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召喚した使い魔が、隣国の氷の皇太子だった  作者: 岡達 英茉
最終章 「分水嶺の術」
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久しぶりの庭師小屋へ①

 翌日、早朝に再び皇宮に呼び出されたバシレオスは、不機嫌に出かけて行った。

「父上から、また無茶なことを言われるに違いない」とボヤきながら馬車に乗ったバシレオスだったが、二時間ほどで自分の宮殿に帰ってくると、筆頭魔術師のゴードンを連れていた。

 しかも中庭でゴードンに、移動魔法陣を作るよう命じたという。

 中庭に呼ばれたシェリィは、庭の木々が魔法陣を中心に渦巻く風に揺られ、枝からむしり取られた葉が局地的な竜巻に襲われたようにくるくると舞っている様子を目の当たりにしてたじろいだ。

 シェリィが中庭に出てきたことに気づいたバシレオスが、上機嫌そうに笑顔を見せる。


「ちょっと出かけよう、シェリィ。すぐに終わるから、身一つで一緒に来てくれ」


 バシレオスはシェリィの手を取り、明らかに魔法陣の方へ引っ張っていたが、シェリィは何事かと咄嗟に足を踏ん張る。


「殿下は今度は、どこに私を連れていくおつもりですか?」


 貴族の子弟でも数年に一度しかやらないような、高度魔術をあっさり行うゴードンにも驚愕しかない。


「リンツ王国に戻ろう。いつも急ですまないな」


 移動魔法陣を前に、シェリィは静かに納得した。


「私をリンツに帰すよう、皇帝陛下がお命じになったんですね?」


 皇帝はシェリィが目障りに違いない。

 大事な皇太子をたぶらかした厄介な隣国の、面倒臭い身の上の女、としか思われていない自信はあった。

 不意をつかれたが、そういうことかと納得する。

 今回ゴダイバ帝国に来たときも、同じように突然だったのだ。帰りも同じくらい不意打ちでも、納得するしかないと自分に言い聞かせる。

 だがわがままを許してもらえるならば、せめてあと一日、シェリィは滞在したかった。

 シェリィは今日こそ、今から初代皇帝の資料館を訪ねる予定だった。ゴダイバ帝国にしかない、古の妖精女王をめぐる資料に目を通したかったのだ。

 シェリィは少しでも、バードの手がかりが欲しかった。

 シェリィのそばにいた時、バードは何を考えていたのかを。

 目的が王太子の監視だったとはいえ、シェリィはバードが自分にわずかでも愛情を抱いていたと、信じたかった。

 だが、皇帝に歓迎されていないのなら、仕方がない。


「色々こちらでいただいたものも持ち帰りたいので、荷物をまとめてきます。少しだけお待ちいただけますか?」


 魔法陣にこれ以上近付くまいと立ち止まるシェリィを、バシレオスは陽気に見下ろす。


「違うんだ、シェリィ。その反対なんだ」


 シェリィを返すのに、なぜかバシレオスの声は弾んでいた。皇宮へ出かける前とは一変して上機嫌な理由がわからず、シェリィがさらなる説明を待つ。


「さっき皇宮で父上に会ってきたんだが、実は父上がシェリィを妃にすることを、認めてくれたんだ。ただ、結婚に関してそなたの保護者の同意を得てくることと、マティアスとの婚約を正式に書面で解消してくることが条件なんだ。俺がすぐにそなたを帝国に連れてきてしまったから、まだ書類にサインをしていなかったからな」

「え、ええ、あの時はまだ三千万ドランの振り込みが終わっていなかったから」


 シェリィは自分を移動魔法陣まで引きずるバシレオスを困惑して見上げる。

 皇帝はなぜ一転して、意見を変えたのかが引っ掛かる。


「殿下はリンツ王国と因縁がおありなのに……」

「リンツ王家は嫌いだが、そなたのことは愛している」


 直球過ぎる告白に、シェリィが口ごもる。


「それに実のところ、感情だけで決めているわけではない。帝国内の親リンツ派を敵に回したままでは、俺の権力基盤も弱くなる。だがリンツ出身の妃を迎えれば、彼らを取り込みやすくなるのだ。――どうだ? 俺も十分打算的だろう?」


 本心なのか、単にもっともらしいことを言ってシェリィを説得しようとしているのか、彼女には判断しかねた。

 だがバシレオスの純粋過ぎないところに、シェリィはかえって安心した。


「でもつい昨日まで、皇帝陛下は私を追い返したがってらしたのに? 一体何が……」

「俺の説得がうまかったんだろう。それに俺は頑固だから、折れないと分かったんじゃないか?」


 そんな単純な問題だろうかと納得しかねつつ、シェリィはバシレオスに尋ねる。


「私の叔父は……あの後公爵領を没収されて、リンツ王宮に収監されているんですよね?」

「いや、公爵領を没収された後、王宮からは出されたらしい。とはいえ王都の屋敷も国に没収されたから、現在は庭師小屋に軟禁されていると聞いている」


 数秒の間が空いた後で、シェリィは思わず大きな声で尋ね返した。


「庭師小屋⁉︎」


 バシレオスがニッと笑う。

 その目はいかにも愉快そうに踊っている。


「そうだ。奴はかつて自分が姪を追い払った庭師小屋に、住まわされている。まさに因果応報ってやつだな。もちろん、使用人は一人もいないらしい」

「まさか、アンジーもそこに……?」

「どうかな。それを今から直接乗り込んで、確かめに行こうじゃないか」


 魔法移動陣の前まで二人が来ると、魔術の発動のために両腕を前に差し出しているゴードンが、まだ狼狽えているシェリィに向かって口を開く。


「いつまで話し合っているんですか! 前にも言ったけど、魔法移動陣って開いた後は、持続させるのにとんでもなく魔力を使うのよ。サッサと中に入って、リンツに飛んでくださいな」


 床に描かれた円形に光る魔法移動陣の中へと、足を踏み入れた瞬間。

 シェリィの足元から頭のてっぺんまで魔力の波動が駆け上り、広い皇太子宮殿の広間の景色が、ぐにゃりと曲がる。

 ゴダイバ帝国からリンツ王国への大移動に備えて、シェリィは自分と一緒に魔法移動陣の中に入ったバシレオスにしがみついた。







 

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