞ」
下働き。その言葉が、王都中を回り、やがて——食い詰めた、ある勇者パーティの耳にも、届いたという。あいつらは、それで、俺の居場所を、知った。
《所持金:金貨二万二千枚 → 三万枚》
《御用解体師組合:独占価格、崩壊》
《ダグ:王都の素材市場を、握りはじめる》
追い詰められたバルドが、最後の手に出るのは、その翌日だった。
「無資格者の解体は、規格違反だ」——そう言って、俺の素材の流通そのものを、止めにかかった。




