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ノアの箱庭 ~妖精好きの侯爵令嬢と、小さな世界を作っています~  作者: あゆと
第二章 妖精のお茶会

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妖精のお茶会

「本物の妖精がお茶してるところ、見てみたくない?」


フィオナさんに聞かれて、俺はもう一度『おちゃかい』の絵を見る。丸いテーブルに、形の違う椅子。花みたいなカップを手にした妖精たちが、木の下に集まっている。


「……見てみたいです」

「でしょ!」


フィオナさんは嬉しそうに帳面を広げた。


「最初はミーナが一人でお茶してるの。それで甘い匂いにつられて一人来て、また一人来て……最後にはみんな集まるの」

「楽しそうですね」

「うん! 椅子もね、最初から揃ってないの。あとから来た子が自分の椅子を持ってきたりするから」


話し始めると止まらない。絵の中のどこに誰が座って、誰が遅れてやってきて、どんなお菓子を取り合うのかまで決まっているらしい。


俺は聞きながら、少し笑っていた。


「……なに?」

「いえ。本当に好きなんだなと思って」

「大好きだよ」


迷いもなく返ってくる。


そういうところが、少し眩しい。


その時、箱庭の窓辺にいたフィリルが羽を動かした。ふわりと飛び上がり、作業台の端へ降りてくる。


「あ」


フィオナさんの声が一気に小さくなった。


フィリルは広げられた帳面を遠巻きに眺めている。少し近づいては止まり、首を傾げ、また一歩近づく。


フィオナさんはしばらく黙って見守っていたが、ふと俺を見る。


「……ねえ。私たちだけで決めちゃっていいのかな」

「え?」

「だって、お茶会するのはこの子でしょ?」


そう言って、フィリルへ向き直る。


「ねえ。お茶会、してみる?」


当然、返事はない。


フィリルは首をこてんと傾げただけだった。


「……分かんないよね」

「たぶん、言葉だけだと」


フィオナさんは少し考えると、帳面をフィリルの近くへそっと寄せた。絵の中のカップを指してから、箱庭に置いてある小さなカップを見せる。


「これ。飲んだり、食べたりするの。ここで」


フィリルは差し出された指より、カップの方を見た。


そろそろと近寄り、両手で持ち上げる。


「……カップは好きみたい」

「そうですね」


フィオナさんの顔がほころぶ。


「じゃあ、お茶会も嫌いじゃないかも」

「そこまではまだ分からないですよ」

「もう、ノア君は慎重だなあ」


笑われた。


でもフィオナさん自身も無理にカップを持たせようとはしない。ただ、フィリルが自分から触るのを嬉しそうに眺めている。


「そういえば」


フィオナさんが絵へ目を戻した。


「この子、何を飲むんだろう」

「水は飲んでましたけど」

「お茶は?」

「……飲むんですかね」


二人でフィリルを見る。


フィリルもこちらを見る。


少し間があって、フィオナさんが吹き出した。


「分かるわけないよね」

「はい」


俺も少し笑う。


「じゃあ、そこから考えよう。私の絵だと甘いお茶なんだけど、本物が嫌いなら意味ないもん」

「いいんですか? ずっと想像してたお茶会なのに」

「もちろん」


フィオナさんは何でもないことみたいに頷いた。


「だって、今は本物がいるんだよ?」


そう言ってフィリルを見る顔が、本当に嬉しそうだった。


俺も、もう一度『おちゃかい』の絵を見る。


昔のフィオナさんが想像した妖精のお茶会。そのまま作るんじゃなくて、目の前にいるフィリルが本当に使えるものにする。


それなら、俺もやってみたい。


「カップも少し変えた方がいいと思います」

「やっぱり?」

「はい。この前、両手で持ってたので。花びらを横に広げすぎると、たぶん邪魔になります。持つところも――」


気づけば、口が止まらなくなっていた。


「底も少し丸くして、でも置いた時に倒れないように下は平らにした方がいいです。あと、フィリルの手だと取っ手は――」

「ノア君」

「はい?」


顔を上げる。


すぐ近くに、フィオナさんの顔があった。


「……っ」


思わず息が止まる。頬が熱くなって、慌てて帳面へ目を落とした。


フィオナさんはそんな俺に気づいた様子もなく、楽しそうに笑っている。


「急にいっぱい喋るね」

「……すみません」

「だから、なんで謝るの?」


さらに少し覗き込んでくる。


「もっと聞きたい」


また顔が熱くなった。


「えっと……じゃ、じゃあ、カップから」

「うん!」


フィオナさんは何も気にせず、俺の隣で帳面を開き直した。


俺が形を説明すると、フィオナさんが余白へ描いていく。花びらは少し立てて、両手でも持てるようにする。昔の絵の隣に、新しいカップが増えた。


「……前のと違っちゃった」

「嫌ですか?」

「ううん」


フィオナさんは二つの絵を見比べて、笑った。


「こっちの方が好き」


その一言が、妙に嬉しかった。


「じゃあ次は、何を飲むかだね」

「それはフィリルに教えてもらわないと分からないですね」

「そっか」


フィオナさんはフィリルを見る。


「じゃあ、一緒に探そうね」


フィリルは何も答えず、抱えていた小さなカップの縁からこちらを覗いた。


フィオナさんがまた嬉しそうに笑う。


そして空想帳の『おちゃかい』のページ、その余白に新しく一行を書き足した。


『ほんもののようせいのおちゃかい』

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