第12話 道具を貸さないと言うので、自分で作ったら、それが評判になった
「組合の道具は、組合員にしか貸さん」
バルドは、そう言って、王都の解体道具を、すべて押さえた。
御用解体師の使う刃は、特別だ。国が認めた規格があり、組合が一括で管理している。その規格の刃でなければ、国家案件の素材には触れさせない——バルドは、そういう規則を、貴族の後ろ盾で、ねじ込んできた。
「資格がなく、道具もない。それで、どうやって国家の宝を解体する気かね」
バルドは、勝ち誇っていた。場所も、道具も、規格も、全部押さえた。これで、田舎者は手も足も出ない、と。
「規格とは、国を守るための壁だ」バルドは、続けた。その口ぶりは、半分は、本気だった。「田舎者の勘で、国家の宝に触れさせるわけにはいかん。壁を一度崩せば、国が、崩れる」
「その壁の内側で」俺は言った。「あんたらは、宝を、腐らせてたわけだ」
「……黙れ」
俺は、その規格の刃を、一本だけ借りて、しげしげと眺めた。組合が「最高峰」と誇る刃だ。
「……重いな。それに、刃先の角度が、解体には鈍い」
「なんだと」
「これ、見た目を立派にすることばかり考えて、切れ味は二の次だ。儀式用だな。こんなもので竜膜を抜いたら、半分は潰れる」
職人として、正直な感想だった。倒した後を見ない奴の道具は、どこか、ずれている。倒すための剣を作る鍛冶屋に、解体の刃まで作らせているから、こうなる。
「貸さないなら、いい」俺は、刃を返した。「自分で作る」
王都の裏通りに、腕はいいが、組合の仕事をもらえずくすぶっている鍛冶屋がいた。レンが、見つけてきた。
レン。騎士団が、俺に付けた護衛だ。寡黙な剣士で、最初は、俺を「ただの素材屋」と思っていたらしい。
「あんたは、強くない」初日、レンは、率直にそう言った。「魔物が一匹来れば、死ぬ。だから、俺がいる」
「助かる」俺は、正直に答えた。「俺は、生きてるものは、苦手でな。動かなくなってからが、専門だ」
レンは、その言葉の意味を、すぐには分からなかったようだった。だが、俺の仕事を二度三度と見るうちに、何かを察したらしい。今では、無駄口を叩かず、ただ、周りに目を配ってくれている。
その鍛冶屋と、三日かけて、刃を打った。俺が、どこをどう切るかを伝え、鍛冶屋が、それに合わせて鋼を曲げる。解体のためだけの刃。軽く、薄く、しなる。組合の「最高峰」とは、似ても似つかない、地味な一本。
その刃で、王都に持ち込まれた竜種の翼を、人前で、抜いてみせた。
竜膜が、傷ひとつなく、青く透けて剥がれていく。見ていた王都の職人たちが、ざわついた。
「あの刃……どこの規格だ」
「規格じゃない。あの男が、自分で打たせたらしい」
「あんな薄い刃で、竜膜を……」
組合が「最高峰」と縛ってきた規格が、田舎者の自作の一本に、あっさり負けた。その光景を、王都の職人たちが、目の前で見た。道具を独占する意味が、その日から、少しずつ崩れはじめた。
その夜、レンが、報告のついでに、こんなことを言った。
「下町のギルドで、勇者くずれが、また揉めていた。討伐の仕事を、安く買い叩かれて、食ってかかったらしい。……地方から来た、と」
「ふうん」
「知り合いか」
「昔な」俺は、刃を拭いた。「倒すしか能のない連中だ」
レンは、それ以上、聞かなかった。
国は、組合の反対を、ついに押し切った。ダグに、本体の予備調査を許可する——その通達が、王都支店に届いた。
だが、その通達を握りつぶせなかったバルドは、別の手を打ちはじめていた。
「失敗すれば、責任は、あの田舎者に取らせる」
聞こえてきた噂は、そういう中身だった。資格でダグを止められないなら、失敗の責任を、全部かぶせる。罠を、仕込みはじめたらしい。
俺は、別に、気にしなかった。失敗しなければ、罠は、ただの空振りだ。
《所持金:金貨二万二千枚》
《解体の刃:自作の一本が、王都の職人に評判》
《御用解体師組合:道具独占が、崩れはじめる》




